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精霊と人間の歩む道~凍結せし氷雪の洞穴~ 後編

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精霊と人間の歩む道~凍結せし氷雪の洞穴~ 後編

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●献身は無駄にしない! 必ず助け出す!

 降り始めた雪はやがて吹雪となり、氷雪の洞穴を雪の中に沈めようとしている。
 それは人の力では到底崩せない、自然の牢獄。
 
 そして洞穴の中では、完全復活を遂げようとしている『氷龍メイルーン』が、レライア・クリスタリアの自らを犠牲にした封印に押さえつけられてなお強大な力を生徒たちに振るっていた。
 
 彼らは永久凍土の世界に、永久に閉じ込められてしまうのだろうか。
 それとも力を合わせ、再び封じる、もしくは第三の選択肢を講じることが出来るのだろうか――。

 天井から生まれた氷柱が、重力と敵意の意思を持って降り注ぐ。その中を、ブースターを展開したララ サーズデイ(らら・さーずでい)が駆け抜け、メイルーンを目の前に地面から伸びる氷柱の上に立つ。
「私は白薔薇の騎士ララ。イナテミスの民に成り代わり君を成敗――」
 名乗りを言い終わらない内に、メイルーンの吐き出されたブレスがララを吹き飛ばす。ヒーローと魔法少女以外は、名乗りをあげても攻撃を食らうのが世の常である。
「ララーッ!!」
 宙を舞うララへ、リリ・スノーウォーカー(りり・すのーうぉーかー)の叫びが飛ぶ。瞬間、リリの懐に収められていた【四角い水色の直方体】が一際強い光を放ち、彼女とロゼ・『薔薇の封印書』断章(ろぜ・ばらのふういんしょだんしょう)、そしてララを包み込む。直後、光に包まれたララが意識を取り戻したように空中でブースターを展開し、地面にとん、と足を着ける。
「ララ、大丈夫なのか?」
「ああ、この光のおかげだろうか。……それよりも、せっかくの口上を邪魔するとは、騎士道を知らぬ奴だ」
「呑気なことを……」
 ため息を漏らすリリへ、ロゼが歩み寄り、自らに纏われた光の感触を確かめるようにしながら呟く。
「ふむん、わらわが見つけたものにこのような効果があろうとはな」
 そこへ今度は、メイルーンを構成する氷柱から新たな氷柱が生み出され、一行へ向かってくる。先程のララの様子から判断したロゼが回避動作を取らずにいると、しかし氷柱は真っ直ぐにロゼへ飛んでくる。身の危険を察知したロゼが回避行動を取って事なきを得るが、直撃を受ければ間違いなく致命傷であっただろう。
「なぜじゃ、なぜ避けられぬのじゃ」
「ふむ……おそらくこの光は、氷結属性の攻撃を減じてくれるのだよ。先程のは分かりにくいが、ララが剣を振るうのと同じ、メイルーンの物理攻撃なのだよ」
「なるほど。これで奴のブレスに対しては、多少思い切って行けるというわけだな。それでもなかなかの威力だが」
 実際、メイルーンの冷気放射を受けたララの身体は、あちこち凍り付いていた。光の効果で威力は減衰されているものの、数発も食らえば流石に戦闘不能になってしまうだろう。
「それでも、避けにくいブレスへの対抗策としては有効じゃ。氷柱はわらわとララならば避けられよう。……リリ、そなたはそこで援護に徹するがよい。上からの攻撃は防げるじゃろうて」
 ロゼが示した先では、四本の氷柱を支柱に、要請を受けたカヤノ・アシュリング(かやの・あしゅりんぐ)の作り上げた氷の屋根が載せられた塹壕らしき物が構築されていた。これなら天井からの氷柱は防げるであろう。万が一直撃コースの氷柱が飛んで来ない限り、特にリリのような敏捷性に難のある後衛型の生徒たちには、強力な盾となるはずである。
「分かったのだ。二人とも……気を付けるのだぞ」
 リリの言葉にララとロゼが頷き、そしておもむろに飛び出していく。メイルーンに至る道を確保するため爆炎を繰り出す二人を、無数の氷柱が出迎える。

「紅蓮の薔薇よ、その激情に身も心も焼き尽くせ!」

 塹壕の中から、リリが炎を飛ばして援護する。
 今ここに、メイルーンとの決死の戦いの幕が開かれたのであった。

「くっくっく……なぁるほど、コイツにはそんな力があるのか。それじゃ早速使って俺様最強だぜヒャッハー!」
 ウィルネスト・アーカイヴス(うぃるねすと・あーかいう゛す)が、ヨヤ・エレイソン(よや・えれいそん)からこっそり奪い取った【四角い水色の直方体】の力を発動させると、ウィルネストの全身を水色に光る靄が包み込む。その光はリリたちの纏っているものより三倍ほど濃いようであった。
「ウィルネスト、今の見たか!? 俺が取得したあの立方体、冷気を軽減……って、ない!? ……あ!! おまえ、抜き取ったな!? しかも勝手に使ったな!? トドメに自分だけにとは、おまえというヤツは……!!」
「ウィルー、独り占めはよくないですよー!? シルヴィットにも分けるですよー」
 ウィルネストに直方体を奪われたことを知ったヨヤが憤慨を通り越して呆れ、シルヴィット・ソレスター(しるう゛ぃっと・それすたー)がウィルネストの纏う光を掻き分けて自分にくっつけようとする。
「わりぃわりぃ、使ってみたらこうなっちまった」
「……まあ、使ってしまったものは仕方ない。それに不服だが、今回の敵に対してはおまえが最も適任だろうからな。存分に働いてこい、俺とシルヴィットは援護に徹する。手を抜いたら飯抜きだぞ!」
「ヨヤさんそいつはカンベンしてくれよ。……言われずとも、紅蓮の魔術師、本領発揮と参りますかぁ!」
 魔力で生み出した炎を両手にたぎらせ、ウィルネストが飛び出していく。その後ろをヨヤ、シルヴィットは後方で歌による援護を行う。
「ではでは、シルヴィットの美声、披露しちゃいますよー!」
 歌の効果で、まるでメイルーンの動きが鈍るように、天井から降り注ぐ氷柱の頻度が減る。視界外からの攻撃を気にして思い切った行動を取れなかった近接攻撃組は、それを機に攻撃を集中させ、立ちはだかる柱の一つを崩壊に導く。
「二兎を追うものは一兎をも得ず、だぞ? 狙いが甘い……ッ!」
 飛んできた氷柱を避けたヨヤが、次に飛んでくる氷柱の挙動を見切り、攻撃の手を繰り出す。ギロチンが首をはねるように叩っ斬られた氷柱が転がり、無数の欠片に砕けて消えていった。
「そン程度の冷気で、俺様は止められねぇ! ファイアストーム!
 吹き付ける冷気も、ウィルネストを覆う光が軽減してくれる。お返しとばかりに炎の嵐で道を作りつつ進んでいくと、メイルーンの冷気放射に対抗していたカヤノが吹き飛ばされ、ウィルネストの傍で体勢を立て直す。
「あたしを冷気で吹き飛ばすなんて、いい度胸してるじゃない! 今度は本気で――」
「おいカヤノ、無理すんなよ? テメーの魔法じゃ分が悪いンだからな」
 ウィルネストの姿を認めたカヤノが、飛び出そうとするのを留まる。
「そんなこと言われたって、じゃあじっとしてろって言うの!?」
「そういうわけじゃねーよ。一人じゃ無理なことも、二人じゃ何とかなるってこともあンだろ?」
「…………そうね。そういう考えもあるわね。じゃあウィル、案を言いなさい」
「人使い荒いなー。後、これで貸し一つな」
 その後もああだこうだと言いつつ、ウィルネストとカヤノがメイルーンへの対策案を組み立てていく。カヤノの氷による攻撃は貫徹力に優れるが、彼女の攻撃は常に氷結属性のため、メイルーンには効果がないどころか吸収される。一方ウィルネストの炎の嵐は、メイルーンには効果絶大だが、貫徹力がない。
「じゃあ、一緒にすればいいじゃない」
「簡単に言うなよテメーは……ま、俺もそうすりゃいいって思ったけどな!」
 言うが早いか、二人が並び、それぞれ片方の手をかざして魔力を高め、ウィルネストは炎を、カヤノは氷を顕現させる。狙うは、メイルーンを形作っている氷柱。ダルマ落としのように足元から崩していけば、『目』を穿つ機会は必ず生まれるはず――。

「貫け氷塊! 燃え盛れ炎!
 ファイアピアシング!!」


 生み出された炎を纏った氷塊が、鋭い先端を次々と氷柱にぶつけていく。やがて一つの氷柱が音を立てて崩れ、メイルーンの見上げる巨体が僅かばかり傾き、氷の欠片が舞い散り、熱に溶かされて消えていった。