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続・冥界急行ナラカエクスプレス(第2回/第3回)

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続・冥界急行ナラカエクスプレス(第2回/第3回)

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第4章 復旧


 ほろびの森駅。
 横転したナラカエクスプレスを前に、リカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)は呆然と立っていた。
 とりあえず、今回はガルーダの抜け道のおかげで助かったが、いつまでもこのままにしておくわけにもいかない。
 行きはよいよい帰りは怖い。敵も無能ではない、帰り道に襲撃されることも考慮しなくては。
「やっぱりなんとかして迎えに行ってあげたほうがいいわよね。折角、予備は動かせるんだし」
 よし、と頷き、ニコニコ労働センターに電話をかける。
 それから、応対する死人にこちらに人手を回してもらえないか頼んでみた。
「勿論タダで、なんていわないわよ。協力してくれた暁には蒼空歌劇団のレビュウにご招待しちゃうわ。これならエクスプレスの重要もできるし良いこと尽くめよね。好評だったらツアー組んだりしてトリニティ君にも悪い話じゃないし」
『はぁあの、そう言われましても……』
「こっちの心配は大丈夫、マスターのショーザンは話の分かる人だから2つ返事でOKしてくれるもの」
 なにやら無茶ぶりされたところで、代わって電話にガネーシャが出た。
『貴様……、マスターがOKしたとしても、死者を現世の観劇になど行かせられるわけがなかろう!』
「え、ダメなの?」
『当たり前だ! そもそも、なんでほろびの森の出来事に余のしもべ達を向かわせねばならぬ! 管轄外だ!』
 ガチャンと勢いよく切られてしまった。
 あと、ついでに言うとエクスプレスの集客が上がっても、無関係のガネーシャは別段嬉しくもない。
「……つまり、信じられるのはフィス達だけと言うことね」
 相棒のシルフィスティ・ロスヴァイセ(しるふぃすてぃ・ろすう゛ぁいせ)はそう言うと槍を持って列車の前に立った。
「ええと……もしかして列車を破壊して線路から除去しようとしてる?」
「勿論。超人的肉体に超人的精神を持つ超ヴァルキリーであるフィスには雑作もないことなのよっ!」
超ヴァルキリー(笑)はどーでもいんだけど……」
「破壊はやめておけ。列車の残骸が散って片付けにまた時間がとられると巴が気にしておったぞ」
 口を挟んだのは中原 鞆絵(なかはら・ともえ)……ではなく彼女に憑依した奈落人木曾 義仲(きそ・よしなか)だった。「……なんで取り憑いてんの?」
 当然の疑問を口にすると、義仲はアイアンクローでフィスの口を塞いだ。
「おぬし、声が大きいぞ。ちと、乗車券を忘れてしまってな。巴に協力してもらって降車したのだ」
 一人分の乗車賃で二人降りると言う良い子は真似してはならない荒技である。
 はっと気付くと、トリニティがこっちを見ている。視線を逸らす義仲に彼女はポツリと呟いた。
「気をつけてくださいね……」
 ゴクリと喉を鳴らす彼の背後をスタスタと通り過ぎる。
「あの者の目は誤摩化せぬか……」
 それから、義仲の指示で横転したエクスプレスの片付け作業に移った。
 なにこの程度の鉄塊を引き倒すなぞ勇魚取りのようなもの、と気合いは充分である。
 時間はかかりそうだが次回までには除去は終わるだろう。
 そのすぐ先では装甲車両の修復作業が行われていた。
 担当はエクスプレスの車掌兼ガイド兼車内販売見習いのトライブ・ロックスター(とらいぶ・ろっくすたー)
 とは言え、実作業をしてるのは専門知識のあるジョウ・パプリチェンコ(じょう・ぱぷりちぇんこ)だったが。
「ひと通り診てきたけど、動力は無事みたい。あちこち壊れてる配線とか車輪を直せば動くようにはなると思うよ」
「良かった。冥界急行ナラカエクスプレスってタイトルなのに、肝心の列車が使えないんじゃ話になんねぇからな」
 そこにトリニティがエクスプレスから外した部品を持ってやってきた。
「言われたとおり使えそうなものを持ってきましたが、これをどうするおつもりですか?」
「ああ、装甲列車を魔改造して作るんだ、冥界装甲急行ナラカエクスプレス・ターボタイプTをな!」
「T?」
「勿論、俺のなま……げふんげふん、トリニティのTだよ、うん」
「ねぇねぇトリニティさん、この部品はなに?」
 ジョウは真っ黒な箱を手に首を傾げた。
「それはナラカエクスプレスのブラックボックスでございます」
「ブラックボックス! じゃもしかしてこの中に次元超越機構に関する重要機密が!?」
「おそらく。中の見方はわかりませんけれども」
「……え?」
「私は死人の谷に破棄されていたエクスプレスをブラフマーストラの力で復元しただけございますから」
「え、ええと……それじゃどういう原理で動いてるかとか、この箱を解析する方法とかは……?」
「謎です」
 不安そうな顔を浮かべつつも、ジョウはなんとなく運転席に取り付けてみることにした。
「修復にかかった費用はのちほどあのクソ迷惑な金髪縦ロールに請求するとして……、ボス」
「なんでしょう、トライブ販売員」
「ダメだってのに写真を添えて下着をグッズ化したろ。ボスも女の子なんだから恥じらいってもんを……あの美的センス壊滅のカーリーですら持ち合わせてんだから。素直クール系が時折見せる恥じらい、このギャップが究極萌えだぜ?」
「はぁ」
「……ま、生真面目なボスにゃ無理か。恋でもすりゃ変わるんだろうけど」
「今は仕事が恋人ですので」
 しかし、真面目なのが美徳とは限らねぇけどな……。
 不良蒼空生瀬島 壮太(せじま・そうた)はそんな想いを胸に秘めトリニティに声をかけた。
「なぁトリニティ、ものは相談なんだけどよ、ブラフマーストラ貸してくんない?」
 ナラカの伝説の武具『ブラフマーストラ』
 創造の力を司るリボルバーガンで全能弾マハースリスティを装填することであらゆるものを生み出すことができる。
 トリニティは怪訝な顔……かどうかは無表情なのでよくわからないが、黙って荘太を見返した。
「パルメーラのスダルサナには普通の武器じゃ勝てねぇ。やりあうには同じ伝説級のそいつが必要なんだ」
「そう言われましても……」
「なぁ、パルメーラがどうしてそそのかされたかわかるか。オレにはわかるぜ。ご丁寧に祭り上げられて何千年もいい子ちゃんでいさせられた箱入り娘ほど悪党の言葉にころっと騙されちまうんだ。誰だって生きてる実感がほしいんだよ」
 荘太はビシィとトリニティを指差す。
「ならあんたにも責任はあるはずだ。それだけじゃ大事な街や学校が狙われてるオレに銃を貸す理由にならねぇか?」
「あの、貸し渋ってるわけではないのです」
「……あ?」
伝説の武具は普通の人間では扱うことができないのです。あのガルーダと言えど扱うことできません
「ま、マジでか……?」
「ただ、瀬島様の言葉で閃いたことがあります。銃は使えませんが、銃弾ならば皆さまでも扱えるのではないか、と」
 掌に転がる『全能弾マハースリスティ』を見せた。
 ブラフマーストラを通さずとも(幾らか限定されるが)創造の力は発揮できるとのことだ。
「在庫がどの程度あるか心配ですが、次回までに調達しておきましょう」
「わかった、頼んだぜ。じゃあちょっとアガスティアに挑んでくる」
 迎えにきたミミ・マリー(みみ・まりー)の飛空艇に同乗して灰色の空へ飛び立った。
 とその時、トライブが悲鳴にも似た声を上げた。
 見れば装甲れ……いや冥界装甲急行ナラカエクスプレス・ターボタイプTが走りだしてるではないか。
 ……なぜかトライブとジョウを置き去りにして。
「折角修理したのに! 誰だ勝手に動かしてるヤツは!」
 悲痛な叫びをシカトしてターボタイプTはかたこと線路を走っていく……!