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四季の彩り・FINAL~ここから始まる物語~

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四季の彩り・FINAL~ここから始まる物語~

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 第5章

「イナテミス……アメイアさんもそこに住んでいると言っていたな。どんな所なんだ?」
「……まあ、有体に言うと田舎だな。ばーちゃんとこと似たような感じだよ。それより自然は多いけど」
「そうか……じゃあ、俺にも住みやすそうだな。都会より田舎の方が性に合う」
「やっぱりついてくる気かよ!」
 ラスとそんな会話をしつつ、覚はシーラとデジカメでパーティー会場を撮っているピノを目を細めて見ていた。ファームで暮らせることになったからか、ピノは随分とはしゃいでいる。心から楽しそうだ。
「ああしているところを見ていると、ピノちゃんとシーラさんって姉妹みたいね、サトリ」
「あ、ああ……」
 ピノと誰かが一緒にいるところを見て『姉妹みたい』という感想を抱くリンにびっくりしつつ、覚は相槌を打つ。まだ無理をしている部分もあるのかもしれないが、彼女も変わろうとしているのだ。
(姉妹、ですか……)
 大地は2人の会話を聞いて、ピノ達にまた目を遣る。そこで思い出したのは、3月に『愛する者に支配される薬』を飲んだ時のシーラの様子だった。もしかしたら、と思っていた大地は、悪戯心が起こり一度ラスを見てからピノに近付いてデジカメをひょいと取る。
「ピノちゃん、シーラさんに『お義姉ちゃん』って言ってみてください」
「?」という顔をしたピノだったが、遊びだと思った彼女はシーラを見上げて「お義姉ちゃん!」と言った。
「はい、なんですか〜?」
 笑顔と共にシーラが答え、大地は姉妹っぽく振る舞う2人をビデオに撮った。
「何やってるんだ、何を」
「いえ、きっと将来こうなるんだろうな、と思いまして」
「将来って……あ」
 ラスも、あの時のシーラの様子を思い出した。少し、慌てる。
「ち、違うかもしれないだろ。あれは友愛の類で……」
「そうなったら、じゃあ俺は『お義父さん』だな」
 そこで、覚も会話に入ってくる。流れにノったらしい。ノらなくてもいいのに。
「あのなあ……」
「お義父さん、お酒をお注ぎしましょうか〜?」
 シーラも笑顔でそんなことを言いだし、「おい!」とラスはツッコミを入れる。すると、「ふふ……」とリンが笑い出した。
「彼女なら優しそうだし、いいわよ。私も『お義母さん』になっても」
「母さんまで……」
 そこで皆が笑い出し、ピノも不思議そうにしながらも何か楽しそうだから「あははっ」と笑い出し、それから皆はわいわいしながら料理を食べながら雑談をし始めた。その中で、シーラはラスに近付き、耳打ちする。
「本当にピノちゃんのお義姉ちゃんになりましょうか?」
「え?」
 不意の言葉にラスは驚き、そして頭を混乱させる。
「そ、それって……」
 シーラはそれ以上は何も言わず、にこにことしたいつもの笑顔で見つめてくるばかりだ。気が付くと、ラスは口を開いていた。
「……ありがとう……」
 にっこりとシーラは笑う。
「ぴ、ピノちゃん!!」
 諒の大きな声がしたのは、その時だった。彼は、全身に力を込めてピノを見詰めている。
「は、話があるんだ。ちょっとこっちに来てくれないかな」
「話? なあに?」
 ピノは何を察している様子もなく、諒に近付いていく。諒はカクカクとした動きで、人のいない作業部屋の方に歩いていった。
「! 来たか。あんのロリコ……」
「ラスさん」
 諒の行為を止めようとラスが追いかけようとしたところで、大地が彼の腕を掴んだ。ピノをファームに誘った時とは違う裏がありそうな笑顔を浮かべて、無言の圧力をかける。諒がピノに声を掛ける時、タイミングを見て指示をしたのは大地である。
「ダメですよ〜」
 シーラももう片方の腕を取って彼に言った。つい1分程前の事を思い出してラスが硬直していると、覚が3人に進言する。
「見に行かなくていいのか? 今の間に終わってしまうかもしれんが……」
「「……!!」」
 大地とシーラは、ラスの腕を取ったまま諒達の入っていった部屋に近付く。扉をそっと開けると、諒とピノは向かい合って立っていた。
「まだ始まっていないみたいですね……」
 気になるのか、アクアも後ろからそっと覗きこんできている。大地はふと思いつき、彼女に言った。
「アクアさんは、旦那さま候補にまだ言わないんですか?」
「……! そ、それは……! わ、私はいいんです今はあっちでしょう!」
 アクアは狼狽して、それから扉の隙間に集中する、という態度を見せた。部屋の中では……

 諒は、とにかくがちがちに緊張していた。『お義姉ちゃん』や『お義父さん』、『お義母さん』などの言葉が飛び交う中で、ラスに『お義兄さん!』と言えないくらいには。
 パーティーにピノも来る、と聞いた時からずっと緊張しっぱなしで。
 今日のパーティーでは『子供』とか『結婚』とかいう単語も何回も出たし、それを聞く度に緊張は増した。
 だけど――
「……? どうしたの?」
 きょとんとしているピノの前で、諒は体の横でぎゅっと拳を握った。そして、彼女の目をまっすぐに見て、心の中で一回深呼吸して――言う。
「僕、ピノちゃんのこと大好きなんだ」
「……? うん、ありがとう。あたしも好きだよ!」
「友達としてじゃなく、1人の女性として」
「? 1人の女性……?」
 ピノはぱちぱちと目を瞬いた。そのまま言葉を続けることのない彼女の返事を、理解を、諒は待つ。きっと、そう長い時間ではなかったと思う。けれど、それはとてもとても、長く感じられた。
「……そっか。そう、だったんだ……」
 ピノは軽く俯き、また言葉を途切れさせる。しばらく考え込んでいた彼女は、顔を上げると「えへへ」と笑った。
「うん。……ありがとう! あたしも好きだよ」
 先程とほぼ同じ返事。けれど。
 それは、先程とは少しニュアンスが違っているような気がした。
 優しさが、込められているような。
「男の子として……諒くんが好きだよ!」
「ピノちゃ……」
「ピノ! お前、そいつ……」
「あっ、戸が……」
「あらあら〜」
 その時、覗きこんでいたオトナ達が部屋になだれ込んで来た。床の上に重なり合う彼等を見て諒は目を丸くして、大地がやれやれ、と苦笑する。
「……お約束の展開ですね」

              ⇔

「おい、別にそこからやらなくても……」
「手作りと言えば、ここからだろう。故郷の味を思い出し、嬉し泣きをするがいいさッ!!」
「何だそれ……」
 ザミエルの謎の挑発に、ラスは呆れた顔になる。広いキッチンを借りてザミエルが作っているのは、沖縄そばだ。約束通り、ラスはゴーヤチャンプルをご馳走してくれた。だから、今度は自分が沖縄料理をご馳走するのだ。流石の自分も麺作りは初めてだが、料理本を見ながら何とか麺を打つことができていた。
 強力粉のせいでトレードマークの黒髪が白くなってしまうのは仕方がない。

「ほら、出来たぞ」
「食えるもん作ったんだろうな……」
 そこそこの時間を掛けて完成した沖縄そばを、ラスの前にどんと置く。麺をすすってみて「まあ食えるな」と感想を言った彼を見ながら、ザミエルは向かいで考える。
「こうして話をするようになって、しばらく経つな」
「ああ、そうだな」
「お前、付き合ってる女っているのか?」
「……!!」
 ラスは、麺を吹き出しかけた。
「まさか、ピノがピノがと言っている内にロリコンになったわけじゃあるまいな」
「なるか!」
「よし、今度私とデートをしよう」
「は……?」
「心配するな。お前が私を口説くんじゃない。私がお前を口説くんだ」
「……………………」
 そう言うと、ラスはぽかんとした顔で見返してきた。笑顔を浮かべてそれを受け止めていると、やがて、彼は照れくさそうにそっぽを向いた。
「何なんだ、今日は……」
「どうかしたのか?」
「いや……」
 ラスは箸を置いて困ったように頭を掻いてからザミエルを見た。申し訳なさそうな表情をしている。
「気持ちは嬉しいんだけど、俺は……」

(今まで色んな恋愛模様を見てきましたけど、ザミエルさんほど垢抜けな口説き方をしている人は見たことないですね)
 片づけた皿を持ったままの状態で2人の様子を伺っていたノアは、そんな感想を抱いていた。自分に正直というか、駆け引きなしに相手に好きと言えるのは凄いと思う。
 ――玉砕しているようだけれど。
(どんまいです、ザミエルさん)
 そう思いながら再び歩き出し、アクアの傍を通ったところでノアはそういえば、とある事を思い出す。
「アクアさん」
「何ですか?」
「アクアさん、好きな人がいるんですよね?」
「!!!!」
 解りやすく、アクアの顔は真っ赤になった。フォークを持った手が小刻みに震えている。
「な、何で……誰から……」
「それはちょっと覚えてないですけど……もしその人が私の知っている人でしたら、連絡先を教えましょうか?」
「え……、な、何故ですか、私が連絡先を知っても……最近、全然顔を見せてくれないですし……」
「多分、道に迷ってるんだと思いますよ」
「…………」
 心当たりがあるのか、アクアは「あ」という顔になった。同時に何かほっともしたようで、気が抜けたような顔をしている彼女に、ノアは言う。
「あの人って凄く方向音痴で有名ですから。もしアクアさんがその気なら、アクアさんから迎えに行ってあげるのも良いと思うんです。恋愛は待つばかりじゃない。……ザミエルさんを見て、そう思ったので」
「…………」
 アクアは、携帯を出して握りしめた。まだ迷っているらしい彼女に、メティスが微笑む。
「良いですよ……出かけてきても」
 顔を上げ、アクアは逡巡する思いを伝えてくる。これは、素直になるまでもう少しかもしれない。
「女も時には自分から行動すべきです。お客様の相手は私が引き受けますから」
「…………。……すみません」
 アクアは握りしめていた携帯を、ノアに渡す。ノアが携帯を返すと、彼女は会場に来た皆の顔を見回した。
 今日、何度か聞かれた、彼の事、何度も思い出した、彼の事。
 彼女がどうしたいのか伝わったのだろう。皆は、アクアに笑顔を向けていた。
「行ってらっしゃい」
「行ってくるでありますよ!」
「どうぞ、行ってきてください」
 皆が、背を押してくれる。
 彼女は頷き、工房を飛び出した。彼に伝えることは、ひとつだけ――