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ゴチメイ隊が行く2 メイジー・クレイジー

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ゴチメイ隊が行く2 メイジー・クレイジー

リアクション

 
    ★    ★    ★
 
「だから、そっちは違うって言ってんだろ、御主人」
 ひょいとソア・ウェンボリスの襟首をつかんで雪国ベアが叫んだ。
「ま、まさか、ピッカー部隊に志願した私が、率先して迷うわけないじゃないですか。一刻も早くココさんを見つけだして、錦鯉のことをちゃんと話し合わないと……」
「そんなんでちゃんと話せるんかねえ」
 雪国ベアは、半信半疑でソア・ウェンボリスに言い返した。どうすればいいかパニックになっているときのソア・ウェンボリスは、実に分かりやすい。
「大丈夫よ。今だって、ちゃんと捜索しているんだし」
「どこをだよ」
「決まってるじゃない、この扉の中はカフェテリア……」
 バンと勢いよくドアを開けて、ソア・ウェンボリスは凍りついた。
「ふはははははは、成功じゃあ。これで、にっくき者どもを……。ん? 誰じゃ?」
 実験室の中で、なにやら怪しい薬の調合を行っていたのは、アーデルハイト・ワルプルギス(あーでるはいと・わるぷるぎす)だった。
 この出会いは、ソア・ウェンボリスとしても、想定外だった。
「は、早く隠れなきゃ……」(V)
「ちょっと待つのじゃ」
 あわてて逃げ出そうとするソア・ウェンボリスを、大ババ様が鋭く呼び止める。
「いえ、決して怪しい者では。イルミン生のソア・ウェンボリスです」
 ソア・ウェンボリスが緊張して答えた。
「ふむ。ならばちょうどいい、手伝うのじゃ」
「ええー、私たちは今……」
「何かしておるのか?」
「い、いえ何も……」
 大ババ様に睨まれて、思わずソア・ウェンボリスは口ごもった。ここは、まずさからえない。
「いったい何を作ってるんだ……いえ、作っておられますのでしょうか」
 さすがに、雪国ベアも本能的な危険を感じて敬語に切り替える。
「よくぞ聞いた。これぞ、長年の研究の成果なのじゃ。あの小生意気な地祇たちであるざんすかたちを観察した結果、このキャンディが完成したのじゃあ」
 大ババ様が、ない胸を精一杯張って自慢した。
 なにやら、二つの魔女の大釜の中で、ぐつぐつと赤い物と青い物が煮えたぎっている。一瞬スライムを思い出したが、さすがにこれは関係ないらしい。
「キャンディ?」
 ソア・ウェンボリスと雪国ベアは、思わず顔を見合わせた。なんで、大ババ様は、キャンディなんか作っているのだろう。そうすると、この毒々しい原色の煮物は、飴なのだろうか。
「とりあえず、これを一口大に丸めるのじゃ。なんなら、おまえにも一つ……」
 そう言いかけて、大ババ様は、じっとソア・ウェンボリスの胸を凝視した。
「いや、お前はなめなくともよいのじゃ。うんうん」
 なぜか、ソア・ウェンボリスの両肩に手をかけて、大ババ様が言った。
 
    ★    ★    ★
 
「リンちゃーん。いるよねー、返事してー」
 薬草庫に響き渡る声で、雷霆 リナリエッタ(らいてい・りなりえった)は、リン・ダージ(りん・だーじ)を捜した。ラフなジャンパースカート姿で、ピンク色の赤毛は下ろしていつもとは違った髪型にしている。なにしろ、海賊の方にいろいろと出入りしたので、今はまだあまりゴチメイたちに顔が知られるのはよくないと思っている。顔が広いことは、いずれ何か役にたつだろうが、それは今ではない。
「はははは、ここかなー、ここかなー」
 同じ部屋にやってきたミネッティ・パーウェイス(みねってぃ・ぱーうぇいす)が、適当に棚の薬草をひっくり返しながら捜すふりをした。はっきり言って、そんな所に誰もいるわけないのだが、彼女としては、珍しい薬草の方が面白くて、棚を荒らすことに夢中になってしまっている。
「うーん、いい匂いだよ。これなんだろう?」
 ミネッティ・パーウェイスが、いい香りのする瓶に入った紫の乾燥花を棚から取り出して言った。
「それは、ラヴェンダーだよね。ああ、ハーブバスにはいいかも。他にも、何かないのかな」
 雷霆リナリエッタが、博識を披露した。次にむかう予定の大浴場でのことを思って、入浴剤に使えそうな薬草を適当にちょろまかし始める。
「よおし、次は薬品庫だよね」
 次の珍しい物を求めて、ミネッティ・パーウェイスは意気揚々と荒らし尽くした薬草庫を後にした。
「見てくだサーイ、これこそはカレープラントなのデース」
 細かい産毛のある銀灰色のハーブを見つけて、アーサー・レイス(あーさー・れいす)が歓声をあげた。
「それは、食用には使えないんじゃない」
 雷霆リナリエッタが、まさか食べる気じゃないだろうねと一言注意する。
「もちろんデース。この香り、これだけで最高デース!」
「だめだこいつ、早くなんとかしないと……。真宵君、さっさと俺たちも薬品庫に移動しよう」
 トリップしかけるアーサー・レイスを見て、土方 歳三(ひじかた・としぞう)日堂 真宵(にちどう・まよい)を急かした。
「ええ、このままここでカレールーの調合始められてもたまらないものね」
 日堂真宵は同意すると、土方歳三と一緒に、アーサー・レイスを半ば引きずって薬品庫へと移動していった。
 入れ替わるようにして、琳 鳳明(りん・ほうめい)が薬品庫から薬草庫にやってくる。
「まったく、イルミンスール魔法学校の薬品庫だと言うからどんな秘薬があるかと思ったのに、なんで、あんな変な物ばっかり積みあげてあったのかなあ。でも、薬草庫の方なら、絶対魔法学校らしく……」
 期待しつつドアを開けた琳鳳明は、中の惨状を見て唖然とした。泥棒でも入ったのではないかというぐらいにめちゃめちゃに荒らされている。いや、事実泥棒が入ったと言ってもいい状況ではあるのだが。
「まずい、まずいよー。せっかくの『冒険屋』コミュニティとしての初仕事のはずだったのに、初泥棒にされちゃうよー」
 困り果てていると、突然、琳鳳明の携帯が鳴った。
 びくんとしながらも、琳鳳明はおそるおそる携帯に出た。
『そっちの様子はどう?』
 同じ『冒険屋』のケイラ・ジェシータ(けいら・じぇしーた)からだ。
『こっちは、これからポンプ室にむかうから、誰か見つけたらすぐ連絡ちょうだいね』
「うん、分かった。それじゃまた後で……」
 適当に相づちを打って携帯を切ると、琳鳳明は呆然と荒れた室内を見つめた。
「と、とにかく、片づけないと。私のせいにされちゃう」
 あたふたと、琳鳳明は薬草庫を片づけ始めた。そんなことをしなくてもいいはずなのだが、生来の苦労性が、散らかった室内を放ってはおけないのだった。
 そのころ、犯人たちは、入れ替わるようにして薬品庫に移動していた。
「イルミンの薬品庫って言うから、さっきの倉庫みたいに怪しい薬ばっかり並んでると思ったのに、この白い粉ってなんなのかなあ」
 倉庫いっぱいに積みあげられている高分子ポリマーを見あげて、ミネッティ・パーウェイスが首をかしげた。
「まだあったのね……」
 日堂真宵が、頭をかかえた。スライム騒動のときに作った高分子ポリマーが、まだ大量に薬品倉庫に残っているのだ。これでは、薬品倉庫なのか紙おむつ原料倉庫なのか分かったもんじゃない。
「オー、今度こそ、カレー味の高分子ポリマーの開発に成功してみせマース」
 積みあがった高分子ポリマーを見あげて、アーサー・レイスが誇らしげに言った。
「これって食べられるの?」
 ちょっと触ってみて、無理だろうと分かっていながら、ミネッティ・パーウェイスが聞き返した。
「大丈夫デース。お腹の中でふくらんでダイエットに……」
 ごすっ。
 日堂真宵の鉄拳が、アーサー・レイスの言葉を途中で遮った。
「死ぬから、そんなことしたら死ぬから」
 絶対に食べちゃだめよと、日堂真宵はミネッティ・パーウェイスに念を押した。
「それで、この追加のポリマー作ったのは、アーサーか、アーサーなのか」
 答えも聞かず、アーサー・レイスの胸倉をつかんでぶんぶんと振り回す。
「しようもないことをする奴だ。後で、この粉はすべて石田散薬の薬に交換しておこう。うん、それがいい」
 土方歳三が、実家で作っている生薬の名をさりげなくあげて言った。
「まったく、実験室で何をやっていたんだか。こっちへきなさい」
 ぼろぼろになったアーサー・レイスを、日堂真宵は土方歳三とともに、実験室へと引きずっていった。
 勢いよくドアを開ける。
「いい所へきてくれたぜ」
 キランっと、雪国ベアが目を輝かせた。
「あーん、手伝ってー」
 こねこねとあめ玉を作り続けているソア・ウェンボリスが、日堂真宵たちに救いを求めた。
「いい所へきたのじゃ。さあ、お前たちも働け。嫌だと言ったら、美術室奥の特別室で、私のスペアボディ造りを命じるぞ。さあ、キャンディを丸めるのじゃ」
 大ババ様は、日堂真宵たちの姿を見て、嬉しそうに笑った。
 
    ★    ★    ★
 
「お疲れさまでしたー。迷わないでこられましたか?」
 寮の自室にやってきた久世沙幸と藍玉美海を出迎えながら、佐倉 留美(さくら・るみ)は訊ねた。
「ええと、それは……」
 思わず、久世沙幸が口ごもる。
 実際は、ここまで辿り着くのに紆余曲折がなかったとはとても言えない。
「そんなことはありませんでしたわよ。さあ、行きましょう」
 ごまかすように、藍玉美海が二人をうながした。
「それでは、まずはカフェテリアにむかいましょう。『宿り木に果実』に行けば、迷子の人たちを見つけられなくても、何か話が聞けるかもしけませんもの」
 そう言うと、佐倉留美は支度を調えて自室から出てきた。
「ああ、ねーさま、そっちは枝の先っぽにむかう方なんだもん。この先はだめだからねっ!」(V)
 なんの迷いもなく逆方向に歩き出す藍玉美海を、久世沙幸があわてて呼び止めた。
「分かっておりますわよ。ちょっと、確認のために行ってみただけですわ。さあ、早くカフェテリアにむかいましょう」
 かすかに顔を上気させると、藍玉美海はすたすたと正しい方向にむかって歩き出した。それを見て、佐倉留美がクスリと笑う。面識のない遭難者たちを捜すよりも、このまま迷子になるであろう藍玉美海を捜すのも楽しいかもしれない、などというちょっといけない考えが頭をよぎる。
「さあ、ここがカフェテリア……。おや、藍玉さんは?」
 ちゃんと三人揃って幹に戻ってから、一緒にカフェテリアのある枝に入ったはずなのだが、いつの間にか、やっぱり藍玉美海の姿が消えている。
「ああ、また勝手に歩いて行っちゃったんだ。まったく、ねーさまったら」
 久世沙幸が、頭をかかえた。
「どうしましょうか、捜しに行って入れ違いとなってもまずいでしょうし」
 手分けをしてしまっては、二人の様子を楽しむということができなくなってしまうと、佐倉留美は豊かな胸に手を添えてちょっと考えた。
「とりあえず、しばらくここで待ってみましょう。このカフェテリアにむかったはずですから、遅れてやってくるかもしれませんし」
「そうかなあ……」
 少し懐疑的であったものの、うまく反論できなくて、久世沙幸は佐倉留美とカフェテリアでお茶を飲んで待つことにした。
 『宿り木に果実』は、カウンターのある室内と、枝の洞(うろ)で天井が開いているオープンテラスで構成されている。
 ミリアフォレストに頼んで、今日のケーキセットを出してもらうと。二人はちまちまとそれをつつき始めた。
 イルミンスール魔法学校に通う佐倉留美にとっては、落ち着いた木の壁に囲まれた英国風ティーブレイクは馴染みのあるものだが、蒼空学園から来た久世沙幸にとっては、普段使っているデザイナーズカフェのような学内カフェとは違って、凄く珍しく見えるらしい。しきりにキョロキョロと視線を動かしては、目に映る物を楽しんでいる。
「まったく、危うく殺されるところだったですら」
「あー、だからごめんなさいと言っておるのじゃー」
 なぜか少しへこんだ頭のかぶり物を直すキネコ・マネー(きねこ・まねー)に、ビュリ・ピュリティア(びゅり・ぴゅりてぃあ)がしきりに謝っていた。
「まあまあ、二人とも無事だったんですから、もうそのへんでいいじゃないですか」
 間をとりなすように、大神 御嶽(おおがみ・うたき)が言った。
 もう一度頭を下げてから、ビュリ・ピュリティアが逃げるようにしてカフェテリアを出て行く。いったい、オープンテラスで何があったのだろうか。
「こっちなら、もう何も落ちてこないですら」
 カウンター近くのテーブル席について、キネコ・マネーがほっと安心したように言った。
 それを見て、あらあらあら、何があったのかしらと、ミリア・フォレストが柔らかい視線を投げかけた。
 
「うーん、ここにもいないようだ」
 ぐるりと店内を一周して、本郷涼介が言った。
「外の方にもいないよー」
 オープンテラスを見てきたクレア・ワイズマンが報告する。
「しかたないな」
 本郷涼介が三度めのダイスを振ると、今度は六が出た。一の目は下をむいている。
「よし、次は薬草庫を捜しに行くぞ」
「はーい」
 自分の信じるダイスの目に添って進む本郷涼介に、クレア・ワイズマンは迷うことなく従っていった。
「ふあーあ。どこを捜しても、同じような木のトンネルみたいで、これじゃあ方向感覚も狂ってしまいますね。とりあえず、ここで眠気だけでも覚まさないと……」
 注文したコーヒー牛乳とショコラケーキを前にしてレロシャン・カプティアティ(れろしゃん・かぷてぃあてぃ)はあくびを噛み殺した。
「うーん、このあたりにも海賊のアジトがあると思ったんだが、見当違いだったか。我ながら情けないぜ」(V 気絶時)
 しかたないというふうにケーキをつつきながら、トライブ・ロックスター(とらいぶ・ろっくすたー)はつぶやいた。ゴチメイたちの捜索はパートナーに任せてあるからいいものの、ここで待つしかないというのはとんだ思惑違いだ。
「なんだか、物騒な奴らが多いですら。海賊なんてつぶやいてますら」
 トライブ・ロックスターのつぶやきを耳ざとく聞きつけて、キネコ・マネーが言った。
「しかたないですね。なんでも、マッパーのバイトの子たちが集団で行方不明になってしまったようですから。出版社から、大量のバイトが、捜索に派遣されてきているようですよ。その中には、いろいろな人も混じっているでしょう」
「それで、他校の生徒がたくさんいるのですらね。まったく、迷惑なことですら」
 茶巾絞りの中の栗を捜しながら、キネコ・マネーが大神御嶽に言った。
「まあ、海賊みたいに危ない者は進入していないとは思いますが」
「こんな所まで海賊が来るんですら?」
「さあ。彼らの活動範囲は、主にパラミタ内海ですからね。あの辺の海の民や、沿岸のジャタ族の人たちが海賊になってしまうことが多いようですよ。とはいえ、現在のシャンバラは外国と大々的に貿易しているわけではありませんから。海賊と言っても、襲う船は限られるでしょうけれども」
「じゃあ、なんでおまんまくってるですら?」
 キネコ・マネーが素朴な疑問を口にした。小耳にはさんでしまったトライブ・ロックスターも、特に不自然な様子もなく耳を傾ける。
「たいていは、サルベージじゃないですか? 大昔の戦いで沈んだ船がたくさんパラミタ内海の海底にはありそうですし。それでなくても、夢の民を名乗る獣人の一部など、内陸まで足をのばして密輸で儲けているとかいないとか」
「景気のいい話ですらね」
「まあ、何を運んでいるのかは気になるところですが。あまり世間を騒がしてほしくないものですね」
「平和が一番ですら」
 やっと見つけだした栗を突き刺したフォークを高々と掲げながら、キネコ・マネーは言った。
 
    ★    ★    ★
 
 そのころ、間違えて食堂に行ってしまった藍玉美海は、はぐれたしまった久世沙幸たちのことを困った人たちだとぼやきながら、今度は美術室に迷い込んでしまっていた。
「まあ、蒼空学園のすっきりした美術室とは違って、ここは物置のように乱雑ですわね。これなら、どこかに迷子が隠れていても不思議ではありませんわ」
 描きかけの絵が乗ったイーゼルや、捏ねたものの放置されて固まった石膏などをかき分けながら、藍玉美海は美術室の奥の方へと進んでいった。
 奥は、倉庫のようでもあり、なんだか特別な部屋も併設されているような感じでもある。
「ここは、なんの部屋かしら?」
 ちょっと豪華な扉を、藍玉美海は押し開けて中に入ってみた。
「こ、これは……」
 怪しい雰囲気の室内には、なにやら小さな立像が所狭しと並んでいた。何を材料にして作っているのか分からないが、微妙に生々しい。
 それらは、大ババ様のスペアボディだったのだが、いかんせん作りかけであったので、藍玉美海はその正体に気づきもしなかった。
 だいたいにして、その制作方法は秘法中の秘法とされているのに、おおざっぱなところは生徒たちにも手伝わせるという大胆さである。最後の仕上げは大ババ様自らでやっているようだが、やれ髪の毛を仕込むだの、血肉を分け与えて完成させるだの、機晶姫や剣の花嫁の技術が密かに流用されているだの、いろいろと噂は絶えない。もっとも、噂に過ぎないので、信憑性については、限りなく怪しいものではあるが。とはいえ、遙か昔に、人のコピーを人工的に創り出す秘法があったことだけは確かなようである。現在はほとんど継承されていないところをみると、大ババ様のように、原型となる人物の資質がかなり成功に作用するのかもしれない。
「どれも、出来損ないの幼児体型ですけれど、よっぽど作者は下手ですのね。こんな同じ物をいくつも作るなんて。きっと失敗作なんですわ」
 まだちゃんと目鼻立ちが作られていない立像を前にして、藍玉美海は少し呆れた。同時に、ちょっと悪戯心が頭をもたげてくる。彼女はそれを押さえることができなかった。
「ふふふ……」
 拾ったパステルで、定番の悪戯書きを立像の額に描く。
「それにしても、ぺったんこですわよね。胸がない女の子など、ちっとも揉みがいがありませんわ。つまらないから失格です。書き書き書きと……」
 あろう事か、藍玉美海は、制作途中の大ババ様のスペアボディの胸の所に、「蒼空学園では、こんな胸はナイチチよ」と悪戯書きしてしまった。
「ふう、少しすっとしましたわ。こんな迷路みたいな学校造るイルミンに、一矢報いた感じです。さあ、頑張って沙幸たちを捜しましょう」
 テンションを上げると、藍玉美海はすでに違ってしまっている目的にむかって突き進んでいった。
 後日、この悪戯書きが蒼空学園に大変な事件を巻き起こすのだが、それはまた別の話である。