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三つの試練 第一回 学園祭の星~フェスティバル・スター

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三つの試練 第一回 学園祭の星~フェスティバル・スター

リアクション

 クリストファー・モーガン(くりすとふぁー・もーがん)は、大講堂脇の控え室にいた。
 契約者のクリスティー・モーガン(くりすてぃー・もーがん)とともに、本日の目玉である舞台「ロミオとジュリエット」の準備のためだった。
 出てくる役者も多いし、演出担当、かつジュリエット役の中村 雪之丞(なかむら・ゆきのじょう)のこだわりで、小道具類もいちいち凝ったものを用意している。美しさを誇る薔薇の学舎にあって、貧相なものは用意できないというのは確かだったが。
 今回、クリストファーはあくまで裏方、クリスティーは、乳母役でステージにあがる。
 クリストファーとしては、クリスティーにジュリエットをやらせたかったというのもあるが、主な理由としては、『女装を恥ずかしがる姿が見たかった』ので、まぁこれはこれだ。唯一あてが外れたことといえば、クリスティーが、案外あっさり開き直ったことに他ならない。
 クリスティーにしてみれば、クリストファーに晴れ姿を見せてあげるべきかもしれないと思ったからだ。恥ずかしいのは確かだが、こうして普段男装用に巻いているコルセットを外すと、やはり楽だ。久しぶりに思い切り声がだせるというのも、嬉しいことだった。
「俺が一緒だから大丈夫だとは思うが、バレないように気をつけろよ」
「うん!」
 身体が女性だとバレてしまっては、退学ものだ。立派に舞台を勤め上げなきゃ、という決意も同時に漲らせ、クリスティは頷いた。
「ルドルフも早く来ないかな」
 クリストファーは呟いた。彼の顔の傷を隠すためのメークも、今日のクリストファーの仕事の一つだった。おそらくは、『シリウスの心』の探索に今の時間はあてているのかもしれないが。
(シリウスの心、ねぇ)
 その名前の由来は、クリストファーには気になるところだ。それについては、仲間に尋ねてもらうように頼んではいるが。
 そこへやってきたのは、皆川 陽(みなかわ・よう)テディ・アルタヴィスタ(てでぃ・あるたう゛ぃすた)だ。
「……なんの用事だ?」
 クリストファーに尋ねられ、陽はびくりと肩をすくませてしまう。
「あ……」
「今日は、部外者はここに立ち入り禁止だぜ」
 すると、陽を背中に庇うようにして、テディが口を開いた。
「ごめんね、クリス。やっぱ、綺麗なものを隠すなら、綺麗なところじゃないかって話しててさぁ」
「ああ……『シリウスの心』探しか」
「そういうこと。ね、ちょっと見せてよ?」
「かまわないけど、朝一番に雪之丞とチェックを済ませてるぞ。そんなこと、誰だって考えつく」
「わかってるけど。一応ね」
 テディはなんとかそう押し通すと、陽の手を引いて小道具の並べられた一角に近づいた。
「……ありが、と。テディ」
 弱々しい声で陽が礼を述べると、テディはただ明るく微笑んでみせた。
(ほんと、駄目だなぁ、ボク……)
 陽は引っ込み思案で、上手く人と話すのは苦手だ。今だって、テディがいなければ、とても無理だった。
 『シリウスの心』を探しているのも、上手くそれが見つけられたら、まわりの人に認めてもらえるかもしれない……というものだ。イエニチェリになれるかも、なんてことまでは、とても思っていない。
 テディは陽の傍らで、手際よく確認を続けている。
(テディは、何も出来ないボクなんかと違って、強くてなんでも器用にこなすのに、なんでボクなんかに協力してくれるんだろうなぁ……)
 きっと、ただ、契約者だからなんだろうけども。
 そう結論づけて、なんだかそれが、……少しだけ、胸が痛いような気がした。
「陽? どうかしたか?」
「あ、ううん。なんでもないよ」
 ……ボクが契約者じゃなければ、テディはもっと活躍して、イエニチェリ候補にだってなれたかもしれないのに。
 そんなことを、ふと陽が思った時だった。
「……これ、ジュリエットが使う短剣?」
 小道具箱の隅で、目立たぬように布にくるまれていた短剣を、陽の指先が見つけた。
 布を開くと、刀身は薄く煙った水晶が輝き、柄の部分の古めかしさとはひどくアンバランスだ。古いものなのだろうか。手に取ると、見た目の割に、ずっしりと重い。
「ちょっと、見せろ」
 背後から二人の様子をうかがっていたクリストファーが、ぐいと間に割り込む。
「こんなの、用意されてたものじゃない」
「じゃあ、もしかして……?」
 クリスティーが、ごくんと息をのんだ。
 おそらくはこれが、『シリウスの心』に違いない。
「校長先生のところに」
 持って行かなきゃ、と陽は続けようとした。驚きと興奮で、指先が震えている。
 しかしそれを遮ったのは、雪之丞だった。
「なんの騒ぎ?」
「短剣がすり替えられてたんだよ。ここに、『シリウスの心』があったんだ!」
 テディが興奮して叫ぶと、雪之丞は驚きの声をあげ、それから足早に彼らに駆け寄った。
「本当だわ……。でも、いつの間に?」
「朝は確かに、こんなもの無かったのにな」
 クリストファーが、眉根を寄せて呟いた。
「まったくよ。驚かされちゃったわ。……ねぇ、でも。これってチャンスじゃないの? あたし、良いこと思いついちゃった」
 雪之丞はそう言うと、とある作戦を彼らに提示した。