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ゴチメイ隊が行く2 メイジー・クレイジー

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ゴチメイ隊が行く2 メイジー・クレイジー

リアクション

 
    ★    ★    ★
 
「ここに扉があります」
 学生広場の噴水近くの地面を調べていた御薗井 響子(みそのい・きょうこ)が、ケイラ・ジェシータを呼んだ。
「こんな所に入り口があったなんて。まったく、地図が必要になるというわけだね」
 呆れたような感心したような顔で、ケイラ・ジェシータは言った。
「一応、マーキングしておきます」
 御薗井響子が、SPルージュで地面にメンテナンスマークを書き込んでいった。
 それを待つケイラ・ジェシータが、携帯で定時連絡を琳鳳明に入れた。
「ああ、琳さん? うん、こっちはこれからポンプ室に入るところだよ。何か見つけたらまた連絡するよ」
 同じ冒険屋の琳鳳明に告げると、ケイラ・ジェシータは携帯を切った。
「さあ、中を調べようよ」
 意気込んでポンプ室を調べてみたたものの、結局誰も見つからなかった。狭い場所にいるのではないかという御薗井響子の読みは的外れではなかったと思いたいが、丁寧に捜した分時間をロスしただけに終わってしまったようだ。
「めげずに、根っこの方に行くよ」
「分かりました」
 見切りをつけた二人は、遅ればせに根に移動した。
「あ、誰か来た。ねえねえ、もうマサラ・アッサムちゃんは発見されてぇ、エントランスホールへむかってるってぇ」
 朝野未羅とは別ルートで、後からやってくる者たちの妨害を担当していた泉 恋(いずみ・れん)が、ケイラ・ジェシータたちに言った。実際は、本当にナガン・ウェルロッドによってマサラ・アッサムは連れ出されていたのだが、連絡どころではない朝野未沙のせいで、泉恋はまだそのことは知らない。
「本当ですか?」
 疑わしそうに、御薗井響子が聞き返す。
「ほ、本当だよ〜。ねえ、それより、恋の歌を聴いてぇ〜」
 ちょっと焦りながら、泉恋がなんとかごまかそうとする。
「その暇はないんだよ。さあ、急ごう」
「はい」
 ケイラ・ジェシータと御薗井響子は泉恋を無視して、先に進むことにした。
「ああ、そっちは、凄く複雑で迷いやすいって……」
「欺されないよ」
 ケイラ・ジェシータたちが入ろうとする根のトンネルを見て忠告しようとした泉恋であったが、それまでがあからさまに怪しかったので信用されなかった。
「うーん、本当なのにぃ」
 月刊世界樹内部案内図のページをめくりなおしながら、泉恋はつぶやいた。
 その後、ケイラ・ジェシータたちがなんとか生還できたのは、御薗井響子が律儀にSPルージュでマーキングを残していたおかげであった。
 
第8章 
 
「こんな広い世界樹だもの、疲れを取りに来るとしたらここしかないよね」
 地下の大浴場に直行した小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)は、確信を込めて中へと入っていった。
 脱衣所に入ると、ほぼ時を同じくしてやってきたヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)が、脱衣籠の中身を一つ一つ調べ始めていた。
「ありましたあ!」
 探していた物を見つけて、ヴァーナー・ヴォネガットが思わず歓声をあげた。何事かと小鳥遊美羽が近づいてのぞき込むと、脱衣籠の中に無造作にゴチックメイド服が脱ぎ入れてある。
「やったあ、やっぱりここに誰かいるんだ」
 嬉々として、浴室に入ろうとした小鳥遊美羽であったが、ここはやっぱりお風呂であることを思い出して、さすがに服を脱いでから入ろうと思いなおした。ヴァーナー・ヴォネガットの方も、物陰でいそいそと入浴の準備を始めている。
「誰がいるのかなあ」
「うん、やっぱりここに誰かいるんだね」
 わくわくしている女性たちの姿を見て、後からやってきた桐生 円(きりゅう・まどか)も、自分の勘が間違っていないことを実感した。後は、風呂に入って捜すだけだ。
 この時点で、ヴァーナー・ヴォネガット以外は、まだ世界樹地下の大浴場をなめていた。また、通常の浴室が上の方の階にあるのに、なぜここに大浴場と銘打った物があるのかも。
「ちょっと、これって、どうなってるんだもん!?」
 脱衣所と浴室の間の扉をくぐり抜けた小鳥遊美羽は、呆然とその場に立ちすくんだ。
 でっかい。
 大きいというレベルではない。これは、ほとんどクアハウスというか、その昔各地の温泉ホテルにあったというジャングル風呂と呼ばれる規模のお風呂であった。
 実際、以前あったスライム事件の際に、スライムと学生たちの最終決戦場として、ここはほとんど壊滅状態にまでいったんは破壊されつくされたのである。現在の大浴場は、その後の世界樹の急成長による拡張も含めて、新たにバージョンアップリニューアルされた物であった。
「なんなんだ、このでたらめさは。まるでお風呂のテーマパークみたいじゃないか」
 小鳥遊美羽に続いて入ってきた桐生円も、内装を見て唖然とした。
 浴室には、シュロによく似た植物があちこちに生えて、なんとも温室のような、お風呂としては開放的な自然の感じを演出している。通路代わりの小石を敷き詰めた足湯が縦横に走っており、いくつかは深くて、そのまま流れるお風呂になっていた。それに沿って進んでいくと、途中に点在しているいくつもの変わった浴槽が現れる。
「打たせ湯に、釜風呂に、泡風呂、超音波風呂、電気風呂、サウナ、岩風呂、洞窟風呂、ハーブ風呂、コーヒー風呂……。なんなのよ、ここは。お風呂の展示場みたい」
「まったく。岩盤風呂や、砂風呂や、檜風呂まである。さすがに露天風呂はないみたいだけど、ヴァイシャリーにある百合園女学院の寮のシャワーにくらべたら別世界だ」
「ツァンダにだって、こんなお風呂はないんだもん」
 唖然しながらも、とにかく今は奥へ進むしかない。小鳥遊美羽と桐生円は、足つぼマッサージ用の小石が敷き詰められた足湯を、いたたたと小さな悲鳴をあげながらザバザバと進んでいった。
「あら、二人とも意外と大胆ですね」
 きっちりとロングタオルをしっかり身体にグルグル巻きつけたヴァーナー・ヴォネガットが、二人に追いついてきて言った。自校の感覚で中に入った二人は、大きめのタオルで身体の前を押さえて隠しているだけで、後ろから見ればまだ若くて綺麗なお肌と、身体やヒップラインが丸見えだ。ややスレンダーすぎる桐生円と、それとくらべられると幼児体型にされそうな小鳥遊美羽の日本人的な体型が、実に対照的だとも言える。
「そういうあなたは、なんでそんなにがちがちにガードしているんだもん。見られて困るような貧相な身体しているとか……」
 自分たちのことは棚にあげて、小鳥遊美羽が聞き返した。うんうんと、桐生円もうなずいてみせる。
「あら、もしかしてあなたたち知らなかったとか。ここって、混浴ですよ」
「ええええええええ!!」
 ヴァーナー・ヴォネガットの言葉に、小鳥遊美羽と桐生円は思わずタオルを取り落としそうになって、あわてて身体を隠しなおした。
「いいいい、イルミンってててて……」
「だって、ここはドイツ式が基本ですから、温泉って言ったら、水着着用じゃないですか」
 ヴァーナー・ヴォネガットの言葉に、小鳥遊美羽と桐生円は顔を見合わせた。そういった風呂に慣れているヴァーナー・ヴォネガットとは違って、二人とも日本人としての常識が災いしてしまった。日本以外の国の公衆浴場は、水着着用のことの方が多い。それらは、たいてい男女混浴であった。
「大丈夫。男を見つけたら、その場で再起不能に破壊する」
 拳を握りしめて力む桐生円に、いったい何を破壊するのかと、ヴァーナー・ヴォネガットはちょっと背筋に寒気を感じた。
「とにかく、この中にいるのは確かですから、ゴチメイの皆さんを捜しましょう」
 ヴァーナー・ヴォネガットにうながされて、一同は奥へと進んでいった。
 いきなり視界が開け、大風呂と広い洗い場が目の前に広がった。
「はあ。極楽ですわ〜♪」
 大風呂の浴槽の端にもたれかかりながら、荒巻 さけ(あらまき・さけ)は、うっとりとした目で天井を見あげていた。
 彼女も、捜索隊の一人なのであろうが、どうも、人捜しよりもリフレッシュしにきたというのが正解のようだ。
「後で、展望台に夕焼けを見にいこうと思うのですけれど、葛の葉はどういたします?」
 ふうと、大きく息をつきながら、荒巻さけが、湯気のむこうにいるはずのパートナーに訊ねた。
「わらわは、ゆきまへんどす。ああ、かわゆいのぉ、ちんまいのぉ」
 湯船に浸かった信太の森 葛の葉(しのだのもり・くずのは)は、その腕の中にリン・ダージをしっかりだきしめて、顔を上気させていた。
「あーん、もう放してよお」
「よいのどす、よいのどすえ」
 ぐりぐりとリン・ダージの頭を撫でくり回しながら信太の森葛の葉が、悦に入って言った。初めて会ったときから、どうも母性本能を完全に刺激されてしまったらしい。かわいい子に対する猫かわいがりの歯止めがきかなくなっている。
「まあまあ、あっちも大変なことになってるよね」
 信太の森葛の葉の腕の中で必死にもがくリン・ダージを見て、どりーむ・ほしの(どりーむ・ほしの)が面白そうに言った。
「もぉっ、他の女の子見ないでぇ〜」
 湯船の中でどりーむ・ほしのにぴったりとくっついたふぇいと・たかまち(ふぇいと・たかまち)が、そう言ってぽかぽかとどりーむ・ほしのの胸のあたりを叩いた。
「だって見ないと探せないじゃないの〜」
「だって〜。もうみつけてるじゃないの〜」
「せっかくの目の保養ですから、他の女の子のチェックもしないとね。うわっ、あの子細い〜。あ、あの子もかわいい〜」
「もう、どりーむちゃんの意地悪〜」
「あー、ちょっとやばいかも……」(V 気絶時)
 ゆりゆりなやりとりを目のあたりにして、小鳥遊美羽が呆然と口をあんぐりと開けた。
「まあ、百合園女学院としては、この程度じゃあれだけれど。それにしても、湯あたりしそうだ」
「まったくですね」
 さすがにこの状況は予測していなかったヴァーナー・ヴォネガットは、桐生円の言葉に揃って頭をかかえた。
「とにかく、お湯に浸かるか。ここに突っ立っていても寒いだけだ」
「うん」
「どうぞ、お先に。ボクは、髪を洗っていますから」
 湯船にむかう二人を見送って、ヴァーナー・ヴォネガットは一人洗い場の方へ行った。
 すでにリン・ダージは確保したも同然なので、今さらあわてる心配もない。せっかくだから、ここでのんびりいろいろな人と裸のつきあいをするのも彼女のためだろう。今のゴチメイたちに欠けているのは、仲間以外の人との交流だ。場所の迷子はまだどうにでもなるが、人の心の迷子はいただけない。
 このとき、まだ誰も流れるお風呂の中を潜水したままさかのぼってくる黒い影の存在には気づいていなかった。
「よかった、迷子になったっていうから、ずっと捜したんだもん」
 すいすいと湯船の中を泳いでいきながら、小鳥遊美羽がリン・ダージに声をかけた。
「何よそれ。あたしは、ここに来たいから来たのであって、決して迷子なんかじゃないんだから。失礼しちゃうわ!」
 バシャバシャとお湯を跳ね上げて暴れながら、リン・ダージが言った。
「そんなに暴れてると、ますますお子様に見えるぞ」
 まさに子供っぼいリン・ダージの姿に、桐生円が苦笑しながら言った。
「あたし、子供じゃないもん。あんたたちの方が年下でしように」
 言いつつ、リン・ダージはまた暴れた。その拍子に、やっと信太の森葛の葉の手をすり抜ける。
「やった、やっと脱出した!」
 湯船から腰より上を露出させて、腰に手をやったリン・ダージが勝ち誇った。もちろん、タオルもないすっぽんぽんだが、幸いにして今のところここには女性しか見あたらないので、すっぽんぽんなんかまったく気にしていない。
 そのとき、突然大浴場の照明が消えた。
「どうしたの、停電?」
 荒巻さけが、驚いて天井を見あげた。
「いあいあいあいあいあいあいあいあ……」(V いあ(略)いあ)
 ぶきみな笑い声とともに、大風呂の中央にある噴水型の源泉の噴き出し口のあたりにスポットライトのようなものがあたった。光の中に、赤と白のストライプ柄の水着を着たいんすます ぽに夫(いんすます・ぽにお)の姿が浮かびあがった。
「演出は完璧です。さあ、ぽに夫君、きみの信仰が今試されるときなのですよ。混沌による深淵の静寂を私に見せてください」
 脱衣所の外にある配電盤のブレーカーを落としたナイ・フィリップス(ー・ー)が、期待を込めた声でつぶやいた。台詞とは裏腹に、いんすますぽに夫とお揃いのストライプ水着であるのは、この際目をつむって指摘してはいけない。
「いあいあ、だごーん。神は、こう申されました」
 全員が呆然と立ちすくむ中、軽く目を閉じたいんすますぽに夫が、光の中で厳かに語り始めた。
「今、熱き水の中で迷う者がいると。それを救うことこそ、僕の使命であると。神は、あなたの行動を常に見守っておられます。海は常に深く、人智の及ばぬ豊穣の揺り籠です。あなたも思いやりの心を持てば深淵へといざなわれるでしょう。そこに神様の御心はあります。さあ、今こそ、あなたも……ぶふあぁぁぁぁぁ」
 我が教団に入団をと言うために目を開いたいんすますぽに夫は、鼻血を噴きながらのけぞった。
 正面に立っていたリン・ダージのすっぽんぽんをまともに見てしまったのである。さらに、その後ろに呆然と立ちすくんでいた女性陣の面々の、タオルを取り落としたすっぽんぽん姿も、嫌でも視界に入ってくる。
「いや、これこそが、神が僕に与えた試練。さあ、皆さんで、一緒に入信を……」
 なんとか踏みとどまったいんすますぽに夫が、再び正面をむいた。
 その瞬間、大浴場をゆるがす悲鳴があがり、無数の黄色い桶が雨霰といんすますぽに夫に降り注いだのであった。(V ダメージでエロ声を頼む奴ちょっと出て来い)
 
「あれ? なんで停電してるのよ。もうイルミンって、管理がしっかりしていないんだから」
 薬草の山をかかえた雷霆リナリエッタは、大浴場の脱衣所に入ろうとして立ち止まった。なぜか、中の照明だけが消えている。
 周囲を見回すと、配電盤らしい物の扉が開けっ放しになっていた。
「これだよねえ?」
 大元のブレーカーを、パチンと上にあげる。直後に、脱衣所の照明が息を吹き返した。連動して、浴室内の照明も復活したことだろう。
「さてさて、この薬草で、お肌つるつるにしてリラックスするんだよねえ」
 うきうきと、「女ゆ」と描かれたのれんをくぐって、雷霆リナリエッタは脱衣所に入っていった。
「そうそう、一応は、人捜しもしなくちゃね。誰か、いる? リンちゃーん」
 脱衣籠にハーブをおいた雷霆リナリエッタは、壁際にある大きなゴミ箱のような物の蓋を開けて、形式的に中をのぞき込んだ。当然空っぽである。
「ここにはいませーんと。それにしても、これはなんの箱かしら。ええと……、スライム捨て箱? なんだか物騒な物があるのねえ」
 とりあえず、さっさと着ている物を脱ぎ捨てると、雷霆リナリエッタは薬草の入った籠をかかえて浴室に入っていった。
 停電のせいで中はパニックになっていたかもと思ったが、大風呂の所にやってくると、意外にも女の子たちが和気藹々と一体感をもっておしゃべりしていた。
「さあ、皆さん、ハーブを持ってきたんだよー。みんなで暖まろうじゃない」
 そう言うなり、雷霆リナリエッタは持ってきたハーブを湯船の中にドボンと籠ごと投げ入れた。爽やかなハーブの香りが、入浴剤としてたちのぼった。
「それで、ココさんたちとはどこで知り合ったの?」
 小鳥遊美羽が、リン・ダージに訊ねた。
「えっ、ココさんが来たのかにゃ?」
 その声を聞いて、ぼーっとしかけていたシス・ブラッドフィールドが虚ろな目で顔をあげた。
 ココ・カンパーニュが風呂に入ってくるのを期待して、その胸に生で飛び込むべく、ずっと湯船で待機していたのである。さすがに猫の姿であるから、男でもこの場合誰にも気にもとめられていなかったのだが、逆に小柄な猫の身体でずっと熱いお湯に浸かっていたのは無謀な行為だった。人よりも早く湯あたり状態になってしまったのに、ずっと我慢していたのである。
「ココしゃーん、ぶくぶくぶく……」
 さすがに限界を突破して、シス・ブラッドフィールドの身体がぷっかりと水面にうつぶせで浮かんだ。そのままゆらゆらとしているところへ、別の人影がぷかぷかと流れてきた。全身青痣と頭にでっかい瘤を作って水面にうつぶせに浮かんだ、いんすますぽに夫の身体である。ぽに夫はただの屍になった。(V Aボタンで調べる)
 お湯の流れに乗った二つの身体は、一度だけコツンとぶつかり合うと、別々の流れに乗ってどこかへと流されていった。