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嘆きの邂逅~離宮編~(第1回/全6回)

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嘆きの邂逅~離宮編~(第1回/全6回)

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「さて、以上で全員挨拶を終えたようだな。皆、仲間の顔と名前は覚えておくように」
 優子は資料の中から離宮を描いた地図を取り出す。
「続いて、皆の質問に答えながら、状況の確認をしていきたいと思う。意見や提案なども積極的に述べてほしい」
「じゃ、私から」
 真っ先に手を上げたのは祥子だった。
「持ち込むものの準備を進めているみたいだけれど、塔の出入り口などを塞ぐ資材がほしいです。もしもの際に本隊到着まで持ちこたえるためにも」
「資材も出来るだけ持ち込むようにしたいが、さほど量は持ち込めないだろうな」
「人を転送することを優先することになりますので、今回は物資は個人で抱えることが出来るだけの量になってしまいます」
 優子とソフィアがそう回答する。
「その転送の術者って誰なんだ?」
 ウィルネストが尋ねる。
「私が行います。転送術が使えるのは6人の騎士の中では私だけです」
「じゃあさ、術者であるアンタも一緒に離宮に行くの?」
「それは自分も気がかりです」
 地図に情報を書き込んでいた真紀が顔を上げる。
「貴殿が調査隊に加わるようならば、自分が護衛を受け持ちましょう。貴殿こそ例え先遣隊が全滅したとしても守るべき存在であります。無論、自分達の命は極力大事にしますが」
「ありがとうございます。そうですね……私が同行するかどうかは、作戦指揮官のご判断にお任せします」
 ソフィアの言葉に優子は頷くも、その場で答えは出さなかった。
 ウィルネストが質問を続ける。
「転送する場所は、マリルやソフィア自身の封印を解いた際には増えるのか? 『封印が解かれた箇所にしか転送できない』んなら、例えば捕まってるというファビオが封印を解いた場合、こっちのメンバーもその場所に飛ぶことが出来るのか? だとしたら、ファビオの封印を解いた側が、マリザとかの封印を解いた場所、つまり西の塔に飛べちゃうってことだけど?」
 鏖殺寺院のメンバーにはテレポートを使う者もいる。
 となると、封印が解けた場所に転移が出来てもおかしくはない。
「増えます。といいますか、その辺り一帯に転送することが可能ですので、必ずしも塔に転送しなくても大丈夫です。今回は安全も考えて、塔の中がよろしいかと思っています。場所も状態も判らない地中への転送は無理かと思いますので、鏖殺寺院側の人間が突如離宮に下りてくる可能性は少ないと思います」
「東西南北の4本の塔と対応する騎士は4人。後の2人と呼応する箇所が有る訳ですね?」
 真紀の問いにソフィアが頷く。
「ただ少し記憶があいまいで……」
「自分の考えでは、残る2箇所は離宮の中心の最上層と最下層にあたるのではないかと思っています。東西の塔、南北の塔、そして残る2箇所それぞれ線を結ぶと四角錐の形になるのでは?」
「そう、ですね。……思い出してきました」
「騎士ジュリオが眠る場所も離宮の中心部になるのではないでしょうか?」
「ジュリオは……そう、宮殿の地下で眠っているはずです。宮廷の時計塔の頂上にも誰かの封印が……誰だったのかは思い出せませんが、そこも誰かの封印と呼応しているはずです」
 真紀に導かれるように、ソフィアは過去を思い出していく。
「時計塔はどの位置ですか?」
 地図を記しているオレグに問われて、ソフィアは自分が持っている地図の宮廷の一角に○印を記す。
「ここだったと思います」
「接近を防ぐための、自動防衛機能みたいなものが働いていないか、気がかりですな」
「そうですね……。ジュリオを目覚めさせるのは、他の封印が解除されてから、且つ、兵器の排除が済んでからがいいと思いますので、慎重に行いましょう」
 ソフィアの言葉に、真紀は厳しい表情で頷いた。
「宮殿への転送はマズそうだけど、西以外の塔への転送も安全にできるの?」
 ヴェルチェが問う。
「東と南は多分大丈夫です。北は鏖殺寺院が潜入していた場所に近いので、転送は可能ですが安全が確認されるまで、やめておいた方がいいと思います」
「塔と呼応してるって話だけど、万が一塔が破壊された場合、こっちに戻ることは出来るの? というか、そもそも離宮と外界の往復って可能なの?」
「塔が破壊されても戻ることは出来ます。往復も術者……つまり私がいれば可能です」
「……ん? ということは、ソフィアさんが一緒に行かなかった場合、迎えに来てくれないとあたし達は戻れないってこと?」
「そいうことになります。転送にはかなりの精神力を使いますので、連続して行うことは出来ません。5人転送につき、最低1時間くらいはお休みをいただかないと……」
 ソフィアの返答に、皆しばらく考え込む。
「もう1箇所の封印が解けた際には、かなりの人数を転送できるようになるそうだ。多分、ソフィアさんにはここに残ってもらい、準備が整い次第本隊――残りの契約者とヴァイシャリー軍数百名を送ってもらうことになるだろうな」
 優子の言葉に、会場がざわめいた。
「かなり厳しそうね」
 そう言いながらもヴェルチェは微笑みを浮かべていた。
「状況は厳しそうですけれど、優子さんは先遣調査に参加したり、塔の外に出たり、まして前線に出ようなどと考えないで下さいね。後ろで監督していてください。危ないですから」
 祥子が優子に釘をさす。
「もちろんそのつもりだが……。しかし、何故かこのところ前に出る状況に陥ってる気がする」
「どんな状況になってもです。班長や優子さんに何かあると白百合団メンバーの士気が著しく落ちます。危ないことは私達に押し付けて下さい。優子さんに何かあるとあなたを想っている友人に殺されかねないの。後生だからお願い」
「いや、却って奮い立つかもしれないぞ?」
 祥子の言葉に優子が苦笑する。優子の言葉に祥子は呆れ気味な顔を見せる。
「痛いのも辛いのも苦しいのも全てオレが引き受ける。だから君は後方で指揮を取ってくれ」
 優子の負担を少しでも少なくするために、ここにいると言った武尊がそう言った。
 優子は少し複雑そうな表情を見せた後、淡い笑みを浮かべた。
「仲間の辛そうな顔を見ることもまた、痛くて苦しいものだ。武尊自身も怪我をしないように気をつけてくれ。キミや皆が傷つけば、痛みも苦しみも私も仲間達も共に感じるのだから」
 祥子が息をついて、弱い笑みを浮かべた。
「先遣調査後についての提案になりますが、よろしいでしょうか?」
 さけが挙手する。
「どうぞ」
 優子の言葉を受けて、さけは口を開く。
「魔術部隊の提案も出ていましたが、わたくしの方からも部隊編成について意見を出させていただきます」
 さけはまず、白百合団員が座る席に目を向ける。
「各部隊へは最低1人の白百合団員の参加を条件とした方がよろしいかと思います。特にイルミンスールから派遣される考古学者さんの護衛班が必要ですわ。百合団から派遣される各班長は、それぞれの得意分野で動いた方が良いと思われますので、先遣隊精鋭から除外していただいた方がいいでしょう。そして……」
 さけは会場を見回す。
「多学校の学生達が連携しなければならない以上、自分たちの成功条件や目的をしっかりうちだしてもらったほうが良いでしょう」
「そうだな。先遣後の大掛かりな調査は、現地の状況を見ずには決められないが、混合にするよりは、目的が近い者同士に組んでもらえる部隊にしたいと思っている」
 優子の言葉に頷いた後、さけは言葉を続ける。
「わたくしが、前線と連絡が取れなかった場合の連絡係を担えると思います。他の本部役員の人がやるよりは、重要性という観点でわたくしが適任でしょう。白百合団の方は上層部ということを頭にいれていただきませんと。特に神楽崎優子さん。前線にでるのは役割的役職的に困ります」
「まったく同感なのじゃ!」
 セシリアが声を上げる。
「白百合団の班長及び副団長については先行調査隊ではなく陣の構成に加わるべきだと思うのじゃ。理由は少数による調査だからフォローが利かぬ可能性が高い。万が一それで死亡した場合の指揮がなくなるリスクが大きすぎる。言い方は悪いが、他の百合園生や私のような他校生ならば彼女ら程のリスクはないのじゃ。責任がある立場の人は後の組織のことを考えて『死なない』という事も大事だからの」
「それはその通りだと思う。無論、他校の方にも死なれたら困るが」
 優子は皆からの言葉に、苦笑しながら言葉を続ける。
「班長に関しては検討させてもらうが、私は調査や前線に出るつもりはないんだが……。まあ、私はこんな性格だから皆に心配を掛けてしまうかもしれないが、元よりこういった作戦では前線に出るつもりはないよ。だが、私を守護しようと多くの才ある者が私の周りに集まると、戦力的理由で、私の護衛をしようとする者達を前線に引っ張るために、私自身も前線に出る必要があると感じてしまう。私は大丈夫だから、皆すべきことをしてほしい。それから……」
 優子は少し離れた場所に控えめに座っているパートナーのアレナに目を向けた。
「アレナは本部に待機してもらい、連絡係に徹してもらう。さけの傍で本部の仕事に従事していてくれ」
 不安そうな目を見せながらも、アレナは首を縦に振った。
「私もセラさんに連絡係として本部に残ってもらうつもりです!」
 鳳明がそう申し出て、隣に座るセラフィーナ・メルファ(せらふぃーな・めるふぁ)がこくりと頷く。
「それはとても助かる。私にはそう頻繁に連絡している余裕はないだろうからね」
 言った後、優子は皆に目を向ける。
「他に質問や意見はないだろうか?」
「離宮のことではないですが」
 手を上げたのは、葉月だった。
「何だ?」
「はい。行方不明になっている騎士ファビオの事件やそのパートナーと見られている意識不明のミクル・フレイバディの暗殺未遂事件に鏖殺寺院の関与が見られますので、百合園やヴァイシャリー関係の内部調査の必要性があるかもしれません」
 言いにくいことではあるが、葉月は言葉を続けていく。
「ラリヴルトン家の当主が鏖殺寺院と通じていたようにヴァイシャリーの名士の中にも、あるいは百合園の生徒の中にも居るかもしれません。この、中にも……」
 優子や百合園の生徒会メンバーが険しい目を見せるも、誰も何も言わなかった。
「騎士ファビオの事件は彼なりの鏖殺寺院に対しての行動であり、ヴァイシャリー家への警告であった訳ですから、その線から調べていくのが良いかもしれません。ミクル・フレイバディの暗殺未遂事件も意識不明の彼ではなく看護師が撃たれた件からして何らかの示威行動ともみられます」
「仰る通りですわ。その件に関してはわたくしにお任せ下さい。軍が把握している情報も確認しておきますわ」
 ラズィーヤがにっこりと微笑んだ。
「他にも何かありますか?」
「カルロって人についても捜索と情報収集は必要だろ。その辺りはどうなってるの?」
 声を上げたのはアトラだった。
 カルロの名にソフィアが僅かな反応を示す。
「そちらは、静香さん達にお任せしていますわ。マリルさんに心当たりがあるそうです。順番に進めていくと伺っています」
 答えたのはラズィーヤだった。
「そっか。……そういえば、ソフィアさんは地球人と契約してるの? してないのならこれからするつもり?」
 アトラの問いに、ソフィアは首を左右に振った。
「契約はしておりませんし、考えていません。命を狙われる身ですから……。契約して下さった方にご迷惑をかけたくはありませんし、そう簡単に反りが合う方を見つけられるとも思っていません」
「ま、気軽にできることじゃないよね」
 アトラが頷く。
「……その他、何かありますか?」
 ラズィーヤが尋ね、数秒待つがもう手や声は上がらなかった。
「それでは、班ごとにわかれて、相談、準備に務めましょう。皆様長時間お疲れ様でした。先遣隊出発まで時間がありませんので、引き続きよろしくお願いいたしますわね」
 ラズィーヤ、百合園上層部のメンバー達が頭を下げる。