リアクション
○ ○ ○ 翌日。 東シャンバラのロイヤルガードに入隊の意思がある者のうち、真口 悠希(まぐち・ゆき)と神楽坂 有栖(かぐらざか・ありす)がゼスタ・レイラン(ぜすた・れいらん)に呼び出された。 「俺じゃなくて、神楽崎が志願理由を聞きたいって」 会議室に呼ばれた2人は席について、東シャンバラのロイヤルガードの隊長――2人が所属する百合園女学院、生徒会執行部の副執行部長である神楽崎 優子(かぐらざき・ゆうこ)と繋がっている携帯電話に、1人ずつ、素直な気持ちを語っていく。 「志願の理由は、『護りたい』からです」 先に口を開いたのは、有栖だった。 「パラミタに来て、ヴァイシャリーに来て、百合園女学院に入学して、そこで色んな方々と共に過ごし、大切な『思い出』や『絆』を貰いました。 私にとって百合園は、ヴァイシャリーは……そしてシャンバラは、大切な『帰る場所』。 セレスティアーナさんも、ライナちゃんも、そしてみんな、私にとっては、同じ『百合園』で、ヴァイシャリーで、シャンバラで過ごす『仲間』です。 そして、いずれは女王陛下とも……共に大切な時間を過ごしていきたいです。 でも、今までの私は、『護りたい』方達に『護られていた』ような気がします」 一旦言葉を切り。 強い意志をこめて、有栖は言う。 「今度は、、私が護りたいです。代王だからとか、女王だからとかじゃなく、共に「大切なとき」を過ごした仲間だから、これから大切なときを過ごす仲間だから」 目を閉じて、携帯電話に向かって有栖は頭を下げた。 「どうか私に、大好きなみんなを、これから大好きになるみんなを護る機会を与えて下さい」 「ボク、も……」 続いて、悠希が深呼吸をして呼吸を整え、語り始める。 「率直に言ってボクには、ロイヤルガードたる資格、能力、人望……。そういったものは全く至らないと思っています。 でも、そんなボクを周囲の誰も見捨てなかった。 時には励ましさえしてくれた……その時、初めて気付く事が出来たんです」 人は、一人で――あるいは、大好きな人と2人だけで――生きていくことは出来ない。 周囲の理解や、支えが不可欠だということ。 「ボクも皆とや、例え見知らぬ誰かでも、人と人との関係を大切にしていきたい……。皆の為に役に立っていきたい、守れる人は守りたいって」 そして、いつまでも資格が無いと、逃げていたのではダメだと思った。 自分が逃げて、自分に出来ることをしなかったのなら、助けられる筈の誰かを、助けられなくなってしまうかもしれない……。 「だから……例えいかなる重い責務があろうとも、逃げたりしません。ロイヤルガードになって、代王や皆の力になりたいです」 最後ははっきりとした口調で悠希は言い切った。 しばらくして、ゼスタの手の中の携帯電話から、声が響く。 『2人の気持ちは分かった。私から百合園女学院の生徒会に、推薦を申請しておく。共に、護ろう。ただそれは、自分の大切に思う人だけではない、百合園だけでもない。キミ達が間違えた時には、私が責任を持って止めよう。そして、万が一、私が間違った時には……よろしく頼む』 はい、と有栖と悠希は返事をする。 久しぶりに聞いた白百合団の副団長の声は、厳しかった。 苦境を感じ取るが、後には引けない。 気を引き締めて、立ち向かう決意をしていく。 ○ ○ ○ ファビオ・ヴィベルディ(ふぁびお・う゛ぃべるでぃ)も、朝、合宿所に戻ってきた。 報告を終えて自分のテントに向かおうとした彼は……。 「おはようございます」 テントの前で微笑むセラフィーナ・メルファ(せらふぃーな・めるふぁ)。そして。 「ファビオさん、温泉に行こー」 「徹夜したんでしょ? お風呂入ってないんだよね!? さあ行こう、行こうってば行こう」 「あ、いや……」 ばばっと現れた、琳 鳳明(りん・ほうめい)と、パートナーのミクルに、両腕を引っ張られて半ば強引に温泉へと連れていかれた。 更衣室で、置かれている湯着を纏って、外で合流し。 川側の温泉へと4人で向かう。 今は混浴の時間だ。 ファビオは女性が一緒で戸惑っているのか、それとも何か思い煩いがあるのか、若干浮かない顔をしていた。 「ファビオさんって物言いが遠まわしっていうか、もったいぶった言い方が多いよね?」 鳳明はバスケットを抱えている。 「何となく、はぐらかされてる気分になると言うか……」 そんな彼女の言葉に、ファビオは僅かな笑みを浮かべる。 「せっかく東西とか学校とか関係なく集まってるんだし、ここは本音で喋ろうよっ。夢とか、これからのしたい事とか!」 鳳明は彼の何十倍もの笑みを浮かべて、バスケットをファビオに向ける。 「その為に……じゃーん! セラさん秘蔵のお酒も出しちゃうよ〜」 「……酒? は、あまり強くな……」 「ふっふっふ、ここまで来たら逃がさないよ?」 鳳明は片腕でバスケットを持ち直すと、もう片方の手でファビオの腕を掴んで、温泉へと引っ張るのだった。 「うん……彼にはこれくらい強引に接してくれた方がいいのかもしれない」 ミクルがそっと隣を歩くセラフィーナに言う。 「そうですね。自己表現が苦手なようですし、あなたにも、話せていないことが沢山ありそうです」 「多分ね。僕がもっと支えになってあげられればいいんだけど、僕は特にとりえも無いからなぁ……」 「支えになっていると思います。だけれど、1人で全てのことを支えてあげることなんて、出来ませんから。せっかく東西も学校も関係なく、ひとつの合宿所に多くの契約者が居合わせているのだから」 縁の合った者同士、こうして話す機会があってもいい。 支えあえる分野もあるかもしれないからと、セラフィーナは語っていく。 「うん、ありがとう」 そんなセラフィーナと鳳明の気持ちをミクルはとても嬉しく感じていた。 温泉に日本酒を入れた木桶を浮かべて、酒を飲みながら4人はゆったりと話をしていく。 ただミクルには酒は早いと判断した鳳明は、彼用にコーヒー牛乳も用意してあった。 ファビオはそっちに手をつけようとしたが、ぺしんと手を叩いて、彼には酒を勧める。 彼はほんの少しだけ、酒を口にして、あまり目を合わすことなく、3人の話を聞いていた。 鳳明は自分のことや、この合宿のことなど、思うことを沢山話した後「ファビオさんは?」と、聞いてみた。 夢とか、目標とか。 趣味とか、今したいこと、とか。 「どうだろう。シャンバラの安定、かな」 彼の答えはやはり少し曖昧だった。 彼の過去を聞く限り、強く激しい感情を内に秘めている人物だと思うのだけれど……。 「……うん、まぁ。腹割って話そうとか言っておいて何だけども。もちろんお互いに立場とかあるよね……」 鳳明は軽く息をついた。 「ファビオさんの上司みたいな人、ゼスタさんだっけ。あの人も何考えてるのか判りづらい人だし」 「……」 「私も一応これでも教導団員で……。これまたお互い西と東で所属が違うし。……なんでこんな面倒臭いことになったんだろうね?」 少し、悲しげな目で鳳明はそう言った。 「独立はシャンバラ国民の悲願で、大半の者が統一を願っているのに。別の、意思が入り込むことで、より混乱に繋がっている。妥協しなければならないのなら、何に妥協するか。俺は――アムリアナ様を諦めたくはない」 だが、シャンバラに必要なのはアムリアナという人格ではなく、国家神。 それもまた、彼のようなものが、身の振り方を決められない、一丸となれない理由でもあった。 「あー……う、ごめん。言いだしっぺが空気湿らせちゃダメだよね」 鳳明はくいっと酒を飲むと笑みを浮かべる。 「シャンバラで頑張ってる者同士、仲良くしよう!」 顔を赤らめて言う彼女を、ファビオはまっすぐに見つめて。 微笑んで首を縦に振った。 |
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