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あなたと私で天の河

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●北斗の求め、聖の決断

 会場の安全を保つため、後方支援テントが用意されている。
 正式には、後方支援部総合支援課だ。
 そこにはレオン・ダンドリオン(れおん・たんどりおん)が常駐し、迷子捜索やインフォメーションなどを取り仕切っていた。
 人出があるだけに忙しい部署で、なかなか休む暇がない。
 しかし現在、ようやく最後の迷子が引き取られ、急病人もすべて病院に運ばれたので、レオンは両腕を伸ばしてあくびをすることができた。
「ちぇ、教練のサボりがばれてボランティアの刑か……最初は楽な罰かと思ってたが甘かったなあ。まあ、オレたちみたいなのがいないと、困る人も沢山いるんだけど」
「さっきの迷子さん、すごく喜んでたじゃないか。疲れるけど、人の役に立ってるんだから気分は悪くないよね」
 明るい声で天海 護(あまみ・まもる)が言う。護はサボりの罰でここにいるのではない。レオンにつきあって自主的に、本来の意味でのボランティア活動に汗を流しているのだった。
「まあそれもそっか……。ところで、悪ぃ、みんな、手伝ってくれて。おかげで助かってるぜ」
 いま、テントの中はレオンと護の二人きりだ。
 一時は地獄のように人が出入りし事件があっただけに、閑散としてみるとなんだか古寺のようで寂しい。
 護は言った。
「レオン、ところで」
「どうした、急に改まって?」
「北斗のことだけど……」
 それを聞くとレオンは、パイプ椅子に腰を下ろした。
 護も座って言う。
「北斗は真剣で、真っ直ぐなんだよ。見た目以上にね。だから、北斗のこと……ちゃんと扱ってあげてほしんだ。遊びとか、そういうのじゃなくて……いや、それはレオンが、遊び人だとかそういう意味で言っているんじゃないんだけど……その……」
「わかってるさ」
 レオンは護を制した。
「わかってる。オレ、こう見えてわりと身持ちは堅い方なんだぜ? ていうか、その……恋愛の仕方とか、本当はよく知らねえし……つまり、チャラいヤツじゃないってことだけは信じてくれ。護の心配がどういう心配かよくわからないが、とりあえず、北斗のことなら安心してほしい」
「ありがとう」
 護は笑った。
「でも、ずっと北斗のことだけ考えて……なんてことまでは言わないから。心の片隅にでもそっとしまっておいてもらえたら嬉しいな……」
「ああ」
 レオンがそう答えかけたとき、テント下に天海 北斗(あまみ・ほくと)天海 聖(あまみ・あきら)が戻ってきた。彼らは救急車を誘導し、送り出してきたところだったのだ。
 なお、帰路で少しだけ寄り道し、北斗は『レオンと結婚する!』という短冊を書いてつるしてきたところなのだが、それは恥ずかしいので内緒なのである。
 北斗はレオンの正面にパイプ椅子を置き、その背の側を前にして逆向きに座ると、両肘を背もたれに置いて彼を見た。
「レオン、七夕の祭りもそろそろ終盤だね! それで、消灯後……その……」
 最初の勢いはいいのだが、そこからもじもじしてしまう北斗だ。
「えーと……」
 言葉が出てこない。
 聖は、兄の北斗をとは違ってまっすぐに椅子に座った。
 そして回想した。
 今日一日、聖は北斗、護、そして北斗の想い人レオンと一緒に忙しく働いた。
 オープン後二時間あたりはまさに頂点の忙しさで、息をつく間もなかったくらいだ。病院も迷子も道に迷った人も大量に訪れた。
 聖は北斗と外見こそ似てはいるが、性格は正反対に近い。積極的な北斗と、内向的な聖なのだ。
 しかし北斗はそんな聖を引っ張り、自分のペースに巻き込みつつ、今日はたくさん、人と接する時間を与えてくれた。それが嬉しい。そして今日、この場所に連れてきてくれた護にも感謝している。
 楽ではなかったが充実した一日だったと、思う。
 だからせめてもの恩返し、聖は北斗のために声を上げた。
「消灯後は非番ということになってます。念のためテントには僕と護お兄ちゃんが詰めますから、お二人は星空を楽しんできて下さい」
「いいのか?」
 レオンが問うが、
「はい。大丈夫です」
 きっぱりと聖は答えた。
(「立派だね……聖」)
 護は頷いた。
(「いざとなると少々、照れたり弱気になったりするのが北斗だとしたら、いざというときに強いのが聖なんだよね。本当、対称的な兄弟だよ。だから仲がいいのかな……?」)