リアクション
「あのね、ボクも提案あるんだけど!」 ○ ○ ○ 皆が対策を練り、相談に勤しんでいる時に――。 一足先に向かってきている龍騎士に接触を試みる者もいた。 ワイバーンの羽を休めるため、地上に降りた龍騎士に、最初に近づいたのは高崎 悠司(たかさき・ゆうじ)だった。 「盗賊退治に向かうんですかね? お供させてもらいたいんですけど」 「所属は?」 その分隊を率いていたのは20歳前後と思われる青年龍騎士だった。 「波羅蜜多実業高等学校。東シャンバラの一員ですよ。わざわざ他国から助けに来てくれた方に全部任せるなんてわけにゃーいかねーでしょ」 「人手は多い方が助かる。よろしく頼む」 悠司は意外とあっさり、受け入れられた。 「名前をお聞きしてもいいですかね? 俺は高崎悠司ってゆーんですけど」 「私はエリュシオン帝国龍騎士団のレスト・フレグアムだ」 「龍騎士さん、ですかね?」 「……そうだ。他の者は従龍騎士だが、この地の賊ごときに引けはとらないだろう」 レストと名乗った青年は……さほど強そうには見えなかった。 率いている従龍騎士の方が猛者に見える。 おそらく魔術師なのだろうと思いながら、悠司は彼らに従って目的地に向かうことにする。 龍騎士団員はワイバーンに乗って。悠司はスパイクバイクで走り出し、目的の場所に近づいた頃に。 「お待ち下さい! お話したいことがあります!!」 一人の女性に呼び止められた。 開けた場所に降りる龍騎士に、その女性オルレアーヌ・ジゼル・オンズロー(おるれあーぬじぜる・おんずろー)は、走って近づく。 「合宿所のメンバーもすぐに到着すると思いますが」 オルレアーヌは教師として耳にしていたゼスタの話を、自分なりの解釈で龍騎士に説明していく。 賊が奪い取った物。 とりわけ、ユリアナという人物が自分の物だと主張している魔道書を東側は渡すつもりは全くないということ。 東側が西側のロイヤルガードを龍騎士へと仕向ける事によって、その間に東側は魔道書を始めとした宝物を労せず掠め取ろうとしている事。 東側は魔道書を本体と契約者のユリアナ共々ヴァイシャリーへ移送する手筈を整えつつある事。 そう自分の解釈を、龍騎士に説明していく。 オルレアーヌはそれらのことを話さずにいること、東側が隠し事をして進めていることを公正ではないと判断した。 どのような形でも、シャンバラの統一を志すのなら、双方にとって公正でなければならないと。 「……」 龍騎士団に潜り込み、腹の探りあいをするつもりな悠司としては、そんな彼女の行動がかなり危険なものだと感じたが、口を挟むことはせずに様子を見ることにした。 「東西が公平なスタートラインに立ち魔道書獲得を競い合い、獲得した側に所有権を認め、敗れた方は手を引くという条件を提示したいと思います。龍騎士団の方々には、その監視役を務めていただきたいのです」 オルレアーヌの言葉に、レストは鋭く目を光らせる。 「東側のそのやり方は解せないが、西に所有権を認める理由は全くないのではないか? ユリアナ・シャバノフのものであるかどうか。本当に彼女の所有物であるのなら、西のものではなく彼女個人のものだからな。彼女の所有物ではないようならば、東シャンバラで発見された盗品としてヴァイシャリーに持ち帰るべきだろう」 東シャンバラのロイヤルガードは、エリュシオン大帝の娘を総隊長とする隊であり、エリュシオンに所属している隊員もいる。 レスト達龍騎士も東シャンバラのロイヤルガードとは一応は仲間である。 「その女や、魔道書を連れて戻るために私は訪れた。キミの話を聞く限り、やはりこの合宿には信頼に値しない者がいるようだな。無論、キミの発言が虚偽であったり、キミが工作員であるのなら、キミが信頼に値しない人物ということになるが」 「嘘ではありません。公正である必要があると感じたためお話させていただきました。東側を信頼しすぎると足元を掬われますので、ご注意を。この密談については、あなた方にとっても有益な情報だと思います。見返りは求めませんが、この会談の秘匿のみお願いしたく思います」 「こちらに約束する理由はない。名は聞かないでおこう」 「……わかりました」 オルレアーヌは頭を深く下げて、その場を後にする。 |
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