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リアクション
第十一曲 〜影の錬金術師〜
「この状況から察するに、内部も迎撃態勢は整えているだろうな」
クレア・シュミット(くれあ・しゅみっと)はパラミタ内海の空を見た。
「しかし、どうやら敵はこちらの動きを掴んでいたようですね」
ハンス・ティーレマン(はんす・てぃーれまん)が呟く。
イコン戦が上空で繰り広げられているが、奇襲とはいかなかった。
さらに、敵要塞の防御の前になかなか突入することが出来ない。
そのとき、要塞上部の主砲が爆発、炎上した。
「乗り込むなら、今か」
(・突入)
要塞の主武装が破壊され、敵のイコンは天御柱学院のイコン部隊と交戦しており、地上にまで気を配る余裕はなさそうだった。
海岸沿いには、要塞制圧のために編成された「強化人間部隊」が並んでいる。
「第一斑は重力場の固定を。第二、第三班で「入口」を作りに行く」
海上を移動するには、乗り物かレビテート、空飛ぶ魔法のようなものがなければならない。
だが、強化人間部隊は、特殊な重力場発生装置でサイコキネシスを強化した。それによって、海上には「見えない道」出来た。
そこを通り、強化人間部隊第二、第三班が要塞へ向かって一直線に駆け抜けていく。
イコンの流れ弾や、要塞からの攻撃はサイコキネシスで弾き飛ばす。
そして、要塞の壁を「力」で破壊した。
『確保完了』
『第一班、了解。これより、「契約者」の方々が出撃します』
「いよいよ攻め込むか」
エース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)が呟いた。
彼らは今回、PASDの一員としてここに赴いている。
情報本部と製造プラントの調査チームと、この現地からの連絡を取るとともに、戦場での医療班として活動するのがエースと彼のパートナーの役割だ。
三日前の製造プラント攻防戦後、大学に戻ったエースはPASDへの加入手続きを済ませ、正式にその一員となった。
そして、これから他の部隊と一緒に、内部へと侵入する。
海上。
二機の小型飛空挺ヘリファルテが、青いビニールシートを迷彩代わりにして飛んでいる。
「さすがに小隊としてまとまっているところにいくわけにはいきませんね」
ナレディ・リンデンバウム(なれでぃ・りんでんばうむ)と名無しの 小夜子(ななしの・さよこ)の小夜子だ。
彼女達は、要塞内部に突入する――というわけではなかった。
「いた。一機……孤立しています」
小夜子が告げる。
どうやら、天学のイコンとの交戦によってダメージを負ったらしい。
「いきますよー!」
上空のイコンに悟られぬよう、急上昇していく。
ヘリファルテには金属ケーブルに繋がれた――爆薬がある。
イルミンスール生である彼女は、学校で入手できる薬品を調合して、出来うる限り強力な爆薬を作った。
並の武器ではダメージを与えることが困難なイコンであるが、果たしてこの策は通用するのだろうか。
ケーブルの端を、小夜子とナレディで持ち、シュメッターリングに接近する。
そして、イコンの周回をヘリファルテが囲い込み、爆薬で縛り上げる。
イコンの欠点の一つは、生身の人間がほぼゼロ距離まで近付くと何も出来なくなってしまうということである。
頭部バルカンですら、下手に撃とうとすれば自らの装甲を傷つける。
「準備完了です」
金属ケーブルも、ワイヤーを何重にも束ねることで、強度を高めてある。
だが、敵のイコンはそれを引きちぎろうとする。
そして、爆薬に向かって雷術を放った。
ドン、と音を立て、繋がった爆薬が次々と誘爆していく。
だが、
「しぶといですね」
あまり効いていないようだ。
さほどスペックが高くない機体とはいえ、それでも「サロゲート・エイコーン」には変わりがない。
「小夜ちゃん、もう一回トライですよー」
だが、敵もナレディ達に銃口を向ける。
機動力があるヘリファルテでもなかなか避け続けるのは厳しい。
それでも、彼女達に注意を向けてしまったがために、シュメッターリングは天学のイコンからの射撃に反応出来ず、関節部とジェネレーターが撃ち抜かれる。
それによって、多少はダメージを与えられる可能性にナレディは気付く。
(あそこを狙えばいいんですねー)
だが、なかなか単機で狙えそうなイコンは現れない。
そして、海上の戦いも結末を迎えることになる――