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君を待ってる~剣を掲げて~(第3回/全3回)

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君を待ってる~剣を掲げて~(第3回/全3回)

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第9章 光を掲げて
「……か、かっこいいの!……魔剣さん、よろしくなの!」
「む……うむ、よろしく頼む」
 魔剣は、アリア・セレスティ(ありあ・せれすてぃ)のパートナーである天穹 虹七(てんきゅう・こうな)にキラキラした瞳で見つめられ、気圧されたように口ごもった。
「ていうかもしかして、照れてる?」
「そっ、そんな事は……だが、切れ味はともかく形を褒められた記憶はないのでな、少し驚いたのだ」
 アリアはそんな魔剣に「ん〜」と考えてから告げた。
「私にとって剣は道具じゃないから、主じゃなくて友でありたいな」
 ちなみに今、アリア達は時を待っている。
 といっても、そう気楽なわけではない。
 魔剣の力を、光を宿す者達へと送るべく、ずっと意識を集中し続けているのだから。
 ただ、こんな時でもそれを苦に感じさせないのが、アリアという少女なのだろう。
「お主は面白い事を言う……それが望みなら、そうするとしよう。但し、希望に添えるかどうかは分からないがな」
 魔剣は少しだけ戸惑っているようだった。
 剣として使われるものとしてだけ、存在してきたのだろう。
「うん、それでいいよ。でも、あなたって女性だったのね」
「……あまりそういう事を意識した事はないがな。我が主はあくまで剣として扱ってくれたのでな」
 我が主とプリンス・オブ・セイバーを呼ぶ時、魔剣の声は誇らしげで愛しげで……切なげだった。
「あのね、私まだまだ未熟だけど、私もプリンス同様に女王を護る者なんだ」
 ミルザムは女王候補なんだけどね、言うと切ない色は少し薄れた。
「そうか。時が移ろっても志を同じくする者がいるというのは……救いだな」
「やっぱ何か、固いのよねぇ、あなた……って、これもアレよねぇ」
 アリアは暫く何事かを考えていたが、やがてポンと手を叩いた。
「決めた、あなたは今から『ルミナスホープ』よ。我ながら捻りが無いけど……」
 暫し固まってから、魔剣……ルミナスホープは。
「……む、分かった」
 その刀身を淡く輝かせた。


「どんなときでも、俺たちは一人じゃない。」
 蒼天の願いを受け止め、如月 正悟(きさらぎ・しょうご)は表情を引き締めた。
「今までの戦いも、今回の物語も、一人の英雄が世界を救ったわけでも物語を作ったわけじゃない。そういや、どっかの誰かが昔言ってたな……普段の物語を形作っているのは、この世界に生きる全ての人だって」
それはある意味、全ての人が英雄という事だ。
「……だから、英雄なんていらないんだよな。きっと影龍は『そういうことに気付いた』からココロが芽生えたんだ」
 そして、たくさんの生徒達がそのココロを育てた。
「だから俺は、その願いを尊重したいと思う。心に目覚めた影龍を信じ、仲間達を信じ、自分を信じる」
 信念のままに、正悟は剣を掲げた。
「私に出来る事なんて、きっと今は何もない。けど、正悟の考えてる事は大体なら分かる」
 その背を見つめ、エミリア・パージカル(えみりあ・ぱーじかる)はその頬を緩めた。
「あの子の事だから本当の意味で『全て』を救おうとか考えているんじゃないかしら。『出来る出来ないじゃなく、やるかやらないか』で」
それは理想論なのかもしれない、けれど。
「けど、理想だからこそ、みんなそれを現実にしたいわよね。私もそうだし……」
エミリアはだからこそ、正悟を信じる。
皆で笑い合う為に。
「『ご主人様を守る』、私がすべき事はそれだけですぅ」
ゼファー・ラジエル(ぜふぁー・らじえる)はぽややんとした口調とは裏腹に、周囲を油断なく警戒していた。
普段はゼファーの事を「危ないから再封印するぞ」と言っている正悟。
だが、ゼファーは知っている。
正悟の優しさ、強さ、懐の広さを。
「だから今は、ご主人様の取り巻く環境を私は守りますぅ」
 真っすぐな心根の正悟はきっと、考えもしないだろうけれど。
「……邪魔をするおばかさんがいないとも限りませんからねぇ」
 警戒は緩めぬまま、けれどその金の瞳は正悟を捉える時、優しい色を帯びていた。
「もう影龍じゃなく、新しい名前を受け入れてくれるなら、君は蒼天だ。俺達全員、魔剣も人も物も世界と共に生きよう! 出来る出来ないじゃない、やるか、やらないかだ!」
 広がっていく魔剣の光を、皆の思いを束ねるように、影龍へとぶつける。
「いいじゃないか、もう全員を巻き込んで大団円を迎えようじゃないか! 誰もかも、犠牲に、生贄にせず、みんなで英雄になって笑い合おうぜ!」
 影龍の因果を斬るべく、そして、正悟は動いた。
「不利な状況を打破して未来を切り開くのは何時だって、人の意思です」
 魔剣の起動……集う思いに自らの心を乗せながら、御凪 真人(みなぎ・まこと)は思う。
「俺はこの学園に来て多くのものを得ることが出来ました。そして、これからも得たものを育んで行きたい。だから俺はここを守りたいと思います」
理不尽な不幸や悲しい事で涙を流すことがあっても、最後には皆でハッピーエンドを笑える……そんな場所が真人は大好きだから。
「だから学園を、笑い合える友達を全力で守りたい。それが俺の意思です」
そして、思いは必ず叶う……諦めない限り。
「俺達が積み重ねて来た思いと絆は弱くはありませんよ」
 頭上を覆う闇に挑むように、真人は宣言した。
「……」
 緋山 政敏(ひやま・まさとし)の脳裏をよぎったのは、過ぎ去りし過去だった。
守ってくれた人達が「生きろ」と言った。
そんな中で、政敏は大切な彼女の父を殺した……敵だったから。
そして、彼女は泣きながら『自身』に刃を突き立てた。
『死にたかった』自身が許せなかったから。
それでも彼女は『生きろ』と言った。
だから、政敏は命があるだけの『幽霊』になった。
 そして、今。
 影龍を救おうと、『共に生き』ようとする皆の想いが駆け巡っているこの空間で。
 政敏は願う。
 生きとし生けるもの全てを、皆も生徒達も花も木々も動物も、全てを。
 『生きたい』と願うもの全てを助けたい、と。
「善も悪もない。ただ、生きたいって想う人達の想いがあるのだと……少なくとも俺はそう思うから、だから、頼む」
 剣を掲げる。
 アリアだけに魔剣だけに任せるのは違うから。
 自分も、背負う。
 共に、背負う。
 殺す為じゃなく、生かす為に。
「俺は剣が嫌いな癖に、何故か『君達』を手放せなかった。それはさ。多分、知っていたからだ。『君達』は生きようとする者の助けとなる為に在ると」
 この思い魔剣と共に。
この剣は生かす為に。
「政敏は出会った時から、遠くを見ていた気がします」
そんな政敏を見つめ、カチェア・ニムロッド(かちぇあ・にむろっど)は胸中でだけもらした。
「悲壮感。生きるのが辛そうで、それでも、死ぬことが許されない……でも、辛そうにする人達には『生きて欲しい』といつも声を掛けていました」
 いつか、その理由を政敏の口から聞きたいと、そう思っていた。
 だけど今、政敏の顔に浮かぶのは悲壮感でなく。
 ただひたすら生を守ろうとする真摯さ必死さだった。
「いい顔になったわね。これなら、お婿さんに貰って上げてもいいわね」
もう一人のパートナーであるリーン・リリィーシア(りーん・りりぃーしあ)は、からかうように嬉しそうに告げ。
政敏は一度苦笑を上らせてから、前を見据えた。
「色んな『想い』がある。光も闇も、ココロあるものなら何時だって悩み、向き合い生きているのだから。そしていつだって闇を見据えて抱えて『変わっていける』」
 どんな困難が立ちはだかっても、命の輝きを信じて。
「その為に、俺達は生きていく!」
 剣の輝きが増す。
 繋がり広がり膨れ上がっていく、光の洪水。
 優しい優しい光を宿し、政敏は駆けた。
 浄化の光を、導く為に。
「政敏が、闇に立ち向かうのなら、私はそれを守る盾となります」
 その前を行く……政敏の道を拓くのは、カチェアの役目だった。
「皆の想いがきっと多くの命の『生きたい』という願いへと通じるなら、その想いを集める為に政敏が願うなら、私はそれを守ります」
 カチェアもまた、ただそれだけを胸に、駆けるのだ。
「やっと、『男の顔』になってきたかな」
 リーンの位置は、政敏の後ろだ。
 危機感と共に追いすがる闇を、祓う。
「『剣の花嫁』だからじゃない。私が私の意志で、政敏達学園の皆の笑顔が見たいから」
そしてそこには当然、リーンの笑顔がある筈だから。
「……負けないわよ」
 光の軌跡を描き、三人は駆けた。

「俺の中にある妄嫉……君の糧になるモノは決して無くならない、無くしちゃいけない」
樹月刀真は結界を支えていた白花と月夜にそっと合図を送った。
 時が来た、と。
 見据えるは、語りかけるは、影龍。
 復讐の為の力が欲しくて来た、パラミタ。
けれど過ごしてゆく中で、御神楽環菜をはじめ様々な友人達と出会い絆を結んで……次第に刀真の心に光が満たされていった。
 そして白花と出会い、影使いを含め様々な困難を乗り越えて皆との絆を深め、消えていく白花を救いたくて契約を結んだ。
(「思い返せば俺は蒼空学園に来て、かけがえのないものを得た」)
 そしてそれは、そう……大いなる災いと呼ばれた影龍がいてくれたからこそ、なのだ。
 もし影龍がいなければ、刀真も月夜も白花や夜魅に出会えなかった。
「悲しい事とか辛い事とかを乗り越えていくから人は強くなれるんだし、そこで得られる喜びがあるから」
 だから、他の者は否定するかもしれないし、納得できないかもしれないけれど、刀真は心から言えるのだ。
「……大いなる災い影龍ありがとう、君がいてくれて良かった」
「……うん、私もこの学園に来て良かった」
その思いは月夜も同じで。
「影龍、ありがとう」
 一言に有りっ丈の感謝を込める。
 膨れ上がる光に、影龍は静かに、その動きを止めた。