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嘆きの邂逅~離宮編~(第1回/全6回)

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嘆きの邂逅~離宮編~(第1回/全6回)

リアクション

 校庭の方での白百合団員を中心とした武術訓練も続けられており、状況を見回っているソフィア・フリークス御堂晴海が顔を出していた。
 彼女達を護衛している数人の白百合団員の姿もある。
「お疲れ様です」
 白百合団員達と訓練をしながら、武器の使い方について教えあってたいグロリアとパートナーのレイラ・リンジー(れいら・りんじー)がソフィアと晴海に気付いて近付いてくる。
「こういったことで他校の方と交流できるのは良いことですね」
 グロリアがタオルで汗を拭きながら言うと、晴海は「ええ」と微笑んだ。
「あ、あの……」
 レイラはちらちらとソフィアを見ながら、勇気を振り絞って声を上げた。
 人見知りが激しく無口なため、普段は殆ど声を出さないレイラだが、ソフィアにはどうしても聞いてみたいことがあったのだ。
 この機会を逃すと、話しかけることは出来ないかもしれない。
「はい」
 ソフィアの返事を受けて、ぐっと拳を握り締めながらレイラは口を開く。
「か、過去に鏖殺寺院は離宮での戦闘や、その他の場所でどのような戦いをしてきたのでしょうか。離宮のような場所に、トラップを仕掛けることもしてきたのでしょうか」
「そうですね。鏖殺寺院の人数はそれほど多いわけではありません。彼らは様々な技術を駆使し、テロやそういった罠などという手段を使って、多くの者を死に至らしめてきました。シャンバラにも今よりずっと優れた技術があったのですが、鏖殺寺院との戦いで国は崩壊してしまい、多くの技術が失われてしまいました。しかし、鏖殺寺院は表舞台に現れずとも、その技術を保持したまま活動を続けているのです。地球から来られた方や現代の方には想像も出来ない罠を張り巡らせていたり、奇異な能力を有している者も多々いるでしょう。復活された方々がそうであるように、私自身も過去の記憶が曖昧ですので、過去の戦いについてあまり語れることはないのですが……」
 そう説明をした後、ソフィアは魔法的なトラップや兵器について軽くレイラに助言していく。
 それはエネルギーに何が使われているかの違いで、爆弾も魔法の罠もさほど違いがないように思える説明だった。
 聞き終えた後、ぺこりと頭を下げて挨拶をすると、レイラは晴海と親しげに会話をしていたグロリアに目を向ける。
「それじゃ、訓練に戻りましょうか」
 そう言ったグロリアにこくりと頷いて見せて、一緒に訓練に勤しむ白百合団員の元に向かう。
「魔法の罠、回避するための反射の訓練も……必要です」
 ソフィアの助言を元に、教導団員としての知識を交えて、レイラは白百合団に提案していくのだった。
「六学の絆は、ここではこうして達成できるのに……」
 訓練状況を見ながら、そう呟いたのは校庭に出てきたルカルカだった。
「明日にはもう出発するんですよね?」
 体育館に向かう晴海とソフィアと共に歩き出しながら、ルカルカが問いかける。
「ええ。訓練のご指導の方、引き続きよろしくお願いします」
 晴海の言葉に頷いて、真剣な目でルカルカは晴海と白百合団員を見回す。
「コマメな連絡を入れて下さい。一番大切なのは貴方方が無事戻る事。その為なら物資は最悪捨ててきてもいいの。宝だっていらない。命だけは捨てないでね」
「ありがとうございます。念頭においておきます」
「優しいのですね。お気遣い感謝いたします」
 晴海とソフィアはルカルカに礼を言い、微笑んだ。

 本部となった会議室に離宮に持ち込む物資が集められていく。
 今回持ち込めるのは個人が運べる量だけなのだが、会議室の四分の一を埋め尽くすほどの物資が集まっていた。
 多くは飲食物である。
 一旦戻ってくるにしても、数日は離宮に滞在することになるだろうから。
「飲料水はこちらにお願いします。医療品はこちらに方へ」
 集まった物資の整理はナナ・ノルデン(なな・のるでん)がパートナーのズィーベン・ズューデン(ずぃーべん・ずゅーでん)と共に進めていた。
 2人は作ったリストを手に、必要数集まっているかチェックをしていく。
 これまでの会議で提案されたものと、必要性を考えナナ達が提案したものが中心だ。

 ライト
 ランタン
 ライター
 ロープ
 保存食
 飲料水
 防寒具
 ガムテープ
 手袋
 タオル
 傷を塞ぐ為の布類
 絆創膏
 消毒液
 鎮痛剤
 解毒剤
 楔
 木材
 木工具
 リュック
 10フィート棒

 主に、以上の物が集まっている。
「他に何か必要なものはありますでしょうか?」
 ナナは共に会議室での作業に勤しんでいた風見瑠奈に尋ねてみる。
「そうね。あと、毛布は絶対必要だと思います。それから携帯の充電器も大量に必要でしょう」
「そうですよね……でも毛布は薄手のものを1人1枚で限界でしょうね」
 ナナはリストに毛布と充電器を追加し、手配をすることにする。
 後ほど神楽崎優子にも確認を取り、最終的にラズィーヤにリストを提出する予定だった。
「変なものが紛れ込んでいないかどうか、チェックも必要だね」
 ズィーベンは集まった物資を一つ一つ確認しながら、小分けしていく。
「全員持た方がよさそうなものは、リュックにつめていこうか」
「はい」
 仕分けを担当している百合園生に声を掛けて、一緒にリュックに詰め込んでいく。
 薬に紛れて、毒薬や得たいの知れない薬などが紛れていないかどうかもチェックしていく。
「まあ、無理だろうけど……なるべく怪我人はなく無事に終わってほしいよね」
「はい。白百合団の友達も本隊が向かう際に行くそうですので……とても心配です」
 離宮に行く人物は志願して向かうだけあり、覚悟を決めた表情であるものが多いが、一般の百合園生達はとても不安気であった。
「あ、小分けした液体にはラベルを貼っておきましょうね。飲み物と間違えて消毒液を飲んでしまったりしたら大変ですから」
 ナナは用意してあったラベルを取り出すとマジックで液体の名前を書いて百合園生達に渡していく。
 百合園生達は丁寧にボトルにラベルを貼っていく。……ラベルにこっそり『無理はしないで』『無事帰ってきてね』と百合園生達が書き入れている様子が視界の端に入り、ナナとズィーベンは小さく少し切なげに笑みを浮かべた。

「手書きでのマッピングはあらかじめ尺度や記号を決めておき、統一した方がいい」
 教導団の大岡 永谷(おおおか・とと)は、調査に向かう者達を集めて、マッピングに関しての提案をしていた。
「今回の調査ではどこまで進むのかはわからないが、一種の落書きと思えても、建造物へのしるしもやむをえないと思う」
 調査隊のメンバーは永谷の言葉に頷いて、仲間内で方針を決めていく。
「定時連絡も忘れずに行うようにな。連絡が途絶えた際には、待機している調査隊のメンバーが救援に向かうことになるだろう」
 離宮が閉ざされた空間じゃないのなら、逃げ道はあるだろうが、今回は相手のテリトリーに入り込み、簡単には出て来れない状況なのだから、普通の遺跡探索より慎重にいかねばならない。
「どんな罠が仕掛けられているか、どのよな敵が存在するのか全く分からない状況なのだから、常に慎重に、注意を払って行動をするようにな」
 そう言葉をかけると、調査隊のメンバーの多くは真剣な表情で頷く。
 若干緊張感に欠ける人物もいたが……それはそれでいい緩和剤になりそうでもあった。

「お待ちしてたッス!」
 現れた人物――神楽崎優子を前に、パラ実生のサレン・シルフィーユ(されん・しるふぃーゆ)はびしっと立って頭を下げた。
「すまない、パラ実生とのことだが、今非常に忙しくしているんで、分校のことなら直接分校に行って交渉してほしい」
「いや、分校の件じゃないッスよ。その忙しくしている理由のことッス。詳しい話は知らないッスけど、事件の噂は聞いてるッスよー!」
 サレンは困惑した表情の優子に思いを語っていく。
「鏖殺寺院の悪行は良く知っているっス。つい先日とある事件で助けが間に合わず目の前で幼い子供が死んでしまったッス。あんな悲しい思いは他の人にはさせたくないッスよ!」
 拳を握り締め、感情的になりながらサレンは言葉を続けていく。
「だから私に出来ることがあったら何でもやらせて欲しいッス! 力仕事は得意ッスし、実戦的な武術も多少は心得があるっス。是非お手伝いさせて欲しいッスよ!」
「キミが真剣であることは解ったし、ありがたい申し出だと思う。ヴァイシャリーの事件に関しては独自に調べてもらう分にはこちらとしては構わない。何か情報を掴んだら教えてほしい。ただ、深く関わることを希望してくれるのなら、その前に私の名の分校に通って分校役員達の信頼を得てほしい。キミが本当に信じられる人物なら、私がキミを推薦し色々と任せることも出来ると思うから」
「分校ッスか。考えてみるッス……。とりあえず、聞き込み調査でもしてみるッス」
「ありがとう。私はしばらく百合園を離れることになるかもしれないが、本部の者にキミの名前は伝えておくから」
「了解ッス。それじゃ、行ってくるッスね!」
 サレンは敬礼をすると、応接室から飛び出して行った。

 生徒会室に戻ろうとした優子の前に少女が姿を現す。
「神楽崎総指揮官殿、報告でーす!」
 笑顔で優子の前に飛び出してきたのは神楽崎分校生の春夏秋冬 真菜華(ひととせ・まなか)だ。
 彼女は優子の元で離宮関連の雑務を引き受けている。
「実はちょっと不思議なことがありました! 2人きりでお話したいです」
「時間がないんで、手短に頼むよ」
 言って、優子は真菜華と近くの準備室に入った。
「地図についてマリザさんに伺って参りましたぁ! 罠の可能性がありますっ!」
 真菜華が離宮が描かれた地図を優子に差し出した。
 突然の報告に驚きながら、優子は地図に目を通す。
 マリザがミクルの見舞いにヴァイシャリーを訪れているという話を耳にした真菜華はソフィアが描いた地図を持って、マリザの元を訪れ確認をしてみたのだ。
 『ソフィア』が『記憶が曖昧でよく覚えていない』と自分で言っている事。
 そして、ソフィアと名乗る人物が本当にソフィアなのか裏づけがない事。
 その2点が真菜華には気がかりであった。
「まずは疑わしいところから白に塗り潰すべきだよねっ!」
 明るく得意げに言う真菜華とは対照的に、地図と書き込みを見た優子の顔は険しかった。
「……ラズィーヤさんに相談した方がいいだろう。キミも来てくれ」
「はいっ! んー、皆が向こうに無事に陣地を築いてくれないと、マナカも離宮観光に行けないしにゃ〜……」
 跳ねるように、真菜華は優子に従って校長室の方に向かう。