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イルミンスールの大冒険~ニーズヘッグ襲撃~(第1回/全3回)

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イルミンスールの大冒険~ニーズヘッグ襲撃~(第1回/全3回)

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「皆の者、後方の憂いは絶たれた! さあ、今こそ進め! 我が物顔で攻めてきたお上りさんに、イルミンスールの強さを教えてやれ!」
 刹那から、魔法陣Bの安全が確保されたことを伝えられたヴァルが、Ir3へ進もうとする生徒たちを鼓舞するように声を張り上げる。
「このキリカ、今より帝王の盾とならん! ……帝王、皆の為に帝王の戦いを!」
「近付いてくる蛇は一匹たりとも見逃さないっスよ!」
「……なに、態度が偉そう?
 帝王というものはね、そんなものさ。他人をおだててこき使い、一番安全な場所にどっかりと腰を下ろし、勝ったらさも自分の手柄のように振る舞う。
 ……だけど、作戦が失敗した時には可能な限りの責を負おうとする辺りが、帝王の帝王らしさなのかもしれないね。
 まあ、悪い人でないのは確かだから、適度に相手してくれればそれでいいよ」
 キリカとイグゼーベンがヴァルの盾として振る舞い、ゼミナーがヴァルの振る舞いをフォローするように言葉を繕って、自らもヴァルの援護に向かう。
「さて、行きましょうか。この道での優位を保ち続ければ、ユグドラシルの根に突撃する人達の救済も可能になるでしょう」
「だが、完全に圧倒すれば、本来こちらへ向かうはずの蛇が他の通路へ行ってしまう可能性がある。
 根に向かう連中を通せるだけの道を切り開きつつ、他の根に向かう連中を援護する目的で、押されない程度に蛇を引き付ける必要があるな」
「非常に難しい戦略だ。並の人達にはとても遂行できないだろう。
 ……だが、あえて言わせてもらおう! 俺達になら出来ると!」
「図体ばかりで全くの無知と思われる奴らに、イルミンスールの雑草魂を見せ付けてくれる……!」
 並んで立ったクロセル・ラインツァート(くろせる・らいんつぁーと)エリオット・グライアス(えりおっと・ぐらいあす)の視界に、徐々に大きくなる黒い塊の姿が映る。
 床に壁に天井に広がる黒い塊は、全てニーズヘッグが生み出した蛇の一群だった。
「これほどの数が一気に攻めてきては、流石に苦戦は免れぬでござろう。
 ……しかし、既に拙者は準備を終えているでござる。化け物が生み出したモノとはいえ、蛇の特性は有するはず……受けるでござる!」
 詠唱を完了した童話 スノーマン(どうわ・すのーまん)の前方へ、吹き荒れる氷の嵐が生み出される。雪だるまの姿に相応しい氷と雪の中、多くの蛇は満足に動くことが出来ず、あちこちで凍りつく姿が見受けられた。
「ヴァレリア、準備は出来ているな?」
「勿論よ。……アーデルハイト様を困らせた報い……受けてもらうわ!」
 エリオットの指示を受けて、ヴァレリア・ミスティアーノ(う゛ぁれりあ・みすてぃあーの)が振り向き、禁じられた言葉で高めた魔力を炎の嵐に変換して撃ち出す。炎の直撃をもらった蛇はもれなく炭と化し、そうでなくても冷気と高熱の急激な温度変化に耐え切れず、多くの蛇がびくり、と身体を震わせそのまま息絶える。
「敵は狼狽えている! 皆の者、一気呵成に畳みかけるのだ!」
 マナ・ウィンスレット(まな・うぃんすれっと)の指揮する雪だるま兵、アンデッドのスケルトンに氷術で雪を付けることによって強化された者たちが進み出、浴びせられた魔法をかいくぐって進軍を続ける蛇と相対する。
 しかし、せっかくの雪だるま兵も、蛇たちの旺盛な食欲により、次々と雪を喰われて丸裸にされてしまう。無論、雪を喰い過ぎた蛇は寒さで動くことが出来なくなったので、全くの無意味ではなかったが。
「むむぅ、私の策が破られたか……」
「ご安心を、マナ様。マナ様の仇はそれがしと、クロセルが取ってみせましょう。……何をしているクロセル、早く行かないか!」
「えっ、でも俺ほら騎士団長だし、あまり積極的に前に出るのもどうかなーって――」
「つべこべ言わずにさっさと行けー! それがしはマナ様のお守りで忙しいのだっ!」
「分かりました、分かりましたから銃を向けないでくださいっ」
 シャーミアン・ロウ(しゃーみあん・ろう)に急かされるようにして、クロセルも蛇の迎撃に当たる。
「雑草と馬鹿にしおって……! それならば騎士たる我輩の雑草魂、見せ付けてくれるわ!」
 封じられた力を開放し、大きく槍を振るったアロンソ・キハーナ(あろんそ・きはーな)の続けざまの連撃が、二匹の蛇を一突きに死に至らしめる。
「ボディが甘いぜぇ! ……これちょっとやってみたかったんだよね〜」
 一方メリエル・ウェインレイド(めりえる・うぇいんれいど)は、どこかで聞いたことがあるような気がする台詞を口走りながら、拳から巻き起こした炎で蛇を焼いていた。
 アロンソが右側の蛇を、メリエルが左側の蛇を相手し、ちょうど真ん中に攻めてきた蛇については両者が対応に当たるスタイルを取っていた。
「むっ、天井から来るか! ならばこれで落としてくれよう!」
 アロンソがかざした掌の先から、重力に干渉する力がもたらされる。その不可視の力を受けた蛇は天井を這うことが出来ず、地面に引かれるように落ちてくる。
「食らい……やがれぇ! ……へへっ、燃えたか? な〜んてねっ」
 その落ちてきた蛇ごと、地面に巣食っていた蛇の一群へ、拳に秘めた炎を叩き込んだメリエルが、爆散して散り散りになる蛇を見遣ってフッ、と掌に残った炎を消した。
「おっと、危ない危ない。こうも尽く燃やし尽くされては、空蝉の術用の身代わりがなくなってしまいますね」
 槍の一突きでトドメを刺したクロセルが、その死骸を利用して攻撃を受けた際の身代わりとしていた。
 正面を相手するだけでも地面、壁、天井と対応しなくてはならないため、いつどこで攻撃を受けるか分からない。故に、攻撃を受けて負傷する生徒、噛まれた際に毒を流し込まれて身動きが取れなくなる生徒が続出していた。
「これはいけませんね……毒なら槍の力で治せても、傷までは癒せません」
 蛇に押されて後退してきた生徒たちを見遣ってクロセルが呟いた直後、広範囲に渡る癒しの力が複数の負傷者に施され、受けた傷を一瞬にして治してしまう。
「回復や支援なら私でも……皆さんのお役に立てますからね……」
 回復術を行使したレイナ・ミルトリア(れいな・みるとりあ)が、仲間であるクロセルの下へ歩み寄る。
「これはレイナさん、まるで雪だるま王国の神官の如き立ち振る舞いですね」
「……そんな大層なものではありません……」
 クロセルの表現に謙遜するレイナ、しかし実際に貢献した程度はそう評しても差し支えない程であり、一旦押されかけていた戦線が再び勢いを取り戻すものであった。
「ぜひその力で、皆さんの力になってください」
 再び前線へと向かっていくクロセルを見送って、レイナが前方で戦いを挑む生徒たちと、彼らと激闘を繰り広げている無数の蛇を見つめて心に呟く。
(いろいろな出会いをくれた場所、イルミンスール……それに害をなそうとする輩は、どんな理由があろうと退けよう……)
 開いた書物に刻まれた言葉を紡ぎ、生じた魔力を加護の力に変えて、レイナが心の言葉を続ける。
(たとえ私自身に力がなくとも……志を同じくする方の助けとなることで、その輩を排除できるかもしれないのだから……)
 加護の力は目映ゆい光を以て広がり、前線で力を振るう生徒たちを包み込み、より大きな力を出す手助けをしてくれる。
「今の光が、ボクたちを照らす暖かな光なら……この光は、汚物を焼毒する裁きの光!
 人様のお膝元で好き勝手振る舞う汚物は焼毒だー!」
 加護の力を受けたズィーベン・ズューデン(ずぃーべん・ずゅーでん)が、その力を悪しきものを滅する光の力に変えて撃ち出す。地中で生き、闇の力を強く受ける蛇がその光に耐えられるはずもなく、光を受けた蛇から順に発火するように燃えていき、塵も残さず消えていった。
(やはり、先に見てきたように、一定数の蛇が奥から補充されているようですね……数が変わらないということは、まだ敵は慌てていないということでしょうか。
 ネットワーク内の事とはいえ、イルミンスールに直接攻め入るような方が、考え無しとは思えませんし)
 光を受けてなお進もうとする蛇へ、ナナ・ノルデン(なな・のるでん)の振るった一撃が決まり、身体を切り裂かれた蛇が体液を零して息絶える。
 蛇が飛びかかる間合いの外から、ドラゴンが用いる武術で攻撃を加えつつ、先行してIr3の奥を偵察してきた結果を思い出しながら、敵の今の状況を推測する。
(……しかし、いずれ状況が変わることも考えられます。その前に先手を打って根を攻撃する必要もあるかもしれませんね)
 ナナがそう心に思いながら、今は徐々に戦線を押し上げる全体の方針に従い、勇み足で突出しかけた生徒たちに注意を呼びかけ、援護する。
(エリザベート様とミーミル様の姿が見当たりませんでした。おそらく私たちがここで戦っている他に、争いの種が潜んでいるのでしょうね。
 ……ですが、今は全力で、イルミンスールを防衛させていただきます!)
 決意を露にしたナナの一撃で、蛇の一群が散り散りになり、進軍の足が緩む。
 ここでもし蛇に多少の知能があり、熾烈な迎撃を受けることを予期して別の経路を辿る手段を取ったとすれば、防衛に回る生徒たちをより苦しめたかもしれないが、それほどの知能を結果として蛇たちは持っていないため、未だ多くの蛇が中央突破を図るべくIr3に留まり、それはこの領域で戦う生徒たちにとって、敵戦力の大部分を拘束する成果となって反映されていた――。