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リアクション
●Ir2付近
「何か、敵の数が多くなってきたんじゃないか? そりゃ、今までが拍子抜けなくらい楽だったからってのもあるけど――」
飛びかかってきた蛇に、加護の力を載せたメイスの一撃を叩き込んだ和原 樹(なぎはら・いつき)の眼前に、今度は4匹の蛇が同時に襲い掛からんとする。
「2匹以上は無理、タンマ! ……って言っても聞いてくれるはずないよな!」
事前に、同時に相手するのは2匹までと決めていた通り、蛇が散るのを期待して後方へ下がる樹。すかさず後を追おうとした蛇の、横合いから剣と槍の斬撃が襲い掛かる。
「加勢するぜ。俺達が半分引き受ければそっちもやりやすくなるだろ?」
「ああ、恩に着るよ。そっちも気をつけて」
2匹を引き離して相手する葛葉 翔(くずのは・しょう)に声をかけて、樹が残る2匹と相対する。
「フォルクス、セーフェル、もう疲れたとか言わないよな?」
「我がこの程度で弱音を吐くはずがなかろう。樹こそ油断して噛まれたりしないだろうな」
「私ならご心配なく。マスターこそ、どうか無茶だけはしないでください」
樹の呼びかけに、後方で魔法援護を行っていたフォルクス・カーネリア(ふぉるくす・かーねりあ)とセーフェル・ラジエール(せーふぇる・らじえーる)が気丈に答える。
「……フォル兄もセーフェルも、無理言ってるの。特にフォル兄は範囲魔法の連続で、消耗してるはずなの」
フォルクスに、疲弊した精神の回復をもたらす口づけを送って、ショコラッテ・ブラウニー(しょこらって・ぶらうにー)が手にした弓の弦をピン、と弾く。先程樹に頼んで、この弓を弾くことによる魔除けの効果がないかどうか試してみたものの、さほどの効果はもたらさなかったようである。
確かに一匹や二匹には効いていたかもしれないが、それ以上に攻めて来る蛇の数が多過ぎた。今襲い掛かっている蛇は、ニーズヘッグの強い意思に依っていることも寄与していたのであった。
「実力行使とは無粋だが、敵が物分かりが悪い以上、致し方あるまい。……我が思うに、この敵の勢いは全ての場所で行われているとは考えにくい。どこかでは突破に成功し、根に攻撃を加えているはずだ。我らはそれまで、ここを守り切ればいい」
「出来るだけ長くこの場に留まり、相手をし続ける……ですか。
大変そうですが……マスターが頑張ってくれてる以上、私も頑張らないわけに行きませんね。出来るだけのことはします」
フォルクスとセーフェルが同時に氷術の詠唱を開始する後方で、ショコラッテも弓を番え、効果を最大限発揮する一撃を模索する。少しでも魔を祓い、樹のためになれば……と思いを込めながら、弓を引き絞る。
「……!」
そして、2匹の蛇が同時に樹に飛びかかろうとした瞬間、その殺気を看破したショコラッテが片方の蛇に矢を命中させる。攻撃を受けてもがく蛇、これにより攻撃のタイミングがずれ、樹は一匹の蛇の相手に専念出来た。
「一匹なら、やれる!」
樹の一振りが、飛びかかってきた蛇の頭部を打ち、ひしゃげた頭部を晒して蛇が飛んでいく。矢のダメージから回復して反撃に転じようとした蛇は、詠唱を完了したフォルクスとセーフェルの氷術に貫かれ、目的を達することなく息絶えた。
「翔クン、引き受けたはいいけど、翔クンだって疲れてるよね? ワタシはまだまだ大丈夫だけど……」
翔が連れて来た蛇の、飛びかかってくる攻撃を盾で防いだアリア・フォンブラウン(ありあ・ふぉんぶらうん)が、翔の様子を気遣うように言う。
「アリアの方こそ強がるな。……正直、aの地点まで撤退したい所だが、そうするにしてももう少し待ちたい所だな」
剣を携え、翔が呟く。Ir2を放棄し、転送ホールaまで撤退するとなると、この場にいた蛇は魔法陣AとBのどちらに向かっても距離が同じ故、どちらに向かってもよいことになる。もし半数に分かれた場合、魔法陣Bは余裕で守り切れるが、魔法陣Aの方は半数が『根』攻撃に向かっていることもあり、突破される可能性が出てくる。
「敵の頭数が許容量を上回っている。ここで数を減らさないことには、下がった方がむしろ危険になりかねない」
「そっか、厳しい戦いだね……」
「怖気付いたか?」
翔の、反応を伺うような笑みに、アリアがぶんぶんと首を振って答える。
「まさか! ワタシは翔クンの盾だよ? 一人背を向けて逃げるなんて出来ないよ!」
「ま、頼りにしてるぜ。……まずは目の前の敵を倒す所からだ!」
会話の間に体力を回復させた翔が、口を開けて牙を煌かせる蛇の胴体を斬り伏せる。同胞の敵討ちとばかりに飛びかかった蛇はアリアに阻まれ、スピアの一撃で物言わぬ骸と化す。
(……ここを易々と突破されるわけにはいかない、というわけですか)
HCがもたらす現在の戦況情報を素早く見て取った天枷 るしあ(あまかせ・るしあ)が、冷静に現状を把握した上で取りうる行動を模索する。
(ゆくゆくは退かざるを得ないとしても、敵の数は減らす必要がある。より多くの敵に作用する魔法を……!)
行動を決定したるしあが、傍らのトゥプシマティ・オムニシエンス(とぅぷしまてぃ・おむにしえんす)に自らが詠唱を完了するまで敵を引き付けるように指示する。
「私に任せるですぅ!」
意気揚々と詠唱を完了させたトゥプシマティの、生み出した氷塊が蛇に突き刺さり、周囲の温度を下げていく。直接氷塊に当たらなかった蛇も、その影響を受けて動きが鈍ったようであった。
「……この魔法で!」
トゥプシマティの援護もあって、詠唱を完了させたるしあの前方へ、酸の霧が生じ蛇を包み込む。一匹一匹にはそれほどのダメージを与えなくとも、広範囲に作用する霧の効果は、敵全体の進軍の足を鈍らせ、味方がより長い間この場に留まれる可能性を作り出していた。
「敵の動きが鈍った、今が好機! 遅れを取るな、アメリア!」
酸の霧から抜けだした蛇の動きが鈍いのを逃さず、高月 芳樹(たかつき・よしき)がアメリア・ストークス(あめりあ・すとーくす)と共に迎撃に向かう。
「この一撃で、仕留めてみせる!」
アメリアの振り抜いた刀から爆炎が舞い、蛇の群れを炎に包む。酸でダメージを受けた所に炎を浴びせられ、耐えられず数匹の蛇が断末魔の悲鳴をあげて崩れ落ちていく。
「一発で終わりと思うな!」
そして、爆炎を免れた蛇も、芳樹の振り抜いた刀から生じた爆炎に包まれ、その身体を塵と化して消えていく。
「どれ、わらわが援護してやろう。……マリル、うかつに前に出過ぎるでないぞ」
「ええ、分かっているわ。……ここが正念場、簡単には引き下がれませんね……」
伯道上人著 『金烏玉兎集』(はくどうしょうにんちょ・きんうぎょくとしゅう)の施した加護の力に包まれて、マリル・システルース(まりる・しすてるーす)も切り込む隙を窺う。多少防御に秀でていても、数の暴力に晒されればひとたまりもない。身に付けた毒に耐性を得る指輪の力に過信しないようにと心に誓いながら、芳樹とアメリアが刃を向ける様を見つめていた所に、彼らの死角となる位置に滑り込んだ蛇の姿を目の当たりにする。
「私の目の前で、大切な方に手は出させません!」
即座に身体が反応し、そして放たれた爆炎が蛇を包み込み、二人を危機から救った。
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