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リアクション
第3章 温泉温泉♪
薄暗くとも景色の見える日中の方が、温泉はにぎわっていた。
「流すよ〜、いい?」
「うん、ちょっとずつ、ね」
洗い場でフランカ・マキャフリー(ふらんか・まきゃふりー)はぎゅっと目をつぶる。
「ちょっとずつじょっとずつ」
ミーナ・リンドバーグ(みーな・りんどばーぐ)は、桶に入れた湯を、洗ってあげたフランカの頭に少しずつ、かけていく。
シャンプーハットをつけているので、そっと流してあげれば目に入ることはないはずだ。
「けど……はあ……」
世話をしてあげながら、ついミーナはため息をついてしまう。
ちらりと見た先には、伊吹 藤乃(いぶき・ふじの)達の姿があって。
大人の魅力を存分に発揮しているその体が、気になってしかたない。
「みんなお胸おおきくていいなぁ……」
言いながら、自分の胸を見る。
「……なんでこんな平らなんだろう。15なのに」
大きな大きなため息をついてしまう。
「きれいになったー。ありがと」
お礼を言って、フランカはぴょんと跳ねるように立ち上がった。
「それじゃ、入ろうか」
ミーナはフランカの手を引いて、湯船の方へと向かう。
「でも、おかーさんみえないの」
フランカは手を引かれたまま、きょろきょろ見回す。
「みーな、おかーさんどこ??」
「うーんと、あ、あそこあそこ! なんであんな隅の方にいるんだろうね?」
ミーナは高島 恵美(たかしま・えみ)の姿を見つけ、フランカと一緒に近づいていく。
「あ、二人共、こっちですよ〜」
恵美は二人に気づくと、両手を伸ばした。
「う……」
彼女の豊満な胸を見て、ミーナはまたちょっと落ち込む。
恵美は恵美で、胸の小さな子に「胸が大きくても肩がこるだけですよ〜」などと、事実な失言をしてしまったせいで白い目で見られ、少女達の輪には入りづらくなり、しょぼんと隅の方にいたのだ。
「おかーさんどーしたの??」
「なんでもないですよ〜」
湯の中を転びそうになりながら歩いてきたフランカを、恵美は両手で包み込んで、抱きしめた。
「うん、なんていうか……お互い頑張ろうね」
ミーナは恵美が落ち込んでいる理由を理解して、彼女の頭をなでてあげる。
「ん〜、抱き心地最高です〜」
こくりと頷き、フランカをぎゅっと抱きしめて、恵美は子供のやわらかさを堪能していく。
「皆さんもうちのフランカを抱っこするといいですよ〜。抱き心地最高ですよ」
そう言って、フランカを湯に入ってきた人物に勧める――。
「う、はっ!?」
声を上げて固まったのはミーナだ。
「その子よりキミの方が抱き心地よさそうだぜ。2人、いや3人まとめておいでおいで〜」
入ってきたのはブラヌ・ラスダーというパラ実の少年だった。
「うわあああっ」
あわてて、ミーナは恵美の後ろへと隠れる。
恵美は湯船に首までつかり、子供のフランカを抱いていることもあり、体はほとんど見えていない。
女性ばかり入っていたから、時間等を意識せず入ってしまったのだ。
「おかーさんがいい」
恥ずかしがりやなフランカはぎゅっと恵美に抱きつく。
「み、みみみミーナは、抱き心地良くないよ。まるでナイし。だから近づかないでね」
などと、ブラヌの接近を拒否しながら、自分で発した言葉に、ずぅぅぅんとミーナは落ち込んでいく。
「よしよし、よしよし」
今度は恵美がミーナの頭と、怖がるフランカの頭も撫でてあげるのだった。
「大人しくしていて下さいね。それとも……私達と楽しみます?」
にっこり、藤乃がブラヌに微笑みかけた。
「楽しみたい! ……が、なんだか、近づいたらいけない気がするぜ。おおーさむさむ」
「体を洗ってからお入り下さいね」
湯船に飛び込もうとするブラヌに、藤乃がもう一言声をかけた。
「ううっ、面倒だぜ……。けど逆らったらダメな気がする」
ぶつぶつ言いながら、ブラヌは洗い場に向かっていった。
「……平和ね。物足りないわ」
藤乃と共に湯船に浸かっていたオルガナート・グリューエント(おるがなーと・ぐりゅーえんと)が呟いた。
「ゆったりできていいじゃないか」
屍食教 典儀(ししょくきょう・てんぎ)は、のんびり湯に浸かり、幸せそうだ。
「刺激はほしいところだけどね」
雷獣 鵺(らいじゅう・ぬえ)はニヤニヤとした笑みを浮かべながら、藤乃を見る。
「さっきの子、惜しかったね」
「何のことでしょう」
鵺の言葉に、藤乃はしれっとそう返して温泉の中で体を伸ばす。
「確かに、こうしてのんびり温泉に浸かるのもいいものね」
オルガナートもふうと息をつき、典儀と同様に緩い笑みを浮かべていく。
「平和ですね……。もう少し何か起きてくださってもよいようなものですけれど」
くすくすと藤乃は笑みを浮かべる。
ちらちらとこちらに目を向けるブラヌに誘惑的な目を向けたりして。
軽く挑発をしながら、温泉を楽しむ。
賊討伐で気を張りすぎてしまったため、今はこうしてパートナー達とゆっくり温泉に浸かっていたかった。
とはいえ、少し騒ぎが起きた方が楽しいと思い、混浴を選んだのだけれど……。
残念?なことに、温泉で事件や騒ぎは今のところ発生しておらず、今も緩やかに時間が流れていた。
「あー、ホント、たまにはこういうのもいいよねー」
鵺は湯の中を歩いて、後ろから藤乃に近づいて、背を合わせて寄りかかった。
「そうですね。合宿はまだ続きますし、英気を養っておきませんとね」
「そうだよね。賊関連のことで動いてくれてる人は、食料の調達とか出来ないし、代わりにそういうことばボク達が手伝ってあげないといけないしね」
近くで湯に浸かっていたレキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)が、のんびりと笑みを浮かべながら、藤乃にそう言った。
「龍騎士も来るという噂ですし、向かっている方々は大変でしょうからね」
「龍騎士の人も一緒に合宿できるのかな? ご飯沢山食べそうだよねー」
「龍騎士は神だから、食べなくても生きていけるかもしれんのう」
ミア・マハ(みあ・まは)も、汗を流し終えて、温泉の中へと入ってきた。
「あれ? ミア、眼鏡してたままだと曇らない?」
眼鏡をしたままのミアに、レキが尋ねた。
「眼鏡は妾のトレードマークじゃ、萌えじゃ。簡単に外す訳には行かぬ」
「ん? 燃える? なんだかよくわからないけれど、仕方ない理由があるんだね」
「そうじゃ」
単純に、外したらよく見えなくなってしまうので、外すことはできないのだ。
「ま、妾のようなぺた……慎ましやかな胸を狙う者は居ないと思うが、ハメを外す者もいるかもしれん。注意と警戒くらいはしておかねばな」
あたりは薄暗いこともあり、足場も、近づく人影も見えないのは危険だ。
自分だって、襲われないとは限らない。自分の体にムラムラくる男はいないとは思うが。自分よりずっと子供なのにっ、大人の女性の体系に近いレキに襲い掛かろうとする者はいるかもしれないから。
「妾が狙われるよりずっと可能性が……」
そんなことを考え、呟くうちに、嫉妬心が湧いてくる。
「湯着をもう少し上げんかい! 誰もそなたのような子供の体など見たくはないはずじゃぞ」
つい、そんなことをレキに言ってしまう。
「うん、わかった」
レキは皆と雑談をしながら、素直に湯着を少し上に上げた。
「女の子ばかりでくつろいでる中悪いな、こっちの方が入りやすいんで邪魔するな」
湯着を巻いた男性が、湯船に入ってくる。
「あっ……」
その人物がゼスタ・レイラン(ぜすた・れいらん)だと気づくと、レキは嬉しそうに笑みを浮かべた。
「お疲れさま〜。ゼスタさん達も休憩?」
「まーね。学友に誘われたんでスイーツ前に休憩ー」
レキに答えたゼスタの後から、黒崎 天音(くろさき・あまね)とブルーズ・アッシュワース(ぶるーず・あっしゅわーす)が入ってくる。
「スイーツかあ……ボクも食べたいな」
「伝説の果実がいくつか手に入りそうだからな、今日俺が試食した後で、本格的に皆でスイーツを作り、合宿最後にはパーティだ!」
「ホント!? 楽しみだね」
「まあ、そうじゃな」
レキとミアは微笑み合った。
「……で」
ゼスタは天音の方へと目を向ける。
「さっきから何、じろじろと」
「君の筋肉のつき方は、なかなか魅力的だね」
意味深に微笑む天音に、ゼスタは一瞬、訝しげな目を見せた。
天音は先ほどより、ゼスタの身体を観察していた。
立ち振る舞い、筋肉のつき具合から、戦闘タイプを分析していたのだ。
ゼスタは普段、背に大剣を背負っており、大剣を得意とするようではあるが。
大剣使いのような、力任せに叩き潰すタイプの戦士にはどうも見えない。
筋肉質だが、細い。
力よりも素早さで攻めるタイプに思える。
「あと誕生日おめでとう、幾つになったの?」
「18〜」
「それは嘘だと思うけど?」
くすりと天音が笑うと、ゼスタも軽く笑みを浮かべる。
「君らと大して変わんねーよ。ちと若く見えるみたいだけどな」
彼はそんなに長く生きているわけではないようだった。
「……そう言えば、パラ実では先生だったっけ? 折角だから、東西シャンバラの現状のおさらいなんてしてくれないかな? ゼスタ先生」
そんな天音の言葉に、ゼスタは軽く吹き出した。
「いやいや、イエニチェリのキミに語れることなんてないさ。俺の方こそタシガンと薔薇学の現状を教えてほしいくらいだ。俺は格闘技と健全な保健体育をパラ実生に教えてるだけだぜ〜」
「はぐらかしてる?」
笑みを浮かべながらも探るような視線で天音が聞く。
「ん? そんなことはない。俺の方が知っていることなら、何についてどんなことが知りたいのか言ってくれれば答えられることもあるかと思うが、問いが抽象的過ぎて何について話せばいいのかわかんねー」
ゼスタの言葉を受けて、天音は少し考え込む。
「天音、そろそろ上がらないか?」
ブルーズが声をかけるが、首を軽く左右に振るだけで、ブルーズの方に目を向けることはなかった。
「あの男がそんなに気になるのか……我とてそう軟弱ではないぞ」
そんなことをぶつぶつ呟きながら、ブルーズは手ぬぐいでクラゲを作り、雑念を払おうと一人寂しく遊んでいた……。
天音はこのところ、ゼスタを観察していることがとても多い。
「しかし、風呂まで一緒に入らずとも……。次は寝床もなどと……いや、それはさすがに……」
天音がゼスタを注視しているのはファビオ・ヴィベルディ(ふぁびお・う゛ぃべるでぃ)に頼まれたからでもあるのだが、天音を大切に思うブルーズは心中穏やかではなかった。
「そうだね。それじゃ、現在の情勢について君はどう思う? 東側がエリュシオンに恭順を示したことについてとかね」
言った後、天音はブルーズの方に手を向けて、浮かんでいるクラゲを指でつっついて、ブクブクさせる。
構ってもらって嬉しいのか、ブルーズはもっと大きなクラゲを作っていく。
「東側がエリュシオンに付くのは当然だ。んー、地球人視点では真逆の考えだろうが……」
そう、前置きをしてゼスタは自分の考えを語り始める。
東西に分かれたとはいえ、シャンバラは建国に至った。
帝国とシャンバラが戦争になれば、カナンやコンロンもただではすまないだろう。
そして、シャンバラに帝国に対抗するほどの力もない。
となれば、恭順を示してでも、代王を護りながら時間をかけて、国として外交で関係を築いていきたいところだ。
地球側と関係を強化し、エリュシオンに対抗する姿勢の西シャンバラのやり方も間違ってはいないが、地球の一部国家の利権が絡みすぎている。
東シャンバラはエリュシオンに恭順を示しはしたが、支配による悪政で国民が虐げられているわけではない。
西シャンバラはその地域にある地球の学園の力が強く、地球勢力が政治に大きな影響を及ぼし、更には核の保護下――つまりは、地球からの軍事攻撃も可能な状態にある。
「俺からしてみれば、西シャンバラは地球人に支配されてるようなものだ。協力はありがたい、だが支配は、エリュシオンだろうが地球だろうがゴメンだね」
地球とは何れ行き来できなくなる時が訪れるだろう。
だが、エリュシオンとはずっとこのパラミタで共存共栄を目指していくのだ。
侵攻を目論む理由があるのなら、その理由をまずは知ること。
未だ、シャンバラと女王は疲弊しきっている。
全てに時間が必要だ。
「この状態で西シャンバラにシャンバラの力――女王の力を奪われたら、東シャンバラはどうなっちまうのかね」
ゼスタの言葉に、天音はこう答える。
「正常な形で東西が統一されて、独立するんじゃない?」
「けど、東シャンバラが完全に西側についたら、地球勢力とエリュシオンの戦争は現東シャンバラの領内で行われるだろ?」
「どちらにしろ、エリュシオンはシャンバラに侵攻するつもりだと思うしね」
そうしたら、地形的に東シャンバラ側が先に攻め入られるのは当然だ。
「タシガンは離れてるし、いっそのこと不干渉といきたいところだが。……神楽崎が前線に立つだろうから、俺もそうも言ってられねぇんだよな」
ゼスタは大きく息をつく。
「だから、俺は女王の力を東シャンバラで保護し、東シャンバラが両勢力の抑えとなってほしいと思ってる。緩衝地帯になってほしい」
これは彼個人の思い、考えではあるが、ヴァイシャリーやタシガンのシャンバラ人達は、似た考えを持つものも少なくはない。
「いや、寧ろ女王には力を逃がすとかそんなことはしてほしくなかったね。だが、そうせざるを得ない、状況だったんだろうな……。で、そのあたりが、さっぱりわかんねーんだけど、教えてくれよ、天音先生!」
べちんとゼスタが天音の肩を叩いた。
「それじゃ、機会があったら特別講義をしようか。お互いにね」
天音はくすりと笑う。
「特別……講義……」
ブルーズはクラゲをつぶして、手ぬぐいを握り締めた。
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