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聖戦のオラトリオ ~覚醒~(第1回/全3回)

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聖戦のオラトリオ ~覚醒~(第1回/全3回)

リアクション


(・ナイチンゲール)


 制御室の中。
「皆、怪我はないか?」
 九条 ジェライザ・ローズ(くじょう・じぇらいざろーず)冬月 学人(ふゆつき・がくと)は、戦闘を終えた先遣隊や超能力部隊の者達の治療に当たっている。
「皆さん、あっても軽症ですね。ですが、少しの傷でも油断は出来ません」
 学人が応急手当をした後、ヒールを施す。
「重傷者がいないのは、安心だな。だが、まだプラント内には他にもたくさん人がいる」
 それも事実だ。
 この制御室まで辿りついた者は、全体の一部に過ぎない。
「それにしても、こんなところがあったとはな……」
 制御室を見渡す。
 シャンバラ古王国の遺跡には、超テクノロジーを感じさせるものもあったが、ここは違う。
 まるで、遠い未来に存在するような、それこそSF映画に出てくるような技術の結晶だ。
 本当に五千年前の遺跡群の一つなのか、疑問を感じさせる。
 だが、ここを調べればその正体も見えてくるだろう。もっとも、ジェライザ・ローズにとっては調査に向かおうという人を一人でも多く治療するのが先決だが。
 教導団衛生科に所属している身としては、それがここで出来る最大限の手伝いだ。

「それで、あなたは一体何者なの?」
 真里亜・ドレイク(まりあ・どれいく)は、突然この制御室に現れた一人の人物に問う。
『おはようございます。システムの再起動は完全に完了致しました』
 侍女姿の、少女だ。いや、少女なのか女性なのかと言われれば判断に困るくらいの年恰好ではあるが――このプラントに関係があるのは間違いない。
『私はこのサロゲート・エイコーン第三製造支部のマザーシステム「ナイチンゲール」です』
 どうやら、彼女はコンピューターが投影している立体映像のようだ。
 だが、
「コンピューターのシステムなの? 触れるのに」
 そう、そこに彼女は実体として存在している。
『粒子固定化によって、大気中に投影した映像を空間に滞在させているだけです』
 無表情に淡々と話す。
『ご命令を。現在、レベル3までの命令が実行可能です』
 どうやら、あとはこのプラントを制御してくれるらしい。
 もっとも、それらの命令権はシステムを起動しようとしたクレア、月夜そして最後にアクセスを試みた天学の彩羽の三人に認められているようだが。
「外の様子を写してもらえるか?」
『かしこまりました』
 メインモニターに、外の戦況が映し出される。
「何か、敵にプラントは制圧したって知らせられない?」
『シュバルツ・フリーゲ、並びにシュメッターリングを、レベル3アクセス権を持つ者により排除対象と認定』
 なにやら、大きな音が聞こえる。
 次の瞬間、レーザーのようなものが戦場に向かって飛んだ。
「それよりも、内部の防衛システム起動出来ないかしら? 黒い装甲服を追い出したいの」
『かしこまりました』
 モニターが切り替わり、中の様子が映し出される。
 また、無理に迎撃することもなく、敵に向かって制圧の事実を知らせる。
 すると、敵はあっさりと引いていった。
 これで、イコン製造プラントを完全に手に入れたのである。
「……あれ、なんでしょうか、これ?」
 ふと、勇があるものを制御室内で見つける。
 それは、掌よりわずかに大きい程度の『匣』だった。
『そちらについては、レベル7の情報になりますので、お答えすることは出来ません』
 なにやら重要なものらしいが、ここにある以上、イコンに関係のあるものらしい。
『マスターのみが知るコードを入力頂ければ、全情報を開示致します』
 とはいえ、その『マスター』はおそらく五千年前に死んでいるだろう。
「学院。いえ、ホワイトスノー博士に届けた方がよさそうね」
 上層部よりは、実際にイコンに関わっているホワイトスノー博士に渡すということで、超能力部隊の中で取り決めがなされた。
 PASDとしても、実際にイコンに関わるところが預かるのが相応しい、ということらしい。

 そして、イコン格納庫には神楽坂 紫翠(かぐらざか・しすい)橘 瑠架(たちばな・るか)
の姿があった。
「イコン……こんなに、ある」
 格納庫に並ぶ、五千年前から保管されたままのイコン。コームラント、イーグリットは古来より、シャンバラ側が使用していた機体だということがこれで分かる。
 奥まったところに一機だけある、どこか女性型の――女神めいた機体の名は分からない。だが、いずれは新たに学院のイコンとして加わることになるだろう
「すごいわ。これが五千年前の技術なんて」
 だが、本当にこの施設自体が五千年前に造られたのか。
 なぜ、マザーシステムが自らを投影し、接することが出来るのか。この施設を造ったであろう『マスター』とは何なのか。
 まだサロゲート・エイコーンに秘められた謎は多い。

* * *


『エヴァン、退くぞ』
 突然のレーザー砲撃に面食らい、プラント制圧に失敗したと、ダールトン小隊の隊長、グエナは判断した。
『ち、またかよ。面白いとこだったのによ』
 敵機を当然、追いかけて撃墜しようとする者はいる。だが、グエナは敵味方全員にオープン回線で無線通信を行った。
『双方、これ以上無駄な犠牲を出す必要はない。我々は大人しく退こう。プラントを死守したのは、見事だ』
 敵機の生き残りは、率いられるように去っていく。
 そして、グエナは一言だけ天御柱学院のパイロット達に残していった。
『だが、まだ俺達の力には及ばない。お前達が本当に自分の意思で譲れない戦いをしているというのなら、俺達を超え、そして止めてみせろ』
 なぜ、敵である自分達にそんな言葉を送るのか。
 敵の真意は分からない。だが、話に聞くような悪逆非道なテロリストとは違う、鏖殺寺院の一面がそこにはあった。