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【未来シナリオ】大切な今日

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ヴァイシャリーの守護者たち

 ヴァイシャリーに警察が誕生して数年が経った。
 多くの契約者が通う、百合園女学院の警備を担当する百合園警備団発足からも、同じだけの月日が流れた。
「ティリアのお蔭で、警察との連携も上手くいくようになってきたし、やるべき事は多きけど、軌道に乗ってきたなって思ってる」
 発足当初から警備団に所属し、精力的に活動してきた漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)は今も百合園警備団の一員として、仲間と共に学院と生徒達を守護していた。
「ま、警官としては下っ端だけどね。実績を買われて、指揮させてもらってるから」
 かつて百合園に存在した白百合団で、副団長を務めたティリア・イリアーノは、百合園卒業後、ヴァイシャリー警察に就職し、今では警察官として百合園の警備の現場指揮を任されている。
「結構大変なのよ? 中間管理職みたいな感じでさ、あっちからもこっちからもクレームが届いて。恋人を作ってる暇もありゃしない!」
「うんうん、わかってる。いつもお疲れ様。ありがとう!」
 ポンポンと労うように月夜がティリアの背を叩く。
「こちらこそ、ありがとう。月夜のお蔭で、生徒側と連携がとれてるしね。
 正直、あたなはそんなに長く百合園にいないと思ってたわ。パートナーのところに、帰っちゃうだろうなって」
「……ここで、沢山の自分の友達や、自分の仲間が出来たから」
 パートナーの樹月 刀真(きづき・とうま)繋がりではない、月夜の純粋な友人や、仲間の多くがヴァイシャリーにはいる。
「私、あの頃――百合園に来る前より、自立できてる……よね?」
「そうね」
 ティリアの返事に、月夜は明るい笑みを浮かべた。
 月夜についてきてくれる後輩達もできた。分からないことを教えてあげることも出来るようになった。
 色々な相談にも。
 可愛い恋の相談にも、受けることがあった。
(恋の相談は私も誰かにしたんだけどね……)
「ん? あのショップ、明日オープンなのね。ちょっと覗いてみてもいい?」
 仕事を終えての帰り道に、ティリアは騎士の橋の近くにオープンしたギフトショップに目を留めた。
「うん。でもあのお店、ベビー用品店だよね。誰か出産したの?」
「ほら、晴海の子がそろそろ誕生日で……あっ」
「え!?」
「しまった……秘密だったのに」
「大丈夫、誰にも話さないよ。晴海って、元白百合団員の、ティリア達の友達の晴海、だよね?」
 確か彼女は、子供が産めなかったはず。
「結婚式の時、お母さんに頼んだようなの。代理出産。
 晴海と彼の子は、地球の祖父母の下で暮らしてるわ」
「……!?」
「これ絶対誰にも言ったらダメよ? 龍騎士団長の子供だとバレたら狙われるかもしれないし」
「う、うん……」
「絶対よ!」
「わ、わかった。でもティリアの方こそ気を付けて」
「う……っ、うん。気を付ける」
 その後は不自然なほど口を堅く結び、ティリアはオープン前のベビー用品店を覗いて雰囲気を確かめた後、また月夜と共に歩いていく。
「……まだちょっと時間があるかな」
 月夜が時計を確認する。
 今晩は約束があるのだ。
「あ、でももう来てる! 瑠奈〜」
 ゴンドラ乗り場の近くにあるレストランの前に、風見瑠奈(かざみ・るな)の姿があった。
 白百合団の三代目団長だった瑠奈は、地球の大学に進学したため、月夜と共に団活動をする機会は少なかったけれど、彼女が地球に行ってからも、メールや手紙でのやり取りが続いていた。
「久しぶり、月夜ちゃん、ティリア」
 2人を見て微笑んだ瑠奈は、この間会った時よりも大人びていて、優しく柔らかな雰囲気を纏っていた。
「久しぶり〜。どう? 瑠奈の方も充実してる? ヴァイシャリーに戻ってきてもいいのよ」
「うん、毎日とても充実してるわ」
「今日は来てくれてありがとう! 用事はもう済んだ?」
 警備団の今の姿を観て欲しくて、月夜は瑠奈を呼んだのだけれど、瑠奈自身もなにかヴァイシャリーに用事があったとのことだ。
「終わったわ……」
 そういた瑠奈の顔は少し複雑そうだった。
「……瑠奈のパートナーに関係する用事だよね?」
 瑠奈のパートナーはヴァイシャリー家の後継者と、ヴァイシャリー家の侍女だ。
 そのため時々ヴァイシャリー家からお呼びがかかることがあるらしい。
「シス……トさんの婚約者とご家族を招いての昼食会があったの。初めてお会いしたのだけれど、理知的な方だったわ」
「そっか……もうすぐ結婚だっけ?」
「多分、1年以内には。その時は、ヴァイシャリーで盛大な結婚式が行われると思うわ。百合園も警備団も大変だとは思うけれど、よろしくね」
 瑠奈のパートナーのシスト・ヴァイシャリーは瑠奈に好意を抱いている。
 だけれど彼にはヴァイシャリー家の後継者としての使命がある。世継ぎを残す為に、妻も多分複数娶るだろう。
 瑠奈はそんな彼の想いに応える事は出来ず、シストも瑠奈にしつこく迫ることはなかった。
 でもやっぱり、パートナーが他の誰かと結ばれることに、寂しさを感じているのか。
 瑠奈は少しだけ元気がなかった。

 レストランで近況を語り合った後。
 3人はしゃべりたりないと、お酒やつまみを買ってティリアの部屋に押し掛けた。
「今日の報告書纏めなきゃならないから、先に飲んでて」
 居間に月夜と瑠奈を残して、ティリアは報告書作成のために書斎に向かった。
「それじゃ、カンパイ」
「乾杯〜」
 月夜と瑠奈はそれぞれ好みのお酒をグラスに注いで乾杯をして、おつまみを食べながらとめどもない話をしてく。
 百合園警備団の今の姿を、瑠奈はとても喜んでいた。 
「あの時よりも、私は大人になったけれど……それでもあの時に戻ったら、当時より良い選択ができるとは思えないの。
 白百合団も百合園も、百合園警備団もひとつの意思のもとにある団体じゃないから。
 私たちが築き、残したものを受け継いでいく人が、その心の元、作り上げていくのだから……」
 そして、瑠奈は月夜に「ありがとう」と、心からの感謝の言葉を述べた。
 貴方が今、ここにいてくれて、本当に嬉しい、と。
「それは、瑠奈のお蔭だよ。今の私があるのは、瑠奈のお蔭だから、それは間違いないから」
 月夜は隣に座っていた瑠奈に、抱き着いた。
「私は瑠奈のこと大好きだよ」
 そして、ぎゅっと抱きしめる……。
「私も、月夜ちゃんのこと大好きよ。ホントとっても大好き。ねえ、私たち両想いだし、もう付き合っちゃおうよ! そうしよー」
 ぎゅっと抱きしめ返すと、瑠奈は月夜に頬ずりしだした。
「え、えー?」
「一途に愛せる人同士結ばれた方が絶対幸せになれるよ、んーっ」
「きゃーっ、駄目だって、瑠奈、酔ってる? あーっ」
 顔を近づけてくる瑠奈を必死に押し返して、自分の唇を護る月夜。
 ちらりと見たところ、度数の強いお酒の瓶が空になっていた。
「瑠奈、飲みすぎ……」
「月夜ちゃん、かわいいかわいい、持って帰る持って帰るーっ」
「瑠奈ー、しっかりして、ああっ」
 月夜は唇以外の露出しているありとあらゆる場所に、キスされてしまうのだった。