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リアクション
「それでは、底と底の前面に張られている板から剥がしてみましょうか?」
ラムズ・シュリュズベリィ(らむず・しゅりゅずべりぃ)の提案に、グレイスが「そうだね」と答える。
ラムズはパートナーのシュリュズベリィ著 『手記』(しゅりゅずべりぃちょ・しゅき)と共に、床に足をついて工具を使って板を剥がそうとする。
「さて、何が出てくるか……」
シュリュズベリィ著 『手記』は、一角に穴を開けてドライバーをつっこみ、強引に板をはがす。
「うわっ、危ないよ、危ないよ、ゆっくり慎重にね」
バリバリバリ、という板を剥がす音に、皆川 陽(みなかわ・よう)がビクリと体を震わせながら、か細い声をあげる。
先日魔法の罠にかかったこともあり、物凄く怖いものがあるのではないかと、陽は皆を見守りながらオロオロ、ビクビクしていた。
ここを訪れたのは自分の意思というより、地下に興味を持ったパートナーのテディと友人達に流されるままについてきただけだ。
「大丈夫だよ。みんないるしね」
陽にそう声をかけた後、グレイスは工具を手に取った。
「背面の板もはがしてみようか」
「僕がやりますよ。先生になにかあったら大変だから下がっていて」
「うん、ありがとう」
北都に工具を渡して、グレイスは少し離れて生徒達を見守る。
「罠は任せてください〜。ファイトですよぉ〜」
明日香はわくわく後ろから応援していた。他の生徒達も興味津々見守っている。
「じゃあ、俺は反対からだな」
北都の反対側から、壁と棚の境目にジェラールはノミを打ち付けてみる。
「おっ、やっぱ後から板を貼り付けたみたい? このあたり薄いな」
ノミがめり込んだあたりに大きく穴を開けて、指を差し込んで板をベリベリと剥がす。
「ちと確認させてくれよな。明かり頼む」
空いた穴にアルフ・シュライア(あるふ・しゅらいあ)が近づく。
「上の方から照らしますわね〜」
エレアが光の精霊をアルフの上へ飛ばして、穴の中を照らさせた。
「サンキュー。かわいいお嬢さん」
アルフはトラッパーの知識を用い、中を確認してみるが罠のようなものは見当たらなかった。
「よし大丈夫そうだ」
「了解」
その言葉を受けて、ジェラールはさらに大きくはがしていく。
「ゴミはこっちの袋に入れてくれ。大きなものは束ねて運ぼう。書籍なんかが出てきた時には、こちらの箱に入れていって」
エールヴァント・フォルケン(えーるう゛ぁんと・ふぉるけん)は、袋と箱を用意し、入り口のはしごの側に並べる。
木材は薪として利用できる。
「価値のあるものを燃やしてしまったりしないように、先生達にチェックしてもらいたいな」
「私が見るわ」
リーアが近づいて、エールヴァントが集めるゴミ類をひとつ、一欠けらずつチェックしていく。
「分別が必要か〜。でも板ばっかりだから気にすることはないか」
テディは目を輝かせ、胸を躍らせながら、剥がした板を隆寛と共にエールヴントの方へと運んでいく。
「上に運ぶのも手伝うよー。でも焼却炉までは行きたくないかな。お宝発見を見逃しちゃうかもしれないしね! ロマン、ロマンの香りがするー!」
テディはパタパタ走って戻り、棚の側の床や壁を注意深く見回したり、耳を当てて音を確認したりして探っていく。
「なーんも感じられないよなあ。できれば『ディエクトエビル』に引っかかりそうなぐらい凶悪なものが良いんだけどなぁ」
不穏なことを言いながら、マーリン・アンブロジウス(まーりん・あんぶろじうす)もあたりを探している。
「面倒そうなものがあったら、俺が試してやるぜ〜。そのままちょろまか……げふんげふん」
一度調査されて片付けられており、更に今回は思いのほか沢山の契約者が調査に志願したこともあり、こっそり持ち帰るのは無理そうだ。でも、チャンスがあれば手が出てしまうだろう!
「隠し階段とか更なる地下室とかねぇかなー。封印されたアイテムくらいあってもよさそさなもんだ」
貴重なアイテムを拠点に残して出て行くとは考え難いが、忘れ物の1つや2つあっても、不思議じゃない。そうだそうだと言いながら、マーリンはテディ達とともにあたりを探っていく。
「ゴミ掃きますよ。木屑吸い込まないようにして下さいね」
「うん、よろしくー」
真言がテディ達の周りを掃いていく。
「棚の後ろも汚れているのでしょうね。隅から隅まで掃除をするチャンスです」
「おっ、棚の後ろが見えてきたみたいだね。どれどれ見せて見せて」
「え? あっ」
テディは陽の腕を引っ張りながら棚へ接近し、大きく開いた穴から棚の後ろを覗き見る。
「罠があるかもしれないし。解除解除♪」
テディがぐっと陽を前に出す。
「え? ええっ?」
ローグとしての訓練を受けている陽は、そのまま適任者として細い隙間に手を入れてみるようにといわれる。
「頼んだよ」
グレイスの言葉に頷くことも忘れ、陽はびくびくしながら、手を入れてみる。
光の精霊の光に照らされたその空間には、なんだかレバーのようなものが、あるようだった。
禁猟区に反応はない。
陽はそっとレバーに触れてみる。魔法的な仕掛けではないように思える。
壁に穴などもなく、毒物の噴射などといった罠もなさそうではある。
「早く早く」
「わわっ」
テディに押され、皆の好奇心あふれる視線を受け、陽はおびえながら手に力を入れてレバーを引っ張った。途端。
ガタン
「わーーーーーーーーーーーーっ!」
大きな音が鳴り響き、それよりも大きな悲鳴を上げて、陽は先制攻撃の技能で誰よりも素早く部屋の隅へと逃げていた。
その音は、棚の仕切りが倒れた音だった。
「両サイド動くみたいだよ」
「開いてみるか?」
北都と昶の言葉に、グレイスが頷く。
2人は同時に棚の左右を外側に開いた。
「この下の邪魔な板、解体しちまっていいよな?」
「うん」
グレイスの返事を受けて、ジェラールがノコギリで底をふさいであった板を切っていく。
「何かあるようですね。それにはまだ触れずに慎重に取り払いましょう」
「そうじゃのう。注意せねばの」
剥がしていたラムズとシュリュズベリィ著『手記』も手伝って、板を取り払っていく。
「罠とかはなさそうですねぇ〜。箱があるみたいですぅ〜。んーとですね〜」
明日香が覗き込み、見えてきたものについて説明する。
「茶色い箱ですぅ。装飾とかはないですぅ。2つあるようです〜」
「取り出してみてもいいでしょうか?」
「うん、特に異変はないみたいだし、大丈夫じゃないかな」
グレイスの返答を聞いた後、ラムズは箱に手を伸ばして両手でつかみ、一つ床の上に取り出した。
「もうひとつも出すぞ。出したヤツのもの〜。にはならないよなー」
ジェラールがもうひとつの箱を取り出した。
「自分が開けてみてもいいのですが、どなたか適任の方がいましたらお願いします」
「そうですわね……」
ラムズがそういうと、まずエレンが箱を手に取った。
「軽い、ですわね。でもなんだか重みを感じますわ。ネジなどはなく、機械製品でもなさそうですわね」
そして、軽く振ってみる。
「中身は固定されているのか動きませんわね。空の可能性も否めませんわ」
それだけ調べた後、専門外と思われるためエレンは箱を下ろして見守ることにした。
「その箱は魔法と罠の知識を持った者が開けるようにな。それから、棚の方はもう動かせそうか?」
「もう少し」
アルツールの問いに、木片を取り除きながら北都が答えた。
「こっちは終了だ」
「……うん、こっちも終わったよ」
工具で壁と棚をつないでいた板を全て取り除き、反対側で作業を行っていた昶と頷きあう。
「では、箱はこちらに移動し、棚を前に出してくれ」
「倒さないように注意しましょう」
「そお〜っとですぅ」
ラムズや明日香も手伝い、棚を前へと移動していく。
「お宝〜はこんな狭いところにはないかな? 魔法関係の役立ちそうなものがあったら、学校に持りたいなー」
無邪気に朱音は言い、広くなっていく空間を覗き込む。
「たとえば凄い魔剣とか変身できるペンダントとか? 後は自分の魂が込められるサークレットとか……」
香住も魔法のお宝をイメージしながら、一緒に覗き込んでみるが、特に何も落ちてはいなかった。
「不用意に触れないように。危険ですし、汚れますからね」
踏み込もうとする朱音の腕をシルフィーナは掴んでおく。
「あ、あったあった! 分かり難いけど、何かありそうだよここ!」
少し興奮しながら、朱音が壁を指差す。
壁の一部に、不思議な模様が描かれている。単なる落書きにも見えなくもないが……。
「うーん。汚れてるな。拭いてみたいところだけれど」
グレイスが近づいて、その模様を眺める。
「待つのである。記録するのである」
プロクルがデジタルカメラで壁の様子を撮影していく。
「写真も撮っておきますわね〜。精霊さんこのあたり照らしてくださいませね〜」
エレアは光の精霊の光で壁を照らしながら、デジタルカメラで壁や床を手を触れる前に撮影しておく。
「もういいかな。代わりに触れてみるよ? 先生に怪我させるわけにはいかないからな」
芳樹がグレイスに声をかけて了承を得ると、壁に手を伸ばしその模様に触れて、軽くこすってみる。
「芳樹、気をつけて」
アメリアが後ろから声をかける。
「大丈夫、何もおきない」
こすってみても、何もおきなかった。
続いて、軽く叩いて確認してみる。
「厚そう、だけどもしかしたら、空洞かも?」
「そうだな、音の響き方が微妙に違う気がする」
近くの壁に耳をくっつけていたテディ、マーリンがそう言った。
「金庫になっているんじゃないかしら。私達もよくそうした魔法の鍵で封印する金庫を利用していたわ」
マリルの言葉にグレイスが頷く。
「といっても、鍵となるアイテムや呪文が分からないからな。とりあえず箱の方から調べよう」
「棚はどうする? 壊すか?」
ノコギリを手にジェラールが問う。
「そうだね。歴史的価値もなさそうな棚だし、解体していいと思うよ」
グレイスがアルツールの方を向き、アルツールも頷いた。
「了解! それじゃ、持ち運びが出来る大きさにするな!」
ジェラールは即、解体に取り掛かった。
契約者達もそれぞれ工具や掃除具を持って、手伝っていく。
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