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薄闇の温泉合宿(第2回/全3回)

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薄闇の温泉合宿(第2回/全3回)

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 果物を採りに行った者達が戻り、キッチンと裏庭ではお菓子作りが行われていた。
 手作りの木のテーブルを用意して、白いテーブルクロスを敷いて。
 人数分椅子を用意し、主役席にゼスタを招いて座らせる。
 誕生会というほどのものではなが、その場には花と沢山のお菓子が並べられていて、華やかで、パーティのようだった。
 ゼスタは一応合宿の責任者だし、一応仕事はしているし、一応伝説の果実情報提供者だしということで、少女達の多くが彼の要望どおり、彼にスイーツを提供していく。
「私はジャムを作りました♪」
 神楽坂 有栖(かぐらざか・ありす)は、採ってきた果実で少量のジャムを作った。
 その他に、スコーンを焼き、生クリームも用意した。
「いかがでしょうか」
 紙皿の上に乗せた菓子を、まずゼスタに差し出した。
「わたくしもお手伝いさせていただきましたわ。ただ、採取の手伝いと護衛だけですけれど……。でも、次の機会には必ず」
 ミルフィ・ガレット(みるふぃ・がれっと)ちょっとだけ不満そうに言った。
 調理も手伝うといったのに、有栖に断られてしまったのだ。
「採取の時、頑張ってくれましたから。調理くらい私に任せて、ね、ね、ミルフィ……」
 有栖はちょっと慌てる。
「お嬢様がそうおっしゃるのでしたら……。護衛に専念させていただきますわ」
 有栖はほっと息をつく。
 ミルフィはとにかく、とてつもなく、料理が下手なのだ。
「うん、美味い。程よい甘さだな。紅茶とも合いそうだ」
 ゼスタのその感想に有栖は笑みを浮かべた。
「残りは少ないけれど、皆さんに。それからもう1人食べていただきたい方がいますので、届けてきますね。ミルフィ、行きましょう」
「はい、お嬢様」
 有栖はお辞儀をすると、ミルフィと一緒に医務室の方へと向かっていく。
 落ち込んでいる様子だったライナのことが気にかかっていたから。

 ゼスタに味見を頼んだり提供する者だけではなく、自己の目的だけのために伝説の果実を利用する者も勿論いる。
「さー、我がめちゃくちゃ苦労して手に入れた伝説の果実を買うアルよー!」
 料理はせずに、そのまま台の上に乗せて契約者達に呼びかけているのはマルクス・ブルータス(まるくす・ぶるーたす)だ。果実の価格は凄く高額だ。
 誰も近づかないと思いきや、百合園のお嬢様方の中には「お手ごろ価格ですわね」などと、購入を希望する者もいた。
 だがしかし!
 この合宿には大金の持ち込みは許可されていない。お土産を購入する場所もないので、お土産代さえも持っている者もいないし、当然クレジットカードも使えるような場所はない。
 それでも!
「前金をちょっと(有り金全部)払ってくれたら、後は後払いでもいいアルよー!」
 マルクスは商売を続けるのだった。
「お買い得アルよー! 何と言っても「伝説」アルからね!」
「んじゃ、ミルミ買おうかなー」
 医務室の窓からひょっこりミルミが顔を出す。
「どうぞどうぞ。今なら2個で2倍のお値段でいいアルよ! お嬢さん良い買い物をしたアルねー」
 そうして、2個ともマルクスはミルミに販売をして、彼女の有り金をせしめた。
 その後、ミルミに残金の請求書を渡して、ほくほく顔でまた果実を探しに向かっていく。
「あー、この請求書は無視していいぞ。十分代金は払ったと思うし。アイツが持っている方も後で俺が処分しておくから」
 マルクスが去った後で、ミルミの元に北条 御影(ほうじょう・みかげ)が近づき、請求書をビリビリと破いて始末した。
「ん? ミルミ物価とかよくわかんないけど、そうなんだー。ありがと! 腐らないようなお菓子作って、お土産にしたいな〜」
 ミルミは伝説の果実を手に嬉しそうに戻っていった。
「っと、あっちも止めなきゃな」
 御影は深くため息をつく。
「若い頃は買ってでも苦労をしておくものだぞ〜、ハニー」
 フォンス・ノスフェラトゥ(ふぉんす・のすふぇらとぅ)が、スイーツ作りをしている少女達をのんびり眺めながら言う。
「苦労の度合いが過ぎるんだよな」
 苦笑しながら、御影は困ったパートナーその2の豊臣 秀吉(とよとみ・ひでよし)の方へと近づく。
「美味しいスイーツを作るですじゃよー! 食べた後は、一緒に温泉にはいるのじゃー。男女別の時間じゃろが、わしの今の姿はさるじゃしのお」
 生地を混ぜながら、秀吉は妄想に耽っている。
「可愛いとか言われて、好印象を与えられるよう頑張るのじゃ、女子に誘われて、堂々と女子に混ざって入るのじゃ。うおぉ……楽園は目の前ですじゃぁぁぁぁぁ!!」
「声に出てる!」
 パコンと御影は秀吉の頭を本で叩く。
 勿論、気味悪がって、女子は秀吉の側からさささっと離れてしまっている。
「しまったのじゃ。うぬぬ、味で勝負ですじゃ! 美味なるすいーつを作って、麗しき女子達にあぴーるするですじゃよ!」
「アピールは構わないけど、ほどほどに。温泉の時間は守れよ……外見サルとはいえ」
 目を離すわけにも行かず、張り切って作業を続ける秀吉の側で、御影は本を開く。
 果物図鑑や果物に関する書物を持ってきたのだが……。
「伝説の果実ってだけあって、シャンバラの図鑑には載ってないようだな」
 それらしい果実は載っていなかった。
「なんか、もしかして、いろんな果実が合わさった果実みたい?」
 ページを捲りながら、御影はそう呟いた。
「そうかもしれないね〜。トワイライトベルトは未知の異空間だからねぇ」
 フォンスは、ゆったりお茶を飲んで見守っている。
 食べた者はまだあまりいないのだが、どうやら色ごとに味も少し違うようだった。

「出来た? もう出来たよね。早く早く〜!」
 キッチンで神楽 授受(かぐら・じゅじゅ)が、エマ・ルビィ(えま・るびぃ)を急かしている。
「急いでも焼き上がり時間は早まりませんわよ」
 微笑みながら、エマは生クリームを作っていく。
「生クリームって、何か牛乳みたいだけど、これホントにケーキみたいになるのー?」
 近くでは七瀬 巡(ななせ・めぐる)も、ボールの中の白い液体をかき混ぜていた。
「なるよー。出来上がったらこの袋の中に流し込んでね」
 七瀬 歩(ななせ・あゆむ)は絞り袋を巡に渡し、自分はグラスを用意していく。
 ここで用意できる食材は限られているので、そう豪華なものは出来ないけれど。
 近くで取れたフルーツでソースを作り、ダイス状に小さく切った果実、それからフルーツソースをグラスの中に入れていく。
「伝説の果実って、味が美味しくて伝説ってわけじゃないのよね!? きっと食べたら伝説級の何かが起こるに違いないわ! 1UPキノコ的な!」
 もしかしたら、お肌がつやつやになったり……なんかこう、胸も1カップアップする的な! そんな伝説が生まれるかも?
 授受は妄想を膨らませながら、わくわく完成を待っている。
「ううーん、そのまま食べたい気もするけど、すぐなくなっちゃうしなあ。でも、お菓子って時間かかるんだね。あたし、料理ってろくにしたことないからなあ……」
「もうすぐ出来ますから、お皿を用意してくださいませね」
 授受の様子にくすりと微笑みながら、先日迷子になって迷惑をかけたお詫びにと、エマは時間をかけてスイーツを作っていた。
「ん、何か固くなってきたかも? おー、すごい! ねーちゃんねーちゃん、ほら見て見てー!」
 巡が混ぜているボールの中の液体も、随分生クリームらしくなってきた。
 はしゃぐ巡に歩は微笑みを見せて、こぼさないよう絞り袋に入れるよう指示を出していく。
「はいよー。残りはエマねーちゃん達の分な〜」
 残った分はエマに渡す。
「ありがとうございます」
 手を生クリームで真っ白に染めて笑う巡に、エマは微笑みながら礼を言う。
 それから果実を二等分して、冷ました生地の上に乗せて、手作りのあま〜い生クリームをたっぷり乗せる。
 そして、くるっと巻いて、ロールケーキの完成だ。
「食べよう、食べよう! ……あ、ゼスタにも持っていかないとね」
 皿とフォークを用意した後、 授受はナイフをエマに渡す。
 エマは丁寧に切って、一切れ真っ白な皿の上に乗せた。
 歩もグラスの中に生クリームを沢山ホイップして、大きめに切った果実を並べて、最後に農園で作られていたハーブをちょこんと乗せて、完成させる。
「あゆむん風パフェです」
「おおー」
 出来上がったパフェを見て、巡がぱちぱちと拍手をする。
「……本当はフレークやゼリーとかアイスとか色々使いたかったけどなぁ」
 それでも新鮮な果物たっぷりのそのパフェはとても美味しそうだった。

「みなさーん、ケーキが焼けましたよー」
 裏庭のテーブルに、繭が伝説の果実を混ぜて作ったケーキを持ってきた。
 器具も材料も満足に揃ってはいないけれど、とても丁寧に作った果物ケーキだ。
「ルインも食べましょ?」
「うん。切る……のも止めておいた方がいいか。食器くらいは並べるよ……」
 ルインは料理の心得がないため、繭がケーキを焼いている間は大人しくしていた。
 張り切りすぎて、探索時も失敗してしまったり、合宿に来てからよいところナシの状態だ。
「やっぱり料理も出来た方がいいのかなぁ……」
「はい、どうぞ」
 軽くため息をつくルインに、繭は切り分けたケーキを差し出した。
「ありがと」
 礼を言い、ルインは淡い笑みを浮かべた。
「どんな茶が合うかはわからないが……。甘いケーキならば、砂糖は入れずにいかがかな」
 道明寺 玲(どうみょうじ・れい)が淹れ立てのダージリンティをルインや、テーブルに集まった少女達に出していく。
 勿論、ゼスタにも。
「そうだな。ミルクもナシで」
 普段は砂糖やミルクを入れるゼスタも、並べられていく沢山のスイーツを前に、砂糖もミルクもナシのストレートティーを望んだ。
「特に異常なし。龍騎士が来ている頃だが、この辺りは平和だ」
 玲の後ろに立つ、イングリッド・スウィーニー(いんぐりっど・すうぃーにー)が、玲とゼスタにそう報告をする。
 訓練や講義にも真面目に参加をし、2人は合宿所の整備、更に警備をも手伝い、貢献している。
 地下にも、アジトのこともと、興味は尽きず、さまざまなことを手伝いながら情報収集していた。
 とはいえ、情報を生かそうとは特に考えてはいない。情報収集も訓練の一環として行っているようなものだった。
「それ淹れたら君らも少し休め。俺一人じゃ食い切れそうもないくらい、スイーツ集まってるしな〜」
「では、そうさせてもらおう。伝説の果実にも興味があったのでな」
 玲は集まった皆にそれぞれの好みを聞き、茶を淹れた後で自分達もテーブルにつき、休憩をとることにした。
「美味しそうなケーキだな。戴こう」
 繭の作ったケーキは、上品な味がした。使われている伝説の果実の量は少ないため、果実の味はわからなかったが、とても美味しかった。

「でんせつのかじつ、たかいところにあったね! えーくん、とどかなかったけど、ヴィナ・アーダベルトがかたぐるましてくれたから、じぶんのぶん、とれたんだよ!」
 エーギル・アーダベルト(えーぎる・あーだべると)は、嬉しそうな声で、集まっている学生達に探索に行った時のことを話していた。
 果実が生っていた場所は、薄暗くてエーギルにはちょっと怖い場所だったけれど、ヴィナ・アーダベルト(びな・あーだべると)や、ティア・ルスカ(てぃあ・るすか)貴志 真白(きし・ましろ)達が一緒だったから、楽しく探すことが出来たこと。
 そして、自分も自分の手で果物を採ることができたことを、すごくすごく嬉しそうに話ていくのだった。
「それでね、これね、つくってもらったんだよ」
 自分では料理をすることが出来なかったため、エーギルは果実を繭に渡して、果物ケーキの材料にしてもらったのだ。
「どんな味なんだろうね」
 真白はテーブルの上におかれた数々のスイーツを見ながら呟き、ヴィナに目を向ける。
「ねぇねぇ、ヴィナ、お裾分けしてもらえないか、先生に聞いてみてよ」
「ん?」
「こんな機会じゃなければ、口に入らないものでしょ?」
「そうだね。この辺りでしか手に入らない貴重な果実のようだしね」
「でしょ!? えーくんも食べたいみたいだし。先生なら、皆に少し振舞ってもいいと思うんだ」
 ゼスタは薔薇学生としてはヴィナより後輩なのだが、今回の合宿には引率者の立場で来ている。真白やエーギルからすれば、先生だった。
「聞いてみようか」
 くすりと笑みを浮かべながらヴィナが言うと、エーギルが思い切り首を縦に振った。
「それじゃ行こう」
「うん!」
 そして、ヴィナと一緒にエーギルは少女達と談笑をしているゼスタの方へと向かう。
「えーくんと真白の分をお裾分けいただきたいのですが、いいでしょうか」
「えっと、えーくん、いいこにしてるから、おすそわけしてくださいっ」
 エーギルはぺこりと頭を下げた。
「おー。よく良い子で合宿頑張ってるな」
 ゼスタは手を伸ばして、エーギルの頭を撫でる。
「勿論、味見を終えた分は、食べていいぜ。俺一人じゃ食いきれないしな〜」
「二人ともゼスタ先生にお礼を言いなさい」
 ゼスタの返事を受けて、ヴィナはエーギルと、ケーキをものほしげに眺めている真白に言う。
「ありがとー!」
「ありがと、です」
 エーギルと真白は笑顔を浮かべて、ゼスタに礼を言う。
「礼なら、作ってくれた女の子達に言ってくれ〜。今後も美味いスイーツを、薔薇学に差し入れてくれるかもしれないぞ」
「うん、つくってくれてありがと」
「いただきます」
 エーギルと真白は少女達にも礼を言って、ゼスタが試食を終えたものから、ヴィナに取り分けてもらい食べ始める。
「ティアも戴く? 沢山あるみたいだけれど」
 一人、そわそわしているティアにも、ヴィナは声をかける。
「いや、ええ、戴きたい気持ちはあるのですが、こんな無防備な場所に彼が訪れましたら……」
 ティアは挙動不審になりながら、周囲を見回している。
 なにやらきな臭い動きもあると聞き、真白を連れて訪れたティアだけれど……。
「い、今変熊殿の声が聞こえた気が……ヴィナ、私もう帰りたいのですが、果物狩も終わりましたし」
「うーん、多少……いやかなり変わったところはあるけれど、いい人だと思うよ、変熊さん」
 なぜか変熊に怯えているティアにヴィナはそう言うけれど、ティアは変熊を警戒し、落ち着かない様子だった。
「大丈夫だから、スイーツを楽しもう」
 ヴィナはティアの腕を引っ張って椅子に座らせる。
 残念なことに……いや、幸い噂の変熊氏はこの時間、こちらには訪れなかった。