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お月見の祭り

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お月見の祭り
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 九条 ジェライザ・ローズ(くじょう・じぇらいざろーず)は、長曽禰 広明(ながそね・ひろあき)と竹林にある東屋で団子を食べていた。
 東屋のちょうど上に月が出ているのか、それとも周囲の竹林で隠されてしまっているのか、二人の座っている位置から満月は見えない。
「空に出ている綺麗な丸い月を想像するのもまたお月見の楽しみですよね」
 ちょうど一年前も同じことをしていたなあ、とローズは思い出す。
「広明さん。また、こうしてお月見出来て嬉しいです。前のお月見とは、その……広明さんとの関係も違ってますが」
「ああ、でも誘ってくれて嬉しかったぞ? どうしても仕事のことになると無理をしちまうからな、ちょうど良い息抜きになった」
 広明を見つめて、ローズは言葉を紡ぐ。
「広明さん……実を言うと、その時、私はまだ広明さんのこと、お父さんのように思っていて、男性と意識してなかったんです。……でも一緒にいたいって気持ちはあったんですよ」
 ローズは、視線を東屋の外に向けた。
「……私の両親はもうこの世にはいません。お母さんは私を産んだ時に、お父さんは三年前に……。
 私に不自由をさせないようにと、お父さんはいつも仕事に追われていました。私より仕事の方が大事なんだって……勘違いしたままこっちに来てしまったんです。
 私が寂しくないようにって家政婦さんを雇ったり、土日には得意じゃない料理を作ってくれてたのに……」
 ローズの一人語りを、広明は真剣な眼差しをして、じっと聞いていた。
「広明さんと過ごしていたら、失った時間とか距離が埋まっていくような気がして……。でも今はそうは思ってませんよ。お父さんも、広明さんも、誰にも代わりはいませんから。
 それよりは……その、病気にめげずに私を産んでくれた強いお母さんと、ずっと見守ってくれていたお父さんのような素敵な家族を、私と……広明さんとで作っていけたらいいな……と……」
 ローズはようやく、視線を挙げた。
「それで、何十年後もこうやってお月見したいです……あの、できればで……」
「できれば、じゃなくて、そうすりゃあいいだろ」
 広明の言葉に、ローズは驚いたような表情になった。
「うー……ん、なんつーかな」
 広明は言葉を選ぶようにしどろもどろになりながらも、ローズのことを見つめた。
「要するに、これからは俺が全部受け入れるんだから、もう何の心配もしなくていいんだぞ」
 広明がはっきりと言い切ると、ローズの中で、絡まっていた何かひとつが、すうっと解けていったように感じられた。
 父親のような存在としてローズのことを『受け入れる』のではなく、一人の男性として、ローズと一生を共にするパートナーとして『受け入れる』のだと……。
「広明さん……。私は……広明さんに出会うためにパラミタに来たのかもしれません」
 竹林を見上げたローズの目に、ちょうど綺麗な月が浮かび上がっていた。