リアクション
* * * パラミタ内海上空。 そこに、異変が起こった。 「敵のイコンが――消える!?」 突如として、戦闘中であったシュバルツ・フリーゲとシュメッターリングが光に包まれ、一瞬のうちに消えてしまった。 大規模な転送術式。 そう言ってしまえばそれだけだが、転送するのは人ではなく、イコンだ。 それだけの「力」を持つ者が敵にはいる、ということになる。 「終わったのかな?」 秋穂が呟いた。 イコンが消えた、それはおそらく逃亡したと取れるだろう。 つまり、内部制圧に成功したということだ。 「秋穂ちゃん、大丈夫ー?」 「うん、大丈夫」 戦いは終わった。だが、勝利とは言えるようなものではない。 プラント攻防戦のときとは異なり、多くの仲間が墜とされているのだ。 「……少しでも、強くならなきゃ」 「一体、どうして突然?」 「もし、要塞が制圧されたとして、敵のイコン部隊に逃げ場はない。だから、万が一の備えて術式を組んでいたのだろう」 翔の疑問にアリサが答えた。 「だが、今回の戦い。敵は本来の性能でなくともかなりの力を発揮していた。しかも、こちらの奇襲を察知していた。それにも関わらず、『負ける』ということを想定していたのはどうにも引っ掛かるな」 * * * 「どういうことだ?」 指令室。 総督は、その光景に目を疑った。 「なぜ、イコン部隊が消えた?」 まだ、要塞内は制圧されていない。にも関わらず、まるでこちらが負けを認めたかのようになっている。 『総督殿、残念なお知らせがございます』 「ローゼンクロイツか。どこにいる?」 どこからともなく、声が聞こえてくる。 『「私の力不足のせいで」敵に突破されてしまいました。間もなく指令室に到達することでしょう』 その言葉に激昂する。 「ふざけるな! 今すぐそいつらを殺せ!」 『総督殿』 ローゼンクロイツの言葉が続く。 『私が受けた指示は、「要塞内部に侵入されたら、基地を捨てさせろ」というものです。つまり敵がこの中に入った瞬間に、こうなることは決定済みだったのですよ。もっとも、カミロ様にはこのことは存じ上げませんが――「議長」が決められたことですので』 「馬鹿な!?」 『悟られないようにするのも大変でしたよ。それに、この基地のデータは全て削除致しました。それと、間もなくクローン部隊もここから転送されます』 「お前達は、じ……!」 『もう、貴方は十人評議会という単語を口にすることは出来ません。最後に、議長の言葉をお伝えします』 総督は狼狽し始めた。 『「今までご苦労だった。お前は役目を果たした――さようなら、総督」』 ローゼンクロイツの言葉はそこで終わった。 「く、に、逃げなくては……!」 だが、そのとき彼の身体がしびれた。 「逃がしません!」 指令室の天井から、勇が雷術を放った。 その直後、扉が開く。 「身柄を確保する」 クレアが、即座に総督の四肢を銃で撃ち抜き、身動きが取れないようにした。 「見逃してくれ! 私は、騙されてたんだ! 奴らに嵌められたんだ!!!」 異常なまでに取り乱している。 目の前の小太りに、月夜がライトニングブラストを浴びせ、気絶させる。そのまま捕縛し、これで要塞の完全な制圧が完了した。 「……ない!」 指令室のコンピューターに月夜がアクセスするが、全てのデータは削除されていた。 おそらくは、他も同様だろう。 「この男に聞くしかなさそうだ」 目の前には、無様に取り乱した末気絶させられた総督がいる。 どれほどの情報を持っているかは知らないが、他に方法はないようだ。 * * * 「イコンが消えた?」 メニエス・レイン(めにえす・れいん)は要塞の上部に出て、その瞬間を見た。 「メニエス様!」 ミストラル・フォーセット(みすとらる・ふぉーせっと)がその気配に気付き、咄嗟に彼女の前に出る。 「私です」 「ローゼンクロイツ?」 漆黒のローブを纏った男から、事態を告げられる。 「要塞は制圧されてしまいました。今すぐ脱出致しましょう」 次の瞬間、メニエスの見る風景が変わった。 森の中、おそらくはジャタの森の一角だろう。そこへ瞬間移動したのだ。 「それでは、またお会いしましょう。メニエス様」 一礼をし、ローゼンクロイツは影の中に溶け込むように消えた。 |
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