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ゴチメイ隊が行く2 メイジー・クレイジー

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ゴチメイ隊が行く2 メイジー・クレイジー

リアクション

 
「チャイと契約したのは地球だけどさあ。最初は、ここ、イルミンに二人で入ったんだよねえ。ペコたちは百合園だったし、リーダーは最初からパラ実だったかなあ」
 頭の上に水で濡らした冷たいタオルを載せて湯あたりを防ぎながら、リン・ダージがぼーっと昔を思い出しつつ語った。
「まあ、二人とも好き勝手やっちゃったから、パラ実送りになっちゃったんだけどねえ。チャイも、キレると、ニコニコ笑いながら周りを火の海にしたりするからさあ。やっぱり、ゴチメイで一番かわいらしいのは、このあたしよ、あたしよ」
 顔を上気させながら、リン・ダージが言う。結構のぼせているのか、多少言ってることがふらふらと、とりとめをなくし始めていた。ずっと信太の森葛の葉にかかえられてお湯に浸かっていたし、今も女の子たちに囲まれて、お湯からあがるタイミングをまったく失している。
「結局、一番不器用でおこちゃまなのがリーダーなのよね。なんだかんだ言って、ふらふらしてたあたしたちのそばにいつの間にかいついて、いつも一緒にいて。あげくは、ゴチックメイド戦隊なんて作っちゃったし。いったい何と戦うんだか。もっとも、一番独りにしておけないのがリーダーなんだけどね」
 ちょっと傍目にきいていると、まったく逆のような気もするが。どちらかというと、ペコ・フラワリーやチャイ・セイロンたちの方が、ココ・カンパーニュに面倒をみてもらっているのではないだろうか。まあ、このお気楽極楽のところが、リン・ダージの持ち味と言えばそうなのだが。
「じゃあ、遺跡で絡んできたアルディミアクくんとかいう十二星華は、いったい何者なんだ? むこうは、ココくんのことをよく知っていたらしいが」
「なんで、そんなことしってんのよお」
 ぼーっとした目で、リン・ダージは桐生円に聞き返した。
「それはこちらもいろいろ調べたりするからね。で、何か言っていたのかな」
「しらなーい。だって教えてくれないんだもん」
 そう言って、リン・ダージは頬を思いっきりふくらませた。結局、彼女としても、それが凄い不満らしい。
 
「じゃじゃーん。カリン党イエロー、ナガン様参上」
 リン・ダージたちが話し込んでいると、そこへナガン・ウェルロッドが現れた。
「なんだ、その格好は!」
 またいんすますぽに夫みたいな奴が現れたと、桐生円が胸のあたりをしっかりとタオルで押さえて身構える。
「そなた、なんでそんなに身体中に手ぬぐいを巻きつけておらはるんどす?」
 不自然だと、信太の森葛の葉が問いただした。
「んんっ、みてーかー? 少しだけなら見せてやってもいいが、こえーぜー。夢に見るぜ。ほーら、ここを脱ぐと、以前銃で撃たれた傷があ……。ふふふふふ……。ナガン様の伴侶となる者は、さらにおぞましき物を見ることになるんだぜぇい」
「じゃあ、一生独身だね」
 さらりと、小鳥遊美羽がきついことを言う。
 ネタで自分が口走った言葉で、思いも寄らぬダメージを受けてナガン・ウェルロッドがよろめいた。まったく、欠片も想像したこともないことを突っ込まれて、ちょっと切り返しが思いつかない。
「少し泣く……」
 そのまま、ナガン・ウェルロッドは、隅の洞窟風呂に入っていった。
「何をやってるんだか。よう、リン、お久しぶり」
 案内してくれたナガン・ウェルロッドを目で見送って、マサラ・アッサムがやってきた。スレンダーで長身の姿は、タオルにつつまれていても意外にセクシーで格好いい。
「なにそれ、あたしなんかタオルは頭の上だよー」
 脱いじゃえと、リン・ダージが非難の声をあげる。
「分かってないなあ。だから、リンはいつまで経ってもおこちゃま言われるんだ」
「おこちゃま言わない!」
「こう、女の色気ってのは、隠してる物をチラッとするのがいいんだよ」
 そう言うと、マサラ・アッサムは、身体の横のラインに合わせたタオルの合わせ目を、スリットのように少しめくって、大胆にもすらりとのびた長い脚を太腿から顕わにした。
「最高です。マサラさん!」
 その艶やかな姿態に、思わずどりーむ・ほしのが目を輝かせる。
「どうでしょう、その、今晩、御一緒に……」
「ああん、どり〜むちゃん、ひどい〜」
 どりーむ・ほしのの言葉に、ふぇいと・たかまちが悲鳴をあげる。
「いや、その、女性は……しばらくいいや」
 そう言って、マサラ・アッサムはやんわりと断った。どうも、いろいろあって、しばらくは男の方がいいと思い始めたらしい。
 
    ★    ★    ★
 
「さて、下から捜そうというわけだけど、がんがん足で稼ぐぜ」
「ううむ、最近運動不足であったからのう。ああ、ちょっと待たれ」
 どんどんと進む緋桜 ケイ(ひおう・けい)を、悠久ノ カナタ(とわの・かなた)が待ってくれるように呼び止めた。
「最近、他人を乗り物にしすぎだから、足が萎えたんじゃないのか?」
「失敬な。元々和装の美人は大股で走ったりなどはせぬのじゃ。さあ、順番に無駄なく捜そうぞ」
 和服の膝あたりを楚々とつまむと、悠久ノカナタが優雅に走って見せた。
 まずは学生広場に着いた二人であったが、すでに誰かが探しに来たらしく、噴水近くの隠し扉が開けっ放しになっていた。
「こういうのは、閉めてくれないと危ないんだけどなあ」
 よいしょっと、緋桜ケイが地面の開いた扉を再び閉める。
「すでに誰かが来たのであれば、ここには誰もいなかったか、あるいはとっくに保護された後というわけであるな。よろしい、次へ参ろう」
 無駄な捜索は必要ないと、悠久ノカナタはポンプ室や広場の隅などの探索を放棄して次の部屋へとむかった。
「ちょっと、誰よー、蓋閉めたの」
 緋桜ケイたちが去った直後に、ポンプ室の扉を中からドンドンと叩く音が響いた。騒いでいるのは、直前に中に入ってパイプの裏の裏まで調べ回っていた羽高 魅世瑠(はだか・みせる)たちであった。
「うーん、固くて開かないじゃん」
 フローレンス・モントゴメリー(ふろーれんす・もんとごめりー)が力を込めて押しているようだが、今のところびくともしないようである。
「ぐずぐずしているから閉じ込められるんですよお。だいたい、学校入り口でも魅世瑠やフローレンスはビビりすぎです。アルでさえ、全然平気なのに」
 ラズ・ヴィシャ(らず・う゛ぃしゃ)が、理由が分からないとばかりに、羽高魅世瑠とフローレンス・モントゴメリーに言った。
「ラズは、世界樹の真の恐ろしさを知らないんだよ」
 負けじと、羽高魅世瑠は言い返した。
「ここは、大丈夫だよねえ?」
 もうガクブル状態で、フローレンス・モントゴメリーが周囲を見回す。
「いったい、どんな恐ろしさなんでしょう」
 アルダト・リリエンタール(あるだと・りりえんたーる)は、彼女たちの恐怖の理由が理解できずに戸惑うばかりであった。
「とにかく、四人で一緒に押すんだよ。いいかい、いくよー」
 羽高魅世瑠の号令で、四人が力を合わせて扉を押した。すると、あっけなく扉が開いた。どうも、最初の押し方が悪かっただけのようである。
「ふう、とにかく遅れた分取り返すんだよ。行方不明者見つけなきゃボーナスもらえないんだからね。いくよー」
 パートナーたちを叱咤激励すると、羽高魅世瑠は地下の各部屋をかたっぱしから調べるローラー作戦を続行していった。
 
 学生広場のすぐ近くにあるのは、学生食堂の一つだ。流れ作業的におかずをもらうセルフサービスのビュッフェとなっている。一度火事になったりしたので、改装で結構最新型の調理器が入ったため、メニューの幅が広がったと、学生の一部が放火犯に感謝しているらしい。
「ここも、隠れるような場所はないなあ」
「比較的狭い場所であるからな。そうそう、以前冷凍庫で氷づけになった者もいたようだが」
 悠久ノカナタの記憶に従って、一応巨大冷凍庫の中も許可を取って調べてみる。どちらかというとこの食堂は、貯蔵庫としての性格も強かった。
「次は、実験農場か……」
 月刊世界樹内部案内図を片手に、緋桜ケイは次の目的地を決めた。
 
「いいかい、絶対にスプリンクラーに近づいちゃいけないんだからね」
「どうしてですか?」
 羽高魅世瑠の注意に、アルダト・リリエンタールは疑問でいっぱいだった。
「ありがたい先達が教えてくれたんじゃん。イルミンのスプリンクラーは、死のスプリンクラーじゃん」
「そんなに恐ろしい相手なのですか。なんなら、一度戦ってみたいかも……」
 フローレンス・モントゴメリーの言葉を聞いて、ラズ・ヴィシャが思わずつぶやいた。即座に、羽高魅世瑠とフローレンス・モントゴメリーがぶんぶんと首を横に振る。
「ひとまず、ここにも誰もいないみたいですわ」
 アルダト・リリエンタールの報告に、手分けして捜していた羽高魅世瑠は疲れたように肩を落とした。
「さすがに、総当たりというのも無理があるよね。なんだか、嫌な汗もいっぱいかいちゃったよな」
「じゃあ、次は大浴場という所に行きましょう」
 アルダト・リリエンタールが提案した。
「さんせー、このままお風呂に飛び込んじゃいましょーよ」
 すぐさま、ラズ・ヴィシャが賛成する。
 元々がほとんど裸の羽高魅世瑠たちである。大浴場は、まさに彼女たちの世界であると言えた。
「よーし、移動だー」
「おー」
 羽高魅世瑠たちは元気を取り戻すと、大浴場へとむかった。
 
「今はまだ、何もないんだなあ」
 ただっぴろい畑が広がる室内を見渡して、緋桜ケイは言った。種まきをした直後なのか、畑は土が全面的にむきだしの耕された状態のままだ。
 そういえばと、昔の記憶が蘇ってくる。
 まだまったくの未熟者で、悠久ノカナタを師匠として魔法の教えを請うていたころ、緋桜ケイは油断してここでスライムに襲われたことがあったりだ。
「あのときは、ずいぶんと迷惑をかけたよなあ」
「なあに、今でもまだまだわらわに迷惑をかけておるぞ。かけっぱなしじゃ」
「その分は、倍にして返すさ。いつもありがとう」
「不要の言葉を。だが、期待しておるぞ」
 素直に言葉を返すことをせず、悠久ノカナタが言った。変わりないと、なぜか緋桜ケイは安心してしまう。
「ここ一面にパラミタトウモロコシが実っていた風景が懐かしいのう。はて、確かあれはゆる族の好物のはず。今度少し分けてもらうとするか。わらわの馬の鼻先にぶら下げないといかぬからな」
「そんなんで走ってくれるのか?」
「ならば、桐の箱に入れてリボンをかけた物を手ずから渡すとするか。その方が、驚いてくれそうであるな」
 ちょっと悪戯っぽく、悠久ノカナタは微笑んだ。
「さて、ではここまで来たのであれば、大浴場の方にも行ってみようかのう。あそこは、スライムとの決戦地であったようだからの。時間からして、最後に訪れるのもよかろう」
 悠久ノカナタの言葉に従って、緋桜ケイは大浴場にむかうことにした。今までの移動や捜索にはそれなりの時間がかかっている。もう時刻は夕方だろう。
「そういえば……」
 ゆっくりとした足取りで大浴場にむかいながら、緋桜ケイはちょっと考え込んだ。
「なんだ、ケイ?」
 悠久ノカナタが立ち止まる。その横を、風呂上がりの荒巻さけが通りすぎていった。
「スライムはやっつけたけど、奴らはまだ捕まえてもいないんだよな」
 あの事件の首謀者である、オプシディアンのことを思い出して、緋桜ケイは言った。他にも、ジェイドという仲間がいたはずだ。彼らは、いったい今はどこでどうしているのだろう。
「それは、考えてもしかたあるまい。逃げてそれっきりであるならば、それもまたよい。多少口惜しさは残るがな」
「もし逃げていなかったら……」
 再び歩き出しながら、緋桜ケイは訊ねた。
「いずれ、雪辱を果たすこともできよう。いずれにせよ、些細な変化も見逃さないことだ。あのときも、些細な異変と思うたことが、周到に準備されたものであったからのう」
「忘れはしないさ」
 そう答えたとき、二人は大浴場に辿り着いていた。
「では、また中でな」
 見るでないぞと、軽く袖で顔を隠しながら悠久ノカナタは「女ゆ」と描かれた入り口から入っていった。
 緋桜ケイは、見た目はまるで女の子だが、その分本人は男っぽくありたいと思っている。以前は性別を隠していたときもあったが、今では無理に隠すようなことは少なくなっていた。
「うっ、スライム捨て箱なんて物が常備されるようになったのか。ちょっと嫌だなあ」
 脱衣所におかれた箱の正体を知って、緋桜ケイはちょっと顔をしかめた。
 変に誤解されてもと思い、長いタオルを身体に巻いて胸から下を隠すと、緋桜ケイはお風呂セットを持って浴室に入っていった。
 すでに、悠久ノカナタが中で待っている。こちらは、古風に白い湯帷子を着ていた。
「それじゃあ、風呂に入った気にならないと思うけどなあ」
「なあに、水着と何ら変わらぬ」
 涼しい顔で答えると、悠久ノカナタは足湯の中へ素足を進めた。
「ひやん!」
 何か毛むくじゃらの物が足に触れて、悠久ノカナタがかわいらしい悲鳴をあげた。
「どうした、カナタ」
「何かが足許に……」
 急いで二人が下を調べると、なにやら黒い物が浅い湯に浮かんでいる。
「えっ? ……シス!?」
 その正体を知って、二人が驚きの声をあげた。
 さすがは吸血鬼、ちゃんと生きていたが、なんでこんなことになったのかはその後も決して話そうとはしなかった。
 
    ★    ★    ★
 
「よいしょっと」
 流れるお風呂に巨大な柄つきの網を差し入れたナイ・フィリップスは、渾身の力を込めてお湯の中から何かを掬いあげた。
「さすが、神の御加護を受けた者は違う。まだ生きておられる。さあ、今日の所は引きあげるといたしましょう」
 無造作にいんすますぽに夫を肩に担ぎあげると、ナイ・フィリップスは無表情に歩き始めた。
 
    ★    ★    ★
 
「うーん、結局見つからなかったですねー」
 こじんまりとした浴槽でバタ足を楽しみながら、レロシャン・カプティアティはつぶやいた。
 ゴチメイたちを捜したものの、やったことと言えば、結局はカフェテリアでお茶を飲んで、この浴室でのんびりとお風呂に入っただけだ。
「ううん、まだ諦めるのは早いわ。このお風呂は小さいから泳げないけれど、大浴場でなら思いっきりクロールだってできるはず。それって、とっても気持ちいいもの。だったら、きっとゴチメイの誰かが今も大浴場にいるはずよ」
 そう思いなおすと、レロシャン・カプティアティはザバーっとお湯を飛び散らしながら浴槽から立ちあがった。
「失礼するでござるよ。ゴチメイの方は誰かいらっしゃるでござるか」
 まさにそのタイミングで、腰にタオル一枚の椿 薫(つばき・かおる)が扉を開けて浴室に入ってきた。
「えっ!?」
「ええと、あのー……」
 一瞬、二人の視線がぶつかって身体がフリーズする。
「きゃー、変態、ここは女湯よ!」
 すぐに我に返ったレロシャン・カプティアティが、盛大な悲鳴とともにそばにあった手桶や椅子などを椿薫にむかって投げつけた。
「ちょ、ちょっと落ち着くでござる。拙者は、ちゃんと入る前に声をかけて確認したでござるよ」
 きっと、レロシャン・カプティアティがバタ足で遊んでいたせいで、椿薫の声は彼女の耳に届かなかったのだろう。
「別にやましいことは……。拙者は、ただ『月刊世界樹内部案内図風呂場大解剖』を完成させたいがために……。ああもう、少しは話を聞……ぐはあ!」
 一所懸命弁解する椿薫の顎に、黄色い桶がクリーンヒットした。もんどり打って倒れる椿薫のタオルがはらりと散った。
「嫌あ!!」
 浴槽の蓋が投げられ、何かにあたる鈍い音が女湯に響き渡った……。