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第四師団 コンロン出兵篇(第2回)

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第四師団 コンロン出兵篇(第2回)

リアクション

 
龍騎士襲来
 
 クレセントベースの入り口前でそんなどたばたが展開されていた頃。
「うーん、ここも大丈夫かぁ……島内には拠点はなくて、島の外から遠征して来てるのかなぁ」
 香取 翔子(かとり・しょうこ)司令官のパートナー、ウサギ獣人の白 玉兎(はく・ぎょくと)は、クレセントベースからかなり離れた地点まで来ていた。帝国兵が島内に拠点等を作っていないか探していたのである。
 だが、今のところ、そのような場所は見つかっていなかった。
「あったらあったで困るんだけど、何か拍子抜けって言うか……」
 玉兎は昼間でも暗い空を振り仰ぐ。
「何で、龍騎士はこんな小さな島に来たのかしら? たまたま通りかかったら、ここにあたしたちが居ただけ?」
 首をひねりながら、玉兎は耳をそばだてる。だが、聞こえるのは風の音ばかりだ。
 
 
 かさかさ、かさかさ。
 やっと【黒豹中隊】に合流することが出来た黒乃 音子(くろの・ねこ)のパートナーの剣の花嫁フランソワ・ド・グラス(ふらんそわ・どぐらす)は、クレセントベースからだいぶ離れた場所で、偵察兵とするべく訓練中のながねこたちと、ペットのパラミタ猪ヴィクトワールとフィルママンを連れて、低木や背の高い草が生い茂る原野にいた。
「こういう場所を進む時は、草や木の動きで敵に居場所がばれることがあるから、気をつけるでござる。……!!」
 頭上にさした影に、フランソワは空を見上げた。鈍色の空を、悠然と飛翔する大小の龍たちの姿。幸い、フランソワたちに気付いている様子はなく、そのまま通り過ぎて行く。
「……戻るぞ!」
 フランソワは乗騎にしている大型騎狼のアウラに飛び乗った。
「我は先に行く、おまえたちは無理について来ようとするな。もしクレセントベースに戻った時に戦闘が既に始まっていたなら、戦場の外で隠れて待機しているでござる!」
 ながねこたちに指示を残して、フランソワは騎狼を駆りながら、クレセントベースに要る黒乃に携帯で連絡を入れた。
「音子! 龍騎士がそちらへ向かった。数は龍騎士が3、龍騎兵多数!!」
 
 
 フランソワからもたらされた情報に、クレセントベースは蜂の巣をつついたような騒ぎになった。
「みんな、撤収するよっ!」
 黒乃は、屋外で作業中だったながねこたちを追い立てるようにして走りながら、周囲にいる生徒たちに向かって怒鳴った。
「敵襲、敵襲ッ!!」
 生徒たちやながねこたちの間にざわめきが広がる。入り口近くに居た者が伝声管に飛びついて叫ぶ。やがて、防衛陣地構築作業を担当している者たちが、地下へ引き上げ始めた。入れ違いに、ルカルカ・ルー(るかるか・るー)を先頭に、地上での戦闘を担当する部隊が出て来る。
「カーリー、敵襲! 龍騎士が来るよっ!」
 パートナーの魔女マリエッタ・シュヴァール(まりえった・しゅばーる)がばたばたと駆けて来た時、水原 ゆかり(みずはら・ゆかり)は、地上で敵を誘引する役割のケーニッヒ・ファウスト(けーにっひ・ふぁうすと)や、地下で待機する皇甫 伽羅(こうほ・きゃら)青 野武(せい・やぶ)らと、待機する場所の確認中だった。水原の表情にさっと緊張が走る。
「ケーニッヒさん、お願いします!」
「おう、任せておけ。皆、出撃するぞ! 獅子どもに遅れを取ることがあってはならん!」
 この任務を自らの適任と考えるケーニッヒは、パキパキと指を鳴らしながらパートナーのドラゴニュートアンゲロ・ザルーガ(あんげろ・ざるーが)、剣の花嫁天津 麻衣(あまつ・まい)、強化人間神矢 美悠(かみや・みゆう)に声をかける。
「俺たちは、所定の場所で待機するであります!」
 相沢 洋(あいざわ・ひろし)は、パートナーの乃木坂 みと(のぎさか・みと)を連れて、あらかじめ打ち合わせてあった待機場所へ向かった。伽羅や青も、それぞれ別の洞窟に身を隠す。
 
 
「……来た!」
 入り口からから少し離れた場所に築かれた、一番外側の防衛陣地で双眼鏡をのぞき込んでいた橘 カオル(たちばな・かおる)は、パートナーの剣の花嫁マリーア・プフィルズィヒ(まりーあ・ぷふぃるずぃひ)、獣人ランス・ロシェ(らんす・ろしぇ)、ゆる族野川 れい(のがわ・れい)を振り返って叫んだ。
「うわ〜〜〜、結構いっぱい来たねぇ」
 れいがあまり緊張感のない声を上げる。本人はカオルについて来たらこの状況なので浮き足立っているつもりなのだが、口調はのんびりしているし表情もあまり変わらないしで、傍から見ているととてもこれから戦闘をするとは思えない。
「敵はどのくらい居そう?」
 マリーアが『エンデュア』をかけながらカオルに尋ねた。
「龍騎士は3、かな。龍騎兵は……五百はいると思う」
 もう一度双眼鏡をのぞいて、厳しい表情でカオルは答える。正直、予想していたより多い。
「……五百」
 マリーアはごくりと息を飲んだ。今ここにいるのは【鋼鉄の獅子】隊のうち百名、そして現地(ながねこ)兵百名だ。空を飛ぶ敵を相手に、果たして、ここで何騎食い止められるか。
「とりあえず、迎撃のために散開しよう! 打ち合わせの通り、三人一組で、敵の射程に気をつけて戦うんだぞ!」
 カオルは軍馬にまたがり、防御陣地の外へ出た。パートナーや部隊の者たちも後に続く。そこへ、
「はー、間に合った……!」
 レッサーワイバーンに乗ったルカルカとパートナーのダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)、ドラゴニュートカルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)、英霊夏侯 淵(かこう・えん)、そして鷹村 真一郎(たかむら・しんいちろう)が到着した。
「入り口前の防御陣地は!?」
「完成とは言いませんが、あらかたは間に合いました!」
 ルカルカとタンデムして来た鷹村は、ひらりとレッサーワイバーンの背から飛び降りた。
「待っていましたにゃ隊長!」
 現地兵たちがわらわらと鷹村を取り囲む。
「……来るよッ! 龍騎士はこっちで引きつけるからね!」
 ぐんぐん距離を詰めて来る敵を見据え、両手にドラゴンランスを持ったルカルカが叫ぶ。
「うん、こっちはなるべく雑魚を相手にするよ!」
 カオルはうなずいた。
「飛び道具隊、構えッ、……」
 号令を下そうとした、まさにその時。
「いたいのや〜〜〜ん、こっちくんなぁ〜っ」
 光学迷彩で姿を消したれいが、妙に間延びした口調で言いながら、龍騎兵に向かってトミーガンの引金を引いた。振り上げた手を下ろそうとしたカオルはタイミングを外し、あやうく軍馬の鞍から落ちかける。
「おぅわ、なんか飛んで来たぞぅ!?」
「ってコトは、手加減無用ってコトだよなぁ!?」
 柄の悪い口調で言い交わしながら、龍騎兵たちは発射地点目掛けて弓を打ち込んで来る。
「だから、いたいのやだってば〜〜」
 れいは光学迷彩をまとったまま、矢を避けて逃げる。
「カオル、ぼーっとしてんじゃねえよ! 敵が来るぜ!」
 馬の背に突っ伏しているカオルを、淵が叱咤した。
「……な、なんか、格好つかないけど! とにかく、みんな行こう!」
 気を取り直して、カオルは軍馬を駆り、自分と組になっているマリーア、そしてもう一人の生徒の盾になるべく前に出た。
「弓の腕なら負けないんだからね!」
 マリーアは弓型光条兵器を龍騎兵に向けて放った。向こうからも矢を射掛けて来るが、半分はカオルが遮り、もう半分はマリーア自身が身をかわす。
「足を止めるな、的になるぞ!」
 ランスは別の組の盾役だ。獣人の鋭い感覚を生かして、機動力がある敵の動きをとらえ、良く弓兵を守っている。淵は少し高度と距離を取り、全体の動きを見渡して指示を出す。
「指揮官を潰せぇ!!」
 龍騎士が叫んだ。龍騎兵たちが淵に殺到する。
「やらせねえよ!」
 カルキノスが、両者の間に割り込みつつファイアーストームを放つ。逃げ散る龍騎兵に、さらにブリザードもぶつけると、翼が凍りついた龍が何頭か戦線を離脱して行った。
「魔力の続く限り、全開で戦ってやるぜ! 命が惜しくないヤツぁ前へ出な!」
 胸を叩いて、カルキノスは吼える。その頭上を旋回して、龍騎兵が後方へ回り込み、矢を射掛けてきた。今度は、淵が振り向きざまに二丁持ちのレーザーガトリングで敵を薙ぎ払う。
「無駄に格好つけてんじゃねえ、隙が出来るぞ!?」
「すまん!」
 たしなめられて、カルキノスは首を竦める。
 そうやって協力し合い、足らないところを補いつつ戦ううちに、やがて、ヒットアンドアウェイを繰り返すカオルたちにつられて、雑魚たちが少しずつ龍騎士から引き離され始めた。
「今だ、ルカルカを援護するぞ!」
 鷹村が弓を持ったながねこたちに命じる。防壁に隠れたながねこたちが、三人の龍騎士のうち一人に矢を集中する。龍は身を翻して、弓の射程の外へ出た。訓練を重ねて来たとは言え、ながねこたちの射程は生徒たちに比べて短い。高度を取られるとどうしようもなかった。
「ふん、叩き落してやるよ!」
 ダリルが電撃を放つ。三頭のうち一頭がぐらりと傾いだ。
「チャンス!」
 空中をすべるように、ゆるく螺旋を描きながら落ちて来る龍騎士めがけて、ルカルカは突進した。だが、その頭上から、もう一人の龍騎士が急降下して来た。
「くっ!」
 ルカルカは慌てて減速、旋回し、その攻撃を避けた。高度を下げて来た龍騎士たちに再びながねこたちが矢を射るが、翼の風圧もあってなかなか有効なダメージは与えられない。しかも、ダリルの電撃を受けた一騎が戦線離脱するのと入れ替わりに、もう一騎がルカルカを狙い始めた。
「さすがに、複数相手はきつい……っ」
 二騎に代わる代わる襲い掛かられて、ルカルカは防戦一方に追い込まれる。地上部隊は何とか一騎を離そうとするが、龍騎兵もまだ多数いるので、なかなか手が回らない。しかも、いったん離脱した龍騎士は、高度を取って生徒たちの頭上を越えた。気付いた龍騎兵の一部が、それに続く。
「やばい、抜かれた!」
 淵が叫ぶ。だが、離脱して追いかけるだけの戦力の余裕がない。そもそも、数の上でこちらが不利なのだ。雑魚の注意を引きつけるのが精一杯で、追跡のために戦力を分ければ、おそらく戦線の維持は難しいだろうと思われた。
「ちっ……悔しいが、後は基地に居る連中に任せるしかねぇか」
 淵は舌打ちをして、再び戦場に視線を戻した。ルカルカはまだ、龍騎士相手に苦戦中だ。