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四季の彩り・FINAL~ここから始まる物語~

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四季の彩り・FINAL~ここから始まる物語~

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 第3章

「こちらが、研究室です。機晶石から出る波動を計る機械や、魔法との影響について調べる機械などが置いてあります。まだ、最低限の機械しかありませんが、少しずつ増やしていく予定です」
 工房を案内してほしいというダリルに応え、アクアは工房を回っていた。様々な関連機器の並ぶ部屋を前に、今まで見てきた場所も思い出し、ダリルは「高圧の電源装置はあるのか」、「地下はどうなっているのか」等の質問をしている。アクアはそれに、ひとつひとつ答えていた。
(作業場はあるけど、ダリルは材料や部品の保管庫にもっと広い場所がほしいみたいね)
 ダリルの問いから、ルカルカはそれを感じ取る。
「少しずつ大きくする予定だったら、設計図は任せろ」
「……そうですね、今は、そこまで考えられないので……その時は、よろしくお願いしますね」
 そう答えるアクアに、ダリルは「そうだ」と機晶音叉を差し出した。
「完成祝いだ」
「……ありがとうございます」
 素直に受け取るアクアだったが、ルカルカは内心で苦笑した。
(もっと色気のあるプレゼントにすればいいのに……)

 パーティ会場に戻る道すがら、ダリルはアクアと機晶技術についての話に熱を入れていた。本職であるし、彼は技術的な話が好きだ。
「本職として、工房は持たないのですか?」
「教導の研究施設があるからな。兵の整備の他には、兵器の開発もやっているよ」
「兵器……」
 その単語だけを切り取るとどきりとしてしまうが、軍なのだから当然そういう仕事もあるのだろう。
「俺のもう1つの体、ラグナロクもそうだよ」
「……? ラグナロク……とは……?」
「部隊の母艦として運用している戦闘空母だ。俺が電子変化で一体となり、自身の体として操作する。だから、もう1つの体と言えるんだ」
 兵器である空母の性能拡充は大変好ましい事で、彼はそのために人ならざる力、自分専用の能力を持ったことも肯定している。
「そうなんですか……」
「中を見たいなら、見学も出来るぞ」
「見学……」
 アクアは少し考えて、首を振った。
「今日は難しいですから。また後日にお願いします。モーナの所にでも寄った時に、訪ねますね。貴方は、普段は教導団の……」
「ダリルは、普段は医師として教導本部で働いてるぜ」
 どこに居るのか、とアクアが聞こうとしたところで、カルキノスが言った。
「あそこは機晶姫が多いし、機晶姫医と人医がごっちゃになってんだよな。何を研究してるのか聞いても、『軍事機密だ』って俺達にも教えてくれねぇの」
 彼がそうして笑った頃、アクア達はパーティー会場に戻っていた。

              ⇔

「アクア、ファーシー、紹介したい女性がいるんだ」
 その頃には、レンの呼んだ女性もイナテミスからツァンダのこの工房まで到着していた。レンは彼女をアクア達に紹介する。
「彼女はアメイア・アマイア。俺の妻だ」
「結婚してたんですか……」
「わたしはファーシー・ラドレクト。よろしくね!」
 ファーシーに続き、アクアもよろしくお願いします、とアメイアに名乗る。アメイアも改めて名を名乗り、続けて言った。
「今はイナテミスに住んでいる。何があっても護れるようにな。アクア……ということは、お前がこの工房の主なのだな」
「はい。私が全額出してはいませんし、友人達の協力が無いととても完成は出来ませんでしたが……一応。この建物は元々レンが使っていたもので、それに改装を加えさせていただきました。レンにも色々協力してもらっています」
「ああ、聞いている。……良い工房だ。心から祝いを言わせてもらうよ」
「ねえ、ところで……2人はいつ結婚したの? 全然知らなかったから」
「式を挙げたのは6月だ。……そうか、あれからもう半年経ったのだな」
 アメイアはそうファーシーに答え、レンに自然な笑みを向ける。
「6月……ジューンブライドね! 2人はどうやって知り合ったの?」
「そうだな……シャンバラはエリュシオン帝国と戦争をしていただろう? 私は、帝国の第五龍騎士団長だったんだ」

「……それで、今はシャンバラにいるのね。戦争で敵同士だったのが認め合って……」
「私にはよく分かりませんが……」
 自分達の故郷が戦争をしていた頃の事を考えると相手国の人物と結婚するなど想像出来ないことだったが、物事に絶対は無い。どんな状況であれ関わっていけば、認め合うこともあるのだろう。
「ところで、アクア、ファーシー、先程入ってきた男の様子がおかしいようだが……」
 アメイアが部屋の一角を示す。そこでは、テレサ・ツリーベル(てれさ・つりーべる)ミア・ティンクル(みあ・てぃんくる)と工房に来た風祭 優斗(かざまつり・ゆうと)が、明後日の方を見て目をぐるぐるさせた状態で立っていた。何か変だ、と隼人・レバレッジ(はやと・ればれっじ)の方を見ると、ルミーナ・レバレッジ(るみーな・ればれっじ)と近付いてきた彼は「ん?」という顔をした。
「なんか優斗の様子がオカシイが……まあ、そういう日もあるわな」
「それで終わりですか!?」
 それで終わりらしい。ルミーナは、まあ、というように目を丸くして口に手を当てている。
「アクアサン、コウボウカンセイオメデトウゴザイマス」
「あ、ありがとうございます……」
 操り人形のようにカクカクと祝いの言葉の述べる優斗に、アクアはとりあえずそう応えた。何があったのかとテレサとミアを見るが、彼女達はにこにことした笑顔を浮かべて優斗の様子を気にしている素振りはない。
「アクアさん、工房完成おめでとうございます」
「アクアちゃん、工房完成おめでとう!」
 笑顔の2人は、何だかやけに嬉しそうだった。嬉しい……というか勝利の笑みというのだろうか。その意味を問う前に、テレサ達は調達した料理を食べながら「「ところで……」」とアクア達に聞いた。
「ここ、元は倉庫だったんですよね。ここまでの工房にするのは結構大変だったんじゃありませんか?」
「ここ、元は倉庫だったんだよね。ここまでの工房にするのは結構大変だったんじゃないかな?」
「そうですね……最初は、コンクリート剥き出しの倉庫でしたから……」
 アクアが答え、ファーシーも続けて彼女達に言う。
「最初に間取りを決めて、改装は職人さんにお任せしたから大変なところはなかったんだけど」
「確かに、その後は大変でしたね」
 必要な機材を揃える為に業者に交渉したりするのもそうだったが、何よりデザインの面――壁紙の色を始めとした装飾をどうするのかとか、カーペットやカーテンをどうするのかとか、その辺りを相談し始めてから決定までにかなり時間が掛かった。女は買い物に時間が掛かるというが、家の内装を考えるのにも時間が掛かるのだ。
「……ん、このお料理美味しいわね」
「良かった。隼人さんとわたくしで作ったんですよ。ファーシーさんとアクアさんが好きなものを思い出しながら、メニューを選んだんです。お二方とも、これから新しい背カツが始まるんですわね。おめでとうございます」
 野菜中心の料理を食べながら言ったファーシーに、ルミーナが嬉しそうに言う。
「思い出しながら……?」
「……ああ、ファーシーの記憶を持っているんでしたね。それで、私の好きなものも……」
 表情はあまり変わらないが、食べ方でそれがアクアの好物だと分かる。
「あ、そっか。そういえばそうだったわね」
「貴女が忘れてどうするのです……」
 アクアとファーシーがそんな遣り取りをしている中、隼人もルミーナの料理に舌鼓を打つ。
「美味い、美味いなー。この世で一番美味しいルミーナさんの手料理を食べられるなんて……お前らはなんて幸せなんだ……なあ、優斗やお前らもそう思うだろ?」
「エエ、トテモオイシイデス」
「ああ、こんな機会は滅多にないだろうな」
「酒が進む味付けだよな」
 優斗は兎も角として、淵とカルキノスは夫の自慢に対して確かに、と同意する。
「本当うめぇと思うぜ、なあ、ザカコ」
「はい。是非参考にしたいですね。自分も料理を分担するようになって、レパートリーを増やしたいと思っていたところですから」
「ほう、それは楽しみじゃの」
 ザカコ・ワルプルギス(ざかこ・わるぷるぎす)強盗 ヘル(ごうとう・へる)と会話をし、アーデルハイト・ワルプルギス(あーでるはいと・わるぷるぎす)と笑顔を交わす。そんな皆の様子に、隼人は「まあ、めでたい時は皆で食って皆で祝おうぜ!」と上機嫌になった。そして、そうだ、とルミーナと目を合わせる。ここで報告しようか、という彼のメッセージが伝わり、彼女は微笑んで小さく頷いた。
「それでな、えっと、俺達からも報告がある。実は、俺とルミーナさんに赤ちゃんができた。だから、俺達の事も一緒にお祝いしてくれると嬉しいな」
「えっ、赤ちゃん!? おめでとう、隼人さん、ルミーナさん!」
「オメデトウゴザイマス」
 ファーシーと優斗に続き、レンとアメイアも「おめでとう」と隼人達を祝福した。(子供、か……)
 ふっ、とアメイアは思慮に耽る。自分達に子供ができるかは分からない。出来ない、とは決して思わない、何せ夫は『契約者』なのだから。
(私が何かを残せるのなら……それは……)
 そこまで考えて、自虐の笑みが漏れた。私だけがこんな事を考えていても仕方が無い、私はもう独りでは無いのだから。
(今は、新たな生命の誕生を喜ぼう)
 思考に決着をつけたアメイアが、一瞬だけレンの顔を覗き見る。
 ――その時が来るまで、今は彼と共にあるのみ――。
 スタッフとして働いていたメティスやノアも、「おめでとうございます」と拍手する。そしてアクアも、2人を祝った。
「おめでとうございます。良かったですね、2人共」
「そう言えば、アクア様は結婚しないのでありますか?」
「!? な、何を言っているんですかスカサハ! 私はまだしないですよ! しないですけど……!」
 突然の爆弾発言にびっくりして、顔を赤くして。それから、アクアは徐々に俯いていった。スカサハは「……?」とそれを見遣る。
「隼人さん達に赤ちゃんかー。何か、あたし達も嬉しいね! 諒くん」
「う……うん」
 ピノも拍手をしつつ薄青 諒(うすあお・まこと)に笑顔を向ける。諒はこの話を聞いて、これから自分のしようとしていることを考えてますます緊張していたりもしたのだが、ピノはそれには気付いていないようだった。
「…………」
 ラスは、諒の緊張ぶりにまさか、という予感を抱きつつ拍手をしていた。今日は諒から目を離さないようにしようと思っていると、志位 大地(しい・だいち)シーラ・カンス(しーら・かんす)が近付き囁いてきた。
「邪魔しないでくださいね」
「邪魔したらダメですよ〜?」
 間違いない、この後、諒は1歩進む気だ。
「皆ありがとう。子供は男の子で、名前は陽斗(はると)にする予定なんだ」
「太陽のように明るく、笑って暮らしていければと考えましたわ」
「陽斗かー、良い名前じゃない!」
 お腹に触れながら言うルミーナに、ルカルカが明るく言う。
「あ、そうだ! ダリル、ルミーナにお祝いの歌を歌ったら? 私達も歌うし」
「歌だと? いや、悪いが俺は……」
 勧められ、ダリルはなるべくいつもの表情を崩さずに断ろうとした。だが、ルカルカは酔っているせいか陽気に、声も潜めず彼に言った。
「いいじゃない! CDも出したんだし、歌くらい」
「「CD?」」
 CDって、あのCD? と、アクア達は驚き視線を交わす。そう、CDといえばあのCDだ。完全覚醒machineryだ。ロックチューンだ。皆にバラされ、ダリルは明らかに慌てた。
「い、いや、それは……」
「ロックはまあ合わないだろうから、適当にアレンジして歌わない?」
「そうね! ダリルさん。わたしも聞きたいなー」
「よろしくお願いします」
 ファーシーと、そしてルミーナに言われたら断れない。ダリルは「…………」としばし硬直してから、咳払いして歌い始めた。いざ歌い出したら調子が出てきたのか、声はパーティー会場全体に響く。
(どうやら、アルコールがダリルを少し開放的にしているようだな)
 淵も彼にハミングしながら、デジタルビデオカメラの電源を入れた。
(ふふ……ビデオに撮っておいてやろう。あとで見せたらどんな顔をするだろう)
 ついくすくすと笑いつつ、淵はビデオを回し続けた。

「お子さんですか……。やっぱり、毎日仲が良いから授かるんですよね……」
 盛り上がる中で、テレサは祝福される隼人とルミーナを見て考える。そうして、ルミーナに話しかけた。
「良かったら、結婚生活を上手くいかせるためのコツを教えてもらえませんか?」
「良かったら、結婚生活を上手くいかせるためのコツを教えてもらえないかな?」
 同じことを考えたのか、ミアも同時に話しかけていた。2人に問われたルミーナは、ジュースを飲みながら「そうですわね……」と考える。
「常に相手を思いやって、相手の価値観を認めることだと思いますわ。一緒に暮らしているんだということを忘れずに」
「なるほど……」
「なるほど……」
「でも1番は、毎日を楽しく暮らすことだと思いますわ」
「ですよね。ルミーナさん、隼人さん、皆さん、実は私達からも重大な報告があるんですよ。昨日から私と優斗さんとミアちゃんでじっくり話し合って……私達、結婚することにしました」
「えっ!?」
「……結婚ですか?」
「何!? ついにテレサとミアと結婚する気になったのか!?」
 ファーシーとアクアは驚き、隼人も優斗に勢い良く訊ねかける。
「テレサトミアノイウトオリデス」
「……まあ、おめでとうだな。家族として祝福させてもらうぜ」
「おめでとうございます、テレサさん、ミアさん」
 隼人に続き、ルミーナも微笑んで3人を祝う。
「ありがとう! 僕達も新たな人生のスタートを切るから、これからも宜しくお願いするよ」
「ありがとうございます。私達も新たな人生のスタートを切ることのなりますので、これからも宜しくお願いしますね」
 テレサとミアは、相変わらずの笑顔だ。最初は驚いていたファーシーも、嬉しそうだった。
「そうなんだー……。前にも結婚するってドレスまで買ったけど結婚できなかったものね。おめでとう!」
「……おめでとうございます」
 明らかに何か変だったが、アクアもテレサ達に祝辞を言う。どんな経緯でそうなったかは何となく予測がつくが、彼女は元々テレサとミアを応援していた。彼女達が結婚するというのなら、おめでたい話だ。
「アリガトウゴザイマス」
 やはりカクカク口調で応えながらも、優斗は一応その中で思考していた。
――アクアさんと出会ってからいろいろあったけど、……アレ、ヨクオモイダセナイヤ。ナンデラロー? ……キノウテレサtoミア〜AAAAAA
「AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」
『……!』
 パーティー会場にいた皆がその絶叫にぎょっとする。
 完全に壊れた機械(生身だが)と化した優斗に注目が集まる中、隼人は1人平常心で考える。
「……とりあえず皆で優斗を叩いてみれば正気に戻るかな? 試してみて、駄目だったら、流れに任せていってみようか」
「叩くの?」
「それは良い案ですね」
「で、では、わたくしも……」
「あ! あたしもやるよ! ここに厚紙で作ったハリセンが……」
「叩けば直るのか?」
「そうですね、それで直る筈です」
「未来でも、いつもそうやって直してたしな」
 ブリュケの言葉に、“いつも”なんてレベルで“こう”なってたのかと驚きながら、8人はそれぞれの方法でドコバシパン! と優斗を叩いた。それぞれがどの位の強さで叩いたかはあえて伏せておくとして――
「はっ、僕は今まで何を……」
 優斗は正気を取り戻した。周りに立つ8人を見上げてぽかんとする。
(確か、昨日テレサとミアから隠れ家について問い詰められて10時間くらいした後から記憶があやふやで……)
 何故か頭が痛いが、そういえば、と優斗は加害者2もといアクアに笑顔を向ける。
「アクアさん、工房の完成おめでとうございます。これから新たなスタートを切るんですよね、頑張ってください。また、何か協力が必要な時にはいつでもできる限り力になりますよ」
「ありがとうございます……貴方も」
 やはりカタカナで祝いを言ったのは覚えていないようだ、と思いながらアクアは言った。
「結婚おめでとうございます」
「えっ? 結婚て何のことですか? 僕は今の所、結婚の予定なんてないですよ」
 きょとんとした優斗は、何を言っているのかと頭に手をやって苦笑する。
「いやだな〜なんで僕が結婚する話になっているんです? まずは恋人をつくらないと……って、え。」
 そこで、すぐ傍でテレサとミアが笑顔になっているのを見て彼は顔を引きつらせる。妙な迫力を放つ彼女達に、慌てて弁解する。
「いや、あのテレサ、ミア、違うんです! 今のはあくまで結婚に至るまでの一般的な流れを語っただけで……」
「あなた、今日も大事なお話(見込12時間)があります」
「あなた、今日も大事なお話(見込12時間)があるよ」
 テレサとミアは既に自分が妻になったつもりで優斗を「あなた」呼びしてそう告げた。『お話』の時間は、きっと昨日よりも2時間程長くなるだろう。再び彼をせんの……ではなく3人で意思統一をしなければならない。
「えっ、あの、『大事な話』は大事過ぎて正気を保てる自信がないので、できればやりたくない……」
「行きますよ、あなた」
「行くよ、あなた」
 テレサ達は問答無用で優斗の腕を取り、工房の押戸へと向かっていった。
「IYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!! ダレカタスケテクダサイオネガイシマスUUUUUUUUUUU!!!}

「……と、とにかくケーキでも食うか」
 タスケテと言われても、こればかりはどうしようもない。しーんとした室内で、隼人はテーブルに並ぶケーキから1種類を選んだ。カップル向けに、とデザインを考えられて作ったケーキだ。隼人は皿に乗せたケーキを、まずルミーナに渡した。
「はい、ルミーナさん」
「ありがとうございます」
 椅子に座った彼女は皿を受け取り、上品な仕草でケーキを食べ始める。それを作ったエオリアは、レイリーアとフォルト、葉月と未月、イディアにクッキーの詰め合わせを渡していた。
「出来たては美味しいですよ」
「ありがと♪」
「おー、クッキーもらったのか、よかったなー葉月、未月」
 お菓子を受け取り、早速食べだす子供達を見て、リリアと朔はお礼を言った。アルコールが回り、朔は少々呂律が回ってなかったが。しかも彼女は、リリアに抱きついたままだったりする。酔って、女性限定の抱き着きキス魔と化していたのだ。
「うちの旦那は優しくてかわいくて……でもたまにカッコいいの!」
 リリアから離れた朔は、今度はアクアにダイブした。そして、彼女の頬に何個もキスマークをつける。
「……! わ、分かりましたから離れてください!」
「…………」
 慌てるアクアにキスを繰り返していた朔だったが、ふと黙ってシャンパンを飲んでいるファーシーを見る。この頃はファーシーも、軽いアルコールなら飲めるようになったのだ。
「しかし、これまで色々とあったな……。ファーシーと出会って色々あって、アクアと出会って色々あって……ファーシーの出産があってイディアちゃんが生まれて……未来の出来事に巻き込まれて……ふふ、これだけで小説が書ける程波乱万丈だな、お互い」
「ふふ……そうね」
 ファーシーは、酒のせいか少し頬を染めていた。それを見て朔は、今度はアクアから彼女にダイブする。
「きゃっ!」
「ファーシー、これからも友達としてよろしく頼むよ」
 朔はそう言って、ファーシーにじゃれるようにキスをした。

「今日はおめでたい話がたくさんですねー」
 そこに優斗達が入っているのかどうかは分からないが、パーティーを楽しむ朔や皆を見ながら、満月は言う。酔いを感じるジュースの影響で、何となくほわんとしている。
「そうだね……ここでこうやって発表されてたんだね。私は覚えてないけど、私達の世界でもそうだったんだろうなあ……私が覚えてないのは、きっと小っちゃかったからだね」
「ま、そうだろうな。俺達の世界でも先生が工房を開いたのは同じだし……」
 フィアレフトもブリュケも、隼人とルミーナ達の方を見ていた。その2人に向き直って、満月はさらりと話す。
「ぶっちゃけ、私はお2人がくっつけばいいと思っています」
「え……!?」
 にっこりと微笑む満月を前に、フィアレフトは慌てた。やはり「え……」と呟いたブリュケも固まっている。彼の方はただ意外だっただけなのか、あまり赤くなってはいなかった。だが、フィアレフトは真っ赤である。
「み、満月ちゃん! そんな! こんなとこで! ま、まだ……えっとブリュケ君……違うからね!」
「……そうなのか?」
「ち、ちがうってば!」
「うふふ、慌てちゃって、可愛いイディア姉さん」
「だから、やめてーーーーーーー!」
 フィアレフトをからかいつつ、満月は思う。未来で見た自分は壊れてしまっていたけど、この時代の自分にはまたチャンスをあげたい。
「ねぇ、2人とも素敵な男性機晶姫を紹介してくれません?」
 そんな事を思いながら、かなり本気で、満月は言った。