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遠くて近き未来、近くて遠き過去

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遠くて近き未来、近くて遠き過去

リアクション

 
 召喚の護衛をする為に、とりあえず待機場所として南西の陣の場所に向かった刀真と月夜は、完成された陣を見て目を丸くした。


『核』を生成する為の純粋なもの、という話で、何の躊躇いもなく
「女王自身とか?」
 と言ったシルフィスティ・ロスヴァイセ(しるふぃすてぃ・ろすう゛ぁいせ)を、リカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)は強引に黙らせた。
「姉さんはどうしてそう、問題発言ばかりなの!?」
「別に悪いこと言ってないわよ」
 と反省の色も無いシルフィスティに、リカインは溜息ひとつ。
 殺人犯になりかねないだけではない。実際に、その身をマグマ溜まりに投げ込まれた人物がいるのだ。
 このまま連れて行っても、何かをやらかすことしか想像できなかったリカインは、一計を案じた。

「それで、どうして生き埋めにされてるのよ!?」
 シルフィスティを中心にして、ろくりんくんことキャンディス・ブルーバーグ(きゃんでぃす・ぶるーばーぐ)が、ノリノリで魔法陣を描いている。
「姉さん一応、古王国時代からの復活組でしょ。
 何か、古い時代のアイテムが、召喚の助けになるんだって」
「アイテム扱い!」
「何かあっても身を護るくらいできるでしょ。じゃあよろしくね」
「ちょっとっ、アトラスと戦うチャンスーっ!」
 シルフィスティの叫びは聞こえないフリをして、リカインは去る。


 ろくりんくんは、来たるろくりんぴっくに向け、聖火リレーの為の聖火を燈しに“アトラスの傷跡”を訪れた。
 近年のパラミタ情勢から、今年のろくりんぴっくは、未だ開催の目処が立っていないのだが、ろくりんくんには知ったことではないのである。
 という訳でやって来てみたら、何やら騒がしい。
「アラ〜、知らない内に聖火イベントが始まったのカシラ?」
 期待してみるも、話を聞いてみると、全く別の用で来ていると言う。
「話はわかったノネ。
 アイシャ女王には、2022年冬季オリンピックを開催してくれた恩があるので、報いないとネ〜」
 これでアイシャが復活すれば、今年のろくりんぴっくに参加してくれるかもしれない。
 そう思ったら俄然張り切った。

 彼等と相談の末、南西を担当とすることになった。
 魔法陣を敷く場所に、リカインがシルフィスティを埋めて行ったので、鼻歌を歌いながら、彼女を中心に魔法陣を描いて行く。
「フフン、フ〜ン♪
 トコロデ、地熱の影響はどうなのカシラ?
 この辺の地面もお芋を埋めておくと焼き芋の出来上がりカシラ?」
「冗談じゃないわ」
 と言うシルフィスティが特別熱そうでもないので、埋め焼き芋は無理らしい、と判断する。
「じゃあ、火のオウガが出るらしいけど、火のオウガから聖火が燈せるカシラ〜?」
 次々と出される、自分を越える無茶振りに、シルフィスティはだんまりを決め込む。
 ろくりんくんはろくりんくんで、
「近くでチーズやチョコを溶かして焼いても美味しいかもしれないワネ」
 と、お構い無しである。
 国頭 武尊(くにがみ・たける)から預かったワインを開け、古銭に掛けて清め、シルフィスティの周りに並べた。
 そして、シルフィスティをじっと見つめ、ワインの瓶を手にしたま考え込んでいる様子のろくりんくんを見て、
「ちょっと! 勘弁してよね!」
 シルフィスティはぞっとして叫び、それらを途中から見ていた刀真と月夜は、突っ込みを放棄した。


 千返 かつみ(ちがえ・かつみ)が、パートナーのエドゥアルト・ヒルデブラント(えどぅあると・ひるでぶらんと)千返 ナオ(ちがえ・なお)と共に担当することになった方角は、南東である。
「よし、此処で間違いないな」
 かつみ達は、事前に飛空艇内で皆と打ち合わせていた通りの場所であることを、何度も確認し、準備に入った。
「それじゃ、陣を敷こう」
 かつみ達は、アイシャとの関わりは少ないが、それでも、彼女を助ける為に手伝えることがあればいいと思った。
(今までずっと頑張ってきたんだもんな……。
 これからはただ普通に幸せに生きられればいい)
 打ち合わせた通りに陣を敷き、ナオが、北都から預かって大事に抱えていたアイテム類を、その中心に置く。
「これって、北都さんの願いも託されているってことだよね」
 ナオの手元を見て、エドゥアルトがそう微笑んだ。
「ここは、必ず成功させよう」
「そうだな」
 頷いて、かつみは、エドゥアルトが最後のひとつを魔法陣に追加して置くのを見つめていた。
 その書物は、皆で家中ひっくり返してようやく見つけたひとつだ。
 たったひとつだけれど、こうして皆で持ち寄れば数も多くなって、そうして、召喚の一助になればいい。
 そう願う。


 ハイコド・ジーバルス(はいこど・じーばるす)は、パートナーの魔鎧、藍華 信(あいか・しん)が持参した古王国の生キャラメルを見てふと呟いた。
「お前ポケットの中全部生キャラメルとか……というかこのキャラメルって食えるのか?」
「あ?
 ああ前に食ってみたけど普通に食えたぞ?」
 味もまあまあだった、と、信は平然と答える。
「え、マジで喰ったのか信!?」
 ハイコドの驚きは、しかしすぐに興味に変わった。
「……へー、食べられたのか。
 それなら帰ったら家にあるやつ食べてみようかな」
「というかハイコド。俺魔鎧になってた方がいいんじゃないのか?」
 魔鎧である信は、現在人の姿を取っている。
 ハイコドに装備された方がいいのではないかと訊ねると、彼は「いや」と答えた。
「こういう全方位の防衛戦だと、頭数が多い方がいいからな」
「ふぅん、そういうものか」
 信は何となく頷く。
「それにしても、今回は敵が炎系で固めて来るのね。
 考えてみると私達、それに対抗できる戦術まともに持ってる人が居ないわね」
 ソラン・ジーバルス(そらん・じーばるす)が苦笑をひとつ。ニーナ・ジーバルス(にーな・じーばるす)も肩を竦めた。
「まともに持ってるの、私くらい? それも大した魔法じゃないけど」
 全く、とハイコドは息を吐いて指示を出す。
「ソラ、無茶するなよ。今回はお前が一番危ないんだからな。
 ニーナ、周りの報告よろしく。今日は君が俺達の目なんだからな」
「ハコくんの目、かぁ……うふふ」
 ニーナは満更でもない様子だ。
「さてと、色々忙しくなるわね、頑張らないと」
 言って、にま、とハイコドを見た。
「頑張ったら、ご褒美」
「おいおい」
「いいじゃない。純然たる善意だけど、個人的なところでご褒美があればもっと頑張れるんだけどなぁ」
 ちらちらちら、と期待の視線にハイコドは肩を落とす。
「……何をして欲しいんだ」
「そうね、抱きしめてもらおうかな〜。ぎゅーって」
 おいおい、と信が呆れて三人を順に見る。
 夫婦なのは一応ハイコドとソランの筈だが、というのは全く以って今更か。
「いいじゃない、ハコくんのぎゅーうー」
「あーもう、解ったよ」
 東の陣を担当する四人は、そうこうしつつ陣を完成させ、その中心に、生キャラメルを盛った古代の食器や古銭等を並べて行く。


 上社 唯識(かみやしろ・ゆしき)のパートナー、戒 緋布斗(かい・ひふと)は、儀式魔法に関しては全くの素人であることで、特に念入りに、ハルカ達と事前の打ち合わせを行い、ミスを起こさないようにメモを取りながら今回のことにあたった。
 担当する場所は、北西。
 打ち合わせた場所であることを、HCで何度も確認、メモを見つつ、魔法陣を描き終わった緋布斗は、緊張した面持ちの唯識を見つめて、密かに息を吐く。
 戦闘の類に全く縁の無い彼が、こういう場所に来ることは珍しかった。
 上背はあるのに、度胸は少し、足りない。その手が細かく震えているのを見て、もう一度魔法陣の確認をした後で、緋布斗はそっと唯識の手を握った。

 唯識が最初にアイシャを見たのは、王宮内の掃除の為に、バケツの水を運んでいた姿だ。
 その時は、まさかそれが女王だと思わず、バケツを運ぶのを手伝った。
 唯識の、大切な思い出だ。
 そして、そんなアイシャだから、助けたいと思う人も多いのだろう、唯識はそう思う。

「…………」
 緊張を紛らすようにちら、と視線を滑らせ、ほっと息をついて戻す。
 場の召喚時、現れるであろうアトラスの影に対処する為に待機している黒崎天音や鬼院尋人等、薔薇の学舎の先輩達の姿が近いところにあることに勇気付けられ、唯識の気持ちの支えになっている。
 唯識は、カールハインツ・ベッケンバウワー(かーるはいんつ・べっけんばうわー)との写真が入った、御藝神社のお守りを取り出して握り締めた。

 駆け寄った小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)コハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)が、描かれた魔法陣を見て、「お疲れ様!」と言った。
「私達が持ってきた物も、一緒に置いていい?」
「ええ、勿論」
 美羽達は、持ち寄った古王国のゲームセットとその駒を、魔法陣の中心に置く。
 同じく陣が完成したのを見て、天音と共にいたブルーズ・アッシュワースもアイテムを置きに来た。
「“場の召喚”、頑張ろうね!」
 美羽の言葉に、唯識は頷く。
「出来る限りのことをします」

 美羽は、ロイヤルガードの一員である。
 女王の護衛部隊であるそれは、現在はネフェルティティの為の組織だが、かつてはアイシャの為に働いていた。
 だから美羽の、アイシャの力になりたいという気持ちは、今も変わらない。
 それはきっと、他のロイヤルガードの者達もそうだろうと思う。
 そして同時に、美羽はアトラスに対しても、感謝の念は尽きなかった。
「アトラスにも、話ができるかな?」
「うん、きっと」
 伝えたいことがある。美羽の言葉に、コハクは頷く。気持ちは、美羽と同じだ。
 コハクは、天音達の方を見やった。
 コハクの他、天音達からの誘いもあって、そこにはパラミタの地祇、ぱらみいの姿もある。
 今、ぱらみいは磯城(シキ)に抱えられ、彼等と何かを話し合っていた。


 レキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)とパートナーのミア・マハ(みあ・まは)が担当する場所は北だ。
 早川呼雪達が、持参したアイテムをレキに預けた。
「ボクはあんまり大した物を持っていないから助かるよ」
「場の召喚の方は頼む。俺達は、アトラスの影に対処する」
 アイテムを受け取ったレキは、呼雪の言葉に頷いて笑った。
「お互い頑張ろうね」
 陣が完成し、HCで各方位に散る仲間達に連絡する。
「こっちは終わったよ」
 連絡が届いて、天音や美羽達のところにいたトオルが、ざっと周囲を偵察した後で、ぱらみい、シキと共に合流した。
 二人だけでは少し心許ないと、レキが護衛を頼んでいたのだ。
「お待たせ。今のとこ異常ないけど、もうすぐだな」
 時間を見ながら、トオルが言う。
「うん。火のオウガも気になるけど、魔法陣を敷くことが最優先だからね……。うわ〜、責任重大だよ」
「アトラスの残り火というのなら、害はなかろうよ」
 ミアはそう言うが、用心に越したことはない。
「オウガ、って呼ばれてるくらいだから、相当凶暴なんじゃないかとも思うけどな。
 ロックトロールに似てるっつーけど、トロールの性質も持ってたら厄介だし、出て来なけりゃいいよなあ」
 トオルは肩を竦める。
 トロールは再生能力の強い魔物だが、光を嫌うし、火属性の攻撃が有効だから、火のオウガはトロールとはまた違うのかもしれない。
 最も、違うからこそ、トロールではなくオウガと表現されているのだろう。