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リアクション
■ コークスクリュー・ピアース! ■
リネン・エルフト――リネン・ロスヴァイセ(りねん・ろすヴぁいせ)が、まだその名だった今から少し前の話。
「地図ではこの辺のようだけど……」
ペガサス“ネーベルグラン”の背から現在位置を確認して、リネンは高度を下げる。
起伏に富んだ山岳地帯で、通過するなら地形など関係なく一気だが、いちいち地上を確認しなければならないのは手間だ。
本当は、フリューネ・ロスヴァイセ(ふりゅーね・ろすう゛ぁいせ)も一緒に来る予定だったのだが、直前に用事が入り、後から追いつくことになっていた。
リネンがフリューネの用が終わるのを待たなかったのは、依頼の内容が急を要するものだったからだ。
「誘拐された子達が、まだ生きていればいいけれど……。
何にしろ、空賊の仕業というのが、許せないわ」
最近起きている、少女ばかりを狙った誘拐事件。いずれも身代金の要求が無いということは、何かの目的があっての誘拐なのだろう、最近になってこの地方に現れたらしい空賊の仕業ということで、それの解決を依頼されたリネン達は、ようやく首謀者のアジトを突き止め、今に至る。
流石は空賊というべきか、上空からの死角を上手くついた位置ではあったが、情報の通りにその場所を突き止め、リネンはネーベルグランを下りて密かに近づいた。
それ程高くはない断崖を背にして、アジトの建物自体も大きくない構造からして、本拠は地下にあるのだろう、リネンの見当通り、潜入した地下は相当広い。
その一角から、若い少女の声が聞こえてきて、生きているのだと安堵したものの、生死を確認した後はフリューネを待つ、という最初の予定の行動を取ることは、できなかった。
少女達の声はあまりに痛々しく、更に状況を探ろうと内部を窺ったリネンは、びくりと肌を粟立たせた。
拘束をされ、責め苦を与えられて――彼女らは、調教、されているのだ。
思わず動きを止めたリネンの、脳の裏がカッと焼けた。
「貴様、何者だ!」
背後から声が響き、ばっと振り返る。
武器を構えた男を撃ち殺したその時には、少女達が調教されていた部屋から、銃を手に、数人の男達が飛び出して来た。
地の利が悪い。突っ込んで行って暴れたい衝動を抑えて冷静になりながら、リネンは走り出す。
外に出るなり身を翻して、新生のアイオーンを抜き払った。
ズシン、と、その身に地響きを感じる。
(何かいる!?)
見上げると、アジトの上方の岩壁に、不自然な穴が開いている。
「……巣穴?」
「その通り!
誰か知らんが、ここを嗅ぎ付けた以上、黙って帰す訳にゃ行かねえ、へっ、いい体してやがんな、高く売れそうだ。
貴様も、商品になって貰おうか?」
「ヘッ。鼻っ柱が高そうだ。調教に時間がかかりそうだなァ!?」
後からぞろぞろと出てきた男達が、下卑た笑いを飛ばす。
巣穴から現れた大型甲殻獣は、躱すリネンの目の前に飛び降りた。
「冗談はやめて。
私の大事な人を、売り飛ばすとか、させるわけないでしょう」
そして、すとん、とその隣に、フリューネが降り立つ。
「フリューネ!」
「遅れてごめんなさい、リネン」
微笑みながら、フリューネはリネンの横に立って槍を構えた。
だが、その強獣の甲殻に、攻撃が効かない。
リネンの得意とする連続攻撃が、空しく弾かれる。
「くっ……!」
リネンは、鋭い角をリネンに向けて突進してくる強獣を、しかし気丈に睨みつけて身構えた。
「フリューネ、技を借りるわ! ロスヴァイセ流星穿!」
浮かすことができれば、腹部から――
打撃から、コークスクリュー・ピアースを浴びせるも、強獣を浮かせることが出来たのは一瞬で、その上触手を伸ばして来た為、二人は踏み留まる。
リネンの足を絡め取り、一気に引きずり込もうとしたその触手を、フリューネが上が突き刺して断ち切った。
がつん、と、獲物を捕らえ損ねた居並ぶ鋭い歯が音を立てる。
「下からか、くくっ、単細胞な頭だぜ、そいつは下も堅いぜ! 貴様を踏み潰そうとしたのを忘れたのか!?」
リネンの攻撃を見て、二人を捕らえようと遠巻く男達が囃した。
手強い。リネンは唇を噛む。
「私達、ここまで、なの……?」
「いいえ、リネン、もう一度、下からよ」
囁くフリューネは、リネンに笑った。
「上からよりは柔らかいんだから。
上から破るより、下からの方がずっと簡単。もう一度よ」
「……ええ!」
リネンは頷く。
同時ロスヴァイセ流星穿から、二人は強獣の下に突っ込む。
もう一度、とフリューネは言った。だからリネンは、次は迷いなくその技を放つ。
僅かに浮いたその強獣の下、激突する程の勢いで体と目を合わせた、その瞬間――
「「コークスクリュー・ピアース!!」」
二人の同時攻撃が、強獣の体を穿つ。
内側からその堅い甲殻に阻まれるも、そのまま強引に押し切って、ドリルのように貫通した。
番犬を失った空賊など二人の敵ではなく、一掃して少女達を救い出す。
「……わざわざ犯罪に走らなくても、この強獣をイコンとかゴーレムを製作している人に売れば、それなりの収入になるでしょうに……」
少女達を送り届ける為に、ヘリワードに船の手配を頼みながら、リネンはフリューネの呟きに頷く。
「ありがとう、フリューネ」
「なあに?」
「フリューネと一緒の技……何か嬉しかった」
「そうね、あの技は使えそうね」
そう、フリューネは微笑み、寄り添うリネンを抱き寄せた。
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