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聖戦のオラトリオ ~覚醒~(第2回/全3回)

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聖戦のオラトリオ ~覚醒~(第2回/全3回)

リアクション


間奏曲 〜Intermezzo〜


 ――2012年、ロシア某所。


「驚いたな、これは」
 ロシア連邦軍特殊技術局少佐、ジール・ホワイトスノーは発掘された「機械仕掛けの神」と呼ばれる彫像の解析結果に目を見開いた。
「内部はやはりコックピットと言えるでしょう。しかも、当時のパイロットの遺骸までそのままの状態で保存されているとは。まるで眠っているかのようです」
 内部に特殊なカメラを通したことで、何があるのかは判明した。
 今から約五千年前の地層から発見されたそれは、現在のテクノロジーでは再現不可能。
 しかも、その「機械仕掛けの神」自体がいつ造られたのは全く推定が出来なかった。素材も、金属のようではあるが、現在地球上に存在するどれとも一致はしないためだ。
 ただ、発掘地に五千年以上埋まっていたことだけは、紛れもない事実だった。地層周辺に、近年になって手を加えられた形跡が一切存在していないのである。
「待て、所長」
 ジールがあることに気付いた。
「内部の人物は複数のコードで繋がれている。おそらく、彼女はパイロットの補助を担当するために据えられたのだろう。あの『人形』と同じだ」
 解析資料を丁寧に読み進め、それが生身の人間ではないと彼女は考える。
 完璧な造形の美少女。彫像内部に納められた人物に対する、それがジールの第一印象だ。中から取り出せればいいのだが、まだその方法はわからない。
「なるほど、ロボットを操作するためのロボットですか。いよいよもって超古代文明が信憑性を増してきましたな」
「いや、地球上の文明とは限らない」
 ジールは天井を見上げた。
「――浮遊大陸パラミタ。まだ全容が明らかになっていない、あの未知なる大地の産物という可能性がある」
「おや、『パラミタ』には興味がなかったのでは?」
「興味云々の問題ではない。それに、これが『人型ロボット』であることにほぼ間違いはない。しかも、人が乗るものだけではなく、自律駆動型と思しきアンドロイドまでついてくるとは」
 損傷が激しい少女人形も、機体の中に遺されているのも、おそらくは同系統のものだろう。
 現在の地球の科学技術でも、外見だけなら人間と大差ないアンドロイドは、既に数体の試作型は完成している。課題があるとすれば、人工知能が不完全であるということくらいだ。
 そのため、まだ実用化には至っておらず、そのパーツを義肢として使用するにとどまっている。もっとも、表向きにはまだ「実用化にはほど遠い」ということになっているのだが。
 ロボット工学の最高権威としては、確かめなければ気が済まない。
 ――本当に、パラミタには発掘された「機械仕掛けの神」や「少女人形」を造るだけの技術があるのかを。
「確かめますか、少佐?」
「パラミタに行って、ということか?」
「いえ、『機械仕掛けの神』の中にあるものを、ですよ。幸い、データはありますし、簡単に壊れるものではなさそうです。それに、少佐が行うのであれば当局も文句は言いませんよ。『パラミタへ進出する』なんて言わない限りは」
 ロシアは他の先進国に比べて、パラミタ進出には消極的だ。
 ドージェ・カイラスなる強力な契約者が中国軍と交戦状態に突入。加えて、ヨーロッパでは魔術結社が台頭し、欧州魔法連合(EMU)を設立。しかも、パラミタは限定的にではあるが日本に帰属している。
 このような世界情勢のため、ロシアはパラミタに関してはまったく身動きが出来ない状態である。しかも、現在の「魔法化」進行中のヨーロッパとはあまり友好であるとはいえない。
 政府は、今の世界情勢を鑑み、他国に刺激を与えるのは得策ではないと判断している。
「所長、明日にも作業を始めたい。各種手続きは任せる」
「ええ、直ちに」

* * *


「少佐、この子は一体……?」
 イワン・モロゾフ准尉が、研究所の中で『研究対象』とされてる子供の力に驚愕した。
「所長曰く、先天的にPSI(サイ)を持っているとのことだ」
「生まれもっての超能力者、ですか」
 話しかけてくるときは、基本的にテレパシーであり、手を触れずに物を動かす。
「計測の結果、5000kgまでは自在に動かせるらしい。もっとも、それだけではないようだが」
 俗に言う、「超能力」の全てをこの子供は使いこなせるのだという。
 だが、生まれながらにその力を持っていたため、親から殺されかけたらしい。その後いくつかの孤児院をたらい回しにされた挙句、所長に拾われて研究対象となった、とジールは所長から説明を受けていた。
 七、八歳ほどの年頃に見えるが、その顔に表情と呼べるものはなく、目にも光はない。「声や表情に出さずともに意思を伝えられるせいで、実際に顔を動かすという機能が発達しなかったのだろう」というのが、特殊技術局の推測だ。
 実際、テレパシーで伝わってくる言葉には、しっかりと歳相応の感情が備わっている。
『しょうさー、ゲームしようよー!』
 ジールはこの子供になぜか懐かれてしまっている。本人としては本意ではなかったが、あまり悪い気もしない。
「ああ。ただし、力を使ったら反則だからな。准尉、お前も付き合え」
「え、ぼ、僕もですか?」
「なんだ、子供は苦手か?」
 イワン少年は子供が苦手、というよりは超能力が使えるという相手に対する戸惑いが拭いされないのだろう。
「そういうわけでは。ただ……」
「ただ?」
「いえ、何でもありません」
 どこか、イワンは過去の自分を重ねているようにも見えた。彼自身はただの人間のはずだが、国内最年少准尉であることを考えれば、特異な環境で育ってきていたとしても不思議ではない。
「ところで、名前はなんですか?」
 イワンが尋ねてくる。
 元々、この子には名前がなかった。いや、過去にはあったのかもしれないが、所長は「必要がないのでつけていない」と、番号で呼んでいる。
 だが、同じ研究者でも、ジールは人間を番号で呼びたくはないと思い、名前を与えることにした。
「この子の名前は――ノヴァだ」

 人類に新たな希望をもたらす新星。そんな意味をジールは名前に込めた。

 だがそうはならかった――