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嘆きの邂逅~闇組織編~(第3回/全6回)

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嘆きの邂逅~闇組織編~(第3回/全6回)
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リアクション

「水着なんて数年ぶ……いえ、5000年ぶりと言うべきかしら」
 休憩室の中から、水着姿で出てきたのはマリルだった。
「素敵です。私も大人の水着が似合う女性になりたいです」
 そう言いながら、スクール水着に上着を羽織り、橘 舞(たちばな・まい)が姿を現す。
「それじゃ、行くわよ。寒いし早く済ませましょ」
 水着姿の2人に、びしっと池の方を指差したのはブリジット・パウエル(ぶりじっと・ぱうえる)だ。
「魔女さんにお聞きすれば良いのかもしれませんが、ブリジットの話も一理ありますので……多分」
 舞は思わず多分をつけてしまった。
 今回のブリジットの提案は一理ある……と思うのだが、いつもいつも彼女の迷推理に振り回されている気がするので、少し警戒してしまう。
「マリルに池の水を飲んでもらって、記憶を思い出して貰った方がいいわよ。都合よくカルロの位置を思い出すとは限らないけど、ガブガブ飲めば、思い出す記憶も増えて、そのうち多分思い出すわよ」
 ブリジットははっきりそう言って、舞とマリルの手をぐいぐい引っ張り出す。
「アホブリが今回はまともなことを言っておる」
 池に向う3人の後に、金 仙姫(きむ・そに)もついていく。
「まぁ、本来は、それで普通なんじゃが、ブリらしくないのぉ、ちょっと詰まらぬわ」
 軽く笑みを浮かべながら、歩いて引っ張られているマリルに語りかける。
「忘れておきたい過去もあるであろうが、過去の記憶がより鮮明になれば、古王国時代の生の情報が増えることにるしのぉ」
「そうですね……。思い出したくないこともありそうですが、そうは言ってられませんから。ただ」
 マリルは腕を引っ張っている相手を見て、困った顔をする。
「なんだか強制的に無理やり水を飲まされそうな気がするのは気のせいでしょうか」
「大丈夫じゃよ、ブリとて、突き落としたり、顔を突っ込ませたりはしないじゃろうて。……多分」
「多分ですか……多分なのですね」
 マリルが舞の方に目を向けると舞も曖昧な笑みを見せた。
「大丈夫です、私も一緒に入りますから」
 不安なのだろうと思って、舞がそう言うと、マリルは微笑んで「ありがとうございます」と小さく首を縦に振った。
「がぶがぶは冗談だって。無理なら魔女に聞けば済む話だし、選択肢が二つあるなら、どっちもやったら、成功率2倍になるじゃない」
 ブリジットがにこっと笑う。
「成功率2倍はおかしいがの」
 頷きながら仙姫も笑い、4人は笑みを浮かべながら池に向っていった。

 百合園生達がはしゃいでいる声が響いているけれど。
 池の水は冷たかった。
 マリルは舞より年上だが、小柄だった。
「行きましょう」
「はい」
 舞が差し伸べた手に、マリルは手を重ねて、一緒に池の中に入っていく。
 マリルは水の中に手を入れると、少しだけ掬って口に運ぶ。
「かけますよ」
 舞が掬った水を、マリルにそっとかけていく。
 その後から、仙姫も池に入って、ごくごく飲んでみる。
「ふむ……」
 頭の中に浮かんだ映像に、仙姫はこくりと頷く。
「今のわらわと、さして変わらぬではないか……つまらぬ」
 言いながら、直ぐに水辺へと戻る。
「どんな過去よ?」
 ブリジットの問いに、仙姫は今思い出したことをそのまま話して聞かせる。
 歌と舞踊と伽耶琴という楽器のの名手であり、いつも皆の話題の中心、皆の人気者。『鶯の君』として周囲から称賛されていた、と。
「脚色は駄目でしょ」
 即座にブリジットのつっこみが入る。
「脚色などしておらぬ。もっとこう、な、なんだって! というの期待したんじゃが……」
 ふうとため息をつく仙姫。
「いや、過去がそうだとしたら、今と十分ギャップがあると思うけどね」
「ブリジット、タオル」
 そんな話をしている間に、舞と共にマリルも水辺に戻っていた。
 持っていたタオルをブリジットが舞とマリルに渡す。
「で、どうだった?」
 ブリジットの問いに、マリルは悲しげな顔を見せた。
「カルロの場所は分かりませんでした。多分、私は知らなかったのだと思います。思い浮かんだのは、主に滅びた村や、村に残っていた合成された獣達……でした」
 不安や悲しみの表情を見せるも、直ぐにマリルは微笑んでみせる。
「思い出さなければいけない大切な気持ちを、思い出しました。ありがとうございます」
 マリルはタオルを抱きしめながら3人を見て、頭を下げた。
「言わなければならないことも、あります――」
 そして、マリルは周囲を見回して、1人の少女に目を留める。

「きゃっ、冷た〜いっ」
「せっかくですし、遊びましょう」
 スクール水着姿の稲場 繭(いなば・まゆ)が、水辺でぼーっとしていたアユナ・リルミナルに、水をパシャパシャかけていく。
 アユナは水着には着替えてなかった。
「ほらほら、ぼやぼやしてると水浸しだよー♪」
 繭のパートナーのエミリア・レンコート(えみりあ・れんこーと)も、アユナや服を着ている百合園生に水をバシャバシャかけていく。
「やだもう、エミリアちゃんやりすぎっ。えーい!」
 靴と靴下を脱いでアユナは服を着たまま池に入り、仕返しとばかりに繭とエミリアに水をかけていく。
 アユナは裕福な家に生まれて、両親にも可愛がられて育ち、さほど苦労というものを経験してはいない。
 だけれど、過去というと。
 一つだけ、きちんと思い出すべきなのか、忘れてしまった方がいのか迷っていることがある。
 それは半年くらい前のこと。
 憧れていた怪盗舞士と会った時のこと。
 あの時の出来事を、彼という人物を自分の記憶の中に留めておくべきなのか、それとも忘れて新たな道を歩むべきなのか。分からずにいた。
 だからちょっと、この池に入るのは怖かった。
 でも、大好きな友達がとても楽しそうで、こうして誘ってくれたから。
 アユナも友達の所に、足を踏み出したのだった。
「冷たい、冷たい、冷たーい」
「服脱いどいた方がいいんじゃないの? 着替えもってきてないんでしょ」
 言いながら、エミリアは容赦なくアユナに水をかけていく。
「いいもん、その時は繭ちゃんの服借りて帰るもん! 繭ちゃんは水着姿とっても可愛いからそのままでも大丈夫だし!」
「うん、それは懸命な手段だ」
「ええっ!? この姿じゃヴァイシャリーに帰れないですっ」
 アユナとエミリアの会話に、繭が赤くなる。
「アユナ、さん」
 水を掛け合って、笑い合う3人の元にハーフフェアリーの女性――マリルが、近づいてきた。
「は……はい」
 途端、アユナは笑みを消して、顔を強張らせる。
「ちょっとよろしいでしょうか。焚き木のところで」
「うん」
 不安げに返事をした後、アユナは繭とエミリアの方に目を向ける。
「待ってますから。また遊びましょう」
 そう繭が言うとアユナは首を横に振った。
「一緒に来て。一緒じゃないとダメ、かも」
 邪魔をしては悪いと思っていた繭だけれど、不安そうなアユナがとても心配になり、マリルに目を向ける。
「はい、お友達も是非一緒に」
「はい」
 繭は返事をして、安心させようと冷たいアユナの手をぎゅっと握り締めた。
「冷えたしね」
 エミリアは軽く笑みを浮かべながら、マリルについていくことにする。

 薪に火をつけて、温まりながらマリルはアユナと友人の繭、エミリアに話していく。
「私のことについては、皆さんはもうご存知ですよね。アユナさんとは目覚めたばかりの頃、盟約の丘でお会いしております」
「うん、でも殆ど話ししてないよね」
「はい。あの時はごめんなさい。記憶が混乱していて、どう説明したらいいのかわからなくて」
 息をついて、しばらく沈黙した後。
 マリルはゆっくりと語り始める。
「ファビオは昔から、自己犠牲に走る傾向が強い子でした。あ、私達は彼のことを幼い頃から知っているのでつい子共扱いしてしまいますが、復活した彼は皆さんより年上ですね」
 軽く微笑んで話を続けていく。
「復活後の彼の行動も、こうなることを覚悟した上での行動だったのでしょう。彼の行動は身勝手でもあり、ヴァイシャリーの皆様に申し訳なく思っています」
「騒がせてくれたよね。ま、楽しかったけど」
 エミリアはにやにやとそう答える。
 マリルは苦笑して軽く頷いた。
「彼は計画を実行する上で、一つ大きな問題に悩んだと思います。それは、自分の封印をそうするか、です。解くことが出来るのは自分自身。そして命を削る覚悟があるのなら、パートナーや血や能力を受け継いでいる者にも解くことが出来るでしょう。事情はよく分からないのですが、彼自身は敵と思われる存在に捕まりました。そして、瀕死の状態が続いている――つまり、パートナーもまともに行動の出来ない状態にさせられています。これは、敵が封印を私達に解かせないためではないかとも思えます。そして、こうなる可能性もファビオは考えていました。そう断言できるのは」
 マリルはアユナを真っ直ぐに見つめた。
「あなたがファビオの力の一部を受け継いでいるからです」
「……えっ」
 アユナは小さく声を上げて、目を見開く。
「やっぱり、知らなかったのですね。……額に、その印が見えるんです。私はあなたとお会いして、ファビオの行ったことをなんとなく察しました」
 呆然としているアユナに、ゆっくりとマリルは語っていく。
「ヴァイシャリーの方々に助けてはいただいていますが、ファビオが救出される可能性は低いのではないかと思っています。この後、彼の封印を解除しなければならない状況になった時――あなたにそれが出来ること。そして、それを知られたら、あなたが狙われる可能性があることを、知っておいて下さい」
「ひ、額の、それって……皆に、見えるの?」
 額に手を当てて、アユナが尋ねる。
「見えるのは私達6人の騎士だけですが、強い力を持った人物には見えるかもしれません」
 アユナは頭が真っ白になり、震えることも忘れて目を大きく開けて呆然としていた。
「あの……私に何かできることはありますか?」
 あの時、力の一部を自分も受け取っていたら――アユナを安心させてあげらたかもしれないのにと、繭は思いながらマリルに真剣な目で尋ねる。
「支えていてあげてください。全ての封印を解く必要があるのかどうかもまだ分かりませんから。解いたほうが良い状況になったとしても、アユナさんの意思で力を貸してくださるかどうか決めていただければと思います」
 マリルはそれだけ言うと、3人に頭を下げてログハウスの方に戻っていった。
「また面白くなりそうだね。ワタシの希望としては、アユナより男共に頑張って貰いたいね〜」
 マリルの背を見送りながら、エミリアは笑みを浮かべる。
 繭はアユナにただ寄り添って、彼女が落ち着くまで見守り続けるのだった。