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君を待ってる~剣を掲げて~(第3回/全3回)

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君を待ってる~剣を掲げて~(第3回/全3回)

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第10章 世界に還る
「雛子ちゃん、一緒に剣を掲げて」
 アリアは雛子と虹七と共に、ルミナスホープを握った。
 それが、合図。
過ぎる思いと共に、力ある言葉を放つ。
「想いの力よ!」
 ウサギ騒動から始まって、キノコとか雪とか色々あったよね。
「絆の輝きよ!」
 皆で力を合わせて夜魅ちゃんを救った時のように、影龍だって、きっと救える。
「皆の願いよ!」
 この戦いが終わったら、またお茶会しようね。
 目覚めた魔剣たちも、みんな一緒に。
「みんなの剣に、心に、希望の光を!!」
 光が、浄化を望むたちへと分け与えられた光が、それぞれの手の中で強くなる。
 だけど、アリアは知っている。
(「きっと魔剣の力が及ぶのは、ここまで」)
 後は皆の正しき心次第なのだと。
 分け与えられた光はそれだけ。
 それを自らの思いで何倍、何十倍に輝かせる事が出来るかどうかは、皆に掛かっている。
「だけど、私は信じてる」
皆の心を、その強さを!
アリアは皆……【魔剣を支える】者達と一緒に想いを、願いを束ね、魔剣を天に掲げた。

 宝珠を通し、魔剣を通し。
 共鳴した共感した魂が思いが、繋がっていく。
 魔法陣みたいに、光の軌跡が描かれていく。

「光の弓を引くときこそ、なんだかなぎさんと繋がっているみてえな……そんな心地良い気分になれるんだよねえ」
剣と違い、心がすっと澄む感じがする獲物。
長弓の、引き絞られていく弦と反比例するように、カガチは口の端を釣り上げた。
パワーブレス……乗せられた力のせいだけでなく。
なぎこの思いと存在を感じながら、解き放つ。
「さぁ、還れよ。よぅくお眠り」
紺青に煌く矢は、闇を縫うようにして、影龍へと飛んで行った。
 それを合図に、全てが動いた。
「行け、風天!」
 セレナは強化した【奈落の鉄鎖】でもって風天の周囲の重力を調節すべく、転経杖を回した。
軽く首肯し、風天は軽やかに駆ける。
未だ、影龍の闇部分は抵抗を続け。
だがそれは最早、風天の障害足り得はしない。
「友のため、護りたい人達のため。我が信念、我が命、我が魂を刃に乗せて……貫くのみ!」
 真っすぐ前を見て、駆ける。
 セレナを皆を信じ、心を合わせて。
「この光が、皆を導くように」
 光条兵器を高く掲げるのは、唯斗。
 身の内、確かに感じる影龍の息吹。
 知らず手が微かに震えた時、背中から回された温もりを感じた。
「全力でわらわは唯斗を支える。だから影龍を救ってくれ……頼むぞ、唯斗!」
 支える、エクスの鼓動と温もり。
 震えが、止まる。
 そう……唯斗は一人じゃないから。
 エクスの皆の、影龍の願いさえ込めて、光を掲げる。
「この光が、優しく世界を照らしますように……」
「我等の想いで輝け、契約器」
 二人を中心に、光があふれた。

「一緒にやろうぜ、シャドウエッジ」
 ショウは懐に入れた邪剣の欠片に語りかけ、剣を掲げた。
 キアはこれを、シャドウエッジの思いの欠片だと言った。
 だとしたら、もしここに思いが、心が僅かでも残っているのならば。
「力を貸してくれ。共に、影龍を救ってやろうぜ」
 そして、お前自身を。
 ショウはその思いを噛みしめ、乱撃ソニックブレードを放った。
「今だ義彦、一度邪剣を受け入れたお前ならできる! お前の剣で奴の心の殻を打ち砕け!」
 にゃん丸の合図で、パートナーたる魔剣を振るう義彦。
 封印剣を手にした陸斗もいる。
「夜魅、一緒に影龍を世界に還してあげよう!」
「2人とも頑張ってください」
 ベアトリーチェは自らの光条兵器……光り輝く巨大な剣を共に手にした美羽と夜魅に声援を送った。
「任せといて!」
 美羽は答えながら、微かに震える夜魅の手に、そっと自分の手を重ねた。
「大丈夫、だよ。これは殺す為じゃない……解放する為だから」
「……うん」
「そうだよな、おまえが外の世界に出たいと思ってたように……こいつも同じことを考えてたんだよな」
 光と闇をまとう影龍を静かに見つめ、壮太はそんな夜魅に小さく笑んでやった。
 元は一つの、同じ存在だったのだから。
「だけどよ、本当にいいのか?」
 影龍は……少なくとも負に囚われたままの影龍をこのまま放置する事は出来ない。
 古代よりの人々の妄執や恐怖、膨大な負のエネルギーは浄化してやらねばならない。
 それでも、アレもまた夜魅と同じものだったのだ。
「……うん」
 夜魅は影龍を見あげ、大きく頷いた。
 隣に立つ美羽は気付く。
 その震えが、止まっている事に。
「解放、してあげて」
「……分かった」
 それだけを口にし、壮太は星輝銃を構えた。
「オレは正義の味方じゃねえ。オレの中にある光なんざちっぽけなもんだし、足掻いたって救えないもんは救えねえ。でも影龍を解放してやりたいとおまえが願うなら、叶えてやろうと思うんだよ」
「助かるなら皆一緒がいいよね。壮太、夜魅ちゃん、僕の力も使って」
ミミは壮太の銃を持つ腕に手を添えた。
光の力を送る。
より強い光が届くように。
「いっけぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」
「受け取れよ。オレの光を、おまえにありったけくれてやる」
 そして壮太は夜魅や美羽とタイミングを合わせ、光を解き放った。

「道は、自分で切り開かなくちゃなんだ!」
 光をまとう剣を振り下ろす瞬間、葛葉翔の脳裏を様々な光景が過ぎった。
パラミタに来た事。
高根沢理子と出会った事。
闘技場で負けた事。
そして、誰にも負けないと誓った事。
 翔はそれら全てを胸に、剣を振り下ろした。
「夜魅も、邪剣も、そして影龍も……皆みんな、五千年前の戦いの犠牲になった。……独りで寂しいって泣いてた」
 ジュジュもまた、光条兵器を掲げていた。
 胸元の袋には、邪剣の欠片。
「こんな事もう、繰り返させたりしない……ここで悲しみを、止めるわ」
どうか奇跡が起こりますようにと祈りながら、ジュジュは皆とタイミングを合わせ光条兵器を振り下ろした。
「いいじゃないか、もう全員を巻き込んで大団円を迎えようじゃないか! 誰もかも、犠牲に、生贄にせず、みんなで英雄になって笑い合おうぜ!」
 正悟は断ち切るべく、吼えた。
皆の思い……束ねるのは浄化の為じゃない、皆で笑いあう事の為のはずだから。
魔剣から、集まる光で因果を断ち切ってやりたいから。
「俺が、断ち切る……災厄という、影龍の運命を!」
 振り下ろされる光。
 突き刺さる光。
 それは影龍を清め、蒼天を光で満たして行く。
そして、風天の【疾風突き】が、影龍の中心に突き刺さった。


 巨大な黒い卵にヒビが入った。

 そこからもれた光。

何かが生まれるように、花が開くように。

 あふれた光……光と化した蒼天は闇の殻を突き破り。

 そうして。

「……どんな強い嵐も辛い雨でも、その後には必ず青空が広がりますよ。ここは『蒼空』学園なのですからなおの事です」
 頭上に果てしなく広がる蒼い空に、真人が目を細めた。

 その蒼天の下。

 光と闇は混じり合い、無数の花びらみたいに降り注ぎ。

 ゆっくりゆっくり、世界に還っていった。


「……」
 それを沙幸は瞳に焼き付けた。
影龍の心を救うことができたら、もしかすると消滅してしまうのかもしれない。
そんな気はしていた。
「でもね、世界に還るということは、きっとこの蒼空学園……いえ、パラミタと同じ存在になるって言うことだと思うの」
そしてそれが意味することは。
「私達と共に生きるって言うことに繋がると、私は信じているよ」
 寄り添うようにそっと、美海がその肩を優しく抱き寄せた。
「……ぁ」
 胸元で一度、トクンと鼓動が聞こえた気がして、ジュジュは目を見開いた。
 ありがとう、そう告げられた気がした。
 或いはそれは、小さな産声だったのかもしれない。
「うん、だから……さよならは言わないよ」
 祈る様に、抱きしめる。
 信じる。
 蒼天とも邪剣ともきっとまた会える、と。

「で、まさかサヨナラとか言わないよな」
「……」
 壮太に軽く睨まれ、夜魅は押し黙った。
 影龍も蒼天も世界に還り。
 本来なら、その心である夜魅も還るべきなのだ。
 だけど。
「あたし……」
「ここにいていいに決まってるじゃない」
「ていうか、消えますとか言ったら、怒るよ!」
 ジュジュが美羽が当たり前みたいに言うから。
「ん〜、バランスもいいんじゃないか? 負の部分を受け入れた酔狂なヤツらがいたからな。反する部分の夜魅が還っちまったら、また光と闇のバランスが崩れると思うぞ」
 どこまで分かって狙ってやったのか、肩目をつぶってみせるにゃん丸。
「それに言った筈だぞ、誰も犠牲にしたい、って」
 正悟に頭を撫でられ、夜魅の瞳から堪え切れず涙が零れおちた。
「夜魅はこれからも私達と一緒に、笑って成長していくの。蒼天の分まで共に生きよう!」
 そうして、コトノハとルオシンに抱きしめられた夜魅は、堰を斬ったように泣き出しながら。
 何度も何度も、頷いた。

「やれやれ、あれだけ危険に身をさらして……割に合わねぇな」
 どさくさに紛れて撤退しつつ、ジャジラッドは苦い笑みを浮かべた。
「それでも……まぁ、命を掛けないと力は手に入らないしな」
 トン、胸に触れる。
 微かな脈動。
 受け入れた、影龍の一部が確かにそこには在った。
 どれだけ役に立ってくれるのかは分からない、けれど。
「約束だ。これから世界を、破壊と殺戮を見せてやるからな」
「やれやれ、あの御仁も懲りないねぇ」
 苦笑交じりにもらしつつ、トライブもまた撤収に取り掛かる。
 といっても、身軽なものだ。
「まぁある意味、重いものを背負っちまったかもしれないがな」
 追っ手はない。
 或いは、静麻達は敢えて見逃してくれたのかもしれないと、思いつつ。
「あの坊やはこれからどうなるか……」
 収容所に送られるか、裁きを受けるのか、それはトライブにも分からない。
 ただ。
「生きていれば、何とかなる……そう、生きてさえいれば」
 トライブはそして、身をひそめるようにして、離れた。
 邪剣の欠片と影龍の欠片を、新しく相棒としながら。


 雪のように桜吹雪のように。
 優しく儚く舞い散る光と闇に、アリアはそっと胸元で両手を組み合わせた。
「命は、心は巡り、また逢えると信じて、あの花壇で、みんなで君を待ってる。だから影龍、今はお休みなさい」
「……お姉ちゃん」
 その服の裾を虹七に引かれ、振り返ったアリアは一泊後で小さく息を吐いた。
「……サヨナラ、なんだね」
 凛としたたたずまいの女性、どこかキアと似た彼女の穏やかな微笑みに、悟り。
「我も元々、消滅するはずだったのだ……あの時に」
 告げるルミナスホープの姿は淡く、乱舞にかき消されていく。
「ありがとう……友よ」
 少しだけ恥ずかしそうに告げて……その姿もまた世界に溶け込むように、消えた。
「うん……また、ね」
 命は巡り、心は巡る……だからいつかまた、きっと。
 頬を濡らすものをそっと拭い、アリアと虹七はその場にたたずんでいた。
 光と闇の最後のひとひらが大地に還るまで、ずっと。
 足元にはいつしか、たくさんのたくさんの花々が、咲き乱れていた。