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君を待ってる~剣を掲げて~(第3回/全3回)

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君を待ってる~剣を掲げて~(第3回/全3回)

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第7章 闇に揺れて
「……いいのですか? 影龍の浄化の方に行かなくても。後で後悔しませんか?」
闇の中の声。
羽入 勇(はにゅう・いさみ)ラルフ・アンガー(らるふ・あんがー)の問いに一度だけ目を閉じてから、答えた。
「うん!」
 その表情も心の動きも、闇に隠されラルフには見えない。
 でありながらラルフには『見えた』。
 勇の迷い無い笑顔が。
「行こう、りっかちゃん!」
「ど……して……?」
 闇の中、か細く震える声に。
「約束を守るという事が大事だから。ボクね、最初口にしたお茶会を一緒にっていうとても小さな約束の為に凄く頑張ったんだよ」
 勇はニッコリと笑んだ。
「だからりっかちゃんとの約束も絶対守るよ。パートナーの人、解放されて良かったね」
 小さな約束でも守る。
そして他の仲間達を信じている。
それが勇の中の光。
 暗闇の中、ぼんやりと浮かび上がる勇の姿。
 りっかは俯きながら、呟いた。
「……ありが、とう!」

「ここなら比較的安全です」
 確保した補給地点を拠点とし、藤枝 輝樹(ふじえだ・てるき)は各所の状況把握に努めていた。
 彼方達とも連絡を取り合い、ケガ人の治療、電器機器などの配布、バックアップ等に努めている。
 そこに道明寺 玲(どうみょうじ・れい)レオポルディナ・フラウィウス(れおぽるでぃな・ふらうぃうす)がケガ人や見かけた一般の生徒達を連れてきた。
 それから、邪剣を手にしていた、鏖殺寺院に関わる少年を。
「すみません、場所をお借りします」
「少年の処遇については、回復してからでお願いします」
「身柄については環菜会長の判断を仰がなくてはですが、さしあたってどうこうするつもりはありません」
 輝樹は幾分緊張する二人に、安心させるように告げた。
「何より、この少年はケガ人ですしね」
 玲は輝樹に頭を下げてから、生徒達を見回した。
「皆さん、不安もあるでしょうがどうか、楽しかった思い出を思い出して下さい。それがこの状況……学園を救う助けになるはずですから」
「そうです、皆さん頑張りましょう!」
 不安は闇を呼び寄せる。
「確かに、その通りです。大丈夫です、今、頑張ってくれている人達がいます。この闇ももうじき取り払われるでしょう」
 玲とレオポルディナの思惑を察し、輝樹も生徒達を励ます。
 それでもまだ固い表情は、
「玲の紅茶は素晴らしいんです。飲めなくなるのは残念ですし、そうならないように頑張らなくてはいけないです」
 意気込むレオポルディナにより、ほころんだ。
 その様子に玲は安堵すると、レオポルディナと共に少年の治療に当たった。
 腕のケガはひどいが幸い、生命に関わる程のものではなかった。
 暫くの懸命な治療の後。
「……ここは?」
 少年は目を覚ました。
「蒼空学園ですが……自分が何をしているか、憶えていますか? 身体にどこか異常を感じますか? 頭痛や吐き気はどうですか?」
 一通りの確認に、少年は戸惑い気味で「大丈夫です」と答えた。
「腕とか痛いですけどそれは……多分、色々とご迷惑をおかけしたのだと、思いますし」
「それは良かったです。少なくとも自分は、あなたの事を特に恨んだりはしていませんよ」
 ビックリした顔の少年に告げてあげると、少年は申し訳なさそうに目を伏せ、頭を下げた。
「……すみません。僕は早瀬サツキと言います。鏖殺寺院の者です」
 分かっていた事ではある。
 それでも、レオポルディナが小さく息を呑むのが分かった。
「とはいえ、所詮はただの捨て駒ですけど。僕は落ちこぼれ……なりそこない、ですから」
 暗く沈む表情。
 早瀬のあきらめたような様子に、玲は尋ねていた。
「あなたのパートナーはどんな方ですか?」
「え……?」
 驚いて上げた顔、早瀬は自分を見つめる銀の優しい瞳に気付き、何だか泣きそうに笑った。
「すごく純粋です。精霊で……りっかと契約してなかったら、僕はもっと早く見限られていたでしょう」
「じゃあ、そのりっかちゃんの為にも、早く元気にならなくちゃです!」
 ともすれば直ぐに沈む気持ちを、必死に励ますレオポルディナ。
「そうですね。暗い顔をしていたら、りっかさんが悲しみます……だから」
 同じ気持ちで、せめてパートナーと再会させて上げたいと言葉を重ねた玲の膝が、不意に崩れた。
「……っ!?」
 玲さん、と予防とした輝樹もまた、愕然とした。
 身体が動かない事に、気付き。
「……」
 そこに銀の閃光が煌めいた。
 クルード・フォルスマイヤー(くるーど・ふぉるすまいやー)である。
 隠形の術で隠れている為、その姿は見えない。
 だからそのまま、玲やレオポルディナを気絶させようとし。
「……っ!?」
 クルードは飛びのき。
 自分が一瞬前までいた場所に突き刺さったモノを見る。
それはゴム弾だった。
「ここで血が流れたら、闇が活性化する。浄化の邪魔をさせるわけにはいかないんでな」
「…………」
 閃崎 静麻(せんざき・しずま)はパートナーであるクァイトス・サンダーボルト(くぁいとす・さんだーぼると)と共に、不測の事態に備えていた。
 影龍を浄化するべく、集中している者達。
 彼ら彼女らの不利になる事は阻止する……その為だけに。
「……遠距離から……だが……」
 続けざまの攻撃を、クルードは避け、或いは剣で弾いた。
静麻の決意なんか知らない、影龍なんか関係ない、ただ……鏖殺寺院の関係者は殺す。
明確な殺意に、影龍の本能が反応する。
「……ちっ!?」
膨れ上がる闇に、静麻は舌打ちし、銃口を周囲に向ける。
早瀬だけでない、皆を守る為に。
その、一瞬の隙に姿なき襲撃者は獲物までの距離を詰める。
「……お前に怨みは無い……だが、寺院は全て殺す……例え利用されているだけでも、可能性は全て消し去る……」
 クルードには守るべき者達がいる。
 故に少しでも可能性があるのなら、災いの芽は摘み取っておかねばならなかった。
「……俺は運命に抗う……例えその先に闇しか視えないとしてもな……アシャンテ達を殺す運命など受け入れない……」
「……」
 懐かしいものを眩しいものを見る眼差しで、見えないクルードを見つめる早瀬。
 鏖殺寺院に翻弄された少年は諦めと共に、迫りくる運命を受け入れようとしていた。
「ダメっ!」
 割り込んだのは、レオポルディナの声だった。
 動けない身体を必死に動かそうともがきながら。
 そして、玲も。
「早瀬君、君に何かあったらパートナーもただではすみません……それを分かっているのですか?」
 叱責を込めて、言葉を絞り出す。
 玲の指摘に早瀬が目を瞬かせた。
「……」
 それでも冷静にクルードは考えた。
 この場にいる全員を気絶させる事は可能だろうか?
 思考は一瞬。
 クルードは「可能」だと判断した。
 しかし、その時。
「りっかちゃんだって、パートナーさんだって、被害者なんだよ!?」
勇とラルフがりっかと共に、現れた。
「だから、させないよ! りっかちゃんもパートナーさんも一緒に、一緒にお茶会するんだから!」
 クルードの居る場所が分かるわけではない。
 けれど、そんな風に両手を広げる勇と。
 玲やレオポルディナを治すべく動くラルフと。
 早瀬に駆け寄ろうとするりっかと。
 そして。
(「ま、身体を操られてたとはいえ、一応は一緒に戦った戦友だからな」)
 死角から飛んできたダークネスウィップ。
 義理がたいトライブ・ロックスター(とらいぶ・ろっくすたー)は、邪剣の欠片を幾つか回収しつつ、クルードを牽制した。
 マジでやり合うつもりはない。
 影龍の浄化を邪魔するつもりもない。
 ただ仲間を……関係した者をこれ以上、失いたくはなかった。
 同時に避けた場所を狙っての、静麻の攻撃。
 雷電をまとった弾は厄介だった。
 何より、これ以上長引けば、頭上のクァイトス……監視と共に映像を記録していると思しき機晶姫に姿を見咎められる恐れがあった。
 それは避けなければならなかった。
 だから、退く……今は。
 押さえこまれていた闇が、再び勢力を盛り返す、混乱に乗じ。
(「……だが……それでも……」)
 鏖殺寺院の者は全て抹殺する。
 その覚悟は些かも揺るがない。
 守るべき者が、いるから。


「俺と一緒に来いよ? 好きなだけ破壊と殺戮を見せてやるぜ?」
 そして、再び活性化した闇を好機と、ジャジラッドも動いた。
 求めるは、力。
 故に一途に、愚直なまでに一途に、破壊衝動を煽りたてる。
 すかさず繰り出された静麻の攻撃を避け、せせら笑い。
「浄化? 結局、影龍を厄介払いしたいだけじゃねえのか? 世界が滅ぶ? 小せえ事言ってんじゃねえよ。こいつにもこれから始まる世界を見せてやりてえよ」
 猛り狂う闇をバックに、ジャジラッドは吼えた。