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聖戦のオラトリオ ~覚醒~(第3回/全3回)

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聖戦のオラトリオ ~覚醒~(第3回/全3回)
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(・出撃2)


 イコンハンガー内のメインモニターには、外の状況が映し出されていた。
 生徒達によって編成された小隊による第二部隊の生徒達は、それぞれの思いを胸に、出撃準備を行っていた。

 ――アルファ小隊。

「鈴蘭ちゃん……」
「……大丈夫よ、沙霧くん」
 敵の巨大な新型機の姿に一部の生徒がざわつくも、館下 鈴蘭(たてした・すずらん)の心中は穏やかだった。
 なぜかは分からない。だが、自分達が成すべきことを自覚している、それゆえの心境と言えるかもしれない。
 霧羽 沙霧(きりゅう・さぎり)が不安そうな目を向けているが、いつものように彼を励ませる。
「行くわよ。あれを倒して、海京を、みんなを護るわよ」
 負けられない。失わないためにも。
 
「なあ、凛」
 星渡 智宏(ほしわたり・ともひろ)時禰 凜(ときね・りん)に問う。
「お前は何のために戦っている?」
 凛がきっぱりと答えた。
「智宏さんを護りたいからです」
 彼女はさらに続けた。
「パラミタの為に戦う皆の手前、黙っていましたが……」
 彼女がパイロットの道を選んだ理由。
 ずっと一緒にいた、好きだという想いが強くなっていたから、その大切な人と暮らす小さな世界を護る、そのためだということを再認識したようだ。
 その目に迷いはない。
「……それでいいんだよな」
 ふっ、と智宏は微笑する。
 簡単なことだった。
 戦う理由、護るべきもの、それを持っているからこそ、自分達は空を駆けるのだろう。ならば、強さとは何か。
 智宏が導き出した答え、それは「迷わない」ことだった。
 貫かねばならない想いが、そこにはある。
「行こう凛。俺達が暮らす、海京を護る為に」

* * *


 ――ブラボー小隊。

「辻永君」
 綺雲 菜織(あやくも・なおり)は、翔と顔を合わせた。
 今の彼には、一切の迷いがないように見受けられた。
「海上はこちらで対処する。そちらは頼むよ」
 巨大イコンとその周囲は引き受ける。だから、都市の取り囲む敵部隊は彼らに託す。
「ああ、分かった。だが、あれはきっと手強い。気をつけてくれ」
 そう言って前進していく翔の背を見送る。
 共に、未来(あした)に馳せる思いを持つ者を。
「行こう、美幸」
「はい、菜織様」
 有栖川 美幸(ありすがわ・みゆき)を見やる。
 例えそれぞれ見る夢は違えども。
 彼らから力と想いを借り、そして彼女も自身の役割を果たしそれを返す。
 未来を変えていくため、それが彼女達の理由だ。

「どうした、芹?」
 搭乗するコームラントを見上げる七姫 芹伽(ななき・せりか)の耳に、夕月 燿夜(ゆづき・かぐや)の声が入ってきた。
「ううん、なんでもない」
 何事もないような振りをした。
 そう、周りを見渡せば、それぞれが自分の理由を持って、行かんとしている。
 ならば、自分にとってのそれは何か。
 海京が危ないからか? 支援機が不足しているからコームラントに乗ることを決めたのか?
 あるいは――
「行くわよ、燿夜」
 戦いに集中するため、迷いを振り切ろうとした。

「よりによってこんなときに……だけど仕方がない」
 藤堂 裄人は、不調の兆候が見受けられたサイファス・ロークライド(さいふぁす・ろーくらいど)を残し、ゼドリ・ヴィランダル(ぜどり・ゔぃらんだる)とイコンに搭乗しようとする。一ヶ月間の無理がたたったのだ。
「ごめんなさい……でも裄人も無理はダメだよ。思い詰めては……まだ先は長いんだから」
 この戦いが終わった後も、パイロットとしての生活は続く。ここで無理をすれば、それが絶たれてしまうかもしれないのだ。
 焦る気持ちはあるが、その言葉をしっかりと頭に残し、イコンに搭乗する。


* * *


 ――チャーリー小隊。

「あいつもいるんだろうな……」
 大羽 薫(おおば・かおる)が声を漏らした。
 前の戦いで驚異的な強さを見せ付けてきた、エヴァン・ロッテンマイヤー。
 彼は負けた。だが、その敗北が、薫に心から勝ちたいという強い思いを抱かせることになった。
「リディア、お前にはまた負担を掛けるかもしんねぇ。だけど……」
 不安はある。それでも、あの男を超えたい。
「かおるん、かおるんががんばるあらリディアもがんばるから。だから一緒にがんばろ?」
 リディア・カンター(りでぃあ・かんたー)が勇気づけてきた。
 自分がついてるからと、一緒に戦ってくれるパートナーが。

「今回も、一緒に頑張ろうね」
 祠堂 朱音(しどう・あかね)水鏡 和葉(みかがみ・かずは)に声を掛けた。
 これまで、同じ小隊で戦ってきた仲間だ。
「うん、頑張ろう!」
 どうやら、もう大丈夫なようだ。迷いはないらしい。
「さあ、行きましょう」
 シルフィーナ・ルクサーヌ(しぃるふぃーな・るくさーぬ)に促され、朱音は機体へと向かう。魔鎧化したジェラール・バリエ(じぇらーる・ばりえ)も一緒だ。
 この戦いを終わらせるための確固たる意思を持ち、操縦席へと就いた。

「機体の調整は完了しました」
 ルアーク・ライアー(るあーく・らいあー)はイコンの最終調整を終え、和葉と神楽坂 緋翠(かぐらざか・ひすい)に告げる。
 この一ヶ月間での鍛錬を発揮できるよう、最高のコンディションに仕上げた。
 訓練データから二人の癖も踏まえ、常日頃から念入りに調整を重ねていた甲斐もあったというもの。
「いってらっしゃい、和葉。貴方の覚悟を見せてきなさい」
 和葉の顔を見る。
 覚悟と、決意。それが表れた表情を。
「うん、行ってくるね、緋翠!」
 次いで、ルアークの方へと視線を移し笑顔を向ける。
「ルアーク……和葉が怪我して帰ってきたら、承知しませんからね?」
「わかってる……さあ、ゲームの始まりだ」
 絶対的に不利な状況でも、彼が取り乱す様子はない。
「ボクはボクのやり方で戦うって決めたから……いくよ、ルアーク」

* * *


 ――デルタ小隊。

「秋穂ちゃん……?」
「何でかな……心がもやもやする……」
 端守 秋穂(はなもり・あいお)は、つかえる思いを振り切れずにいた。そんな彼をユメミ・ブラッドストーン(ゆめみ・ぶらっどすとーん)が心配そうに見ている。
 前の戦い、いや、プラント戦の後からずっと続いてる悩み、そして迷い。明確な答えは出せないままだ。
「海京を……守らなきゃ」
 それでも今、戦わなければならないことは自覚している。
 機体に乗り込み、出撃準備に入った。

「早苗、この一ヶ月の成果を見せるわよ!」
 葛葉 杏(くずのは・あん)は意気込んだ。
「えぇ、この一ヶ月間、軽い地獄でしたよぅ」
 橘 早苗(たちばな・さなえ)がそれに応じる。
 前の戦いから、彼女達は新たに導入された射出型ワイヤーを使いこなせるように、必死で訓練を行ってきた。
「ほんと、投げ縄の標的にされたりワイヤーでぐるぐる巻きにされたり……」
 イコンに乗ってるときも、生身のときも常に鍛錬を欠かさなかった。その甲斐もあって投擲技術も身につけるに至っている。
「さあ、行くわよ!」

* * *


 ――エコー小隊。

「シフ、ほんとに攻撃担当で大丈夫?」
「大丈夫です。再び引鉄を引くのを恐れるのは……止めです」
 シフ・リンクスクロウ(しふ・りんくすくろう)は不安げな視線をよこすミネシア・スィンセラフィ(みねしあ・すぃんせらふぃ)に対し、きっぱりと告げる。
「……私は、これ以上戦場という地獄が広がるのを止めたい。だからこそ、今一度血塗れた道を行きましょう」
 恐れを捨てる。
 乗り込む前に、再度モニターに移る敵のイコン部隊の姿を凝視する。
 ――負けられない。
 同じ小隊の顔ぶれを再度確認する。
「翔、お前も奴には借りがあるよな。俺達と一緒に戦わないか」
ウォーレン・クルセイド(うぉーれん・くるせいど)が翔に声を掛けていた。敵の総指揮官、カミロ・ベックマンを倒したい。彼もまたその思いを抱いていると分かる。
「奴は強い。今の俺達でもバラバラに戦って勝てる相手じゃない……だが、協力すれば何とかなるはずだ」
 シフもまた、翔へと投げかける。
「あの人を倒したい、超えたいと思っているのはあなた達だけではありません。ここで、決着をつけましょう……皆の力で」
 翔と目が合う。
「よろしく頼む、みんな」
 そして彼はパートナーであるアリサ・ダリン(ありさ・だりん)を見遣る。
「行こう、アリサ。ここであいつを――倒す」
「その意気だ、翔。今度こそ終わらせるぞ」
 意気込みは十分だ。
 
「君も私のパートナーだよ」
 水城 綾(みずき・あや)は、自らが搭乗するイーグリットに禁猟区をかけていた。お守り代わりだ。
 戦いへの恐怖はある。だが、それ以上に大きい決意が彼女を動かしている。
「ウォーレン、今度は勝とうね。そして皆で無事にここに帰ってこよう」
 勝って、誰も欠けることなく戦いを終えるそのために。

「武装次第ではイーグリットでも十分後方支援出来るのに、今回もコームラントなんだね?」
 東森 颯希(ひがしもり・さつき)に言葉に、月舘 冴璃(つきだて・さえり)は穏やかな口調、表情には出ていないが微かに笑っているかのように言い放った。
「コームラントはずっと乗ってきた機体です。今更イーグリットだなんてそんな白状なことはしませんよ。
 敵とやり合ってることだけが戦いではありません。後方支援を甘く見ると怪我しますよ」
「あはは、そうだね。じゃ、厳しい戦いになるけど今回もよろしく! 冴璃はもちろん、アーラもね!」
 二人で機体を見上げた。
 自分達の相棒の姿を。

「いよいよでござるな、真理」
「うん、これまで頑張ってきたんだ。負けられないよ」
 源 明日葉(みなもと・あすは)の声に、高島 真理(たかしま・まり)はこれまでの訓練の日々を振り返った。
 正式にパイロット科で訓練を始めてから、まだ日が浅い。しかしこの一ヶ月間、周りの言い知れぬ緊張感の中でも、彼女は追いつこうと必死に努力してきた。
 その成果を発揮するときが来たのである。
「絶対にみんなで……帰って来るんだから!」

* * *


 ――ダークウィスパー。

「この間の借りは返しませんと……」
 気持ちを奮い起こしているルーチェ・オブライエン(るーちぇ・おぶらいえん)を、狭霧 和眞(さぎり・かずま)は見遣った。
「やられっぱなしなわけにはいかないッスよ」
 自分に言い聞かせる。
 機体の左肩部にオルカの記章がある、自分達の「相棒」を見上げる。一度は失った右腕は修復され、そこには既にビームサーベルが――ワイヤーに巻き付けられた状態で握られている。
 一ヶ月間、ルーチェと共にイコン戦における剣術の修行を行ってきた。エヴァン・ロッテンマイヤーに一矢報いるために。

「この一ヶ月間、死ぬ気で頑張ってきたんだから……負けられない。行くわよ、光、フレイヤ!」
(行こう! お姉ちゃん!)
 蒼澄 雪香(あおすみ・せつか)蒼澄 光(あおすみ・ひかり)もまた、イコンへと乗り込む。
 前回の戦いの後ダークウィスパーに加わり、小隊で連携出来るように訓練を行ってきた。メンバーとの仲も深め、自分自身の操縦技術も上達した……と感じる。
 雪香以上に、光の成長は著しかった。前の戦いまでは状況報告が精一杯だった彼だったが、戦闘中の兵装管理を行えるようになり、その分雪香は回避行動に注力することも可能となった。
 その力を発揮出来るよう、気合を入れた。

「前回の戦闘データを元に、敵データを更新しておいたわ」
 カーリン・リンドホルム(かーりん・りんどほるむ)が告げる。
 ダークウィスパーが連携するために使用しているレプンカムイにそれを反映させ、情報の共有化を図っていた。
「ありがとう、カーリンねえちゃん」
 高峯 秋(たかみね・しゅう)エルノ・リンドホルム(えるの・りんどほるむ)と共に機体へと向かう。
 乗り込むとき、エルノは考えた。
(ダールトンは、ボク達が本当に恵まれているって思ってるのでしょうか? 箱庭の中で改造されたり、こうやって人も殺せちゃう機体に乗っているのに……)
 自分達が戦う相手は、グエナとエヴァンだ。
 そのグエナと交戦した生徒が、天御柱学院の生徒を恵まれた者達だと言っていたと聞いた。
 グエナの過去については、シャーリー・アーミテージ(しゃーりー・あーみてーじ)によってダークウィスパーで共有されている。紛争地域、貧困国を見てきた彼だからそう言えるのだろう。
 しかし、この学院にいる者からすれば、そうとは限らない。
 パートナーの秋は超能力科の特待生という扱いになっている。だが、それは裏を返せばいかなる実験にも協力させられる「被験者」でもある。
 そういった事実があるからこそ、ダールトンの言葉を受け入れることは出来なかった。
「一緒に頑張ろう、ジャック」
 
「最終調整完了。お願い、沙耶達を、みんなを守って」
 クローディア・アッシュワース(くろーでぃあ・あっしゅわーす)が機体の最終調整を終え、天王寺 沙耶(てんのうじ・さや)アルマ・オルソン(あるま・おるそん)が乗り込む。
 いつ出撃しても大丈夫なように、日々最高のコンディションを維持するために念入りに整備を行っていた。
「行ってくるよ」
 厳しい戦いになることを、沙耶は覚悟している。
 グエナ・ダールトン達との三度目の戦い。
 一ヶ月間、グエナやエヴァンの戦闘方法を徹底的に分析し、小隊全体で連携して当たれるように訓練を重ねてきた。
 しかし、自分達がそうであるように、彼らも一ヶ月前よりも前に進んでいるのだろう。
 それでも負けられない。

「レプンカムイのバージョンアップは完了してるぜ」
 リーリヤ・サヴォスチヤノフ(りーりや・さう゛ぉすちやのふ)が、エルフリーデ・ロンメル(えるふりーで・ろんめる)に言った。
 β版からさらに前回の戦いを踏まえた上で更新し、各部パーツの損耗状況からリアルタイムでの機体の最適化調整を行うためのデータサンプリング機能が追加された。
『出撃準備はおっけぃ、だぜぇ』
 どこからともなく声がした。
 【戦術情報知性体】 死海のジャンゴ(せんじゅつじょうほうちせいたい・しかいのじゃんご)である。レプンカムイを介したモニターに、彼の姿が映し出されていた。
「まあ、AIのモデルがアレなのが少し、な……」
 フラッシュメモリ型の本体だけの魔道書であるため、レプンカムイを通じてのイコンの通信や機体補助を行えるようだ。
「さあ、行きましょう」
 魔鎧であるサリー・クライン(さりー・くらいん)を装着し、イコンに搭乗する。
『この間、こんな夢を見たわ』
 サリーがエルフリーデに語りかける。
『ワタシはリーリヤに頼まれてビールの販売員として年末商戦を戦っていたの。そこに、顔は見えなかったけど声しか知らないグッさんがライバル店の店員として出てきてワタシとビールのケースを何個担げるかで勝負を挑んできたの」
 結果? 余裕で勝ったわ。だって虐げられてきたワタシにとって石材運びとかの苦役は日常茶飯事だったもの』
「験担ぎとして捉えておきますよ」