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終わりなき蒼空、涯てることなきフロンティア

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終わりなき蒼空、涯てることなきフロンティア
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リアクション


●それでも、僕はリアの『剣』であると決めていたから

 いつ、と具体的に特定はしない。
 どこ、という場所についても、触れないでおこう。
 いつか近い未来で、どこか荒野のような場所とだけしたためておく。
 八神 誠一(やがみ・せいいち)オフィーリア・ペトレイアス(おふぃーりあ・ぺとれいあす)と旅を続けていた。
 さしあたってあてのない放浪だ。あえて目的を問うならば、放浪そのものが目的といってもいいだろう。
 乾いた風が砂塵を巻き上げた。
 ここまで数時間、ふたりは無言で歩き続けていた。
 砂の風がやんだとき、まったく予告もなく唐突にオフィーリアは口を開いたのである。
「……俺様の支配はとっくに解けているな……もうわかっているのだよ」
 するとそれまでずっと無表情だった誠一が、子どものような顔になってへらっと舌を出した。
「僕にとっては、どっちでもあんまり変わらないからねぇ」
 ふん、とオフィーリアは鼻を鳴らした。
「……かもしれん。だが、はっきりさせておきたかったのだよ」
「それより、今までの感じを鑑みるに、そっちこそ、もう半分くらい元に戻りかけてるんじゃない?」
 するとオフィーリアは不機嫌そうに眉を上げた。
「さて、どうであろうな? アレと我が変わらぬと? 戯言も程々にするが良い」
 その言い様がおかしかったのか、誠一は思い出し笑いをしているような顔つきになる。
「まあ、確かに違うねぇ。無茶なことに付き合わされる心配もないし、理不尽に殴られる事もなくなったし、料理もしなくなって異形の生物も生まれないし、そのおかげでそういうのを無理やり食べろと言われる心配もなくなったし、食べないからと言って放置されてた異形の生物を相手取って生きるか死ぬかの戦場が日常に発生しなくなって文字通り死の危険におびえる必要もなくなったしねぇ、アレ、ある意味今のほうが結構気楽……」
 一気にそこまでまくしたてたものの、誠一の発言は強制的に終了させられた。
「うるさい黙れ喧しいのだよ!」
「グハッ!」
 オフィーリアの杖の一撃が飛び出したのである。
 顔面にクリーンヒット。
 誠一は、対戦型格闘ゲームのキャラクターよろしくスッ飛ばされ荒野に這いつくばった。
 だが頬を赤く腫らしながらも、起き上がった彼はなお笑っている。
「久しぶりだねぇ、その台詞も、こうやって殴られるのも……」
 頬をさすりながら立つ。
「……こうやってリアの言葉を聞くのも」
 ところがオフィーリアのほうは憮然としている。下を向き、道端の石を爪先で蹴ってぽつりと言った。
「………俺様は、せ〜ちゃんを、道具の様に使い潰そうとしたのだよ」
「関係ないね、僕は元々暗殺者。誰かの刃となって敵を切り刻み、駆逐し、蹴散らす、そういう人間で、僕の剣はとっくの昔にリアに捧げている」
「……それでも!」 
「リアが納得できないなら、今までの分の報酬を貰うって事で納得してもらおうかな」
 実践的錯覚の歩法でするりと近づいて、誠一はオフィーリアを抱きしめていた。
「………いや、ちょ、せーちゃ、な……」
 これに戸惑うなといっても無理な話だろう。
 彼女のあごは誠一に、人差し指と親指で持ち上げられていた。
 まるでそれが宿命づけられたものであったかのよう、誠一のキスは、自然で、しかし情熱的なものであった。
 その熱が移ったかのごとく、たちまちかあっと、オフィーリアの顔が紅潮する。
「……む、むう、この色魔、変態、女たらし……!」
 そんな罵倒も、誠一には心地のいいものだった。彼女に拒否の意思はなさそうだ。もう一度強く抱きしめて、
「お帰り、リア」
 彼女の瞳をのぞきこみ、彼は言ったのである。
「このタイミングでそういうこと言うとか、ずるいのだよ……」
 本人は不平を言っているつもりなのだろうが、どう聞いても、そのうわずった声は嬉しさを隠せていない。オフィーリアは、そっと言った。
「……ただいま、なのだよ、せ〜ちゃん」
 そうしておずおずと、腕を誠一の背に回した。彼の胸に顔をうずめる。
「うん」
 誠一も応じた。彼女の髪は土埃と太陽の匂いがして、吹きつける風はやはり、パリパリに乾燥しているのだが、ほんのりと甘い抱き心地だった。
 何分、そうしていただろうか。
「じゃ、帰ろうか、リア」
 と告げると、ひょいと誠一は彼女を抱き上げたのである。横抱き……ありていにいうと、いわゆるお姫様抱っこの状態にする。
「へ、ななな、何を、ちょ!」
 もうオフィーリアは茹で蛸のよう、真っ赤っかで骨抜き、抵抗力は限りなくゼロに近い。
「当面の宿まであとせいぜい数キロ、善は急げというわけで、ここからは走るとしようかねぇ」
 言うなり風のように誠一は走った。どんどん景色が流れていく。
「な、何を急ぐというだ!」
 わかってるくせに、と言わんばかりに誠一は笑う。ただ、さらりとこう告げたのみである。
「あ、それと、今夜は寝かせないから、覚悟しておいてね」
 それがどういう意味なのか、わからないオフィーリアではない。胸はときめき、鼓動は16ビートを刻むのだ。
 だけども「はい」とか、ましてや「楽しみ」なんて言うわけにもいかず、ただただ彼女は腕を伸ばして、誠一の首にしがみつくばかりなのだった。