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四季の彩り・FINAL~ここから始まる物語~

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四季の彩り・FINAL~ここから始まる物語~

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 第2章

 パーティー開始時間も過ぎ、工房は賑わいを見せていた。
「完成おめでとうございますぅ〜」
「ファーシー、今日からここで働くのね、頑張ってね!」
エリザベート・ワルプルギス(えりざべーと・わるぷるぎす)を誘って工房に来たルカルカ・ルー(るかるか・るー)は、ファーシーに笑顔でそう言っていた。彼女の手には、大きな花束と荷物を持っている。
「アクアは……取り込み中みたいね」
 キッチンからは、未だに騒がしい声が聞こえている。
「うん。料理を作ってくれてるの」
「そっか。じゃあ、このお花はファーシーに預けておくわね」
「ありがとう! アクアさんも喜ぶと思うわ」
「お菓子も、色々沢山持ってきたのよ。エリザベートも私も、お菓子大好きだし」
「早く、早く出すですぅ〜」
 荷物を解くルカルカを、エリザベートがせっつく。
「ちょっと待ってね」
 ふふふふ、と笑いながらルカルカはクッキー、マカロン、そして最後にケーキを出した。
「わ、美味しそう!」
「美味しそうですぅ〜」
「全部手作りなの。凄いでしょ」
 ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)の手作りなのだが、何故か彼女の方が得意満面だ。近くでダリルが、やれやれという顔になっている。
(アクアやファーシーは、ダリルが作ったって分かるかな?)
 ルカルカは、そんな事を考えていた。イルミンスールにちょくちょく持っていっているから、エリザベートは分かっていると思うけど。
「エリザベートはどれから食べたいー?」
「ケーキから欲しいですぅ。取り分けてください〜」
「ケーキね! ちょっと待ってね!」
 きゃっきゃとはしゃぎながら、ルカルカケーキを切り分け始めた。

 ――やっと、アクアがキッチンから戻ってきた。
「あの……これ、良かったらどうぞ……」
 焼きたての、ほかほかと湯気を立てるミートパイをダイニングテーブルに置くと、紫月 唯斗(しづき・ゆいと)が「おっ」と早速一切れ取って一口食べる。アクアはカリンが見ている前で、恐る恐るという感じで彼に聞いた。
「ど、どうですか? 初めて作ったので……」
「おう、美味いぜ」
「ほ、本当ですか?」
「マジでマジで。初めてでこれだけ作れりゃ上出来じゃね?」
「そうですか……」
 ほっとしたらしいアクアに、唯斗は「アトリエ無事完成、おめっとさん」と言った。
「ありがとうございます。おかげで、良い工房になりました」
「喜んでもらえりゃ協力した甲斐があるってもんだ。どーよ? 実際出来てみると気持ちもノッてこねぇか」
「……ええ。新しい機晶技術を見つけたい、という気持ちが強くなります。……何を笑ってるんですか?」
 アクアは何かにやにや笑いを浮かべている唯斗に訝しげな目を向ける。
「ふふふ……」
 意味ありげに笑うと、唯斗はお菓子を撮んでいたエリザベートを呼んだ。
「何ですかぁ〜?」
「ほら、あれ、あれ」
「ああ、あれですねぇ〜」
 エリザベートは頷いて、てくてくと歩き出した。疑問符を浮かべるアクアを、唯斗は「こっちこっち」と手招きする。
「実はこのアトリエ、こっそり仕込んでおいたスペシャルな機能があってな」
「スペシャルな機能……?」
エリザベートが立ち止ったのは、とある壁の前だった。
「壁に忍者マークがあんだろ」
「塗り直してもいいですか?」
 ここだけ、アクアの好みである内装と一線を画している。真顔で言うと、唯斗はちょっと焦ったようだった。
「え、いや、そういうことじゃなくてな。ソコのマーク、強く押してみ?」
「……?」
 言われた通りにマークを押すと、隣に居た唯斗の姿が消えた。「?」と思っていると、再び、今度は目の前に彼が現れる。
「? 何が……」
「これはエリザベートとアーデルハイトに頼み込んで悪戯心満載で完成させた、緊急時用助っ人召喚装置だ!」
「ですぅ〜」
「…………。えっと、よく……」
「うん、俺が強制的に呼び出される」
 つまり、忍者マークを押すと、唯斗がパラミタのどこに居ても工房にテレポートしてくるということのようだ。
「何かあったら呼べよー」
 ぽかんとしているアクアに、気軽な感じで唯斗は言った。
「俺がいなくなった後はウチの色惚け魔鎧が来る事になると思うけどな」
 そして、お茶目な調子でそうつけ加える。
「はい……。……! 縁起でもない事を言わないでください!」
「寿命の話だって、寿命の!」
 アクアが肩を怒らせると、唯斗は笑いながらパーティー中の部屋に戻っていった。
「全く……」
 溜め息を一つ吐き、アクアもお菓子の匂いをする方へ歩いていく。ルカルカが、こちらに手を振っていた。

「アクアさんも食べてみて! 美味しいわよ!」
 とファーシーに言われたお菓子は、アクアが過去に作ってみたお菓子より美味しかった。
「……これ、本当にルカルカが作ったんですか?」
 何となく悔し紛れに聞くと、エリザベートが「違いますよぅ〜」とあっさりと言った。ルカルカはえへ、と小さく舌を出す。
「そうなの。全部ダリルが作ったのよ」
「一応、ルカも手伝ったぞ」
 ダリルはくす、と小さく笑ってフォローする。
「頑張りました」
 えへん、と胸を張るルカルカだが、アクアは本気にはしなかった。ダリルの「一応」の言い方が本当のおまけっぽいと感じたからだ。だが、ダリルは冗談とも取れない顔でこう言った。
「ルカも昔は料理が酷いもんだったが、見違えたと思うぞ」
「……そうなんですか……」
「そうよ!」
 ルカルカはダリルの言葉を聞いて、嬉しそうだった。恋バナをする時のような笑顔になって、ファーシー達に言う。
「やっぱり、作ってあげたい人ができると違うみたい。ファーシーやアクアは”そのへん”どうなのかなっ?」
「えっ!?」
「わたし? わたしはねー」
 驚くアクアの横で、その話に乗ったファーシーが浮き浮きと英霊の彼との近況を話し出す。盛り上がる2人の傍でほっとしながら、アクアはふっと息を吐いた。エリザベートを見ると目が合って、何となく、彼女も同じような事を考えている気がした。

「あれ、これ誰? カルキちゃん」
「ああ、これは俺だ。人間の姿にも変身出来るんだぜ」
 ファーシー達がガールズトークで盛り上がっている時、ピノ・リージュン(ぴの・りーじゅん)ラス・リージュン(らす・りーじゅん)カルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)に人型の時の写真を見せてもらっていた。そこにいは、小麦色の肌をした切れ長の目の男性が写っている。
「服も鱗なんだよな」
「鱗? 服が?」
夏侯 淵(かこう・えん)の補足に、ピノは驚く。口角を上げ、カルキノスは笑う。
「ああ。体の一部だからどうとでもなんだ」
「フリフリのドレス姿にもなれるぞ」
「そうそう任せとけ……って、しねぇし!」
 茶々を入れる淵に、カルキノスはツッコミを入れる。「あははっ」とピノが笑ったところで、ルカルカがこちらに来た。
「ピノ、ラス、こっち向いて!」
「「?」」と2人のが顔を向けると同時、ルカルカはカシャッとスマホで写真を撮る。
「! な、何だいきなり!」
「ん? ラス達が元気にしてるとこをサトリに写メしようと思って」
「は!? どうしてんなこと……」
「だって、サトリ達まだパラミタに来てないんでしょ? 今年いっぱいは弟に仕事を教えなきゃいけないからって」
 けろりとした口調で、ルカルカは言う。
「……どこから聞いた? その話」
「私、サトリのメル友なの。近況報告とかするでしょ?」
 その時、工房の押戸がきい、と開いた。物珍し気に内装を見ながら、サトリ・リージュンリン・リージュンが入ってくる。
「…………」
「あ、そういえば今日パーティーがあるって事も伝えたんだわ」
「……いつの間にそんなに仲良く……」
「久しぶりだな、ラス、ピノちゃん」
「こんにちは!」
「ああ、こんにちは。アクアさんも、工房完成おめでとう」
「ありがとうございます」
 サトリが皆に挨拶している間、リンはラスとピノを見て体をふるふると震わせていた。息子が嫌な予感がしたところで。
「ちょっ……!」
「ラス! ピノ“ちゃん”! 会いたかったわ!!!」
 リンは2人をまとめて、抱きしめた。
「恥ずかしいから、止めろって!」

「どう? あれから、未来の私が来たりしてない?」
「驚くくらい音沙汰無しだな……多分、あっちのピノが上手くコントロールしてくれてんじゃないか?」
 不足していた子供達の温もりを存分に味わうと、リンは無事に離れてくれた。彼女の質問に、ラスは事実と予測を報告する。
「そうか……それなら良かった。俺も、もう操られたりするのは嫌だからな」
 未来から来た存在であれ元の目的が何であれ妻なのだから愛している事に変わりはない。だが覚は、あの時のような思いはもうしたくなかった。家族を自分で殺めようとするのも、まとまりかけていた家族が乱されるのも。
 彼等の話を聞いて、淵も喜びを笑顔に乗せる。
「今は心配するような事はなさそうだな。俺も安心した」
「あっちのピノ……私が会えるのは、まだ何十年も先なのね……」
 一方、リンはラスの言ったことについて考えていた。ピノは、家族が全員自然にナラカに来るまで待っている、と言った。その言葉を支えに、彼女はやっと娘とピノを分けて考えられるようになった。いつか必ず会える――そうは思うが、やはり寂しい。
(でもあたし……たまに誰かの視線を感じたりするんだよね。それって、もしかして……)
 その中で、ピノは1人そんな事を考えていた。もしかしたらそれは、寂しさに耐え切れなくなった“彼女”かもしれない。けれど、その視線からは殺意が感じられないから――
 きっと、大丈夫なのだろう。