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続・冥界急行ナラカエクスプレス(第2回/第3回)

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続・冥界急行ナラカエクスプレス(第2回/第3回)

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第3章 魔塔【6】


 上階層。
 監獄区画を焼き尽くす炎のトラップを発動させたのは奈落人逢魔時 魔理栖(おうまがとき・まりす)だった。
 階段から監獄区画を見下ろし、太陽のピアスから小さな炎を飛ばす、すると下層の床にまたたく間に炎が広がった。
 実は床には石油肉から抽出した石油がまかれているのだ。この階段から……ちょうどメイベル達の牢を巻き込む形で。
「いいねいいね、いい感じに燃えてるねぇ。皆燃えちまったかぁ……ううん?」
 耳を澄ますとこちらに走ってくる足音が複数。
「なぁんだ、まだ生きてら」
「おお、お可哀想に……死の救済から漏れた哀れな羊達、ジャガンナート様彼らをお救いください」
 破壊と死に取り憑かれた狂信者伊吹 藤乃(いぶき・ふじの)は胸の前で邪印をきる。
 そして、微塵も躊躇うことなく神遺物:輪廻銃サンサーラを階下に向けて乱射した。
 火花散る激しいクロスファイアの末、炎に包まれた下層がしんと静まり返る。
「ああ、また代行者として魂が清らかになりました。ジャガンナート様、見ていてくださいましたか……?」
 不意にはっとする。
「ナラカにはヒンドゥー関係の者がいるとか……。まさかジャガンナート様も……!?」と目をキラキラ輝かせたが、すぐ普段の濁った目付きになり「いいえ、このような穢れた大地にあのお方がいらっしゃるわけがありません。いたとしても偽物に決まってます。そんな偽物を野放しにするくるくらいなら、いっそ私がジャガンナート様になるしか……!」
 興奮する藤乃、ところが喜び破る物音が聞こえた。
 炎の中、肩と脇に銃弾を受けた如月 佑也(きさらぎ・ゆうや)がよろよろと立ち上がった。
「やれやれ、またアンタか……」
「あら、生きていたのですか。死と破壊の救済を素直に受け入れればよろしいのに……」
「まったく名前に『フジノ』って付く女とはつくづく縁があるらしい。アンタとの縁はさっさと切りたい所だが」
 それから、ヒーローガール飛鳥 桜(あすか・さくら)も被弾した脚を引きずりながら立った。
「死と破壊が救済……? そんなわけないじゃないか、死んだら『そこまで』なんだ……」
 迷いのない目を向ける。
「僕にとっての正義は……皆の笑顔を守ること。そんなヒーローになりたいんだ。それが僕の正義であり、絶対に曲げない信念。皆の笑顔を奪う君たちを許さない……、君が死と破壊が救済答えるなら、僕は……生と創造が救済と答える!」
「救済だがなんだが知らねーが、俺は桜の意見に同感。とっとと塔から退いて貰うぜ」
 そう言って、相棒のアルフ・グラディオス(あるふ・ぐらでぃおす)が桜に肩を貸す。
「君が理想する救済の念と僕が愛する正義と自由の想い……、どちらが強いか勝負をしようじゃないか!」
 藤乃は両者を見回し、ため息まじりに空を見上げた。
「ああ、ジャガンナート様、私が調子こいたばっかりに死者が生き返ってしまいました。お許しください」
 そして、こちらに銃口を向けると、同時に配下のゴーストナイトが展開された。
「では、今一度救いの手を差し伸べましょう」
 戦いが始まる。
 最初に動いたのは佑也、氷の壁を張り巡らせ行動を制限させる。
 直後、アルフが剣をくるくると上に放り投げ、上空でキャッチすると電撃とともに斬り付けた。
 しかし、藤乃は完全に動きを見切りひらりと回避。
 そこに桜が飛びかかる。バラまいたチョコを炎で溶かし、藤乃の頭からドロドロの半個体をぶっかけた。
「あ、あの……? な……なんの真似です!?」
「はっはっはっ、調べさせてもらったよ、君が甘いものが苦手だってね。これだけ食らったらたまらないだろう!」
 と言ったあと、カメラに向かって「良い子も悪い子も真似しちゃダメだよ!」の注意も忘れない。
「……苦手ってそう言う意味じゃありません!」
「……だと思ってた、俺も」
 呆れつつもアルフは魔力を集中、火術の火球、氷術の氷槍、雷術の矢を同時に放つ。
「よーし、行くぞ……連携奥義! エンシェントノヴァ!!」
 虎徹に破邪の力を走らせ、バーストダッシュで一文字に斬り付ける。
 二人の呼吸は完璧、四つの光が藤乃を打ち倒す……はずだった。
 普通の敵なら倒せていただろう、しかし桜達と藤乃の間に横たわる実力と言う名の深淵がそれを阻む。
「迷える子羊に救済を……! 積尸気幻葬……!!」
 ナラカの闘技『積尸気幻葬』体内に蓄積したナラカの瘴気で敵を弱化させ仕留める脅威の技である。
 鼻先に迫った桜が瘴気を喰らった瞬間、その腹部に鋭い手刀を突き刺した。桜の口からドロリと血が吹き出す。
「せ、正義は……、負けな……」
「桜っ!」
 倒れた彼女に駆け寄るアルフ……しかし、彼もまた積尸気幻葬の前に倒れた。
 気を良くした彼女はトドメは最後の楽しみにして、今度は氷壁に隠れる佑也にゴーストナイトを突撃させた。
 彼は慌てて銃弾に倒れたパートナー達に声をかける。
「二人とも大丈夫か、まだ戦えるか?」
「あ、当たり前じゃない。まだも何もまだ戦ってないわ……!」とアルマ・アレフ(あるま・あれふ)
「かすっただけですわ。佑也ちゃんのほうが酷い傷ですわよ」とラグナ・オーランド(らぐな・おーらんど)
「なに、この程度。よし、まずはあの騎士を突破するぞ。いつもどおりに行こう」
 佑也とラグナは壁の左右から飛び出した。
 援護はアルマ、光条兵器のランチャー『レッドラム』を活かし壁越しにゴーストナイトに掃射をかける。
 普通の騎士ならここでとる行動は二つ、防御するか回避するか、どちらかである。常識的に考えて。
 ところが、この死霊の騎士達は藤乃の狂信にあてられたらしく、何度撃ち抜かれようとも突撃をやめなかった。
「こ、こいつら特攻をかける気なのか……! 逃げろ、アルマ!」
 佑也の上げた声に、輪廻銃サンサーラの銃声が重なった。
 ゴーストナイトごと藤乃はアルマを銃撃、全身に数発の弾丸を受けたアルマはガクンと崩れ落ちた。
「仲間ごと攻撃をするなんて……!」
「彼らは死の殉教者、きっと私に感謝していることでしょう。あ、でももう死んでましたっけ、皆さん?」
「……その信仰いい加減にしてくれません? そろそろ本気でブチのめしますわよ?」
 カッと目を見開き、ラグナは忘却の槍を構えた。
 その前に魔理栖が立ちはだかる。
「おおっと、あんたの相手は私がしてやるよ。仲良くナラカに送ってやるからさぁ」
「それはどうでしょう?」
 魔理栖の放つ本家・積尸気幻葬をラグナはあっさりと盾で受け流した。
 あれ……と言う表情の魔理栖だが、それもそのはずラグナの戦闘技能ははるか上、正面きって戦える相手ではない。
 ライトブリンガーを帯びた槍の石突きで腹を突き上げると、吐瀉物を撒き散らし魔理栖は倒れた。
「あら魔理栖……、先に逝ってしまうなんて、見上げた殉教者ぶりですねぇ……」
「よそ見してる場合か!」
 佑也の刀『霽月』が一閃。
 藤乃は薄皮一枚で刃を回避すると、反撃の積尸気幻葬を隙だらけの胸に叩き込む。
「あなたにジャガンナート様のご加護を……」
「いや、そいつは丁重にお断りしておく……。どうもその神様とは上手くやってく自信がないからな……!」
「い、今のを食らって無事なわけが……!?」
 技をもろに食らった……がしかし、刹那、その技自体をPキャンセラーで消失させたのだ。
 すかさず、至近距離から氷像のフラワシで一撃、凍えるような冷気を浴び藤乃は氷付けとなった。
「あ、が、がが……が……が……」
 真っ白に凍結したまま立ち尽くす。
「な、なんとか役目を果たせ……た……な……」
 力を使い果たし、佑也もまたその場に崩れ落ちた。