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聖戦のオラトリオ ~覚醒~(第1回/全3回)

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聖戦のオラトリオ ~覚醒~(第1回/全3回)

リアクション


(・ブラボー)


『こちらブラボー1。小隊、戦闘準備完了。作戦行動に移る』
 ブラボー小隊の小隊長を務める雨月 晴人(うづき・はると)は連絡を行う。
「敵の小隊数はこちらと同じ。しかも分散してきたか。まずは敵の陣形を打ち崩す!」
 ブラボー1――【クラッシャー】は、敵小隊の一つを誘導し、ブラボー小隊側へと誘導する。
「さて、ハエ叩きの始まりですよ」
 ブラボー2――【メテオライト】が実弾式機関銃を構える。
(スバル、敵射程圏外すれすれのところで機体の位置を維持して下さい)
(イエス、マスター)
 アルテッツァ・ゾディアック(あるてっつぁ・ぞでぃあっく)六連 すばる(むづら・すばる)が精神感応にて機内で話す。
 二機のコームラントが、機関銃で弾幕を張る。
 アルファ小隊が同じ頃ビームキャノンを中心に攻撃を行っているのとは、対照的だ。
 コームラントの援護を受け、ブラボー3〜5のイーグリット三機が前衛として敵機に向かっていく。
「よっしゃリディア、全力で行くぜ!」
「うん! かおるん、頑張ろうね!」
 ブラボー5――【ブレイク】の大羽 薫(おおば・かおる)リディア・カンター(りでぃあ・かんたー)もが気合を入れ、先陣を切る。
 コームラントの弾幕に加え、接近の際はまずビームライフルで牽制を行う。これは他のイーグリットも同様だ。
(まだ敵機の連携は完全に崩れていない。結奈、速度を上げてくれ)
(了解、兄さん)
 和泉 直哉(いずみ・なおや)和泉 結奈(いずみ・ゆいな)の駆るブラボー3――【スプリング】もまた、敵陣を崩すために前衛に出る。
 撃墜するためではない。そのためのチャンスを作るには、隙をつくるしかない。
 実弾式の機関銃は、エネルギー切れを引き起こす心配はないものの、弾数が限られている。今のうちにどれだけ敵を分断出来るかがカギとなるのだ。
(今回は襲撃を受ける側じゃないからね。思い切っていきたいよね)
(……ただ、オレ達の役目はあくまでもプラントの確保だ。敵を出来る限り引き離そう)
 藤堂 裄人(とうどう・ゆきと)サイファス・ロークライド(さいふぁす・ろーくらいど)は精神感応をしながら、イーグリットを操縦する。
 ブラボー4――【ケルベロス】もまた、【スプリング】、【ブレイク】同様にビームライフルによる牽制射撃だ。
 弾幕に次ぐ弾幕。それらは敵を誘導するには十分だった。
 指揮官を含む部隊と、シュメッターリングだけの部隊の二つに分かれる。自分達の力量を考えるならば、先に倒すべきは指揮官がいない方だ。
(指揮官の実力は分からないけど、下手に返り討ちに遭うよりは確実にいかないとね)
 【ケルベロス】は最高速度を維持したまま敵陣営を翻弄している。シュメッターリング、シュバルツ・フリーゲ共にイーグリットの最高速度にはどうやっても追いつけない。
 それでも敵は機関銃を撃ってくる。ある意味では好都合だ。
「さて、分かれましたね。それではこちらに誘い込みますか」
 【メテオライト】が牽制を行いながら、敵陣との距離を保つ。敵はその攻撃だけではなく、イーグリットのビームライフルも避けながらの戦いを強いられる。
 必然、指揮官がいない側はそれで十分に誘導できる。
『こちらブラボー2。シュメッターリングは引きつけましたが、シュバルツ・フリーゲの方がまだです。足止めをお願いします』
『ブラボー1、了解。シュメッターだけの方は取り乱している。イーグリット2、コームラント1の連携で撃破してくれ』
 【クラッシャー】が機関銃からビームキャノンに変更。
(ハルト、指揮官多分強い。発射後、すぐに距離を取って離脱)
(おう!)
 アンジェラ・クラウディ(あんじぇら・くらうでぃ)が状況を伝える。
 ビームキャノンを撃つと、すぐさま機関銃に戻す。ビームは敵機に直撃はしなかったものの、さらにその三機の連携を崩す。
「生憎、向こうの援護をさせるわけにはいかないんだ」
 とはいえ、さすがは指揮官がいるだけのことはある。シュバルツ・フリーゲには当たらず、シュメッターリングもよくて掠る程度だ。
(裄人、撃ち落すのにこだわりすぎてはダメダメ。冷静に冷静にね)
(く……まだ無駄な動きが多い。くそ、こんなんじゃダメだ!)
 【ケルベロス】が指揮官組に対して射撃をするが、上手く当たらない。敵の弱点は解析資料で分析し、敵機の移動予測も出来ている。それでも、思うように機体を操れず、焦りを覚えていく。
(カメラを狙うより、関節駆動系の破壊を狙った方がいいかもしれないよ。そりゃ、カメラ壊せば一発かもしれないけど、的が小さいからね)
 なんとか冷静さを取り戻しつつ、裄人はビームライフルの照準を合わせる。
(よし、うまく誘いに乗ってくれた)
 【スプリング】の陽動により、敵三機の距離が詰り、斜めに並んだ。【メテオライト】の位置からは三機が横並びで重なっているため、一機に見えるようになっている。
「並びましたね――滅しなさい!」
 アルテッツァがトリガーを引き、最大出力でビームキャノンを放つ。
(命中しました)
 三機のうち、一機は大破しそのまま地上に落下。もう一機は中破し、最後の一機は難を逃れた。
「隙あり、だ!」
 【スプリング】が離脱しようとした機体に対して急接近し、ビームサーベルで斬撃を繰り出す。
 残りの中破した機体は指揮官機の方へ合流しようとするが、
「今度は、外さない!」
 【ケルベロス】がビームライフルで、中破した機体の関節を破壊する。損傷率が機体限界を超えたのか、その機体も落下していった。
『さあ、あとは三機だ!』
 【クラッシャー】からの無線で、五機は残りの敵を倒すために編成を組み直す。
「フォ〜ホホホホ! 気合入ってきた」
「おい、アンジェラ。いつの間にネギなんか持ち込んでたんだ?」
 一瞬気が逸れてしまうものの、目の前の敵に集中する。
(まずいな、随伴歩兵がプラントに近付いてる)
(ハルト、右下、いる)
 アンジェラの合図で頭部バルカンを起動する。随伴歩兵――黒い装甲服の兵士達を倒していく。
(弾速が一瞬弱まった? まさか超能力か?)
(かもしれない。でも、イコンは防げない!)
 一掃すると、再び敵性イコンに視線を向ける。
「ビームキャノンチャージ完了。いくぜ!」
「フォォォオオウウう!!」
 三機まとまったところにビームキャノンを射出する。両腕から放たれた光条は一本の光の線となって敵機に迫る。
 だが、直撃する瞬間に敵は三方に散る。
「反撃なんてさせるかよッ!!」
 すぐに機関銃に切り換えるが、さすがに指揮官機は違った。
 急降下し、その後急上昇。ビームライフルやコームラントの機関銃の弾幕をものともせず、自機の機関銃で相殺していく。
「くそ、被弾した」
 とはいえ、コームラントの装甲は厚い。被弾するものの、ダメージは小さい。
「おらららぁっ! 俺達を舐めんなよ!!」
 【ブレイク】が敵機に向かって接近し、ビームサーベルで切りつける。だが、指揮官機はそれを最小限の動きで避ける。
「不味い、リディア、全速力だ!」
「うん!」
 すぐに指揮官機から離れる。機関銃の射程の中では危険だ。
(かおるん、別の敵さん!)
(そうだ。敵は一機だけじゃなかった)
 即座にビームライフルを放って、回避行動を取る。
「くーっ! やっぱ実際に乗るのはシミュレーションと段違いだな。思い通りに行かねえッ!」
 多少のダメージを受けつつも、まだ戦える範囲内だ。
(兄さん、来たよ!)
(指揮官機か! だけど――負けられない!)
 シュバルツ・フリーゲは【スプリング】に向かってくる。この指揮官はアルファ小隊と交戦している指揮官と違い、積極的に前線で戦うタイプのようだ。
 機動力を生かして急上昇し、上から敵指揮官機を狙う。だが、敵の機関銃の弾幕に阻まれてしまう。
「……当てられた!」
【スプリング】の肩部装甲が吹き飛ばされる。
「また、負けるのか。あのときと同型の機体に……」
 二ヶ月前の初戦の記憶が蘇る。あのときはカミロの駆るイコンに単身立ち向かい、手も足も出ず完敗した。
 そして今再び、シュバルツ・フリーゲが目の前にいる。
 そのとき、敵機に向けてビームキャノンの砲撃がきた。
『ブラボー3、そいつは手強い。援護するぜ!』
 敵はコームラントの攻撃を避けながら、さらに別方向からくるイーグリットの援護射撃をも防いでいる。
(そうだ、俺はあのときとは違う。集中しろ、直感と計算で先読みをしろ)
 敵機の動きを観察し、ビームライフルを構える。
(判断材料の一つ目は、敵が現在どの方向に動いているかだ)
 敵は急上昇、急下降を組み合わせてイーグリットに劣る機動力をカバーしている。
(二つ目は、敵機の可動範囲。アクロバティックな飛行にも限界がある)
 深呼吸。
(そして三つ目は、敵のフレームの微妙な移動……人間の筋肉の動きを見るように先読みを行う!)
 トリガーを引く。指揮官機が味方の攻撃をかわそうとして移動したまさにその場所、そこに直哉が放ったビームが命中する。
 敵の関節部、それも機関銃を持つ腕の肘に命中した。だが、まだ敵の回避性能はかわらず、しかも弾が撃てなくなったわけではない。ただ狙いがつけにくくなっただけだ。
(俺は、超えてみせる! 結奈!)
 敵機はまた【スプリング】接近してくる。どう向かってくるかを予測し、結奈がそこに機体を移動させる。
 そしてビームサーベルを抜き、
「おぉぉおおおお!!!」
 イーグリットで急加速し、指揮官機に斬撃を繰り出す。敵が機関銃のトリガーを引こうとしただろう時には、シュバルツ・フリーゲの機体は斬られた後だった。
 敵機は爆発し、空中に四散した。
『こちらブラボー3。敵指揮官を撃墜した』
 残るはシュメッターリング二機だ。
(やったね兄さん)
(ああ。俺『達』の勝ちだ)
『すごいぜ。よくやったな!』
 【クラッシャー】から声が飛んで来る。
『それじゃ、あと二機倒して、他の部隊の援護に向かおうぜ!』