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イコン博覧会(ゴチメイ隊が行く)

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イコン博覧会(ゴチメイ隊が行く)
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「ここは、薔薇の学舎のブースだよ。もの凄く派手だよね。地面には、一面に薔薇の花びらが敷き詰められて真っ赤だよ。その中に立っているのがシパーヒーだよ」
 セシリア・ライトが、花の絨毯の上にすっくと立つ、均整の取れたフォルムのパープルのイコンをさして言った。
 中世の騎士を思わせるシパーヒーは、今日あることを予見したタシガンの貴族が密かに守り続けてきたイコンということになっている。だが、情報公開がほとんどないので、実際のところは謎のままというのが正直なところだ。
 その保存されていたというイコンを解析し、ジェイダス・観世院(じぇいだす・かんぜいん)の交渉によってとりつけた中東の協力によって最近量産体制が整ったばかりである。
 細部のデザインなどに西シャンバラ製のイコンに似た部分が散見されるが、どの程度他のイコンの技術が流入しているのかは公表されていなかった。まさに、謎の多いイコンである。
 見た目のシルエットと違って、基本移動形態は飛行となっている。腰部にスラスターらしき物があるが、さすがにイーグリットのような高速戦闘タイプではなさそうだ。そのせいか、全体のフォルムは一番人間に近い物となっている。主武装のレイピアとも相まって、動きも含めて、実に美しい、薔薇の学舎ならではのイコンであると言えた。
「ふむ、悪くはない」
 静かに敷き詰められた薔薇の花弁を踏みしめて近づいていきながら、オプシディアンがつぶやいた。
「アルマインみたいに異質というわけじゃないけれど、どこか他のイコンとは雰囲気が違うわよね」
「パンフレットをもらってきます」
 ちょっと困惑したようにシパーヒーを見つめる天貴彩羽に言うと、スベシア・エリシクスが説明員を探しに走りだした。
「キャンギャル〜」
 ロイ・グラードは、すでに言動がおかしくなり始めている。
「はい、こちらが、パンフレットとなっております」
 美しく装丁された小冊子を、ジェイムス・ターロンが、スベシア・エリシクスに手渡した。
「さすがは薔薇の学舎であります。キャンギャルも、渋い中年の家令だとは……」
 ロイ・グラードたちの思惑が外れたことに満足しながら、アイアンさち子がしきりにうなずいた。
「ごめん、質問いいかなあ。シパーヒーって飛べるんだよね。でも、見たところ、特別な推進装置はついていないように見えるんだけれど、どうやって飛んでるんだい?」
 十七夜リオが、ジェイムス・ターロンに質問した。
「原理は、機晶姫と同等のものと聞いております。推進器ですが、どのような形状の物であれば推進器と呼べるのでしょうか?」
「基本的には、インテークが一つの目安となるでしょう?」
 横から、ミカエラ・ウォーレンシュタットが口を挟んだ。
「はい。ジェットエンジンであれば、そのようでありますな。ですが、機晶姫自体、ジェットエンジンを搭載しているわけではございません。地球製の補助推進装置をつけたイコンはジェット推進のエンジンを搭載しておりますが、イコン本来の推進装置、いえ、浮遊装置と呼んだ方が正確でございましょうか。そちらは、燃焼ガスを高速で排出して推力を得る物とは、まったく原理が異なる物でございます」
「じゃあ、その原理という物を教えてよ?」
 天貴彩羽まで集まってきて、訊ねた。
「それは、あなた方天御柱学院の整備科の方々の方がお詳しいのでは?」
 やんわりと、ジェイムス・ターロンが切り返した。
「なんだか、あそこは空飛ぶ談議で盛りあがっているみたいだけれど、それよりはやっぱりデザインだよなあ」
 しげしげとシパーヒーを見つめながらマサラ・アッサム(まさら・あっさむ)が言った。
 マサラ・アッサムとしては、レイピア一本でスマートに戦うシパーヒーは、実に趣味に叶っている。これでマントでもつければ完璧だ。
「ふっ、プチモヒカン」
 隅の方で、フェルクレールト・フリューゲルがポソリとつぶやいた。
 
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「こちらは、汎用機のブースとなっています。説明は、クェイルプラントの管理人の一人である小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)さんにしていただきましょう」
 フィリッパ・アヴェーヌが、マイクを小鳥遊美羽にむけた。
「はい、ここからは私が説明するんだもん」
 お立ち台の上に立ったミニスカート姿の小鳥遊美羽が、説明を引き継いだ。
 その後ろには、色とりどりにカラーリングされたクェイルが様々な武器を持ってならんでいる。まさに、汎用機の面目躍如といった感じだ。
「このクェイルは、五千年前にイーグリットの量産機として、大量生産された物なんだよ。そのプラントが発見されたんで、今はそこで生産が再開されているんだもん」
 自分が担当しているクェイルを、自慢げに小鳥遊美羽が説明した。
 クェイルは、正確なデータはないが、おそらく一番量産されたイコンであると思える。上位機であるイーグリットと比べると、各部が華奢で出力も必要最低限で押さえられてはいた。そのため、独力で飛行はできず、地上戦専用ということになっている。それによって、脚部は歩行用に最適化されていた。
 だが、各部を簡略化したために、生産性とメンテナンス性は向上している。運用において数を必要とするならば、これは強力な武器であると言えよう。
 また、低い基本性能を補うかのように、現代技術を応用したオプション兵器が多数扱えるようにもなっている。それは他のイコンも同じではあるが、同じ武装を使うということは、カスタマイズ次第では対等以上に戦えるということでもあった。
 そのようなことを鑑みると、クェイルは戦闘よりも戦略を主眼においた兵器であると言えるかもしれない。
「美羽は、無事に説明をこなしているようですね」
 ブースの裏手で、イーグリット・アサルトのグラディウスに乗って待機しているベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)が、外部をモニタしながら言った。
 これだけのイコンが集まっているとはいえ、起動状態にある物は酷く少ない。何かあった場合、即応体制をとるべく、ベアトリーチェ・アイブリンガーはイコンの中で待機しているのだった。
 隣接する場所では、センチネルも展示されている。ゴーストイコンと呼ばれていたアニメイテッドイコンを鹵獲、改修した物である。西シャンバラにイコン技術で遅れていた東シャンバラの苦肉の策ではあったのだが、各学校のイコンが配備されるまでの繋ぎとしては充分に役立ったようだ。もちろん、そのまま気に入って今も乗り続けている者たちも多い。
 その姿は、鎧を着た重装歩兵を思わせる。標準装備のスピアとシールドからも分かるように、完全に地上の白兵戦用である。そのため、脚部は特に強化され、かなりの安定性を擁(よう)している。
「基本的に、ここにあるイコンが五千年前の主力機だったというわけだな」
「ええ、そのようね」
 トマス・ファーニナルの言葉に、ミカエラ・ウォーレンシュタットがうなずいた。
「結局、当時のイコンと現在のイコンの最大の違いとはなんなのだろう」
「それは、教導団に属するあなたが一番よく知っているはずよ」
「そうだな」
 ミカエラ・ウォーレンシュタットに言われて、トマス・ファーニナルはうなずいた。
 基本的な機体のベースは同じであるし、武器も当時の強力な物が少なくはない。ただ、それに乗る人々の意識は大きく変化しているだろう。
 特に、パイロットとなった学生たちは良くも悪くも現代っ子である。幼いころからロボットアニメやホビーロボットなどと接し、ロボットに対するイメージが昔の人とは圧倒的に違う。また、現代戦略によって、航空機や戦車の概念を導入することによって、戦術から戦略まで統括的にイコンという物を戦いに組み込むことが可能となった。
 もちろん、当時としても同様のことを考える者はいただろうが、やはり現代は情報が整備されている。そして、それこそが、現代の地球がパラミタにもたらした最大の変化でもあるのだ。
「おや、御主人たちはどこへ行ったのでありますか?」
 アイアンさち子が、キョロキョロと周囲を見回した。
「はっ、まさか、キャンギャルを求めて百合園女学院のブースへ……。急行するであります!」
 アイアンさち子は走りだしていった。