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イルミンスールの大冒険~ニーズヘッグ襲撃~(第1回/全3回)

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イルミンスールの大冒険~ニーズヘッグ襲撃~(第1回/全3回)

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「ふはははははっ! 俺がイルミンスールの魔王、ジークフリートよ!
 ニーズヘッグよ、俺の名をよく覚えておくがいい!」

「ふふふ、私が魔道将の大預言書、ノストラダムスなのだ!」
 ニーズヘッグに名乗りをあげ、ジークフリート・ベルンハルト(じーくふりーと・べるんはると)ノストラダムス・大預言書(のすとらだむす・だいよげんしょ)が詠唱を終えた酸の霧を見舞う。ニーズヘッグはそれを鱗を固くして耐えるが、その間積極的な行動を取ることが出来ない。
「貴様、イルミンスールへの攻撃が、何を意味するのか分かっているのか? これはエリュシオンからの宣戦布告と受け止められても仕方が無いぞ?」
「あぁん? テメェらがどう思おうが、オレにゃ関係ねぇよ。オレはこいつがイルミンスールを喰っていいっつうから来ただけだぜ! 後、エリュシオンの大帝とやらは何も言ってねぇぞ。テメェらが宣戦布告だって思うなら思えよ、いちいちテメェらのことまで気にしてられっか!」
 こいつ、とはおそらくユグドラシルのことだろうと推測しながら、ジークフリートが言葉を続ける。
「何故、ユグドラシルはイルミンスールを襲っていいと言ったのだ!?」
「んなこたぁ知るかよ! こいつに聞け!」
 霧が薄まると共に、ニーズヘッグが鱗を解いて反撃に転じようとする。
(……やはり、簡単には答えぬか。話し方からして知性の低さが伺える故、これ以上は無駄か)
 フッ、と息を吐いて、ジークフリートが宣言するように言い放つ。
「答えぬとあれば……ククッ、容赦するわけにはいかんな!」
 ノストラダムスと共に、再び詠唱を開始するジークフリート。二人を援護するように、シオン・ブランシュ(しおん・ぶらんしゅ)朱点 童子(しゅてん・どうじ)が飛び出てニーズヘッグに迫る。
魔王様の従者、忍魔将シオンじゃん! ニーズヘッグを倒したら魔王様が褒めてくれるかもしれない! おーし、張り切っていこうじゃん!」
わしが大江山の鬼の子孫こと、朱点童子よ! とっとと片付けて酒を飲みたいのう」
 シオンの飛ばした氷塊がニーズヘッグの片方の目を、童子の放った衝撃波がもう片方の目を撃つ。
「どうしたぁ? 目なんて飾りだぜ、多少くらった所で……うおぉ?」
 余裕の言動を浮かべていたはずのニーズヘッグの、噛み付き攻撃が生徒たちではなくユグドラシルの『根』に甚大な損害を与える。鱗に覆われていない部分を激しく揺らされたことで、一時的に脳が判断を誤ったようである。
「ノスよ、もう一度アシッドミストだ!」
「了解したのだ!」
 ジークフリートとノストラダムスの生み出した酸の霧が、再びニーズヘッグの行動の自由を奪う。先程の攻撃の影響もあって、鱗を展開するのがやや遅れ、特に頭部の後ろ付近が酸の影響を受け、溶けた皮膚から内部の肉が覗いていた。
「シオン! ノス! 朱点!」
「魔王様、私やるじゃん! 招雷!」
「私の魔力の前に屈するがいいのだ!」
「あっはっはー、こいつでトドメだっ!」
 ジークフリートの呼びかけに、シオン、ノストラダムス、童子が応える。
 
「我らの雷を喰らうがいい!!」

 ジークフリートが呼び出した魔法陣が、先程酸の攻撃で損傷を受けた部分の真上に浮かび上がり、そこから雷が降り注ぐ。同時にシオンとノストラダムスが雷を、童子が雷を纏ったトマホークを投げつけ、四人の合わさった雷が炸裂する。

「…………今のは効いたぜぇ。
 ……だが、オレは殺せねぇ!
  死すら喰らうオレに、死は決して訪れねぇ!!」

 竜を思わせる咆哮をあげ、ニーズヘッグが攻撃に転じようと身を翻した所で、ニーズヘッグの身体がぐらり、と揺れる。
「うおっ!? チッ、やってくれやがったなぁ!」
 悔しさを露にするニーズヘッグ、彼がいたユグドラシルの『根』が、度重なる攻撃についにイルミンスールに留まることが出来ず、徐々に速度を早めながらイルミンスールから離れていく。

 しばらくすると、ユグドラシルの『根』も、ニーズヘッグの姿も見えなくなり、ぽっかりと空いた穴の部分だけが残った。
 『主』を失った影響か、各地で猛威を振るっていた蛇は徐々に弱り、やがて黒い煙を発したかと思うと抜け殻となって地面に落ち、その抜け殻さえも徐々に溶けるように消えて行くのであった――。

「これ、このままにしておいていいのかしらね」
「……今、連絡が取れました。「放っておいてもその内治るが、今は応急的に他の根を重ね合わせておく」だそうです」
「ま、そっちは大ババ様任せってとこだな。……問題は、未だ行方が知れない3名か……」
 Ir5からの生徒を率いていた祥子と、Ir1からの生徒を率いていたロザリンド、静麻が穴の前で落ち合い、状況を確認し合う。戦闘の途中で報告された、行方の知れない3名の生徒については、懸命の捜索にも関わらず見つけることが出来なかった。
「こちらにも確認の知らせは入ってこない。……くっ、帝王である俺が、臣民を庇うことが出来ぬとは……!」
 Ir3からヴァルが現れ、一行に状況を報告した後、険しい表情で拳を強く握り締める。
『……おまえたち、まずはよくやってくれた。ネットワークはおまえたちのおかげで無事が守られた』
 おそらく校長室から、アーデルハイトがコーラルネットワークの生徒たちに話しかける。
『……じゃが、事態は決して芳しくない。こちらで状況を説明した上で、おまえたちにはもう一働きしてもらうぞ。無論、戦いで疲れた身体のままにはさせん。ホールからこちらに戻ってくる前に、皆一度手近な魔法陣に寄っておくがよい。そこで、おまえたちからもらった魔力を使って、おまえたちの傷を治そう』
 アーデルハイトの声が途切れ、生徒たちは抱く不安をそのままに、ひとまず治療を受けるのであった――。