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聖戦のオラトリオ ~覚醒~(第2回/全3回)

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聖戦のオラトリオ ~覚醒~(第2回/全3回)

リアクション


(・疑問)


 イコンプラント第一層、基地部分の一室。
 その扉には【ダークウィスパー臨時屯所】という大書で書かれた張り紙が張ってある。
「二人が到着するまでに、今後の対策について考えておきましょう」
 エルフリーデ・ロンメル(えるふりーで・ろんめる)リーリヤ・サヴォスチヤノフ(りーりや・さう゛ぉすちやのふ)の二人は室内で話し合いを始めようとしていた。
 PASDには調査にも協力するということで、この部屋の使用許可を得ている。
「とりあえず、バージョンアップ作業は無事に終わったみたいだぜ」
 先日の戦いから試験導入した『レプンカムイ』をβ版に更新するため、戦闘後すぐに申請を行った。それが受理されたときには、二人がプラントに向かって移動し始めたところだったが。
 それでも、ラグナル・ロズブローク(らぐなる・ろずぶろーく)が海京に残っていたおかげでそれを知ることが出来た。
 寺院の拠点制圧戦の後方支援のため、前日のうちにこの場所に到着していた。
 幸い、PASDも泊りがけで調査の準備をしていたため、そのまま滞在することも可能だったのである。
 ラグナルが従者六人と共に、突貫作業で全機のシステムを更新し、それが終わり次第こちらに合流する手筈となっている。
 システムの変更点は、

・高度を含めた敵機の正確な位置情報を三角測量の要領で割り出し、砲撃時の誤差を修正する機能。
・敵機の回避予測位置の表示。
・武器レンジの表示機能の追加。機体位置の光点の周囲に円状で表示し、光点の色によって機体、高度の判別を可能とする。

 レーダーやセンサーそのものを強化することは現状では不可能だ。
 そのため、あくまでもシステムというのはパイロットをサポートするためのプログラムに過ぎなく、今回の変更要素も機体性能に依拠する形となる。
 拠点制圧戦でのデータをもって、最終的な判断をすることになるだろう。
「このプラントはマザーシステムが管理しているとのことですが、それだけでは限界がありますよね。防衛力強化、インフラ整備については必要な気がします」
 プラントまで鉄道の路線を延ばせれば、空京、ヒラニプラと繋げることも出来る。これに関しては西シャンバラ政府や各校の校長に進言する必要がありそうだ。
 それ以上に彼女が気にしているのは、学院のことである。
「そういえば、生徒会は機能していないんでしょうか?」
「これといって、活動っぽい活動をしてる印象はないぜ」
 現在の天御柱学院には学生自治の風潮がなく、ほとんど学院上層部が仕切っている。校長が直接生徒や上層部に指示を出すこともなく、傍観しているのも現状だ。
「先日の戦い。私達には足りないものがある、と彼らは言ってました。それに、学院の言いなりのままでは決して追いつけない、そんな気がします。
 生徒達の意識改革、そのためにも……『生徒会選挙』を正式に行った方がいいと思います」
 これは上層部よりもコリマ校長に直接提案した方がよさそうだ。
 意識の高い生徒が役員となり、イコンを駆ることの覚悟と責任についてを浸透させる。それが今の自分達に足りないものの一つである、そうエルフリーデは考えていた。
 そのとき、扉をノックする音が響いた。

「ここにいたのね」
 荒井 雅香(あらい・もとか)はエルフリーデ達との合流を果たした。
 海京分所のホワイトスノー博士が昨夜から外出していることが気になっていたが、それよりもイコンについてより知る機会と、ここまで来たのである。
 博士の身を案じるよりも自分に出来ることを、というわけだ。
 彼女と一緒に、ラグナルもこの場に来ている。
「この歳になると徹夜は辛いな」
 というのは、ラグナルの弁だ。レプンカムイの更新作業を夜通しで行った上、このプラントまで直行してきたため、やや疲れの色が見える。
「状況はどんな感じ?」
 雅香はエルフリーデに尋ねた。
「今後の対策について考えていました。探索はまだですね」
「そう? なら、格納庫まで調べに行かない?」
 整備科所属である雅香としては、イコンが存在している格納庫をいの一番に調べたいところだ。
 さらに、彼女がプラント戦の際に情報部の手伝いをしていたことにより、そこに『女神型』のイコンがあることが判明している。
 そのことは事前にエルフリーデにも伝えており、彼女もそれには興味深々のようである。
「行きましょう。まだまだここの全容は明らかになってないみたいですから」
 雅香が持っていた内部地図を見ながら、目的の場所を目指す。
「あたしはこのフロアを少し見てくるぜ」
 リーリヤも二人とは別の場所を探索しに行く。ラグナルが留守番、というわけだ。
 もっとも、リーリヤはこれといった発見を出来ず戻る羽目になってしまうのだが。
 中は広いが、なんとか迷わずに格納庫の中へ足を踏み入れる。
「すごいわね……」
 完全な姿を残している数十のイコン。これが五千年の間眠り続けていたとは。
「中、入っても大丈夫ですか?」
 入口にいた眼鏡の青年――リヴァルトに尋ねる。
「天御柱学院の生徒ですね。どうぞ」
 学生証の確認を終えると、そのまま通してもらえた。
「ここはもうある程度調査は終えていますが、イコンを知っている方が見れば新しい発見があるかもしれませんね」
「調査には私達以外の学院の生徒は来ていないのですか?」
 雅香が青年に尋ねる。
 自分達以外にも調査しに来ている人はいるとのことだったが……
「ロイヤルガードの方が先程までここにいました。天御柱の生徒は、制御室にいる方だけですね。唯一この場でアクセス権を持っている方なので、ここでの情報関係を手伝って頂いてます」
 リヴァルトが説明し終えると、二人には無線機が渡された。
「内部での連絡にはこちらをお使い下さい」
「ありがとうございます」
 それを受け取り、吹き抜けの通路を歩いていく。
 雅香は実際に機体に触れ、学院にある同機との違いを確かめようとする。
(外観に大きな違いはなし。内部に関しては……コックピットはわずかに差異があるわね)
 一部の機器が異なるのは、学院製のイコンに若干地球製の部品が使われているせいだろう。
 このプラント以前にどこでイコンが量産されていたのかは定かではないが、これまでは地球とパラミタの技術が合わさって、初めて復元出来ていたということがこれで判明した。
(とりあえず、今分かっていることは……)
 無線を通じて制御室と連絡を取る。
 これまでに判明した情報を得ることが出来た。
 イコンの設計図や、このプラントにあるイーグリットやコームラントについても。
「あとは、あの女神型ね」
 だが、それだけはやはり分からない。
「どうにかして動かせないものですか?」
 エルフリーデはこれを操縦してみたいらしく、ハッチを開けて入ろうとする。
『パイロット承認式のため、起動することは出来ません』
 突如、機械的な女性の声がどこからともなく発せられた。
「あなたは?」
 思わず雅香が尋ねてしまうが、制御室との情報のやり取りで、管理システムのことを聞いた。
「ナイチンゲールさん、ですね。承認の条件なんかは教えて……貰えませんよね?」
『はい、お答えすることは出来ません』
 きっぱりとエルフリーデに応じていた。
 が、エルフリーデとしては女神型イコンもそうだが、目の前にいる実体をもった映像にも興味を抱いた。
 何よりも、システムと機体の名前が同じであることが、その理由だろう。
 一方で、雅香は疑問を感じていた。
(イコンにおける博士の解析データと、五千年前のイコン設計図にあるデータがほとんど一致している。なぜ?)
 そもそも古代パラミタの技術を、現在の地球の理論で導き出せること自体おかしいのだ。
 ホワイトスノー博士が元々ロボット工学の第一人者であるのは確かだが、それでもここまで一致するのだろうか。
(博士が前々からイコンを知っていたのか、それとも……古代のパラミタと地球の技術には何らかの繋がりがあったのか)
 解決の糸口は見つかりそうにないが、イコンの完全起動に地球人とパラミタ人が必要なことも考えると、やはり地球とパラミタの関係が一つの鍵であるような気がした。