リアクション
* * * 『こちらDW―E1、戦闘態勢に入りました。これより、状況を開始します』 他の部隊と足並みを合わせ、プラントに向かってくる敵機を確認する。 ダークウィスパー小隊は他の小隊とは編成が異なる。イーグリット四機、コームラント四機の八機編成だ。 それぞれイーグリットとコームラントが一機ずつペアとなり、ロッテ編成で移動する。後方からの援護と、前衛の機動力を生かした最小単位の分隊、というわけだ。 「敵は六機編成の小隊か。まずはプラント周辺で敵機を排除……上手く敵を引きつけないとね」 「エネルギーの方は大丈夫だよ」 状況を確認し、リュート・エルフォンス(りゅーと・えるふぉんす)とルシア・クリスタリア(るしあ・くりすたりあ)のDW―C3――【ファントムブルー】は、アンジェラ・アーベントロート(あんじぇら・あーべんとろーと)とグラナート・アーベントロート(ぐらなーと・あーべんとろーと)が搭乗するDW―E3――【アーベントロード】と組んで、敵機排除に当たる。 『DW―E1から各機へ。敵機を分断します。ロッテを維持したまま、誘導を』 DW―E1――【シルバーフォックス】のエルフリーデが指示を出す。 『アンジェラさん、僕が援護する。機関銃で弾幕を張るからその間に接近して』 『了解ですわ』 【ファントムブルー】が敵部隊に対し、ギリギリの射程で弾幕を張る。敵機はこちらの機関銃に対し、同じように機関銃で応戦してくる。 気を取られたそのときが、チャンスだ。 【アーベントロート】が接近し、ビームライフルでの牽制を行う。 (まだ完全には崩れてませんよぉ) (私達も援護するぞ) イングリッド・ランフォード(いんぐりっど・らんふぉーど)とキャロライン・ランフォード(きゃろらいん・らんふぉーど)のDW―C1――【アトロポス】がビームキャノンを構える。 『頼むぞ、狭霧』 『了解ッス!』 狭霧 和眞(さぎり・かずま)とルーチェ・オブライエン(るーちぇ・おぶらいえん)のDW―E4――【トニトルス】が前衛に出れるよう、砲撃を行う。 (この距離なら、DW―C3とDW―E3も援護出来ますぅ) キャロラインが精神感応でイングリッドに伝える。レプンカムイの位置情報システムを参照し、援護に最適な位置取りを行う。 【ファントムブルー】が中距離、【アトロポス】が遠距離、そして二機のイーグリット【アーベントロート】と【トニトルス】が近接での攻撃が行える。 二機編成ずつではあるが、事実上四機での連携となる。 ビームキャノンの光が、敵小隊に向かって飛んでいく。それに合わせ、【ファントムブルー】が機関銃でさらに敵の隙を奪い、避けようものなら二機にイーグリットで切り込んでいく。 だが、敵もそう簡単には翻弄されない。 こちらと同じように、二機編成ずつになる。これで二対二の状況だが、敵はこちらより一組少ない。 「敵もロッテ編成か。だけど、こっちも連携すれば……」 十七夜 リオ(かなき・りお)とフェルクレールト・フリューゲル(ふぇるくれーると・ふりゅーげる)のDW―E2――【シュヴァルベ】が敵機を見据える。 シュバルツ・フリーゲとシュメッターリングだ。 『リオ、援護するよ!』 DW―C2――【ドラッケン】の天王寺 沙耶(てんのうじ・さや)とアルマ・オルソン(あるま・おるそん)が、【シュヴァルベ】を援護するように、ビームキャノンを構える。 ここまでは、先に牽制に回った四機と同じだ。 ビームキャノンの発射に合わせて、【シュヴァルベ】がビームライフルでの射撃を行う。相手が指揮官機であることは分かっている。だから、まずは牽制だ。 (ライフルを低出力モードに調整。牽制する) フェルクレートが威力調整を行い、リオがトリガーを引く。だが、この二機はそれをものともせず、最小限の動きでかわしながら、逆に機関銃でこちらを牽制してくる。 『随分と面白い戦い方をするものだ』 敵機からの通信が入る。敵指揮官機の方からだ。 『はん、その程度かよ!』 もう一機はシュメッターリングからである。その、どこか不良染みた物言いに、リオは聞き覚えがある。 ――命拾いしたな、ガキ共。 二ヶ月前、リオ達が対峙した敵。それと同じパイロットのようだ。 『あのときの……! DW―E2から各機へ。手強い奴らが出たよ!』 しかも、片方は指揮官機に搭乗している。それを考えても、このまま前のように二機で正面から相手にするのは危険だ。 「そういえば、校長が赴任してきたときに活きのいい奴がいたが……なるほど、あれがそうか」 リーリヤ・サヴォスチヤノフ(りーりや・さう゛ぉすちやのふ)がエルフリーデに言う。 「おそらく、あのときの二機でしょう。片方は指揮官クラスでしたか」 しかも、敵は他にも四機いる。他の小隊も、それぞれ敵小隊との交戦で身動きが取れていない。 しかし、それは裏を返せばプラントへの進路を阻んでいるのであり、地上の後続部隊の安全は確保されている。そういう風に学院側が陣形を展開してもいるからだ。 『ダークウィスパー全機へ。これより、ケッテ編成に移行します』 後衛に【ファントムブルー】と、【ドラッケン】が回る。残りの六機がそれぞれ三機ずつ、イングリット分隊とエルフリーデ分隊とに分かれる。 『DW―C3、了解』 【ファントムブルー】が【アーベントロート】との連携を解く。 『DW―E3、検討を祈る』 『ええ、精一杯やってみせますわ』 そのままプラントを背に、ビームキャノンを構えて待機する。 「んー、やっぱりこういう状況だとあんまり話す時間はないよね」 「大丈夫だよ、帰還した後も時間はあるんだし。頑張ろう! あ、エネルギーはチャージ完了してるよ」 一方、二つの分隊はそれぞれ敵機の編成を見て行動に移る。 敵は後衛に二機、前衛に四機で展開している。 『さあ、見せてもらおうか。お前達の力を』 敵指揮官は、静かに後衛としてこちらの様子を窺う。前衛の四機が指揮官機に代わり、機関銃で二つの分隊に迫る。 『DW―C4、援護するよ!』 高峯 秋(たかみね・しゅう)とエルノ・リンドホルム(えるの・りんどほるむ)のDW―C4――【ジャック】が ビームキャノンでの砲撃を行う。 それに合わせて、【アーベントロート】と【シルバーフォックス】が前進し、四機を分断しようとする。 二つの分隊は、ちょうどコームラントのキャノンが敵へ向かう際、クロスするように展開している。斜めから、しかも高低差をつけることで、敵の動きに対応する。 『DW―C1、目標を捕捉。砲撃を開始する!』 【アトロポス】が四機がの回避地点を予測。時間差をつけてビームキャノンを放つ。発射された光条の流れを追うように、【シュヴァルベ】、【トニトルス】が突っ込んでいく。 敵の機関銃の射程を掻い潜りながら、敵機よりも高い位置をとるために上昇する。 イーグリットもまた、それぞれ高低差をつけ、斜めに展開。上下から、しかも微妙な軌道の切り替えによって、敵機をプラントから遠ざけていく。 敵機のうち、後衛の二機はたまに機関銃で援護するが、基本は様子見だ。こちらが前衛四機のシュメッターリングの連携を崩すまでは動かないのだろう。 それだけ、自分の隊の力を信じているということなのかもしれない。あるいは、こちらを学生だと思って侮っているのか。 後者の可能性はおそらく薄い。敵指揮官は驚くほど冷静に状況を判断しているらしく、動きに無駄がない。 『D―3、D―4は急下降の後、牽制を行い射程距離を維持。D―5、D―6』は上昇し、片方の分隊に対して接近。間合いに一度入って、こちらまで戻れ。相手が学生だからと甘く見るな』 敵の四機がダークウィスパーのそれぞれの分隊に向かって接近してきた。 『来たッスよ!』 敵は機関銃を撃ちながら距離を詰めてくる。 (兄さん、この距離ならビームサーベルです) 【トニトリス】がビームサーベルを抜き、頭部バルカンで接近してくる敵を牽制しようとする。 敵機はわずかに被弾しながらも、怯まない。だが、ビームサーベルの間合いに入る。 「食らうッス!!」 一閃。 だが、そこに敵の機体はない。間合いに入った瞬間、さらに急下降したのだ。 (下です、兄さん!) 咄嗟に機体の速度を上げ、退避する。敵はフェイントをかけてきたのである。 (厄介な動きをする) (まだ、全機オールグリーンですぅ) (ならば、やはり攻めでいくか) 【アトロポス】が敵シュメッターリングに対し、機関銃を構える。 『イングリット分隊各機へ。機関銃で弾幕を張る。こちらが援護している間に、敵機を後退させてくれ。まだ無理に落とす必要はない』 だが、敵機はなかなか後退せず、むしろ多少の被弾も気にせずこちらに向かってくる。 (気にせず向かって来るのなら……ライフルを通常出力に変更。撃ち落す) 【シュヴァルベ】がビームライフルの出力を変更する。 (当たれ!) 接近してくる敵の、狙うは関節。駆動系が一ついかれただけで、急激に動きが悪くなることは、解析資料によって知っている。 だが、敵機は旋回し、わざと装甲の厚い部分に被弾させ、ダメージを軽減している。どうやら、この小隊員は後衛の二人以外も、かなりイコンを乗りこなしているようだ。 (立ち止まってられない。あの奥の二機、あいつらを絶対に引きずり出す!) 敵機に当てるのが困難だと知ると、すぐに出力を下げる。 長期戦になる可能性は高い。 (弱点は関節と、あとはジェネレーターです。ジェネレーターに被弾すれば、敵の出力は40%低下します) 敵機の弱点を確認し、エルノが秋に伝える。 狙っても当てるのは難しい状況になっているが、敵の動きを予測してトリガーを引けるようにする。 機関銃を放ち、その間に前衛の二機が攻め込む。 「この距離なら、当たりますわ!」 【アーベントロート】がビームライフルを敵機に向かって放つ。確かに、攻撃は当たった。とはいえ、敵は当たる直前に機体をひねり、ビームの威力を軽減している。 左手のマニピュレーターは手刀の形になっている。ダメージはあるが、それでビームライフルくらいなら弾けるのだろう。 「あんな使い方もあるんですね……」 「感心している場合じゃありませんわ!」 もう一方の銃器が自由なのだ。一度距離を取り、敵機の様子を窺う。 (頃合ですね) 【シルバーフォックス】のエルフリーデは、後方の確認をする。後続部隊は、粗方プラント内部に侵入し終えたようだ。 一部、イコン戦下を掻い潜っていった随伴歩兵の対処をしている者を除いて。とはいえ、敵の歩兵は無事に入口まで辿り着ける方が少ない。あとは実力のある契約者が対処してくれるだろう。 『DW―E1から各機へ。後退します!』 全機、一時後退。 それを追うように、敵のイコンは迫ってくる。 『今です!』 だが、敵はビームキャノンの最大射程を把握していなかった。 『前衛、後退しろ!』 敵の指揮官がそれに気付いたが、射程圏内から離脱は出来なかった。 「沙耶!」 「当たれー!!」 最大出力のビームキャノンが敵機に一直線に向かっていく。 「少しくらい、痛い思いをしてもらうよ」 【ファントムブルー】も、それの少し後に限界出力でビームキャノンを放つ。回避しようとすれば、こちらのビームに当たり、動かなくても【ドラッケン】のビームに当たる。 しかも、最大出力ともなれば、身体を張って止めるわけにはいかない。 ダークウィスパーの機体は全機反転し、離脱。 ビームが向かっている間に、再び元のロッテ編成に戻る。 『一気に攻めますよ!』 ところが、予期せぬことが起こった。 『ガキが、舐めんなよ!』 後衛にいたシュメッターリングが沙耶の放ったビームキャノンの砲撃に向かって飛び込んできた。 そして、手に持っていた機関銃を投げ捨て――唐突に剣を引き抜いて、ビームを真っ二つに斬り裂いた。そのため、他四機は回避行動をとらず、そのまま後退する。 「剣!?」 シュメッターリングが握っているのは、実体剣だった。ブロードソード型の、である。 『そんじゃ、少し本気で相手してやるよ』 敵のシュメッターリングは、そのままロッテ編成に戻ったダークウィスパーに向かって斬り込んで来る。 「コームラントのビーム斬るって、無茶苦茶だよ……」 とはいえ、そういう加工が施されているのだろう。だが、実体剣を他の機体が持っている気配はない。 『全機へ状況が変わりました。フォーメーションを変更します』 前衛四機、後衛四機のシュバルム二編成に変える。後衛の弾幕を濃くしなければ、前衛のイーグリットが身動きを取るのが難しくなる。 敵小隊の連携は、それほどに脅威なのだ。 『いい判断だ。だが、「その戦い方」ではまだイコンの本質を理解していないな』 敵指揮官機が、実体剣を持ったシュメッターリングを援護しながら、向かってくる。 『D―3、D―4、D―5、D―6.全機全速力で上昇。射程は相手の方が上だ。速度を維持し、射程ギリギリのところで撹乱しろ』 敵の四機のシュメッターが急上昇していく。 その間に、前衛のイーグリットに、残りの二機が迫る。 『さあ、どう出る?』 敵指揮官は無線をオープンにしたままであり、その声が聞こえてくる。その口調は、まるでダークウィスパーの面々の資質を試しているかのようだった。 ただ殲滅対象としてみるのではなく、「敵」に値しうるのかを見極めるために。 『さっきから言いたいこと言ってるみたいだけど――あのときの悔しさをばねに訓練を続けてきたんだっ! 今度は負けない! ナナシにゴンベ!!』 前衛、【シュヴァルベ】が、ライフルの出力を上げた。また、【シルバーフォックス】はその後ろから援護する。 『指揮官機は私達が引き受けます!』 さらに、その後ろからコームラント二機が援護射撃の態勢に入っている。残りの四機は、高高度に展開している他四機を対象として動く。イーグリット二機、コームラント二機ずつのシュバルム編成になる。 『挨拶くらいはしておこう』 敵指揮官機が、機関銃を放ちながら、高速旋回する。ある程度の距離まで接近すると、まるで人間と同じような柔軟な動きでビームライフルをかわしていく。 『グエナ・ダールトンだ』 『ったく、律儀なこった。オレはエヴァンだ。まあ、ここでテメェが死んでも、冥土まで持ってくこったな。にしても、どんな奴が乗ってるかと思ったが……女かよ』 誰の声で判断したのか、どこか敵はつまらなそうだ。 『お嬢ちゃん達は、さっさと帰って大人しく料理でも作ってろよ』 挑発なのか本音なのか、癇に障る言葉を並べてくる。 だが、これもこちらの冷静さを奪う作戦なのかもしれない。 (今度は負けない……絶対っ!) シュメッターリングに対して照準を合わせる。相手は剣しか持っていない。 『DW―E1、DW―E2。援護するよ!』 【ジャック】と【ドラッケン】がビームキャノンを放とうとする。 『エヴァン、来るぞ』 『わーってるよ』 敵機が二手に分かれた。それぞれに向かって、ビームキャノンが放たれる。 (今だよ!) 照準を合わせた【シュヴァルベ】が、エヴァンと名乗った男の機体を狙う。 だが、実体剣でそれを弾かれてしまう。ある程度の距離を詰めているにも関わらず、だ。 『遅ぇ!』 機体速度はイーグリット方が上のはずだ。だが、敵は【シュヴァルベ】までの間合いを詰めてくる。 咄嗟にビームサーベルを抜き、剣と戦おうとするが、 「――ッ!!」 敵は空中で回転し、蹴りをビームサーベルを握った腕に対して繰り出した。そのまま回転の勢いで【シュヴァルベ】の右腕を落とす。 『何のために足があると思ってんだ?』 機体には相当な負担がかかっているはずだが、それでも敵はこちらの想定していない動きをする。 残った腕でビームライフルを構え直す。 (リオ、機体損傷オールイエロー。一旦引くよ) だが、その状況はレプンカムイで他の機体にも伝わる。 (まずいですね……) 対し、敵指揮官機に向かっていた【シルバーフォックス】も窮地に立たされていた。 『戦略は見事だ。数に勝っていることだけでなく、それぞれの役割に沿ってこちらの状況を的確に読み取っている。だが……』 ビームライフルで牽制を行おうとした瞬間、 『技術が足りない』 敵指揮官、グエナが機関銃でビームライフルの銃口を撃ち抜く。 『銃口を向けてからのタイムラグがありすぎる。狙ってくれと言っているようなものだ』 続いて、他のコームラントを敵は狙おうとする。 『機体同士の連携は出来ている。だが、まだお前達には欠けているものがある。それを考えてみることだ』 パートナーとは連携しているから、機体は操れている。だが、今の学院には、パートナーと二人で戦う上で欠けているものがある。 それが、自分達との差だと敵の指揮官は言う。 『お前達は前に進んでいるかもしれない。だが、俺達も同じ場所でじっとしているわけではない。お前達が自分に欠けているものに気付かない限り、俺達は超えられん』 |
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