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リアクション
【『触手×コスプレイヤー』とか薄い本が出そうなタイトルだが、中身はガチ】
「やったわね、アディ!」
試合終了のゴングが鳴り響くと、綾原 さゆみ(あやはら・さゆみ)がリングへと上がりアデリーヌへと抱きついた。
「さゆみ……わたくしやりましたわ!」
さゆみの姿を見ると、先程の気迫は何処へやら。アデリーヌは表情を崩し、しっかりと抱き返す。
その時、観客席がざわめき出す。その声で振り返ると、赤いマントを纏った何者かが花道を駆けてきていた。
リングへ上がり、【赤き死のマント】を脱ぎ捨てると「スミスミスミ〜っ!」という笑い声と共に忍者超人 オクトパスマン(にんじゃちょうじん・おくとぱすまん)が姿を現す。
「ぬるい! こんなぬるいファイト認めないぜぇーッ!」
オクトパスマンはそう叫ぶと、漸く立ち上がろうとしていたコアを無理矢理立ち上がらせ、オクトパスホールドで固める。コアの身体の関節が悲鳴を上げ、口から苦悶の声が漏れる。
「ぐおぉッ!? い、一体何をするのだ!?」
「やかましい! まずは貴様からだぁッ!」
オクトパスマンは固めた状態で飛び上がる。
「必殺! デビルフィッシュフォール!」
そしてその状態のまま、コアの身体を叩きつけた。
「おぉあッ!?」
全身を固められ、受け身なぞ到底不可能な状態でリングに叩きつけられたコアは、そのまま動かなくなる。そんなコアを転がす様に、オクトパスマンはリングから蹴落とした。
「バレンタイン? 愛の祭り? そんなもん関係ねぇーッ! 俺様の目的はただ一つ! この白いキャンバスを地獄の血の赤に染める事よッ! 次は貴様の血だ!」
そう言ってオクトパスマンはアデリーヌを指さす。すると、さゆみが庇うようにアデリーヌの前に立った。
「好き勝手言ってるんじゃないわよ! いいわ、私が相手になってやるわ! アディ、下がって!」
「わかりましたわ……さゆみ、気を付けて」
アデリーヌがリングを降りる。
「スミスミスミーッ! なら貴様から沈めてやらぁッ!」
オクトパスマンがそう叫ぶと、試合開始のゴングが鳴り響いた。
* * *
試合開始直後、二人はリング中央でガッチリと組み合う。お互い拮抗した状態で動きが止まった。
「あら、図体の割には力が無いのね!?」
さゆみがそう言うと、オクトパスマンがにやりと笑みを浮かべる。
「スミスミスミーッ! 血をまき散らせやぁッ!」
オクトパスマンの顔面の触手がさゆみに向かって伸びる。うねうねと動いていた触手は先端を鋭く尖らせ、ナイフのようにさゆみへと向かう。
「な……くぅっ!」
自ら組み合っていた状態を解き、さゆみが触手を避ける。腕を掠り、鋭い痛みが走る。見ると掠った個所に刃物でつけたような傷が出来ていた。
「ちっ大人しく【テンタクルスティンガー】の餌食になりゃいいものを」
オクトパスマンが呟く。
「ちょっと今の凶器でしょ!? あんなの反則じゃないの!?」
さゆみがレフェリーにオクトパスマンを指さして抗議する。
「スミスミスミーッ! 何言いやがる! 俺様の身体の一部だっての! 反則なわけがあるか!」
一方のオクトパスマンは顔の触手をうねうねさせて高笑いを挙げた。が、
「……え? 反則になるのかよ?」
レフェリーの裁定は『反則扱いになる』という物だった。自分の体の一部とはいえ、凶器の様に扱える物を使用した場合は反則を取られることもある。
例としては歯を使用した噛みつき行為。あれは反則技に分類される。
「マジかよ……」
そういうわけで、次使用している所を見られたら反則、という警告を与えられたのであった。
「なら他の手に出るまでよッ!」
そう言って組み付こうとオクトパスマンが手を伸ばす。が、するりとその手をさゆみは避ける。
「しゅッ!」
そして手で作った手刀でオクトパスマンの喉を突いた。
「んぐッ!?」
地獄尽きで突かれた喉を押さえるオクトパスマン。口からは呻き声の様な物が漏れる。
「へぇー、軟体動物でも喉突かれると痛いのかしらね? てかそこ喉であってた?」
「ふざけるんじゃねぇーッ!」
怒りを露わに、オクトパスマンはさゆみに向かっていく。
だがその攻撃は全て空かされる。軽い身のこなしでオクトパスマンの手を逃れ、小技で消耗させていく。
時折捕まえたかと思いきや、そこはロープ近く。すぐにブレイクされダメージは与えられない。
「ごめんなさいねー? 捕まりにくいってのはそっちの専売特許だっていうのにお株奪う形になっちゃって」
そう言ってさゆみが小馬鹿にしたように笑う。
「けっ! ちょこまかと目障りな奴だぜ!」
吐き捨てる様にオクトパスマンが言うが、実際消耗させられているのは事実。
(こうなったらもう一度【テンタクルスティンガー】を狙うか。反則如き恐れる俺様ではないわ!)
オクトパスマンが笑みを浮かべ、ゆっくりとさゆみと間合いを取る。さゆみも何かを感じ取ったのか、距離を取る。
「こいつを食らえやぁッ!」
オクトパスマンが拳を握ると、一歩踏み込み大ぶりなパンチを繰り出す。厳密にプロレスでは拳のパンチは反則であるが、行った所で負けになる物ではない。
隙だらけの拳を、屈めるようにして躱すさゆみ。
(――かかった!)
オクトパスマンが内心ほくそ笑む。この拳は囮。さゆみの間合いに入るための物。後は捕らえ、【テンタクルスティンガー】の餌食にするだけ。
準備は既にできている。後はさゆみを貫くだけ。
「血を撒き散らせぇッ!」
オクトパスマンが手を、【テンタクルスティンガー】を伸ばす。が、
「がッ!?」
頭部に衝撃が走った。
さゆみはただ躱しただけではなかった。身を屈めると、その勢いを利用して前転するように足を振り、オクトパスマンの頭に浴びせるように下ろした。
浴びせ蹴りを食らったオクトパスマンは仰向けに倒れ込んだ。そして立ち上がったさゆみはすかさず、オクトパスマンの腕を取ると逆十字固めで締め上げる。
「ぐあぁぁぁッ!」
可動域の限界を超え伸展されようとしている肘関節が悲鳴を上げる。何とか逃れようとオクトパスマンがもがくが、さゆみは更に絞り上げる。
何とかもがきながらロープまで手を伸ばし、ブレイクがかかり漸く技が解かれた。
「あらぁ? 関節無いと思ってたけど痛かった?」
腕を押さえるオクトパスマンに、さゆみがにやにやと笑いながら声をかける。
「――舐めてんじゃねぇぞぉッ!」
「え? きゃあッ!」
即座に立ち上がったオクトパスマンが、さゆみを捕らえるとすぐさまオクトパスホールドで固めた。
「あ……ぐぅッ……!」
絞り上げられるさゆみの関節が、悲鳴を上げる。
「スミスミスミーッ! キャンバスにぶちまけろぉッ!」
オクトパスマンは高笑いを上げ、飛び上がった。コアを沈めたデビルフィッシュフォール。受け身の取れないこの技が決まったら大ダメージは避けられない。が、
「ぐぅッ!?」
オクトパスマンの腕に激痛が走る。腕拉ぎ逆十字のダメージが想像以上に重かったようである。
それを逃さず、さゆみが身を捩り拘束を解く。何とかオクトパスホールドのクラッチから外れたが、完全に逃れる事は出来なかった。
結果、崩れた体勢で二人ともリングへと落ちた。
「ちぃッ!」
オクトパスマンが立ち上がる。直後、
「てぇやぁッ!」
「なぁッ!?」
先に立ち上がっていたさゆみが、オクトパスマンの両腕を固め、そのままタイガースプレックスで叩きつけた。
投げっぱなしのスープレックスで叩きつけられ、オクトパスマンは大の字になり天を仰ぐ。
だが、技を放ったさゆみも同じようにあおむけで倒れ込む。不完全ながらもデビルフィッシュフォールのダメージは大きかった。
そのまま立ち上がれない二人に、ダウンのカウントが数えられる。増えていくカウント。しかし二人とも立ち上がれない。
結局十カウントが数えられ、ゴングが鳴り響く。裁定は両者KOという結果になった。
「さゆみ、大丈夫ですの!?」
「ご、ゴメン。勝てなかった……けど道連れにしてやったわ……」
アデリーヌに抱えられるように立ち上がると、さゆみが弱々しく笑いかける。
「ちぃッ!」
その横では、オクトパスマンが不満を露わにしていた。
「よく戦った、戦士達よ」
すると、いつの間にかリングに上がった聖ヴァンダレイが立っていた。
「今の試合中々であった。勝者は決まらなかったが、この試合に敗者はいない」
静かに目を瞑り、聖ヴァンダレイが語る。そして、目を見開いた。
「よって、両者公平にヴァンダレイキックの餌食となってもらう!」
「ってちょっと待てやこらぁ!」
「そうよ! そこは『見逃してやろう』ではないの!?」
オクトパスマンとさゆみが聖ヴァンダレイに食って掛かる。だが、
「問答無用! ふんッ!」
今回の聖ヴァンダレイは甘くなかった。
ヴァンダレイキックの洗礼を浴びた二人は仲良く、額から煙を放ちリングへと沈むのであった。
* * *
「情けないわねー二人とも負けちゃうだなんて」
リングサイド。観戦していたラブ・リトル(らぶ・りとる)が呆れた様に呟くが、その表情はほくほくの恵比須顔。
それもそのはず。今日はその懐は温かい。コアとオクトパスマンを売るような形で聖ヴァンダレイに貸し出し、そのギャラがたんまりと入っていたのであった。
「いや〜今年の懐は温かいわね〜♪ まだこんなに残ってるわ〜♪」
財布の中身を「ちゅーちゅーたこかいな……」と数え、再度笑みを浮かべるラブ。
「これもハーティオンとタコのお陰よねー、感謝感謝♪」
ちなみにその二人は現在ヴァンダレイキックの餌食になったことにより運ばれていった。補足しておくと、コアもしっかりとヴァンダレイキックの餌食になっていた。ダウンした状態から脳天に膝を振り下ろされるという、結構エグい技だった。
「さーて、まだお金も残ってるし、楽しむわよー! あ、おっちゃーんタコ焼きとお茶ー!」
物販係を呼びつけるラブ。ある意味、一番の勝者は彼女かもしれなかった。
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