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リアクション
13章 未来からの使者
一方、サイクラノーシュの足下では契約者たちが粘り強くサートゥルヌス重力源生命体と交渉していた。
「どうにかならないのでしょうか?」
牡丹とフィリシアが同時に言った。
上空で破壊されたブラックナイトの破片と爆炎が降り注ぐ中、サートゥルヌス重力源生命体は静かに告げた。
『この戦いが終わった時、私は【未来】に帰る事が出来る。しかし、この戦いが終わるまでは私は帰れない』
「この戦いが終わるまでは……? あなたにとって、この戦いに何の意味があると言うのですか!?」
サートゥルヌス重力源生命体は語った。自身がこの時代に来た目的を。
『遥かなる未来、我が【主】は過去を調査せんと試みた。詳しい歴史を知るため、【主】は私を約5000年前のパラミタに派遣した』
「約5000年前……大廃都に隕石が降り注いだ日ですか?」
『そうだ。だが私は、膨大なエネルギーがある場所にしか存在できない。
私は、大廃都に降り注ぐ隕石の【機甲石】に取り付いた。そのせいで【時間乱動現象】という想定外の現象が起こり、大廃都は二重の災禍に見舞われてしまった。
その点については、私も申し訳ないと思っている』
牡丹とフィリシアはしばし黙考した末、再び同じタイミングで問いかけた。
「あなたの【主】とは、何者なのですか?」
『君たちの子孫だ』
契約者たちはハッとした。
自分たちの子孫。未来の……自分たちの子。
『遥か遠い未来、君たちの子孫は宇宙で生活している。太陽系全域にコロニーを築き上げ、重力や時間を操作するに至っている。
しかし、君たちの子孫は【君たち】を知らない。この星の記憶を知らないのだ。
君たちの子孫は【君たち】を知るために、私を過去の地球に送った』
「……! それでは、今の時代と同じではありませんか……!」
現在を生きる人々は、過去を知るために大廃都の発掘を行った。それと同じように、遠い未来の【人類の子孫】も、過去を知るために【観察者】を現代に送ってきたのだ。
『私は、遠い未来の【君たちの子孫】から遣わされた観察者だ。5000年前……機甲虫の身体を借りて私は地球に飛来した。そして、人類の歴史を眺めてきた。
この戦いで、【観察者】としての私の役目は終わる。君たちが行ってきた全てを【君たちの子孫】に報告しよう』
つまり、この戦いが終了してようやくサートゥルヌス重力源生命体に課せられた任務が完了するという事だ。
フィリシアはジェイコブを一瞥してから、やや複雑な表情で告げた。
「でしたら、【私たちの子孫】に伝えて下さい。5000年前の大廃都で起きた時間乱動現象によって、多くの人命が失われた事を。あなたたちが過去に観察者を送ったせいで、混乱が起きてしまった事を」
『……了解した。二度とこのような過ちが起こらぬよう、私の【主】に報告しよう』
交渉が大方終わった直後、ルカルカ・ルー(るかるか・るー)とダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)、夏侯 淵(かこう・えん)の駆るレイが傍に着地した。
ルカルカらが駆るレイもまた、時間乱動現象に巻き込まれて何度もガーディアンヴァルキリーのカタパルトに戻されたクチだ。ハイブリッドジェネレーターが全て破壊されたお陰で時間乱動現象が収まり、ようやく目的地に着いた頃には既に大部分の話は付いていた。
「お待たせ!」
崩れ落ちるサイクラノーシュの足下で、サートゥルヌス重力源生命体が鎌首をもたげた。
『君は私に何を求める?』
「……サイクラノーシュは、意地を張ってるだけだって思うの」
ハイブリッドジェネレーターの破壊により、サイクラノーシュの内側で機晶石と機甲石のバランスは崩壊した。全身を巡るエネルギー量が不安定となり、サイクラノーシュの末端が欠落していく。
「貴方なら彼の寂しさも辛さも分かってあげれて共有できると思う。貴方と彼は兄弟よりも濃い絆で結ばれてる。貴方にも大切な人でしょ?」
欠落したサイクラノーシュの部位は、それぞれが機甲虫に変化して上空に飛び散っていった。
サイクラノーシュのハイブリッドジェネレーターは、機晶石と機甲石のもたらすエネルギーを安定させ、両者のバランスを保つための装置に過ぎない。ハイブリッドジェネレーターが破壊された所で、機甲虫が死亡する訳ではない。
しかし、エネルギーの不安定化は、機甲虫同士の高度な結合を解除させてしまう。戦闘能力の低下は免れないだろう。
「このままでは彼は殺されてしまう。教導が軍を動かす決定をしたら私だって破壊命令を受けてしまうわ。そうなったら、もう……」
サイクラノーシュを構成する機甲虫はブラックナイトに合体・変形し、イコン各機と空賊団に襲いかかる。
今度のブラックナイトの形状は【ノイエ13】だった。上空で彼ら/彼女らが激しい戦闘が繰り広げられる傍ら、ルカルカは必死にサートゥルヌス重力源生命体に語りかける。
「今ならまだ間に合うの。彼を殺したくなかったら、貴方の力を貸して。貴方達二人の問題なんだから貴方にしか出来ないことがある筈よ。
……ううん、貴方ならできる。一緒にきて!」
『君の言葉、確と受け止めた。だが、その必要は無い。私は機甲石と共に在る』
それだけ告げると、サートゥルヌス重力源生命体は霧散した。重力源生命体の消失を見届けたルカルカは、ダリルに問うた。
「……今の言葉、どういう意味なんだろう?」
「これは俺の推測だが……サートゥルヌス重力源生命体は、サイクラノーシュの内部に出現する事が出来るのだろう」
サートゥルヌス重力源生命体は、膨大なエネルギーがある場所にしか存在できない。裏を返せば、膨大なエネルギーが存在する場所には自由に移動できるということだ。
上空ではガーディアンヴァルキリーが最後の攻撃を加えるべく、準備を整えている。ガーディアンヴァルキリーとサイクラノーシュを交互に見やった後、ジェイコブがルカルカに告げた。
「その機体は無傷だ。ガーディアンヴァルキリーに乗って、サイクラノーシュの本体を目指してくれ」
「ええ、そうさせて貰うわね」
ルカルカはジェイコブ、フィリシア、牡丹らをレイの掌に乗せ、ガーディアンヴァルキリーに向かった。
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