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■ 今年は手作りしてみました ■
「で、できたっ……!」
七難八苦、艱難辛苦、そしてパートナー達の胃と精神力の犠牲の末に、ようやく、ルカルカ・ルー(るかるか・るー)のチョコケーキは完成した。
本日、バレンタインデー。
それは、教導団団長にして国軍の長、金 鋭峰(じん・るいふぉん)へ贈るものだ。
まずはどんなチョコを作るかで悩み、混ぜ込みで大失敗した。
焼けば焦げる、美味しくない、膨らまない、ダマが出来る、火傷と切り傷で、ルカルカの指はボロボロだ。
産業廃棄物が山のように生産され、それらは、味見と称してパートナー達の胃の中へ消えた。合掌。
「でもそれらを乗り越えて今! 完成したのよ! 団長へのチョコ!」
もうすぐ、お茶の時間である。
教導団少佐の仕事ではないが、お茶出し担当の団員とは根回しの末、担当を代わって貰っている。
これも実は競争率が高く、勝ち取るのは大変だった。
「うむ、中々美味く出来ている」
お茶と一緒に出したカップケーキを食べて、金鋭鋒は満足そうに頷いた。
「ほっ、本当ですか!」
喜んでくれた!
ルカルカの苦労が、一気に吹き飛ぶ。
不出来な物は冷然と遠ざける人が、お世辞を言わない人が!
「嘘は言わない。それよりも少佐、その指の傷はどうした? 大丈夫か」
「はいっ、いえっ、何でもありません、大丈夫です!」
びしっと背筋を正しながら、手の絆創膏にまで気がついてくれた……と、ルカルカは感極まる。
「……成程」
と、鋭鋒はルカルカの手とチョコを見て、大体の事情を察したようだった。
「大変だったようだな」
労いの言葉と共に、ふっ、と優しく微笑む、その僅かな眼差しの変化を感じ取り、ルカルカは
「はうっ!」
幸福の絶頂で、ルカルカは目が覚めた。
「ゆ、夢……!?」
チョコケーキを完成させた後、疲れて寝入ってしまったのか、慌てて時計を見たが、お茶の時間にはまだ余裕があり、ほっと息をつく。
「……だよね……そう上手くは……いかないよね……」
幸せな夢だっただけに、目の前の現実の落差にがっくりとする。
金鋭鋒が、甘いものが苦手なことは知っている。
可能な限り、甘くなく作ったけれど、それでも充分、彼の口には甘いだろう。
それでも、この手の絆創膏だらけの指を見れば、彼のこと、事情を察して気を遣い、無理をして一口くらいは食べてくれるかも……と、打算している。
自分にも他人にも厳しい団長だが、その実部下思いの一面もあることを知るのは、自分だけではない。
ふるふると頭を振って、ルカルカは勢い良く立ち上がった。
「当たって砕けろよ!」
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