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【ザナドゥ魔戦記】アガデ会談(第2回/全2回)

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【ザナドゥ魔戦記】アガデ会談(第2回/全2回)
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第15章 街〜守るべきもの(5)

「……だれかいませんかぁー?」
 煙でくすぶる中、月詠 司(つくよみ・つかさ)は声を張りながら歩いていた。
 口元を覆う魔鎧アイリス・ラピス・フィロシアン(あいりす・らぴすふぃろしあん)――その形態は赤い包帯をしている――を引っ張り、声を上げてはまたアイリスで口元を覆う。煙をなるだけ吸わないように。
 だけど目まではかばいきれなくて、涙がにじむ。
 痛がゆい目元をこしこしこすりながら、左右に目を配った。
 すっかり熱が上がって、家屋のいたるところで煙が出ている。今のところ火は出ていないが、この分だと時間の問題だろう。
「ねえアイくん。だれもいないようですし、もうこの区画出てもいいでしょうか?」
 アイリスのファイアプロテクトのおかげで熱はそんなに感じないが、それでも炎に包まれると思うといい気はしない。
(…………)
 アイリスから返事は返らない。と、いうことは、このまま続けろということだ。
 目だけで上を見て、ふうと息をつく。
「……まぁ、そうですよね。めずらしく、あの2人も手伝ってくれているのですし……私が先にあきらめてはいけませんよね」
 あの2人とは、いわゆる、ひと癖もふた癖もある司のパートナーシオン・エヴァンジェリウス(しおん・えう゛ぁんじぇりうす)アゾート・ボムバストゥス(あぞーと・ぼむばすとぅす)のことである。
 いつも司をパシリ呼ばわりし、何かとこき使っては自分たちは楽をすることを(ほぼ)生きがいとしているっぽいあの2人が、今回ばかりはめずらしく人命救助に自ら乗り出したのだ。


「え? お2人とも手伝っていただけるのですか?」
 てっきり自分だけが向かうことになるとばかり思っていた司は、目を丸くして驚いた。
「そうそう。だってこんなに大変なことになってるんだもの。この場に居合わせたのも何かの縁♪ ここの人たちを助けなきゃ〜」
 アゾートは胸の前で指を組み合わせ、キラキラの目で言う。
「……う〜ん……」
 やる気になっている目というのか、それとも何かたくらんでいそうな目というのか。はなはだ疑問ではあったが、時間に猶予がないこともあって、とにかく司は頷いた。
「では、お願いします」
「ええ。ワタシたちツカサの避難誘導を手伝ってあげる♪」
 その意味にピコーンと気付いたのは、シオンだった。
「あぁ〜、なるほど。いいわね、ソレ♪」
 アゾートの人命救助案に同意したものの、それまであんまり乗り気をみせず、どちらかというとしぶしぶアゾートの隣に立っていたシオンが突然イキイキし始める。そして、いそいそと特製スパイカメラセットを司の首に装着した。このへんは手慣れたものだ。
「……え? これ何ですか? シオンくん。避難誘導にこんな物は必要ないでしょう? 連絡をとり合うためなら、テレパシーが使えますし」
「あーら、何言ってんのよ、ツカサ。火災現場の映像は、今後のために役立つのよ? ホラ、防災のためとか。それにツカサが見逃したらいけないでしょ? そうなったらワタシがすかさず指示して教えてあげる♪」
「はぁ……そうですか」
 まぁ、自分の場合、見逃しというのはいかにもありえそうだし、複数の目で確認する方がたしかにいいかも。
 さすがに毎回毎回いろんな目にあって多少なり学習した司は、やっぱり今回も彼女たちは何かたくらんでいそうな気がしたのだが、避難誘導の手伝いと録画ではたいしたことにはならないと自分を納得させて、うなずいた。


「なにより、あの2人があんなに人命救助にやる気を出しているんです。そのやる気を削いではだめですよね」
 ――違う。それ、違うから、ツカサ。
 アイリスは心の中で思う。
(……頑張れ!……)
「ええ。ありがとう、アイくん。頑張ります」
 司は意味をとり違えたまま、笑顔でアイリスに礼を言った。
「大丈夫ですよ、周囲が燃えたところでフォースフィールドやサイコシールドもありますし。アイくんのファイアプロテクトもこうして私を守ってくれているんですから」
(……うん……)
「それに、もし魔族と遭遇しても、いざというときにはアクセルギアがありますからね。
 ああ、それにしても熱いですねぇ」
 水筒を取り出して、蓋についているストローからチューッと中身のトマトジュースを飲む。
「冷たくておいしいです。生き返りますね」
 つぶやく司のすぐ後ろで、ついにボッと火炎が上がった。


*          *          *


「キャハハッ。ツカサってばおもしろーい」
 特製スパイカメラセットから届く映像と音声に、アゾートは手を打って笑い転げた。
 音声は司の首輪のマイクから拾っているが、映像は上空を飛ばしている使い魔:吸血コウモリの送ってくるものだ。
 映像の中、司は火の手が回りかけていることに全く気付けていなかった。プロテクトやシールドをかけまくっているせいだ。熱に鈍感になって、周囲に充満しているのが自然発火するぐらいの熱さだと分からないのだ。
「ほんと、飽きないわぁ、ツカサって」
 安全な場所でゆったりとティータイムをしながら、アゾートは同意を求めてシオンの方を見る。
「シオン?」
「ん〜? ねぇ、アゾート。バルバトスの目的って何だと思う?」
 時計塔へ向かわせていた使い魔:コウモリの送ってくる映像を見ながら、シオンが言う。
 コウモリは移動したロノウェのあとを追い、その会話を拾っていた。
「え? この都を壊すことじゃないの? 東カナン国を降伏させることよね?」
「それもそうだけど……どうやら本命は別にあるらしいのよね〜」
 カチッ。マウスを操り、パソコンの画像を切り替える。
「バルバトスを追わせたコウモリちゃんは、どこにいるかしら〜?」
 パッと映し出された映像は、バルバトスが屋根の上で仰向けになった血まみれの男の胸に手をあて、指を沈ませているところだった。
「あら♪」