リアクション
* * * 「皆さん、紅茶出来ましたよ」 制御室の中で、封印の巫女 白花(ふういんのみこ・びゃっか)は紅茶を入れて、各人に差し出していった。 禁猟区による結界を張り、警戒もしている。特に異常はない。 刀真と月夜がナイチンゲールを自分達と変わらない存在だと捉えているのを白花は知った。そして彼女もまた、二人と同じようにナイチンゲールと関わろうと思っている。 同時に、自らとナイチンゲールを重ねてもいた。 神子として長い間「大いなる災い」を封じてきた白花と、シャンバラ王国成立以前からこの地でずっとイコンを守り続けてきたナイチンゲール。 話を聞いているうちに、立場は違えどどこか近いものを感じたのだ。 「ありがとう」 「ありがとうございます」 刀真達やリヴァルトらPASDの面々に振舞った後、ナイチンゲールにも渡そうとする。 「ナイチンゲールさん、美味しく入れられたと思うのですが飲みませんか?」 『ありがとうございます。しかし、いくら人間と同じような身体構成を再現しているとはいえ、ここにいる私は先程申し上げたように映像に過ぎません。お気持ちだけ頂いておきます』 一瞬だけナイチンゲールの表情が和らいだように見えた。 食べることも飲むことも必要としていないが、遥か昔にこういう風に人と言葉を交わしてはいたのだろう。 「私も喫茶【とまり木】でウェイトレスやるとき、同じような格好をしてるけど、ナイチンゲールはずっとその格好なの?」 月夜が尋ねた。 『はい。マスターが似合ってると仰ったときから、ずっとこの姿で固定化しております』 一行が一番驚いたのは、彼女が五千年前ではなく、それより遥か昔に造られたというものだった。 イコンが初めて造られたのはそのときで、五千年前は一時的に使われていたに過ぎないと。 「そうなんだ。そのマスターってどんな人だったの?」 『具体的な容姿に関しては、アクセス制限のためにお答えすることが出来ません。ですが一人は男性、もう一人は女性です』 あまり教えてはもらえないが、そのマスターと彼女はきっと主従関係ではなく友人同士のようなものだったのだろう。 「マスターがいた頃はどんな話をしていて、どんな話をしているときが楽しかった?」 楽しい、という感情がナイチンゲールにあるか分からない。それでも、淡々とした彼女の言葉の中からは当時の様子がありありと伝わってきた。 『まだ聖像を造っているとき、私を交えてどういった風に仕上げるか、完成したらどうするか、それから――「夢」について語っておりました。人間の抱く、理想とでも置き換えられるものでしょうか』 ここでイコンを造った人達は、それに自分達の夢や希望を託していた。 それが全てのイコン製作者に共通していたものではないのかもしれないが、確かに想いが込められていた。 『他に私の記録に残っているのは、「歌」です。一緒に歌を作りました。歌詞やメロディーは現状で開示出来るデータの中には存在しませんが……そのように、マスター達と過ごしておりました』 共に語らい、歌った日々があった。 ならば、またそういったことが出来てもいいのではないだろうか。 しばらくして、刀真がナイチンゲールに言った。 「君が傷つけられそうになったときは、俺達が君を護るために戦います。俺達が困っていたら力を貸して下さい。そしてこうやってお茶を飲んで話をしたりするときは、一緒に楽しみましょう」 もしかしたら本当は、ナイチンゲールには感情があって二人のマスターと楽しい時間を過ごした記憶だったあるのかもしれない。しかし、それらを封印されなければならない事態が起こってしまった。 イコンの真の力が封印された理由は、争いの道具とされることをマスターが望まなかったからだと言う。 ならば、彼らの意に添う形でイコンを求めれば、イコンは力を貸してくれるのかもしれない。 『力の使い方を誤らない者を判断し、私は力を貸します。それがマスターから与えられた命令であり、お二人の意思に反しないための必要事項ですから』 力は、誰かを傷つけるためにあるのではない。 それを理解し、力に溺れないことが必要だと、ナイチンゲールの声は告げているように感じられた。 |
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