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イコン博覧会(ゴチメイ隊が行く)

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イコン博覧会(ゴチメイ隊が行く)
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「こちらは、波羅蜜多実業高等学校のブースですぅ。ちょっとちっちゃくて丸っこいイコンがならんでいるですぅ」
 メイベル・ポーターが、新しいブースへと移動した。
「ここにあるのは、喪悲漢離偉漸屠というイコンですぅ。今までのイコンはすべてMサイズという中型イコンでしたぁ。でもぉ、これは、Sサイズという、小型イコンになるんですぅ」
 メイベル・ポーターの言う通り、パラ実のイコンは二回りほどサイズが小さい。
 これらは種籾の塔のプラントで生産されていると言われ、巨大な頭から手足が直接生えているというデザインが特徴的だ。
 頭部がなくて胴体が頭的なデザインなのか、胴体その物がないのかははっきり分からないが、改造された物には普通のデザインになってしまっている物もあるので、デザイン的な問題なのだろう。
 背中に積んだ機晶エンジンからは、なぜか、マフラーが突き出ている。排気ガスがでるわけではないはずなのだが、補助エンジンか何かを利用しているのだろうか。
 喪悲漢は頭部にモヒカン型のセンサー部があり、離偉漸屠はそれがリーゼント型になっている。センサー部が軽量な分喪悲漢は機動力があり、余剰スペースに補助機構を積んでいる分離偉漸屠の方がパワーがあると言われている。もっとも、あくまでも、両者を比べたらという範疇から逸脱するものではない。通常は、これら頭頂部分は、ブーメランやキャノンに換装されることがほとんどでもある。
 小型というせいもあってか、安定感は全イコン中でも飛び抜けている。地上タイプなため、当然の結果かもしれないが。
 だが、なにぶんにも、小型であるということは、イコンその物の戦闘力ははっきり言って大したことはない。汎用型のクェイルと比べてでさえ、間に越えられない壁があるくらいだ。まともに素手で殴り合えば、あっけなく破壊されてしまうだろう。装甲車とトラックが戦うようなものである。
 だが、人形である以上、携帯武装の質によっては、充分に他のイコンとも戦える。巨大な武装や、本体からの多大なエネルギーを必要とする物、あまりに発射反動が大きい武器はさすがに使えないが、それらをクリアすれば攻撃力では他のイコンと同等である。
 おそらく、その最大のメリットは、運用に関するパラ実的自由度の高さだ。他のイコンが、学校による全面的なサポートがなければ、まともに稼働もできない物であるのに比べて、作りが簡単である分、喪悲漢と離偉漸屠はメンテナンスが楽だ。量産性も高いので、普通にデコトラ代わりに普及しつつある。奇しくも、クロセル・ラインツァートの持論を実践していると言えなくもない。
 ただし、ほとんど原形を残さないくらいに強化改造した場合は、決して他のイコンに引けをとらないだろう。要は、ノーマルの機体が、全体的にしょぼいのである。それでも、コアとなる素体の部分は腐ってもイコンだ。それに付随する周辺インターフェースや、装甲などを徹底的に強化すれば、充分に他のイコンとも渡り合えるかもしれない。それだけの発展性を秘めているのが、イコンの怖いところでもある。
「格闘型のイコンを見たかったんだが、格闘型っていうのがこれじゃあなあ。まあ、どんな機械でも、要は戦い方だが」
 見学兼見回りに来たラルク・クローディスが、なんとも言えない顔で言った。正直、性に合っていると言えなくもないが、すっぴんの状態ではさすがに性能でアグニを選ぶだろうというところだ。
「そうだよなあ。まあ、お互い同じイコンでどつき合うにはいいけどね」
「ちょ、なんでお前がここにいる」
「なんだ。いちゃ悪いのかよ」
 いつの間にか隣にココ・カンパーニュ(ここ・かんぱーにゅ)がいるのに気づいて、ラルク・クローディスがあわてた。
 こうしてならんでみると、意外にココ・カンパーニュは小柄ではある。
「なんでも、イコン同士のバトリングなんかもキマク近くではあるらしいんだけど、なんで、どつきあいするのに、こんなのに乗らないといけないのかなあ。やっぱり、心を語れるのは己の拳だけだぜ」
「まあ、それは否定はしないがな。さて、他のブースも見て回るか」
「何をやってるんだ?」
 微妙な同意をしたラルク・クローディスが他のブースに行こうとするのを見て、ココ・カンパーニュが訊ねた。
「こういう大きなイベントだからな。この前の浮遊島のように、またここ空京にちょっかいを出してくる奴らがいるかもしれねえ」
「ああ、そういえば変な奴らがいたよな。大丈夫。そんな奴らがいたら問答無用でぶっ飛ばすさ」
 そう言うと、ココ・カンパーニュが軽く力瘤を作って見せた。
「それにしても、本当にこれイコン? 作った人のセンスを疑うんだもん」
 あからさまに呆れながら、フェルクレールト・フリューゲルが言った。
「まあ、パラ実のメカだしねえ。その分、ネジの二、三本外れたって、そこそこ動くようだけどな」
 それに合わせて、十七夜リオが苦笑する。他校のイコンと比べたら、ほとんど玩具だと言われても、あまり反論はできないだろう。
「うん、これなら、教導団のイコンの方が格好いいと自信を持って言えるぞ」
「まあ、そうですけれど……。価値観は人それぞれですからねえ。パラ実的には、この無意味に突き出たマフラーなどが格好いいのでしょうね」
 ちょっと自校のイコンに自信を取り戻したトマス・ファーニナルに、ミカエラ・ウォーレンシュタットが言った。
「ここのキャンギャルのお嬢さんはどこだ……」
 驚異的な気力を持って立ちあがったロイ・グラードが、キャンギャルを探して辺りを見回した。彼をここまで突き動かすものは、はたして、イコンへの興味か、それともキャンギャルへの興味か、はたしてどちらなのであろうか。
「さあ、どんどんパンフレットを持っていきやがれ。タダだ、タダ!」
 白い特攻服を来た神戸紗千が、紙吹雪のようにパンフレットをばらまいている。
『相棒、とりあえずやめとけ。今のお前じゃ、確実に止めを刺されそうだぜ』
 常闇の外套が忠告した。
「大丈夫だ。俺が死ぬ前に、まずお前が死ぬ」
『だからやめろって言ってんだよ!』
 叫ぶ常闇の外套の裾をむんずとつかむ者がいた。
「布、恥ずかしいからちょっとこっちへ来るのだ」
「あっ、だから中身が入って……」
 常闇の外套ごと、ロイ・グラードがアイアンさち子に引きずられていった。