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遠くて近き未来、近くて遠き過去

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遠くて近き未来、近くて遠き過去

リアクション

 
 
 エース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)の横を歩く子供が、苦しそうにしている。
「辛そうだね……。大丈夫?」
 エースが気遣うと、大丈夫、と答える。
 彼は大丈夫ではなくても何も言わずに連れられるまま、限界まで黙って耐えて倒れる、ということが以前あったので、エースは心配する。
 エースは、キマクの聖地モーリオンの地祇、もーりおんを伴っていた。
 もーりおんは当初、自分が此処に連れられた理由がよく解らなかったので、『核』の生成についての話を聞いた時、贄として呼ばれたのかと納得したが、エースは慌ててそれを否定した。
「今、パラミタは色々困難な状況が待ち受けている。
 最悪の場合、俺達はパラミタを脱出することだってできるけど、地祇であるもーりおんは、この世界が滅びるなら、一緒に滅びることになってしまうんだろう。
 だから、この世界の未来の為に、少しもーりおんにも手伝って欲しいんだ」
 危険が伴う場所だけれど、一緒に行って欲しい。こくりともーりおんは頷いた。
 けれども、予想以上にこの場所は過酷らしい。
 暑さ、熱さ、胸を圧迫する空気に、もーりおんは息を荒くしている。けれど、弱音は言わない。
「僕が背負って行きましょう」
 パートナーのエオリア・リュケイオン(えおりあ・りゅけいおん)がもーりおんの前に膝を付き、
「頼むよ」
 とエースは彼にもーりおんを預けた。


「アイシャは大丈夫なのかしら」
 ルカルカは、女騎士に抱えられているアイシャを心配した。
 自らが備えるパスファインダーの能力で、全員に炎熱に対する耐性の守護を行っているが、更に念の為にと思い、パートナー達と一つずつ、身に着けていたファイアーリングを外して女騎士達に差し出した。
「よかったらこれを。皆を護ってあげたいの。
 アイシャにも渡してあげて?」
 騎士達は、王宮騎士団の中でも精鋭で、階級はルカルカよりも上に位置する立場だったが、今回は個人的な依頼に基づいているので、それを明かすことはしない。
「気遣いに感謝する。我々は、必要な備えはしている。
 それは自分達の身を護る為に使うべきだろう」
「そっか、当然よね」
 弱ったアイシャを、承知で此処へ連れて来たのだ。アイシャに対して万全の備えをしていないわけがない。ルカルカは頷く。
 むしろ大丈夫でないのは、オリヴィエやハルカだった。
 ハルカは楽天的なところがあったし、オリヴィエは、自分に対して無頓着過ぎるところがある。
「全く……博士がそれでどうする」
 頑健でないくせに、と、火山内部への備えを全くしていない様子のオリヴィエに、ダリルがファイアーリングを渡し、腕を取って支えた。


 シリウス・バイナリスタ(しりうす・ばいなりすた)は火山突入前に変身を済ませ、パートナー達と共に、火山の最深部に向かう最前線を務めた。
「オレ自身は、こっちの世界のアイシャにそう強い繋がりがあるわけじゃない。
 けど、オレの知り合いには、アイシャを慕う人、想う人が何人もいるんだ。
 それにな、作られた役目を終えたから死んでもいい、なんて考え方は、例え本人の望みだろうが大嫌いでな!」
 そう思う人の姿をこそ、オリヴィエはアイシャに見せたいと思ったのだという。
 ならば見せるまでだ。自分達が、道を切り開くこの姿を。

(……ボクとしては、本人が望むのなら静かに眠らせてやりたいとも思うけど)
 サビク・オルタナティヴ(さびく・おるたなてぃぶ)は、実は密かにそう思っている。
(けど、それをすれば、悲しむ友人が多いからね……)
 今は、シリウスの思いに従って、共に行動するだけだ。
「大丈夫です。奇跡は起きますわ」
 一方リーブラ・オルタナティヴ(りーぶら・おるたなてぃぶ)は、シリウスの言葉に、そう請け負う。
「だって……わたくしもそうでしたもの。
 わたくしとシリウスのように、アイシャ様を想う人がいれば、必ず奇跡は起こせます!
 その為にも……進みましょう、皆さん!」
 リーブラもまた、ひっそりとパスファインダーの能力で全員を炎熱の影響から護りながら、シリウス達と共に先頭を務める。


 洞窟の道は、時折枝分かれしていたが、ハルカが選ぶ道を進んで行く。
「と言いますか……大丈夫ですの、ハルカ?」
 重要なことに気付いて、エリシア・ボックが言った。
 ハルカは、驚異的な迷子能力を有する。ここで全員が迷ってしまったら話にならない。
 指摘を受けて、女騎士達が疑念の眼差しをハルカに向けた。前方でオリヴィエがくすくすと笑っている。
「笑いごとではございませんわ。……大丈夫ですのね」
「ハルカから目を離さないように頼むよ。ハルカはアイシャから離れないように。
 自分が迷子になるだけで、人を迷子にする能力ではないから、それで何とかなるだろう」
「よく解らないが……。特殊な性質なのだな」
 女騎士は納得すると、アイシャの手首とハルカの手首を紐で繋いだ。素早い対応ではあるが、呆れる程の合理さだ。
 これ迄、ハルカの迷子能力を知っていても、誰も紐で繋ぐようなことはしなかったので、エリシアはぱちぱちと瞬くが、それについて言を放つところではないのだろう。

 アトラスの傷跡は、地表にまでマグマが噴出している場所もあり、最深部に至る迄のあらゆる場所で、煮えたぎった溶岩が確認できた。
 異臭を放つ場所も至るところにあり、エリシアは防毒マスクを装備して対応している。
「此処には、ドラゴンも棲まうといわれていますわね」
「はい。でも、ドラゴンの巣穴は、この道とは別のところにあるから大丈夫、って、おじいちゃん達が話していたのです」
「……そうですの」
 思うところはあれども、エリシアはそうとだけ答える。


「ったくもう……いくら火山だからって、暑いったらないわよ!」
 セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)は、あまりの暑さに毒づいた。
「あまり先行し過ぎない方がいいかもしれないわ、セレン」
 セレンフィリティの様子を見て、セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)が言う。
 二人は、偵察担当として、一行より少し離れて先に進んでいたが、セレンフィリティの消耗が自分より酷い。
 ダリルによるファイアプロテクトの魔法は掛かっているが、離れ過ぎて、ルカルカやリーブラの耐熱魔法の効果範囲から出てしまっているのだろう。
「そうね……」
 道が、溶岩が池のように溜まっている横を通っているのを見て、溜息と共にセレンフィリティも同意する。
 そして、ふと気を引き締めた。
 気配を感じ取る。サラマンダーではないようだった。溜まる溶岩の中に、無数の巨大な炎のトカゲが群れている。
 二人を獲物と見たか、トカゲ達は次々と、溶岩溜まりから道の方へと移って来た。
「総数15匹……ああもう、数のサーチに意味は無いわね」
 HCでサーチした後、暑さのあまり、投げやりに言うセレンフィリティに、セレアナは
「一旦下がりましょう。二人で相手どることは無いわ」
 じりじりと近づく火トカゲから距離を置きながら、HCで魔物の出現を連絡する。
「本隊に攻め込まれる前に、攻撃の目をこちらに向けさせておくのであります」
 同じく偵察として先行していた大熊丈二が銃撃を行い、足を止める。
 その間に、本隊の先頭グループにいたシリウスや遠野 歌菜(とおの・かな)、清泉北都達が駆けつけた。
「体当たりが主な攻撃のようであります!」
 増援に気付いた丈二が叫ぶ。
 炎のような体を生かし、獲物を焼き潰して喰らう魔物なのだろう。
「それなら!」
 と、歌菜がブリザードの魔法で足元を凍らせようとするが、一瞬ですぐに溶けてしまう。
「成程、動きを止めるか」
 全ての火トカゲといちいち戦っていられない。パートナーの月崎 羽純(つきざき・はすみ)は納得すると、アブソリュート・ゼロの氷壁で、火トカゲと自分達の間を遮断した。
 この熱せられた空気の中で、本来の持続時間は持たないだろうが、時間は稼げる。
「今の内ですっ! 皆で此処を通りすぎてしまいましょうっ!」
 歌菜の言葉に賛成し、本隊を急いで進ませて、この一画を抜ける。