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2024年ジューンブライド

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リアクション

 小さな教会の控え室に、タキシードを着たフェイ・カーライズ(ふぇい・かーらいど)がやって来た。
「……シェリエ」
 控え室の扉を開けば、ウェディングドレスを着たシェリエ・ディオニウス(しぇりえ・でぃおにうす)がフェイの方を振り向いた。
「あ、フェイ……タキシードかっこいいね」
 ぱっと表情が明るくなるシェリエを見て、フェイの胸が小さく高鳴った。
「そのドレス……後ろはどういう感じか見たい」
「うん、自分じゃよく見えないんだけど、どうかな?」
 そう言って、シェリエは後ろを向いた。控えめに開いた背中はすっきりとして、その腰には目立たない程度に上品なリボンがあしらわれている。
 フェイは、そんなシェリエを背中から優しく抱きしめた。
「わっ……」
「すごく素敵だよ、シェリエ」
 その純白のドレスは、シェリエにとても似合っていた。
「本当?」
 フェイに褒めてもらって、シェリエは嬉しそうに答える。
「素敵すぎて私がお嫁に貰いたいぐらいだ……」
「えっ……?」
「さあ、式場に向かおう」
 何か言われる前に、フェイはシェリエを促した。

 フェイとシェリエは、ヴァージンロードを歩いていく。シェリエの表情は、晴れやかだ。
 神父の前に立ったフェイとシェリエは、
「新郎フェイ・カーライズ……あなたは新婦シェリエ・ディオニウスが病めるときも、健やかなるときも愛を持って、生涯支えあう事を誓いますか?」
「誓います」
 フェイは、心を込めて答える。
「あなたは新郎フェイ・カーライズが病めるときも、健やかなるときも愛を持って、生涯支えあう事を誓いますか?」
「誓います」
 そう答えるシェリエの頬は、少し緊張しているのか、いつもより赤くなっている。
「では、指輪の交換を」
 フェイとシェリエは、向き合った。フェイはシェリエの薬指に、指輪を嵌める。
 シェリエも、フェイの薬指に指輪を嵌めた。
「……」
 指輪の交換が終われば、次は誓いのキスだ。
 その時、むくむくとフェイの胸中にイタズラ心が芽生えた。
「シェリエ……」
 フェイは真剣な顔で、シェリエに顔を近づける。
「え、えっ?」
 戸惑うシェリエに、フェイは顔を近付け続ける。
「……シェリエ、目を瞑って」
「う、うん」
 そっと目蓋を閉じたシェリエの両頬を、フェイが両手で包む。
 優しく上を向かせると……フェイは片側の頬の手を離して、軽くキスをした。


「シェリエ……今回の模擬結婚式はどうだった?」
「やってみてよかったわ。キスは、ちょっとびっくりしたけど」 
 そう言って、シェリエはふふ、と笑った。
「結婚式を挙げてみたいって思っていたけど、実際にドレスを着たり、こうした結婚式場で体験できて嬉しかった」
「それなら良かった。こういう場所で身内と楽しく式を挙げたいと言っていたのを、聞いたから」
 フェイにそう言われて、シェリエは幸せそうに笑った。
「こんなに本当の式みたいにしてくれて、ありがとう」
「……せっかくの結婚式体験なんだから、なるべく本物に近い体験をした方がシェリエのためにもなるかなって……」
 そう言って、フェイは少しだけ俯いた。フェイには、そう答えざるを得なかった。
(……ねぇ、シェリエ)
 フェイは、嬉しそうに隣を歩くシェリエをそっと盗み見る。
(もし、今日言った言葉や行動が全部本当の気持ちだったって言ったら……
 シェリエと本当に結婚式を挙げたいんだって言ったら、貴女はどう答えてくれたかな)
 だけど、シェリエ本人には、そんなこと言えない……。
 フェイは、想いを胸に秘めたまま、シェリエの隣を歩いていた。