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続・冥界急行ナラカエクスプレス(第2回/第3回)

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続・冥界急行ナラカエクスプレス(第2回/第3回)

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第5章 化身【3】


 森の中心。
 浸食の速度を炎が上回った時、勝敗は決したと言えよう。もはや世界樹に成長を続ける生命力はなかったのだ。
 だが、まだ終わっていない……。ヤツを殺すまで俺の戦いは終われない……。
 樹月 刀真(きづき・とうま)は炎に包まれた世界樹の迷宮を走った。ただ頂点を目指して。
 これはただの私怨、この行動がいかなる結果をもたらしても責任は俺がとる……。
 そして、二人は邂逅を果たした。
 世界樹の化身パルメーラ・アガスティア(ぱるめーら・あがすてぃあ)は燃える分身をジッと見つめていた。
 虚ろな目で爪を噛みブツブツと呪詛の言葉を繰り返す。
「邪魔された邪魔された邪魔された……! 皆、嫌い……! 折角、あたしにもすることができたのに……!」
「それがおまえの限界だからだ」
 刀真は言った。
「この程度だから環菜が蘇るなんてヘマをする、人に言われた事しか……いやそれすらも出来ない。その円月輪も宝の持ち腐れ、テメエと見込んで話を持ちかけた奴の目はとんだ節穴だな……そう思わないか、役立たずのパルメーラ?」
 その言葉に、彼女は憤怒と不安を見せた。
「あ、あたしは……、あたしは……役立たずなんかじゃない……っ!」
 ナラカの伝説の武具『スダルサナ』、万物を切断する円月輪が刀真に襲いかかった。
 脅威にいち早く反応したのは九尾の狐玉藻 前(たまもの・まえ)
 上下左右から迫る円月輪を大魔弾『タルタロス』の一発で吹き飛ばし、刀真の道を切り開く。
「我が九尾を以て終焉を招く……。さあ今のうちに早く、大魔弾と言えど散らすのが精一杯だ」
「恩に着る……!」
 射ち漏らした円盤をトライアンフで軌道を逸らしつつ、足下すれすれの前傾姿勢でくぐり抜ける。
 絶大な切れ味を持つと言っても、刃に触れさえしなければ軌道を変えることもそう難しくない。
「気を付けて、刀真。円月輪の軌道が複雑すぎてとらえきれないわ……」
 漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)もスダルサナを弾くべく銃撃を加えるのだが上手く当たらない。
 パルメーラの視線を読んでも軌道が見えてこないのは、スダルサナが独立して攻撃を行っていることの証左だった。
 玉藻は舌打ちし、月夜の分まで援護しようとその手に炎を収束させる。
 その時だった。凄まじいまでの殺気を彼女が感じとったのは。
 だがすぐに殺気は消えた。
「な、なんだ今のは……」
「もしかして俺様を探しちゃってんのかな、狐のおねーちゃん」
 嘲笑う声が聞こえた瞬間、発動した術式が散り散りに消え去ってしまった。
 驚く暇もなしに、続いて首筋に強烈な衝撃が走った。
「ヒャッヒャッヒャッ、おいおいそんなとこで寝ると風邪引くぜぇ。つか、俺様のナラカデビュー幸先よくね?」
 目の前にあらわれたのは、究極の人格破綻者ゲドー・ジャドウ(げどー・じゃどう)だった。
「ど、どうやって殺気を……」
「ああ、世の中には便利な道具があんのよ、これがまた」
 そう言って、蒼き水晶の杖を突きつける。スキル効果をかき消す杖だ。
「おまえも奈落の軍勢、というわけか……」
「そゆこと。さっきお願いして仲間にしてもらっちゃいましたぁ、ヒャッヒャッヒャッ」
 ひとしきり笑ったあと、ま、若干宛てが外れたけど……と小さく言った。
 アガスティアと融合したガキんちょに殺してもらって、俺様超絶パワーアップってシナリオだったのに……。
 死ぬたびに無限に存在する来世から、殺された敵に対抗する能力を得て復活する、と言う彼の持つ超霊ネバーエンド。
 その強化を図ったのだが、アガスティアはご覧の通りである。
「ま、別にいいけど、俺様今日オフだし……、はぁ、んじゃこのねーちゃんは俺様適当にやるんでそっちよろぴくー」
「こんなやつ、君に言われなくてもすぐに片付けるもん……!」
 パルメーラは暗い瞳を刀真に向けた。
「玉藻の援護は無理か……、ならば!」
 脱ぎ払ったブラックコートで敵の視界を覆う。
 それと同時に剣を思い切り足下に振り下ろし、その反動でパルメーラの頭を飛び越えた。
 驚く彼女だったが、表情はさらに凍り付いた。舞うコートの向こうに自動追尾中のスダルサナが見えたのだ。
「だ、だめ……っ!」
 思念を飛ばし円月輪の軌道を曲げる。
 その刹那の隙が、背後に回った刀真に勝機を生んだ。投げ捨てた剣に代わり、光条兵器の『黒の剣』を発現させる。
「これで終わりだ……」
 絶叫が上がった。少女の胸に走った一文字の線が真っ赤な飛沫で空を染めた。
 けれども、ほぼ同時に刀真も遅れて襲いかかったスダルサナによって切り刻まれ、絶叫を上げることになった。
 肩を、胸を、腕を、全身を切り裂かれたが、それでも彼は執念で立った。
 トドメを刺すべく剣を振り上げる……が、その腕を秘伝 『闘神の書』(ひでん・とうじんのしょ)が止めた。
「無茶すんな……。どの医者に見せても重症って言われる傷だぜ、死にてぇのか」
「俺のことなどどうでもいい……、俺は……パルメーラを殺す……!」
「……復讐じゃ、心の飢えなんざとれねぇよ」
 闘神の書は目を細めた。
「すこし我らに時間をくれ。ダメかもしれねぇけど、アイツのよぉ、ラルクの好きにさせてやりてぇんだ……」
 ラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)は青ざめた顔でパルメーラに駆け寄った。
「だ、大丈夫か、パルメーラ! 待ってろ、今傷の手当を……」
「来ないで!」
 円月輪がラルクの鼻先をかすめた。
 彼女の傷も致命的なものに見えたが、世界樹の生命力の高さからだろう、まだ戦いを続ける気力は残っていた。
 しかし、ラルクはまだ『説得』と言う選択を諦めきれない。
「もういいんだ。アクリトも罪を認めた。頼む、俺達と一緒に大学に戻ってきてくれ」
「彼は関係ない……、ただ利用できそうだから『使え』って言われただけだもん……。あたしの仕事はまだ……」
「おまえのする仕事はそんなことじゃねぇ」
「え?」
「やり方は間違えたが、アクリトはシャンバラの平穏を願った……一技術者になった今でもそれは変わらない。だったら、おまえはあいつを支えてやるべきなんじゃないのか。パートナーなんだ、二人で一緒に罪を償えばいいじゃねぇか」
 そう言って、パルメーラに近付く。
 放たれたスダルサナがその身を切り刻む、しかし彼はその歩みを止めない。
「来ないでって言ってるのに!」
「……おまえは寂しかったんだろ? 誰かに必要とされたかったんだろ? だったら、俺達がいるじゃねぇか!」
 パルメーラに困惑が浮かんだ。
「俺はおまえを必要としてる。俺だけじゃねぇ、砕音だってそうだ。おまえがいねぇと大学が寂しい」
「う、ウソだ……」
 目の前に立ったラルクはパルメーラを抱き寄せた。
「ウソじゃねぇ」