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栄光は誰のために~火線の迷図~(第1回/全3回)

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栄光は誰のために~火線の迷図~(第1回/全3回)

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 陽一とフリーレ以外にも、樹海に無理に乗り物で乗り込んで苦労している者たちがいた。波羅蜜多実業高等学校の国頭 武尊(くにがみ・たける)と、パートナーの剣の花嫁シーリル・ハーマン(しーりる・はーまん)である。
 「ここまで道なき道、とは、思わなかった、ぜ!……痛ッ!」
 舗装どころか整地もされていない、木の根がぼこぼこと地表に出ているような細い獣道をバイクで走っているので、喋ろうとしても切れ切れにしか言葉が出ないどころか、はずみで舌を噛む始末。後部座席のシーリルは、ただ無言で振り落とされないように武尊の腰にしがみついている。
 突然、バイクが何かを踏んだ。タイヤが浮き上がってバランスを崩し、車体が傾く。武尊とシーリルは慌てて足をつき、何とか転倒だけはこらえた。
 「あぁん、何だぁ?」
 武尊は目を眇めて行く手を見た。スナック菓子の袋やペットボトルがばらばらと落ちている。どうやら、そのうちの一つを踏んでバイクがバランスを崩したらしい。
 「何だよ、邪魔くせぇなあ」
 武尊が舌打ちをしたその時、行く手から現れた道化師のような服装の機晶姫が、落ちていた菓子袋を拾って、背中にしょった大きな風呂敷包みの中にぐいぐいと押し込んだ。
 「クラウン ファストナハト(くらうん・ふぁすとなはと)じゃない……彼女も来てたのね」
 同じパラ実の生徒の姿に、誰が現れたのかと緊張していたシーリルが、ほっと力を抜いた。
 「おい、あんまりぼろぼろ落とすなよ! 危ないじゃないか」
 武尊が睨むと、クラウンは
 「そんなの踏む方が馬鹿なんじゃん」
 と舌を出す。
 「何だとー!」
 武尊はバイクのアクセルを吹かし、菓子の袋やペットボトルによろめきながらもクラウンに向かって突っ込んで行った。
 「うわぁ!」
 クラウンは悲鳴を上げて逃げるが、いくら悪路でもさすがにバイクの方が早い。仕方なく手近な茂みに突っ込んだが、武尊はものともせずに、バキバキと枝の折れる音を上げながら追う。そして、茂みを抜けた所で、そこにいたナガン ウェルロッド(ながん・うぇるろっど)をバイクで引っ掛けた。
 「あ、悪い」
 武尊は一応、バイクを止めて謝った。
 「痛ってーッ……て言うか! 連れて行くのはナガンの方にじゃなくて、遺跡の方にだろ!! 何やってんだよクラウン!」
 強打した尻をさすりながら、ナガンはクラウンに向かって怒鳴った。
 「だって、適当に遺跡まで連れて行って騒ぎを起こせって言われたって、その遺跡の場所はどこなんだよっ! て言うか、だいたい、ここはどこっ!?」
 むっとしながら、クラウンが怒鳴り返す。ナガンは返事に詰まり、唇を噛んでクラウンを睨み返した。
 「……もしかして、私たち皆で迷子なの……?」
 顔にひっかき傷やみみずばれを幾つも作ったシーリルが呆然と呟いた。武尊とナガン、クラウンは、青ざめた顔を見合わせた。ナガンは慌てて携帯電話を取り出したが、携帯電話のアンテナ表示は『圏外』になっている。
 「いやああああっ、誰か助けて!!」
 シーリルが悲鳴を上げた。
 結局、四人は数日間、クラウンが持っていた菓子と飲み物で食いつなぎ、樹海内を哨戒していた教導団の生徒に保護されて、ようやく樹海を出られたのだった。


 「やっぱり、無謀だったんじゃないですか? 完全に迷っているような気がするんですが」
 蒼空学園の機晶姫バルバラ・ハワード(ばるばら・はわーど)は、担いでいるリュックサックをゆすり上げながらため息をついた。
 「も、もうちょっと行けば、きっと遺跡がありますわ!」
 パートナーの東重城 亜矢子(ひがしじゅうじょう・あやこ)は、動揺を押し隠しながら答えた。しかし、朝から既に3時間は歩いているが、遺跡らしき場所にはたどり着かない。と言うか、自分が樹海のどのあたりに居るのかも良くわからない。
 「遺跡がどこにあるか、詳しい場所をきちんと確認せずに、情熱だけで飛び出すのはやめましょうよとあれほど止めたのに……。私は機晶姫ですからご飯を食べなくても死にはしませんが、あなたは食料が尽きたら終わりですよね?」
 決めゼリフの「論外ですわね」を逆に使われそうな勢いで冷静に指摘されて、亜矢子はうっと言葉に詰まった。ごまかすように周囲を見回す。
 「あ、ほら! どなたかいらっしゃいますわ……よ……?」
 言葉が尻すぼみになったのは、相手が教導団の制服ではなく、蒼空学園のジャージを着ていて、しかも「助かった!」という顔でこちらを見たからだ。
 「蒼空学園の人だよね? どっちに遺跡があるかわかる!?」
 声をかけて来たのはユーミ・ミレミリアム(ゆーみ・みれみりあむ)だ。
 「わたくしの方向感覚が鈍いのが悪かったのでしょうか……それとも、ユーミ様をお止めせず、黙って後をついて来たのがいけなかったのでしょうか」
 その隣で、ユーミのパートナーのヒナ・ライムライト(ひな・らいむらいと)がしゅんとしている。
 「オレたちも、修行を兼ねて遺跡探しをしようと思ってここに入ったら、思い切り迷ってしまって……」
 サイクロン・ストラグル(さいくろん・すとらぐる)と、パートナーのグランメギド・アクサラム(ぐらんめぎど・あくさらむ)も、ほっとした表情をしている。
 「申し訳ないのですが、わたくしたちも迷ってしまったようですの」
 亜矢子が言うと、四人はがっくりと肩を落とした。
 「遺跡がどちらにあるのかどころか、来た道も良くわからないのではな……」
 上空から流れる、退去を勧告するメッセージを聞きながら、グランメギドが唸る。その時、ガサガサガサッ!と木の葉が鳴る音がして、彼らの目の前に蒼空学園のジャージを着た青年が降って来た。
 「大丈夫ですかっ」
 木の上から声がして、ヴァルキリーのカミラ・オルコット(かみら・おるこっと)が、落下した青年……出水 紘(いずみ・ひろし)の側へ降り立った。
 「び、びっくりしました……」
 ユーミをかばうように抱きしめていたヒナが大きく息を吐き出す。
 「いたたた……ああ、すみません」
 カミラに引き起こされた紘は、ぺこぺこと謝りながらも腰をさすっている。
 「教導団の生徒にばれないように、バーストダッシュで木の上を移動しながら来たんですが、なかなか力加減が難しくて……」
 「そうか、上からなら遺跡の場所が判らないかな?」
 木の幹に手をかけて、サイクロンは上を見上げた。
 「いや、上の方は枝が細いから、木の上に頭が出るような場所まで登るのは難しいですよ。実は俺も、足場にしようとした枝が折れて落ちたんです。それに、頭を出したら航空部隊に見つかる可能性もありますし」
 上を指差して、紘は言った。上空から、パラパラとジャイロコプターのプロペラ音が聞こえて来る。
 「……じゃあ、君たちも遺跡がどっちの方向にあるか判らないの?」
 「途中までは遺跡に向かう部隊を追跡してたんですが、途中で引き離されてしまって迷いました」
 ユーミの問いに、紘は面目なさそうに肩をすぼめた。
 「どうする。このままでは我らは、機晶姫を除いてこの樹海で白骨化する運命を辿るであろうぞ」
 グランメギドが重々しい口調で言った。
 「悔しいですが、ここは助けを求めるべきでしょう」
 「どうやってです? 携帯は圏外ですが」
 バルバラの提案に、サイクロンは反論した。バルバラは携えていた長い刀の鞘を払い、一閃した。木が一本、メキメキと音を立てて倒れて行く。
 「上には教導団が居るのです。木を切り払って見通しを良くすれば、見つけてくれるでしょう」
 「そっかぁ、そうだよね!」
 ぽんと手を打って、ユーミが光条兵器を出現させる。他の生徒たちもそれぞれ武器を構え、周囲の木をなぎ払い始めた。
 ほどなくして、蒼空学園の生徒たちは、かれらに気づいたジャイロコプターの乗員によって救助され、樹海の外へと運ばれた。